白馬岳 2013年8月3日 - 5日 テント泊縦走

8月2日 曇り

今日は栂池へ移動するだけで、自宅を9時すぎに出るというゆったり行程となった。夜行を使って朝一番のゴンドラで上がって登り始めるというテもあるが、我々中年トレッカーは無理はしない。前日に栂池の登山口に泊まっておけば、体もラクだし、始発ゴンドラよりもはるかに早くスタートすることができる。

栂池高原へ

首都圏から栂池へは、一番ラクなのは南小谷行きのあずさだが、すでに指定は満席。で、新幹線で長野に行き、長野駅からの直通バスを使うことにした。実はこれが一番早い。大宮から指定席をとろうとしたが満席だったので、東京駅から自由席で行くことにした。1,2本見送れば席にも座れるだろう。
テレビを見ながら支度をしていると、早朝に東京 - 上野間で停電があり、新幹線ダイヤが大きく乱れているという。指定席をとっていたら慌てていたろうが、自由席なので運転さえしていてくれれば乱れていようが構わない。ちょっと早めに家を出て、混雑に備えることにした。
東京駅に着いたらちょうど長野行きが発車するところだった。しかも2人並びの席が空いていた。まったく運が良すぎると思った。上野・大宮で客が増えてそこそこの立ち客もでたが、軽井沢で多くの客が降りた。長野に着いたら雨があがった直後っぽい雰囲気だった。長野からのバスは補助椅子を使うほどで、ほぼ満員という状態。しかし白馬駅と八方で客がほとんど降りて、岩岳を過ぎたら乗客は我々を含めて5人だけになってしまった。

栂池自然園へ

栂池高原からゴンドラリフトとロープウェイを乗り継いで栂池に向かう。乗り場には自然園で今見られる花の写真などがあった。
上りのロープウェイでは他の客はいなかった。すでに15時を過ぎているので、栂池山荘かヒュッテに泊まる人以外はもう下りる時間なのだ。ロープウェイに乗るあたりでは薄日もさしていたが、降り立った栂池は雲の中であった。栂池は標高1850m。

16:00 栂池自然園

栂池自然園
栂池自然園(16:00)
栂池山荘でチェックインの手続きをすませてすぐにカメラを持って自然園へと向かった。自然園へはビジターセンター内を通過して進入し、センターで入園料を支払うシステムとなっていた。
自然園はクルマユリとニッコウキスゲとヒオウギアヤメが目立った。ワタスゲの穂もあちこちにあった。当たり年だというコバイケイソウは、ほぼ終わりに近かった。湿原の周囲は林のため林床の花も多く、キヌガサソウの群落やオオバミゾホオズキがよかった。この日は見つけられなかったが、前の週くらいまではシラネアオイもあったようだ。
展望湿原まで行きたかったが途中時間切れで引き返すことにした。思ったよりも多くの花が咲いていて、なかなか見応えがあった。湿原じたいがかなり広いので、ここだけを目標にして来るのもアリだと思った。ナナカマドもあったし、秋も相当きれいなんだろうなあ。

栂池山荘

17時に山荘に戻り、明日の着替えなどを準備していると早くも17時半で夕食の時間になった。
山荘は、テレビこそなかったが、浴衣やタオルはあって、ほぼ旅館という感じだった。部屋は運良く個室がとれた。山小屋的な相部屋もあるが、翌朝は日の出とともに出発する予定なので、相部屋だと気が引ける。我々はテント生活の悪習で、ついつい店を広げがちということもある。
ケイタイが通じるので、ネットで翌日の天気予報を見たところ、曇りまたは霧一時晴れという、まずまずな感じだった。

8月3日 曇り時々晴れ

3時に起床。外はガスガスだった。身支度をととのえて、部屋で朝食のおにぎり弁当を食す。
エアリアを見ると天狗原までの道中に水場マークがあるが、事前の調査では情報は得られなかった。少なくとも大池まで行けば、小屋で給水できるだろう。大池までの分を宿で汲んだ。

5:01 栂池山荘出発(高度計:1855m)

道
岩ゴロゴロの滑りやすい道(05:45)
のっけからぬかるみの道。ただし要所には丸木や板が渡してあって、脇のヤブすれすれを迂回して行く、というようなことはない。道端には白くて可愛らしいレンゲ(たぶんウスバスミレだと思う)や、アカモノとかマイヅルソウなどが咲いていた。コマドリのさえずりも聞こえた。結構近いところにいるみたいだった。探して見たかったが、そんなことしてたら日が暮れてしまう。
登っていくと、道は岩ゴロになった。泥がついていてよく滑る。ただ、斜面がさほどキツくないのが救いだ。

