頭寒足熱 腹八分

野口整体 気・自然健康保持会

主宰 金井省蒼

 

3、「腹八分」を現代に再考する

『月刊MOKU』2007年3月号
「腹八分」を現代に再考する
より

   

 野口晴哉先生は、「腹八分」を「欲張ラズ」と読み、そしてその通り行えば腹はいつもつかえず快い、と言われました。「腹八分」が体に良いということは、一般にも知られていることではありますが、多くの人は、満腹になる前の「八分目」で止めておくのがよい、という意味だと思われているのではないでしょうか。そこで、この言葉を「身体感覚」を通して、捉えなおしてみたいと思います。

  

 整体指導に通っているある女性は、忙しい部署に配置換えになったのを境に、給湯室の隅のゴミ箱の近くで、仕事を気にしながら気ぜわしくかきこむような、昼食の取り方をするようになりました。
 それまでのように一息つくこともできず、ゆったりと味わうこともない、ただ「お腹に入れる」だけの食べ方をしているうちに、仕事中にも隙を見て、間食を摂るようになってしまいました。
 彼女はお米が変るとすぐ分かるほどですが、その頃には、「味覚」そのものを感じられなくなって、ひと月後には、空腹になると胃が痛むようになり、「痛くなるから食べ物を入れる」という異常な状態になってしまいました。その直後には、虫歯が化膿してひどく痛み、辛い思いをすることになりました。その後もこのような「食生活」が続き、痛み始めて二十日ほど後に指導をしたのですが、体に触れた途端、「食の乱れ」を感じたものです。

 しかし、詳しく話を聞くにつれ、彼女の食が乱れたのは、忙しさだけではなく、無意識のうちに苦手な同僚に気を使っていた、という「ストレス」が、もう一つの大きな要因であることが分かってきました。ゆったりと味わうことができなくなった原因がここにもあったのです。
 食事時には心を落ち着けて、ゆったりと味わうことが肝要です。食べたものがどこに入ったかも分からない、満足感の無い食事を繰り返すと、心は「充足」を求めて、やたら食べるようになってしまうものです。
 「食事中も仕事に気を使う」ことが繰り返され、「食に対する集中を損なう」ことが度を過ぎて、体はいよいよ乱れてしまったのです。その結果、化膿するという免疫力の低下を招いたのが、今回の例です。

  

 「何を食べるか」よりも、「どう食べるか」を考えたいものです。
 食べた後の体の感じから、今日の「食べ方や味覚はどうだったのだろう」、と振り返る。また進んでは、食べる時「食べ初めから味覚に注意して、味覚が変わったら止める」というようにするなら、食べ過ぎて体を悪くすることはより少なくなります。
 何事にも「集中力」を持って臨むことを勧めたいと思います。

 このためには、現代人は「腰」を意識する、ことが必要なのです。かつては正坐をすることで、「気」が下がり、心を無にして、食べることに専念していたのです。腰が入ると、呼吸もゆったりとし、食べた物の納まりも良いものです。味覚もよく感じられ、満足感にもつながります。
 椅子に腰を掛けていても、腰が入ればその効用はあります。
(→椅子座

   

 今回紹介する野口整体の「食べ過ぎ体操」は、別名「腰を強くする体操」とも呼ばれ、「ちょうど良い食べ方」と、「腰がしっかりしていること」との相関関係を意味しています。
この体操により、腰を強くして、ストレスの多い現代に適応する力を養って頂きたいと思います。

 

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