一 野口整体とは 二 野口整体の行法 《三 「風邪の効用」という思想》 四 野口整体の目的

  

禅文化としての野口整体 V24
― 気の思想 ―  

   

三 「風邪の効用」という思想

   

1 病症を経過する  

 師野口晴哉『風邪の効用』には「病症を経過する」という思想が著されています。「病症を経過する」とは、たとえば風邪を引いた時に、後頭部の温湿布や足湯(そくとう)(または脚湯(きゃくとう)などによって発熱を円滑にし、症状を経過するというものです。
 病症というものを敵対視して診るのではない、その人の「生」全体において ―
「生活している人間」として 観ることで、「病症が体を立て直す(自然治癒力)」働きとなっていることが解るのです。
 このような、師の「悟り」とも言える教えを、弟子は長年かけて、追体験することで真に理解するに至ります。
 師野口晴哉の思想を紹介した『ブッククラブ回』の会報では次のように述べられています。

『ブッククラブ回』
2002年夏 49号 人物評より
野口晴哉

 〈健康〉とは、病気を対処療法的に治したり、理想的な体格に整えたり、栄養を取ることではなく、むしろ常に変化し続ける体、敏感で柔軟な感覚を育てること。様々な療法を試した後、結局は野口整体に行き着くという人が多いのも、そのような根源的な思想を超えるものが他に無いからかもしれない。(中略)
 また、風邪の効用についても斬新な考え方を示した。風邪とは、偏り疲労を取るために体が調整しようという症状である。風邪をひいたら喜ぶべきなのだ。ウィルスや伝染病に関する視点も、当時の常識では考えられないものだった。それは、心身を成長させるものであって、人間にとって非常に重要な役割を担っていると彼は言った。今でこそ、このような考え方は、科学的な視点からも指摘されつつある。しかし戦後の日本で近代医学が最も発展した時期、このような理論を打ち出したのは驚くべきことだ。軽い自然主義とは根本的に違う、凄まじい何かが、彼には存在していた。

  

 病症を経過し、自然治癒力が十全に現れることによって生命力が活性化すると、生きて行く上での行き詰まりをも「乗り越える力」が発揮されるのです。
 自分以外のものに頼って生きてきた人が、生命の力強さを理解し、自分自身を訓練することによって自分の力だけで生きていけることを悟った時、生命に対する信頼が生まれるのです。

    

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