白馬岳 (2/2)

8月4日 雨のち霧時々晴れ

テントを揺るがす強風で目が覚めた。1時だった。テント内は11.2℃。うーん、この風だと撤収に難儀しそうだ・・・と思いつつ再び眠りに落ちた。
2時に本格起床、相変わらず風が強い。支度をしていると、2時半には、な・な・なんと雨が降ってきた。えー、そんな話聞いてないよー。テント内は14.0℃で気温はまずまずなのだが、いかんせん、雨はまったくの想定外だった。いつもは寝る前に「明日雨だったらどうしよう」「ガスだったらどうしよう」とあれこれ考えるのに、昨日に限ってまったくそういうことを考えなかった。とにかく晴れを信じて疑わなかったのだ。

待機

朝日小屋へのコースタイムは7時間30分。前日の栂池→白馬で、同じくらいのコースタイムのところを9時間かかっていることを考えると、テント場を遅くとも5時半に出発し、山頂を6時には発たなくてはならない。もちろん、テントを撤収する必要もあるわけで、この強風では1時間はかかるだろう。すると決断のリミットは4時半か。風は強く、雨も降り続いている。いつでも出られるよう準備して天候回復をじりじりと待つ・・・
4時半になっても状況は変わらず。やむなく朝日岳縦走を断念した。5時半になってようやく明るくなった(夜明けは4:46なのに)。風は強いままで、雨は降ったり止んだり。
しかたなくテントの中で今後の行程を練り直す。明日中に帰宅したいので、下山コースを考える。雨の後の大雪渓を下りに使うなんて冒険はしたくないし、鑓温泉もかなりの残雪があるらしい。となるとやはり来た道を戻るのがいいだろう。今日のうちに少なくとも大池まで行けば、翌日は楽だ。一気に下山して蓮華温泉あたりに泊まるのもいいかも。
7時半になってようやく雨が止んだところで撤収作業を開始した。周りのテントは既に半分以上消えていた(みんなスゲー)。そして作業途中から結局また雨が降ってきて、6月の八ヶ岳から連続して雨中撤収となってしまった。テント山行を始めて20年くらいだが、それまでは雨中撤収は3回しかなかった。しかも最後は2001年で、つまりこの10年ほどはこんな目に遭ったことがなかったのだ。それが今年になって連続でぶち当たるとは。

8:39 テント場発(高度計:2690m)

花
村営宿舎 - 白馬山荘間の花(08:45)
出発するころには雨は激しくなってきた。風は相変わらずだが、夜中ほどではないように思われた。3時ごろに朝食をとって以来何も口にしていないし、この天候ではザックをおろして行動食をとるのもなかなか億劫なので、とりあえず白馬山荘に行ってレストランで腹ごしらえをすることにした。
昨年夏に買った新しいカッパを、初めて雨具として使った。なわけで、フードの庇が視界確保のため透明になっていることを初めて知って、ちょっと感心した。稜線に出ると風雨は強くなったが、新しいカッパは快適だった。風も、耐風姿勢をとるとかいうほどのレベルではなかった。これなら歩けそうだが、白馬山頂から三国境にかけては名だたる強風地帯であり、油断はできない。

8:59 白馬山荘着(2795m)

道
雨の稜線(08:49)
花
稜線に咲く花(08:50)
白馬山荘ではまず天気相談所に。どうも予報が急変したらしい。今日は曇又は霧で一時雨、翌日は曇又は霧で一時雷雨(!!)ということだった。今雨を降らせている雨雲は、もう少しすると東に抜けて雨は止むもよう。
レストランに行って相棒はコーヒー、かつりんはホットミルクを注文し、温まりながら行動食を食べた。レストランでぎりぎりまで粘ることにする。

9:35 白馬山荘発(2795m)

山頂を10時には出発したいので、レストランを出た。雨はまだ降っていた。
なんだかカメラの液晶がおかしくなってきた。オリンパスE-M5は防塵防滴だが、『雨天でも安心』的なことがパンフに書いてあったので、雨ざらしのまま歩いていたのだ。小雨ならともかく、横殴りの雨ではさすがにヤバかったか・・・

9:52 白馬岳通過(2890m)