5:49 銀嶺水

出発から50分ほどで「銀嶺水」という立派な標識が現れた。これがどうやらマークの付いていた水場のようだ。水量も豊富で、飲んでも問題ないようだったが、まだ水筒の残量はたっぷりあったので通過した。
銀嶺水のあたりから、それまで斜面だった道は、平坦地の感じになってきた。先を見ると人々が集まって歓声をあげていた。そこが天狗原かと思ったがそうではなく、林がきれて景色が見渡せるのだった。それまでまったく眺めがなかったので、これは嬉しかった。雲海の向こうに、鹿島槍から白馬鑓・杓子までの山並みが見えた。白馬岳本峰はちょうど手前の山影に隠れていた。不帰と八峰の両キレットにはきれいに滝雲が流れていた。

6:16 天狗原(2185m)

天狗原
天狗原で一休み(06:19)
道
林を抜けても歩きにくい岩ゴロ道が続く(07:02)
残雪を数m渡り、少し登るとすぐに木道が登場。そして間もなくベンチと標識のある広場に到着。これから登る乗鞍岳の斜面がよく見えた。白馬鑓も林の向こうに見えた。ザックを下ろして休憩。湿原の花は栂池自然園に比べるといまひとつだった。
広場から数分木道を行ったあと、林の中の岩ゴロの道になった。典型的な雪解けあとの岩の道で、丸っこくてつるつる滑って歩きにくい。20分も登ると林を抜けたが、岩ゴロは相変わらずだ。見下ろすと、栂池自然園がちょうど雲の上にその台地を見せていた。
登山道は、天狗原から▽形に見える残雪の、左下の辺をかすめるように付いていた。そして最後の最後、▽の左上の角のちょっと手前で残雪の上を直登する。その直登区間は50mもなく、斜面の上部で傾斜も緩やかで、アイゼンは使わないで済んだ。渡りきってからザックをおろして休憩した。この頃は雲海の波が落ち着いて平らになっていた。そしてそのはるか彼方に八ツや南アの山々が見えた。富士山にだけは雲がべっとりと纏わりついていた。

7:36 白馬乗鞍岳(2420m)

三山
白馬三山と小蓮華山が見えた(07:31)
白馬大池
白馬大池が見えた(07:42)
それからひと登りだけすると、すぐにライチョウ保護の看板が見えて平らになった。乗鞍岳の山頂部は緩やかな丘地形なのだ。しかし道は岩の上を飛び移る感じで、相変わらず歩きにくい。小蓮華から白馬本峰のラインも見えてきて思わず歓声をあげる。すぐに山頂のケルンが見えてきた。
ケルンのそばでは2人組の登山者が休んでいた。我々は休憩してからさほど時間がたっていないので通過した。白馬大池でゆっくりすることにしよう。ケルンからは大池は見えなかったが、3分ほど歩くとその全貌が見えた。道は相変わらず岩ゴロゴロで歩きにくいことこのうえない。

8:06 白馬大池(2350m)

花畑
雷鳥坂とコバイケイソウ群落(08:23)
コバイケイソウ
青空に映える白いコバイケイソウ(08:25)
乗鞍から見えたとき、大池山荘までは20分程度かなと感覚的に思ったが、結局30分近くかかった。小屋のすぐ近くまで岩ゴロ道で、歩きにくかったのだ。小屋前にザックをおろしてしばし休憩することとし、水を補給した。
あたりにはコバイケイソウやらハクサンコザクラやらタテヤマリンドウやらがたくさん咲いていた。池の畔にはチングルマも。

8:37 白馬大池発(2350m)

道
ガスに包まれた雷鳥坂あたり(08:51)
朝日岳
ミヤマダイコンソウと朝日岳(09:12)
岩くずの雷鳥坂を登り始めると、とたんにガスに包まれた。かと思うとすぐに晴れたりした。道は、これまでの乗鞍岳までと違って、たいそう歩きやすかった。
道端の花は高山帯のものが席巻するようになってきた。地味ながらもコゴメグサの群落が見事だった。他には、コマクサやミヤマダイコンソウやタカネナデシコやらが良かった。

9:33 船越の頭(2575m)

