朝がきてしまった。薬を探してここまでくるのに、何度の目の朝だろうか。仲間のフーのために森をでてから、三人にとっては喧嘩をしながらも楽しい毎日だった。
でも、薬が手に入れないことがわかったいま、三人はどうしていいのかわからなかった。フーが待つ森に帰れないと思った。
朝がきて、日が昇り、頭の上にお日さまがやってきても、三人は池の畔に座ったまま、なにもいわずにぼーっとしていた。
ついにお月さまが顔をだした。それでもじっと座っていた。
また朝がきた。三人はまだじっと座っていた。
「こうしていてもしかたがない。森に帰ろう。フーにあいに行こうケロ。じっとしていても、なんにもならない。森をでてきたときも、病気で苦しむフーをじっとみていることができなくて、薬があるといううわさにすがるようにしてでてきた。でも本当にそれでよかったんだろうか。フーは本当は俺たちにそばにいてほしんじゃないだろうか。きっとフーは待っている。帰ろう」
「ケロのとおりだな。帰ろう」
「カー」
三人は山を下りることにした。
途中、白い球を預かった岩のおばさんのところによった。でも、いくら話しかけても、岩のおばさんは返事をしなかった。子どもを探せなかったので怒っているのかもしれない。山のてっぺんの建物の扉を開けるとき、赤ん坊の泣き声が聞こえたような気がするなどと、いってみても無駄なことだった。
キーは石との約束を守って、池の水をくんでいってやった。だが、くるときに出会った石はいくら探してもみつからなかった。しかたなく、石と出会った場所に水を置いて、山を下りた。
カーはおしゃべりな木との約束をはたしにいった。おしゃべりな木はみつかったが、お姫様は一言もしゃべりはしなかった。カーはおしゃべりな木がくれた紅い球を返して、飛び去った。
ケロは、ぐるぐる巻きにしたクマが心配でそっとのぞきにいった。クマはせっせと蜂蜜を集めて、あたらしい黄色い球をつくっていた。
森の出口で三人いっしょになって、墓場を抜けて赤い橋をわたって、この世に帰ってきた。
橋を渡ると、山に登る前に出会ったオンババが、無事に帰ってきた三人をみてびっくりしていた。
「てっぺんまでいったのか」
「あぁ」
「よく無事で帰ってきたもんだ。はじめてだ」
「帰ってきただけじゃダメなんだケロ。薬が手にはいらなかったんだから」
「いやいや命があってこそじゃ。死んでしまえば薬も役にたたないぞ」
「薬が必要なのはあたしたちじゃないんだカー」
「もういい。さぁいこうキー」
生まれ故郷の森までのつらい旅が始まった。
フーのことが心配だったが、森へ帰る旅は、なかなか先に進まなかった。いつのまにか、三人は別々に歩くようになった。
そして、森がみえてきた。懐かしいはずの森が、逃げだしたいほどいまわしいものにみえた。
森の入口がみえる丘にカーが待っていた。そしてキーが到着し、最後にだいぶ遅れてケロが帰ってきた。
「さぁ、元気にフーにあいに行こうカー」
「もし病気がひどくなっていたらどうしようキー」
「そんなことは絶対にないケロ」
三人は並んで歩き始めた。森が近づくにつれて、懐かしい、土や水や木のにおいがした。懐かしい仲間たちの声も聞こえてくる。泣きたくなるほど、体から力が抜けていくのがわかった。
森の入口には仲間が出迎えていてくれた。そのなかからのっそりとでてきた奴の顔をみて、キーケロカーはびっくりした。
「フーっ」
「おまえらが行方不明だと聞いて、探しに行こうかと思っていたところだったフー」
「元気になったんだねケロ。よかったケロ」
「なんだか元気がないなおまえら。これじゃどっちが病人かわからないじゃないか」
フーは、三人をつれて森にはいっていった。キーもケロもカーも、元気なフーをみてうれしかった。でも、ちょっとがっかりもしていた。本当は自分たちが、あの山のてっぺんで薬を手にいれて、森に帰ってきて、フーの病気を直してあげるはずだった。
薬が手にはいらなかったので、残念だったが、それでもフーのために一所懸命にやったことは満足していたし、フーも話を聞けば喜んでくれると思いこんでいた。
ところが、フーは三人がいないあいだに病気が治り、おまけに、いなくなった三人のことを心配までしていたという。
フーが苦しんでいるときにそばにいなかっただけでなく、薬まで手に入らない。それだけじゃなくて、心配までかけていた。まるで役立たずだ。薬をとりにいくことはだれにもいっていなかったので、いまさらいいだすこともできなかった。
しかたないので、フーの病気を治すお祈りをするために、山のてっぺんまで行っていたとうそをついた。
フーはいいやつだから、それを聞くと、とても喜んでくれた。キーケロカーは、ますます恥ずかしくなった。
「フー、病気が治ってよかったキー」
「なんかいい薬でも手にいれたのカー」
「いやべつに。森の泉の水で、よくなったんだフー。今度ばかりは、おれももうだめかとおもったけどな。
それが不思議なことに、これまでいちども涸れたことのない、森の泉が干上がったんだ。もちろんおれは寝ていたから、あとで看病をしてくれていた、妹に聞いたんだ。その干上げった、泉が不思議なことに次の日になると、紫の水晶のように美しい水をこんこんと湧きだしたというんだ。
森の仲間は気味悪がったが、俺の病気を治すために藁にもすがりたい気持ちだった妹は、その水を俺に飲ませてくれた。甘い水だった。森の香りがいっぱいする水だった。口に含んだときには沁みるほどつめたいのに、飲み干すとからだじゅうが熱くなる水だった。
するとどうだい。それまで、ひひーうなっていたおれは、このとおり、前よりも元気になってしまったというわけだ。なんのおかげかしらないけれど、まぁ、おまえらが祈ってくれたのもすこしは役に立ったのかもしれない」
フーの話を聞いていた三人は、紫の水晶の名前がでてくると、どきっとしたが、確かめようのないことで、自分たちのやったことが無駄ではなかったと信じたければこじつければいいことだし、そうでなければ、たまたまフーがその名前を口にしただけと思うしかなかった。
三人は森の長老からしこたま怒られてから、フーがいっていた泉に行ってみた。水の色は、記憶のなかにある泉の色とおなじだった。
「結局、俺たちは、なにをしたんだろうなキー」
「わからないカー」
「でも、おまえらとの旅は楽しかったケロ」