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和平復興関連 No113


2006‐02-25
ジュネーブ協議で全面線戦争を回避
人間の安全保障を2010年までに確立
スリランカ政府とLTTE和平協議再開

 22、23日の両日、スイス・ジュネーブで開かれたスリランカ政府‐LTTEの停戦協議を報じる各マスコミの報道は次ぎの通り。
 2010年2月22日までにヒューマン・セキュリティ「人間の安全保障」をスリランカに確立するとスイス連邦外務省次官ウルス・ジッツウィーラーの協議での発言。多民族・多文化・多宗教というストレスの多い共同体の中でのヒューマン・セキュリティ確立にスイスがノルウエーと共に取り組むことを表明し、「信頼の回復」を「協議」で行うとし、これが「ジュネーブ精神」であるとした。22日ランカ・トルゥースLanka Troughの報道で。
 バーラシンガムLTTE代表、ニマール・シリパーダ・デ・シルワ・スリランカ政府代表は共に2002年2月22日のオスロー会議を述懐、今回のジュネーブ協議ではそこで成立した休戦協定を再遵守するとこに言及。
 ただし、休戦協定を破ったのは相手側であるとして、互いに相手側の違反事例を列挙した。22日はそうした主張のみに意見が集中、協議の行方が危ぶまれた。23日、政府とTTEは休戦協定を遵守すると共に暴力・誘拐・殺人行為を互いに起こさないことを提案、その上で4月に和平に関して話し合いを続けることを合意した。
 このジュネーブ協議ではスリランカ政府、LTTE、調停国のスイス外務省ともに“信頼”という言葉を冒頭のスピーチで繰り返し用いている。それは互いの連携を確認しているかのようであり、これがジュネーブという土地柄が醸し出す和平の流儀かもしれない。ちなみに2003年6月の東京会議における「スリランカ復興と開発に関する東京宣言」は人道支援・経済援助をセットにして高らかに提唱したが、そこに“信頼”という言葉はなかった。
 経済支援を急務とした日本の国際貢献が信頼を得られなかったのは日本が発した東京宣言そのものに信頼が得られなかった結果である。新ODA大綱が経済的な投資に見合う経済効果をして国益と呼んで編まれたなら東京宣言の誤りを繰り返す懸念を生む。
 東京宣言をささえた理念は「人道と経済」だった。ヒューマニズムが経済発展によって解決するという神話を日本は戦後の一時期に促成栽培した。この題目と神話は20世紀後半の日本人の戦後復興には有効だったろう。だが2003年のスリランカ紛争解決には無力だった。東京会議がスリランカの問題を解決できずに3年を費やしたのは東京宣言に根を張る「人道と経済」、戦後復興ジャパニズムの生んだこの言葉のためではなかったかといまさらに思う。

 ランカEニュースは23日、「和平会談を阻害する要因は何もない。ジュネーブ会議では双方の意見が一致した。政府は完全な停戦合意を目指している」というアヌラ・プリヤダルシャナ情報相のコメントを掲載。しかし、会議後の共同声明発表会見に関しては何ら言及がなかった。


 今回、停戦に関する協議が持たれたことに関してネパール政府は自国もスリランカの休戦協定に学ぶことがあるとコメントを出した。ネパール・ニュース23日

 BBCシンハラ・コムは25日、サンデーシャのインタビュー報道を引いてジュネーブ協議の脆さを指摘した。BBCサンデーシャは協議関係者複数へのインタビューを流している。BBCシンハラ・コムは指摘しなかったが、そこにジュネーブ協議のキーワードが何人もの口からシンハラ語で語られている。ギィウィスマとポロンドゥワとウィスワーサがそれである。
 スリランカ政府とLTTEはオスロー会議のギィウィスマ(契約・取り決め)を遵守する、それはポロンドゥワ(約束)であり、それを守ることが相互のウィスワーサ(信頼)につながる。ウィスワーサ・カラナワ(信頼する)というシンハラ語がこれほどに何度も繰り返される協議はなかった。22日のバーラシンガム代表による政府の協定破りへの批判は激しく、政府代表デ・シルワ氏のLTTEに対する糾弾も然りだった。互いにギィウィスマを破り、ポロンドゥワを裏切り、その結果ウィスワーサが崩れた。スリランカのシンハラ語は政府とLTTEの信頼の構造をこれらの三つのキー・ワード、三つの段階で理解している。22、23日のジュネーブ協議は東京会議以降に崩れた3年間の信頼喪失を回復する第1歩、ギィウィスマの復活という位置付けがなされている。

 米国、日本のマスコミはジュネーブ協議への詳細な反応を示していない。この協議に関しては「過度の期待をしない」という冷ややかな観測が元々根強い。朝日、読売、中国新聞各社は会議閉幕の簡単な記事を掲載。ノルウエー、スイスが果たそうとしている役割に言及する日本語報道は皆無だった。
 ジュネーブ協議が目指すのはスリランカ政府とLTTEの相互の信頼回復と調停者との信頼構築。読売はかろうじて信頼醸成という政府の国別支援計画に用いられたことのある言葉を記事に入れたが醸成作業そのものには興味を示さなかった。‐15時10分現在‐


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