山頂
白馬山頂(09:52)
ガスガスの山頂は記念写真を撮ってそのまま通過。こんな中でも結構な人がいた。
三国境に向けて歩き出すと、またまた結構な人数とすれ違った。白馬大池を朝出ると、ちょうど今頃なのかもしれない。

10:29 三国境着(2690m)

三国境に着く頃には、心なしか空が明るくなってきた。三国境では高校山岳部的なパーティが大勢でホットケーキを焼いて食べていた。なんだかとても楽しそうだった。こういうとき、大人数は心強い。
かぶっていたカッパのフードをとり、ザックをおろして休んでいると、とうとう晴れ間まで見えてきた。しかしとうとうカメラの液晶がまったく映らなくなってしまった。レンズを認識しなくなり、写真が撮れなくなってしまった。ああ、カバーをしておけばよかった・・・とにかく、この先は相棒のカメラが頼りだ。

10:44 三国境発(2690m)

道
歩いてきた道を振り返る(10:54)
道
小蓮華のピークはこの向こうだ(11:10)
三国境からさらに下り、鞍部まで来るころには視界もだいぶ回復してきた。振り返ると歩いてきた道が見えた。
鞍部を少し登りかえしたところで、みたびライチョウ発見。目の上が派手に赤く、また単独行動をしているところからして、オスのようだ。一度の山行で3度もライチョウを見たのは初めてだ。
とうとう日も差してきて肌がひりつくようだったが、そうかと思うとまたガスに包まれたりした。

11:23 小蓮華山(2730m)

山頂
賑わう小蓮華山頂(11:42)
道
コバイケイソウの咲く道を行く(11:54)
小蓮華山頂は大勢の人で賑わっていた。ちょうど大人数のパーティがいたようだった。上空に晴れ間はあったが遠望はきかなかった。もう雨は降らないだろうと判断し、カッパを上下とも脱いだ。脱いだら涼しくて気持ちよかった。そんなこんなで20分程度休憩してから出発。
天気はいまひとつでも、花の美しさは変わらない。小蓮華山頂の北側のさまざまな花を再び愛でながら歩く。アオノツガザクラ、コバイケイソウ、ミヤマダイモンジソウ、チングルマ、イワカガミなどなど・・・

12:32 船越の頭(2585m)

大池
船越の頭を出て白馬大池へ下る(12:44)
30分も歩くと、右下の谷底に、往きは雲海の中で分からなかった大雪渓が見えた。登山者の行列もわかった。
船越の頭ではザックは背負ったままで石に腰かけて休んだ。登ってくる人が結構多い。小蓮華山の雲のかかり具合が、往きよりも『坂の上の雲』っぽかった。しかし、嗚呼、カメラが・・・
10分ほどしてから出発した。大池への下りも花が美しかった記憶があるが、下りで見るとなんだかあまりぱっとしなかった。

13:09 白馬大池着(2365m)

花
チングルマと白馬大池山荘(13:08)
花
蓮華温泉への道のハクサンコザクラ群落(13:46)
白馬大池の花畑は、大雪山なんかと比べると花の量はどうしても見劣りしてしまうが、楽園的な雰囲気がイイカンジだ。花は、池やテント場の周りよりは、蓮華温泉方面に広がる原っぱの方が多かった。ハクサンコザクラや、ハクサンイチゲや、アオノツガザクラの群落があった。
結局この日は大池で終点とした。これほど美しい花畑に囲まれたテント場はなかなかないと思う。この日テントは20張りくらいで、学生と思しき大テントがいくつかあった。うるせーだろうなあと思っていたら、彼らはすぐに寝静まった。18時過ぎには弱い雨が降ってきた。明日は今日よりも予報が悪い。早めに山を下りるのがいいだろう。

8月5日 曇り一時雨

5時半出発を目指して3時半に起床、のつもりが、隣のテントが2時半に起きてでかい声でしゃべるもんだから、釣られて目が覚めて眠れなくなってしまった。まあ早い分にはいいか。空は曇っているようだった。
テントの撤収を終えると雨が降ってきた。ザックにしまったカッパを取り出して着た。撤収がもうちょっと遅かったら、3回連続雨中撤収となってしまうところだった。下山路は蓮華温泉にとる手もあったが、その後の交通の便を考えて、結局往路と同じ栂池を選択した。

5:28 大池山荘テント場発(2365m)

