「なんだか気味わるいケロ」
「墓場なんてぞっとしないキー」
「なにいってんだい。これからがもっとたいへんだカー」
「でも、あの橋をみろよ。血の色みたいだぜキー」
「キーもケロも、まったく憶病なんだカー」
キーとケロとカーがたっているのは、山奥の川にかかる橋の前だ。まっ赤な橋の向こうは墓場。その先の森のはるか向こうに、まっ白に雪をかぶった山がみえる。三人はあの山のてっぺんを目指すのだ。
キーはサル、ケロはカエル、カーはカラスだ。三人は、イノシシのフーの病気を治す薬を求めてここまでやってきた。
キーケロカーの冒険はまだ始まってもいない。
暗い木陰からでて、まっ赤な橋に向かって歩き始めた三人に声をかけるものがいた。
「おまえら、どこえいくのじぁ」
「うわぁぁぁ、びっくりするじゃないカー。あんたいったいだれだい」
「村のものには、オンババとよばれている」
三人に声をかけたのは、鬼のような顔をしたおばあさんだった。白い服を着て、赤いずきんをかぶっている。
「はははは。カーだって俺たちのこといえないぜキーキー」
「びっくりして羽が白くなったんじゃないのかケロケロ」
「ふん、うるさいねっ。どこへ行くって、おばあさん。あの山のてっぺんだよカー」
「やめるんだ。てっぺんをめざして、生きて帰ってきたものはいない」
「でも、山のてっぺんにある、薬をもって帰らないと、仲間のフーがしんでしまうキー」
「いったいそんな話をどこで聞いたきたんじゃ」
「森でいちばんの長生きのクサガメのじっちゃんだケロ」
「どうしてもいくのか? ならば、その橋を渡るときには白布を敷いて、その上を歩くのじゃ。そうでないと、生きて帰ってこられないぞ。橋の向こうは、死の国じゃからな。フォフォフォ」
しわだらけの顔が裂けて、まっ赤な口がみえた。とても笑っているようにはみえない。
「ありがとよ、おばあさん。礼をいうケロ」
三人は橋のたもとで立ち止まった。死の国とか、帰ってこられないとか、おばあさんに脅かされたので、そのままスタスタと歩いてわたるには、ちょっと勇気が必要だった。
「フーが待っているケロ。行こうよケロ」
「でもよ、白い布たって、そんなもんどこにもないキー」
「ケロ、あんたちょいと化けなよカー」
「ったくしょうがないぜ。ほいよケロ」
ボムと音を立てて白い煙が上がると、ケロは白い布に化けていた。
ケロは泳ぐのも得意だが、化けるのも得意だ。だって、カエルは卵からオタマジャクシになって、カエルになる。冬には土に潜って眠ることだってできる。まるで忍者みたいだろう。白い布に化けるなんてお茶の子さいさいだ。
でもケロは、子どもが苦手だ。オタマジャクシんときゃ追いかけられるし、カエルになれば、捕まえられて、腹に空気を入れられて破裂させられる。ひどいときは、学校というところで、解剖までされちまう。子どもに悪気はないだけに、よけい始末がわるい。
ともあれ、三人は気味のわるいまっ赤な橋を無事にわたって、墓場を駆け抜けて、森のなかへとはいっていった。