ますます道は険しくなってきた。空気も薄くなってような気がする。それにくらべて、硫黄のにおいはきつくなって、腐った卵のようなにおいが鼻をつんつんと刺激する。
「こういうときには鼻のないケロはいいなキー」
「そんなことはないケロ。からだじゅうに、においがついてとれなくなるんだケロ。カーのやつのほうがこういうにおいには慣れてるんじゃないか。ときどき腐った肉なんか食ってるみたいだケロ」
「ケロ、そのガマ口を閉じないと、めんたまほじくりだすよカー」
「おーこわいこわいケロ」
三人は楽しく喧嘩しながら、だんだんと温泉に近づいた。三人は、ライオンのような形をした岩の上に立って、煙を上げる温泉場を見下ろしていた。
そのとき、風がさぁーっと吹き、煙を吹き飛ばした。なんと、そこには人間がたくさんいたのだ。
「おいおい。ずいぶんとにぎやかじゃないかキー」
「ちょっと先にいってみてくるカー」
カーはパッタパッタと飛んでいった。キーはケロに「さぁいくか」と一声掛けて、温泉場への道を下り始めた。
温泉場の入口がみえてくるところまでくると、カーが転げるように飛んできた。
「カカカカーカカーカカーカーカカッカー」
「カカカいってねぇで、いったいなにがあったんだキー」
「おかしいよ。だれもいないんだカー」
「さっきはあんなににぎやかだったじゃないかケロ」
「本当に一人もいないんだカー。でも、誰かがいるような、そんな気配がいっっぱいなんだ」
「気味わるいなケロ。キー、別の道を探した方がいいんじゃないかケロ」
「ほかの道っていっても、あの薄気味わるい原っぱからずっとここまで、ずっと一本道じゃなかったか。この道しかないんだキー」
「わたしゃ空から先回るするよカー」
「卑怯だぞ、俺たちを見捨てる気かケロ」
「ケロのいうとおりだ。カー、おしゃべりなお姫様からもらった紅い球をだせよ。たしか魔除けだとかいっていただろう。役に立つんじゃないかキー」
「あぁそうだ。忘れたよカー」
「それじゃカーは、俺の肩に止まれ。行こうぜキー」
三人はこわごわ、そろりと温泉場に足を踏み入れていった。
まず三人の目にはいってきたのは、血のようにまっ赤な色をした池だった。ときどきボコリボコリと湯が沸いている。確かに人の姿はまったくみえない。でも何かがいる。キーケロカーにはそれがわかった。
そのときだった。まっ赤な池の湯のなかから、人の頭がグバッと浮かび上げってきた。苦しそうな顔をしている。三人に向かって、助けてくれというように手をさしのべている。すると、いつのまにかそこにあらわれたのか鬼が、手にした金属バットのお化けのような棒で、池に浮かんでいる人の頭をゴンと叩いた。その人はガブガブガブと池に沈んでいった。すると別の人間が浮かんできた。そいつもおなじように鬼に頭を殴られて沈んでいった。
「おいおい。鬼にみつからないうちに早く行こうぜケロ」
「どうやらカーの紅い球のおかげで、鬼にはこっちの姿がみえないようだぜキー。さ、いまのうちに早く行こう」
それからは次々と目を開けていられないような光景が繰りひろげられた。昆虫標本のように針に刺された人間、鬼に手足を引っ張られて引き裂かれる人間、板に釘で打ちつけられる人間、杭に縛られて舌を引き抜かれる人間、まな板の上で切り刻まれる人間もいた。
キーケロカーの三人はわるい夢をみているようだった。三人にとっていちばん辛いことは、鬼にいじめられている人間が、苦しげだが、痛いというより、悲しげな表情で、通り過ぎる三人をみつめていたことだった。
「たすけられはしない」
かれらの目はそういっていた。
「地獄だケロ」
三人は、紅い球の魔除けが効くうちに転げるようにして走って、温泉場をあとにした。