大池
白馬大池を振り返る(05:55)
山頂
山頂のケルンが見えてきた(05:57)
山荘をあとにして、大池をぐるっと廻って対岸に進んだころには雨も止んできた。池を見渡せるくらいの視界はあった。

6:01 白馬乗鞍岳(2430m)

残雪
濃霧の残雪を下り切って振り返る(06:22)
道
恐怖のずるずる岩ゴロ道(06:45)
山頂には山荘から30分ほどで着いた。往きに下ったときとほぼ同じタイムだ。いかに歩きにくい道かということだ。ザックをおろして少し休憩した。ケルンの側では、前日に三国境で見たホットケーキ部隊がやはり楽しそうに休憩していた。
残雪地帯に着いたときはガスが濃くて、対岸が見えないくらいだった。それでもロープが渡してあるので道迷いの心配はないだろう。問題は下りということだが、ストックのキャップを外してトンガリにしたら、アイゼンなしでも安心して歩けた。
しかしそのあとの下りがひどかった。もちろん往きに通って様子は知ってはいたのだが、下りでの滑りっぷりったらなかった。残雪なんかよりこの丸い泥石のほうがよっぽど怖いのである。一歩たりとも気が抜けない。それが延々1時間続くのだ。

7:02 天狗原着(2195m)

天狗原
イイカンジの天狗原(07:03)
乗鞍岳
イイカンジの白馬乗鞍岳(07:04)
天狗原の木道が見えたときは心底ほっとした。ベンチの広場でザックを下ろして休憩。カッパも脱いだ。栂池からの登りの人たちが何人か休憩していた。
霧がかかった湿原はなかなかいい雰囲気だった。白馬乗鞍岳の斜面にもちょうど雲がかかって美しかったが、休憩していた約10分の間に雲がとれた。雲がないとなんだかのっぺりした感じがした。

7:17 天狗原発(2190m)

花
道端のウスバスミレ(07:41)
天狗原を出発してすぐにコケた。木道だからと油断していたのだ。木道で滑るのは、石と違って足をかっさらわれるのでまた違う危険があると思った。石が「ズルっ」なら木道は「つるりん」で、氷で滑るような感じだ。もうすっかりビビって牛歩状態になってしまった。ただし天狗原から下は道の斜度は大幅に緩くなり、上ほどは精神的にはキツくない。
銀嶺水の湧水を少しすすり、なおも牛歩で下るとあたりを濃いガスが覆ってきた。うわ、今にも降りそうだ、と思っていると「ざーーーっ」という音が。やっぱし来たなとカッパを取り出して着込むと、何のことはない、沢だった。うーん、暑いけど、もう着ちゃったし、脱いでホントに降ってきたら悔しいし、面倒だからこのままいこう。

8:26 栂池着(1865m)

階段
こういう木道階段がツルツルで怖すぎる(08:17)
下るにつれて、対向者が多くなってきた。朝一番のゴンドラで上がってきた人たちなのだろう。木の階段を下るのがとても恐ろしかった。なんてったってツルッツルなのである。しかし階段まで来ればもう栂池も近い。意識的にスピードを落とし、慎重に歩いた。ようやく登山口に着いて、ほっとしてカッパを脱いで涼しくなった。しかしトイレに行って出てきたら雨が降ってきた。言わんこっちゃない、カッパを脱いだら降ってきた。あとはもうロープウェイ乗り場まで歩くだけだ。カッパを着る必要はないだろう。
この日の最大高度は2435m、最低高度は1855m、積算上昇は65m、積算下降は575mだった。

下山

道
舗装路で道に迷いそうになる(08:36)
山荘を後にロープウェイ乗り場に向かうと、ガスで視界が極端に悪く、道がわからないほどだった。夏場は休止しているリフトが霧の向こうにぼんやり見えて、それがロープウェイ乗り場だと勘違いしそうになったのだ。往きに使っているから辛うじてわかったが、初めてだったら迷っていたに違いない。
ロープウェイは、上りの客が多いため、通常20分間隔のところを10分で運行していた。下りの客はわずか6人だった。
栂池高原からは接続するバスがなかったので、タクシーを呼んだ。あずさの車内販売で買って食べた桔梗屋の信玄餅アイスが疲れた体に染み渡った。ただのきな粉アイスと言えばそれまでなのだが、きな粉感とか黒蜜の具合とかが絶妙にハマったのだった。
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