キーとケロが汗だくになっているころ、カーは森の上のをパッタパッタと飛んでいた。遠くの雪山から吹いてくる風は冷たくて気もちいい。
「森がふかくて、ふたりともみえないカー。歩くことしかできないなんて、不便だカカカー」
カーは、一人だけ先に行ってしまうといけないので、森のなかでひときわ高い木のてっぺんで、一休みすることにした。
「よっこらカー。さっきからずいぶん飛んできたけど、あの山はちっとも近くならないカー。それにしてもあの二人、遅いカー」
木のてっぺんで涼しい風に吹かれているうちに、カーは寝てしまったようだ。
「グァアクァー」
あくびをしながら、カーが目をさました。
「なんだかちょっと寒くなってきたね」
そのとき、カーのまわりの森が騒いだ。
「カカカッ」
カーは足下の枝がぶるぶるっとしたので、振り落とされないように木の枝に大きな爪でしがみついた。
「ちょっと、わたしの頭からおどき。爪がいたいじゃないの」
「カーカーだれだ、しゃべったのは」
「どいてくれたら話してあげる」
カーは、パタパタと隣りの木に飛び移った。
「あんたのおかげで、せっかくきれいにとかした髪も、ぐしゃぐしゃじゃないの。いったいどうしてくれんだい」
いままでカーが休んでいた木がしゃべっている。いままでいろいろな不思議なことをみてきたカーも、しゃべる木なんてはじめてだ。
「髪の毛なんて、あんたないじゃないカー」
「ふん、なんだか知らないけど、こんな姿に変えられたんだよ。もとは、これでも、お姫さまだよ。いま、あんたが止まっている木は、わたしのおつきのものさ。いっしょにこの山に登ってきて、ようやくここまできたら、山の神さんだか、カニさんだかしらないけど、女はここにきてはいけないなんていって、それでも、無視して、登ろうと思ったら、木に変えられちまったのさ」
ずいぶんおしゃべりで、しかもはすっぱなお姫さまだね、とカーは思ったが、口にはださなかった。たしかに、お姫さまといわれりゃ、その木は、まわりのどの木より、すらっとしてひときわ背が高く、枝振りも整っていて、美女といえないこともなかった。ひとつ変わっているとすれば、ふつう、木は枝を横か上に向かってのばすもんだが、そのお姫さまは、下にのばしていた。
「あんたも気をつけたほうがいいよ。カラスさん。まぁ、そのまっ黒けーのからだじゃ、山の神さんも嫉妬しないだろうけど」
「だだだだれがまっ黒けーだって。あんた、このクジャクのようにきれいなからだがみえないのかい。あったまきたー。このぎすぎすのとげとげの木のくせに」
怒って、飛んでいこうとするカーにその木が声をかけた。
「怒らせたんならあやまるよ。どこでも飛んでいけるあんたがうらやましかったんだ。ごめんよ」
「カー、いまさらあやまってもおそいカー」
「木に変えられてしまったわたしと、話ができるものがきたのは、三四七年ぶりなんだ。あんまり懐かしくて、つい、口が滑ってしまったんだよ。許しておくれよ、カラスさん。たしかにあんたはよくみれば、お日さまをテラテラと反射させてきれいだよ」
木は、カラスにいかれてはたいへんと、一所懸命にお世辞をいった。
「三四七年ぶりだって。あんたずいぶんと長生きだね。ま、かわいそうだから、もうすこしあんたのおしゃべりにつきあってやらないこともないけれど、仲間が待っているから、急ぐんだよ。帰りにまたきてあげるからさ、それまで、おとなしくなってなよ」
「ほんとうかい。約束だよ。でも、本当にあの山のてっぺんまで行くのかい。それなら、動けないわたしのかわりにこれをもっていっておくれ。これは、わたしがお父様からいただいた、魔除けのサンゴなの。きっと役に立つから」
木がさわさわと頭を振ると、そこには、真紅のサンゴ玉がかかっていた。
「なんだい、わたしゃ鳥だからね。あんまり重たい物はごめんだカー」
「小さいから大丈夫。それに、あんたのきれいなからだにきっとにあうよ」
「そうかい。しょうがないねぇ、もっていってやるよ。じゃあまたカー」
カーはパッタパッタと飛んでいった。