ケロは、いまにもクマに食べられそうになっていた。
「待ってケロ。おれは人間じゃない。たべてもおいしくないケロ」
ケロは怖くて怖くて脂汗を流している。おまけに涙もでてきて、鼻水もでてきて、もうぐしょぐしょだ。
「なにをいうか。どこからみても人間ではないか。おまえが人間じゃないというなら、俺は仏だ」
「ほほ仏さまが、人間を食べるわけないじゃないか」
「仏だって、腹も減れば眠くもなるのさ。さぁ、おとなしく俺に食われろ小僧」
ケロは怖くて、腰が抜けてしまった。ストンと地面に座りこんでしまった。
グワァーと、ケロを食べようと覆いクマがおおいかぶさってきたとき、クマの口から、よだれがぴちゃりとケロの顔にかかった。
すると、ボワンと白い煙をだして、ケロはカエルの姿に戻ってしまった。どうやら気を失って変身の術がとけてしまったらしい。
そんなことはしらないクマは、食べようとしていたケロが急に小さくなったので、前につんのめって倒れてしまった。おまけにケロのかわりに自分の舌を思い切り噛んでしまった。
「痛ててててぇ!」
倒れたクマの鼻先には、目がギョロリとして、体はヌメヌメで、へそもなく、前足は指が四本で、後ろ足に六本の指がある、みたこともなものがいた。
じぃーっとみていると、それが目をヌルリとあけ、頭の後ろまで裂けているような大きな口を開けて、「ゲロゲロ」といった。
口からはくさいにおいがした。クマはあんまりおどろいたので、そのくさい息を吸いこんでしまった。
「グオッ」といって、今度はクマが気を失ってしまった。
しばらくして気がついたケロは、目の前にクマがいたので、また気を失いそうになったが、クマが気を失っていることに気がついて、ほっとした。
「いったいなにがあったんだケロ。クマに食べれそうだったんだけど、クマはこうして寝ているし、仏様が助けてくれたんだろケロか」
ありがたい、と思って手をあわせようしたとき、自分が元の姿に戻っていることに気がついた。
「あれ、いつのまにもどったんだケロ」といいながら、ボムと白い煙をだして人間の姿に戻ったケロは、蔓をつかって、気を失って倒れているクマをぐるぐる巻きにしてしまった。
「どうやらこの山にはいろんなもんがすんでいて、山のてっぺんを目指す奴のじゃまをするみたいだな。ちょっとこのクマさんから聞きだすとするケロ」
ケロは、クマのほっぺたをぴちぴちと叩いた。
クマが目を開けると、さっき食べ損なった小僧がいたので、飛びかかろうとしたが、体の自由がきかない。みれば、蔓でぐるぐる巻きである。
「小僧、変てこな生き物に化けたりして、こしゃくなやつめ」
クマが動けないことをいいことに、ケロは、すっかり強気で、クマの肩のあたりにひょいと腰かけた。
「まぁまぁ。クマさん、さっきもいったとおり、わたしは、あの山のてっぺんにいきたいんだケロ。ところが、森の入口で変なばあさんにあうし、次はあんただ。いまは、別々に歩いているおいらの仲間も、きっと、びっくりするような目にあっているんだろうケロ。この調子じゃ、この先なにがあるのかわかったもんじゃないケロ。そこでクマさん、この山道の先にはなにがあるのか教えてケロ。教えてくれたら、蔓をほどいてあげるよ」
「いやだ」
「じゃぁ、しょうがない。ちょうどおなかもすいてきたし、かわいそうだけどおまえをくっちまうしかないケロ」
すると、ボウムンを白い煙を上げてケロは、クマよりも大きなカエルに変身した。
ぱっくり開いたカエルの口からビロビロンと舌がのびてきて、クマの鼻をぺろりとなめると、クマは我慢できずに「助けてくれ。教えてやりたいのはやまやまだが、おれも、この先の山には行ったことがないんだ。だから、おしえられないんだ。お願いだ、命だけは助けてくれ」
「それじゃ、やっぱりえさにするしかないね。ケロケロ」
ケロがそういうとクマは、顔をまっ青にして次にをまっ赤にして、またまっ青になって、とまるで壊れた信号のようになってしまった。
「そっ、そんなに腹が減っているんだったら、おれがつくった秘密の食べ物をやるから、許してくれ。ミツバチがあつめたミツを長いことかかって、乾燥させて、まるめたもんだ」
「へぇーちょっとうまそうだケロ。どこにあるんだケロ」
「俺のねぐらに壺があるだろ、そのなかだ」
ケロはまたまた小僧の姿に戻ると、大きな木の根本にあいた穴のなかにはいっていった。
「あったあった。これだね」
ケロの手には黄色く光る球がひとつあった。まるで、琥珀のようにきれいな球だった。
「ひとつとはしけてるけど、まぁいいか」
「一粒飲めば、一冬はなにも食わないでも大丈夫だ」
「ふーん、からだのでかいあんたが一冬なら、おいらならば、一年は大丈夫だね。確かにうまそうだ。じゃぁ、いただいていくよケロ」
「ちょとまってくれ。蔓をほどいてくれ」
「なに大丈夫ケロ。巻いてあるだけで、結んじゃいない。もがいてりゃそのうちほどけるケロ」
ケロはさっさと山を登っていった。