森のなかは木は背が高く繁っていて、薄暗い。
「おいカー、おまえの姿がみえねえぐらい暗いぜキー」
「これじゃ道に迷ってしまうケロ」
「しょうがないねぇ。空からあんたらの道案内をしてあげるから、あたしの鳴き声についてくるんだよカー」
カーはバタバタと空高く舞いあがっていった。
カラスだから飛ぶのが商売。カーの黒いからだは、木陰や暗闇では、まったくみえなくなってしまう。おまけに太くて丈夫なくちばしで、つつかれたら痛くて痛くてしょうがない。オオカミだって逃げちまう。
でも、苦手なものがひとつだけある。それは鏡だ。カーは自分が本当はクジャクのように美しいと思っている。まっ黒な羽がだいきらいなんだ。
「だんだん上り坂になってきたキー。ケロ、大丈夫か」
「ケロケロ、大丈夫だケロ」
というなり、ブォムと白い煙をあげて、ケロは人間の姿に化けた。
「これなら歩くのもらくだケロ」
キーとケロが息を切らせながら暗い山道を登っていくと、道がふたつにわかれていた。
「おーい、カー。道がふたつにわかれているぜ。どっちにいけばいいんだキー」
カーの返事がない。どうやら、空からは道がわかれているなんてみえないらしい。遠くまでいってしまったようだ。
「どうするケロ」
「しかたない、別々に行こうぜキー」
ケロは右の道に、キーは左の道にはいっていった。
「ケロケロ。ぬぁんだか、薄気味のわるい道だな」
道はだんだんきつくなってきた。右に左にくねくねとつづく。ケロは、ピョンピィヨンと、一所懸命に登りつづける。人間の姿になっても歩き方は変わらない。カーの声も聞こえず、キーの姿もみえない。
気がつくと鳥の声も虫の声も聞こえなくなっていた。息苦しいほどの静けさを打ち破って、「フグフググゥガウガウグゥ」という音が聞こえる。
「なんだケロ。風が鳴いているにしちゃ変な音だケロ」
ケロの行く手を大きな石が道をふさいでいた。変な音はその向こう側から聞こえてくる。
「ケッロケロッ。何かいるのケロ」
でもなにも答えない。ケロが大きな石をこわごわ、とおりすぎようとしたときだった。
急に暗くなったように思ったケロは、雲でもでたのか、雨でも降るのか、ならば、俺にとっては好都合と空をみあげた。だが、そこには雨雲などみあたらず、闇がパッカリとまっ赤な口を開けていた。
「ケェエロッ。グゥエッ」
闇にあいた口は、大きなクマだった。
「グゥルルルガウ。どこへいく。これから先には行かせない」
「ゲッロッ。そんな意地わるいわずにとおしておくれケロ。病気の友だちを助けるんだ」
「うるさい、小僧。人間を食べるのは久しぶりだ」
「まっまってケロォ」
「ヒェー暑い暑い。いったいこの道はどこまでつづくんだキー」
ケロがクマに食べられそうになっているころ、キーは切り立った崖の道を歩いていた。
「おいらもカーのように空を飛ぶことができれば楽なんだけど」
キーはサルだから、木登りは得意だけど、山登りは苦手だ。木があれば、枝から枝へ飛んでいけるけど、道の両側は空までつづく崖で、木はところどころに生えているだけだった。
キーは落ちていた枝をひょいと拾うと、杖のかわりにして、また歩き始めた。キーは三人のなかでは道具を使うのがいちばん得意だ。ものを投げるのも上手だ。喧嘩のときはひっかいたり、かみついたり、いままで負けたことがない。
でも、苦手なものがひとつだけある。それはカニだ。どういうわけだか、カニをみると逃げだしたくなる。
いちどかーちゃんに聞いたことがある。そしたら、どうやらサル族とカニ族はむかし大喧嘩をして、カニに負けたらしい。それ以来、サル族はカニ族に頭があがらない。
しばらく行くと、道に材木がごろんごろんしている。木はほとんどないのに不思議だなとおもって、よくみると、材木のような石だった。
「歩きづらいキー。ここらで一休みするか」
心臓が耳のなかにあるみたいにドクドクいっている。キーが材木のような石のひとつに腰をかけたとき、どこからか、キーに声をかけるものがあった。
「ギーギッギー」
キーはビョンと飛びのくと、頭を低くし、尻をピンとあげ、うなり声をあげてまわりをみまわす。背中の毛は棘ネズミのように立っている。
「だれだっキー」
「どこへいくのですか。わたしもつれていってください」
その声は両側の崖にこだまして響く。頭が割れそうだった。
「だれだ。どこにいる。姿をみせろっキー」
「わたしはあなたの足の下です」
しかし、そこには石しかない。
「あなたが、材木と思った石は、じつは人間です。あなたとおなじように山に薬を取りに行こうとして、山の神様のお怒りにふれて、石に変えられてしまったのです。助けてください」
どうやら相手に悪意はないと感じたキーは足下の石に向かって聞いた。
「助けろっていわれても、どうすりゃいいんだい。石を担いでてっぺんまでいくのは、わるいけどごめんだぜキー。だいたい、なんで山の神様に怒られたんだキー」