道
雲上のトレイル:右上が船越の頭(09:26)
小蓮華
船越の頭から小蓮華山を望む(09:36)
晴れたりガスったりの中を2612mの三角点を目指して登る。するとその手前にたくさんの人が休憩していた。船越の頭という名前が付いているらしい。1時間近く歩いたのでここでザックをおろした。
休憩していると、また雲が湧いてきた。そしてそのとき突然、見覚えのある景色が目の前にあることに気付いた。それはNHKドラマ『坂の上の雲』のエンディング映像の、あの印象的な道の稜線だった。実は小蓮華山がそのロケ地だということは前々から知っていて、今回同じ道を歩けるのを楽しみにしていたのだが、それはこの船越の頭からの眺めだったのだ。雲の具合がTVで見た雰囲気になったのだ。TV映像さながらの霧がちな道を気分よく進む。

10:49 小蓮華山(2725m)

白馬岳
ハクサンイチゲ群落と白馬岳(10:25)
道
なだらかな岩くずの道を行く(10:33)
道はしだいに岩くずになり、二重山稜っぽい地形になって、その凹地にコバイケイソウが群落をなしていた。さらに進むと突然雲がとれ、三山が勢揃いした。花畑と雲海に浮かぶ北アルプスというまさに夏山な眺めなのである。
なだらかな岩くずの道を進むとライチョウが現れた。ライチョウは親子で、ヒナが4羽いた。親は凛として警戒していた。ライチョウが去ると、今度は周りが凄い花畑だということに気づいた。アオノツガザクラや、イブキジャコウソウや、そんなのがあちこちに咲いていた。凹地には先ほどと同じくコバイケイソウ。そしてその奥、びっくりするほど近くに小蓮華の山頂が見えた。5分ほどで小蓮華登頂。
小蓮華山は2007年の中越沖地震で山頂が崩れたとのことで、周囲は岩くずだらけだった。東側は崩壊の危険があって立入が禁止されている。山頂からは白馬三山がよく見えていたが、間もなく雲に隠れてしまった。

11:41 三国境(2685m)

三国境
三国境:奥の稜線はなかなかキツそうだ(11:41)
道
急斜面なのに摺り足で歩けそうな道(ちょっと大げさ)(11:58)
小蓮華からも白い岩くずの道が続くが、突然茶色くなったり黒くなったり。いろんな地質が複雑に絡んでいるようだ。
いったん下りきった鞍部が分岐かと思いきや、また登り返した坂の途中が三国境の分岐だった。小蓮華山からちょうど40分かかった。あたりは二重山稜の只中だった。
行く手の稜線がなかなか手強そうな斜度に見える。山頂までの間にあともうひとつそういった坂道があり、それは地図からもはっきりと読み取れる。
しばしの休憩のあと、歩き始める。手強そうに見えた坂に差し掛かると、そこは奇跡的なまでに歩きやすかった。あれほどの斜度なのに段差がなく、摺り足で歩けそうなほどだった。

12:46 白馬岳登頂(2885m)

山頂
山頂でライチョウを囲む人々(12:46)
ライチョウ
山頂にライチョウ現る(12:47)
14年ぶりの白馬岳山頂は、ガスに包まれていた。今日は土曜日でテント場の混雑が予想されたので、ガスっていたら頂上は通過して先を急ごうと思っていた。しかし、そんな我々を引き止めるかのように、すぐ近くにライチョウが出現した。ライチョウは親子連れで、10人ほどのギャラリーに取り囲まれていたが、まったく意に介さず、自由に砂浴びしたり、草をついばんだりしていた。しまいにはヒナがこっちに向かって走ってきた。ひょいっと捕まえられそうなほどの距離だ。ヒナは何度か人間に対して突進を試みた。どうやら我々ギャラリーの背後の、登山道を挟んだ反対側のハイマツ帯に移動したいような気配だった。ひとりのギャラリーが場所を空けると、その隙間を親子で突破して、予想どおり後ろのハイマツの茂みに入っていった。

13:20頃 白馬岳発

山頂ライチョウ祭りの間も上空に晴れ間はあったものの、周囲はまったく見渡せなかった。そのため、記念写真だけ撮ってテントサイト確保に急ぐことにした。焦って出たので出発時間を記録しそこなった。
早く着いたら白馬山荘でケーキセットを食べる、とかいう話もあったが、ここは先を急ぐ。もうひとり、幕営っぽい装備の人とデッドヒートになった。道端にはウルップソウが多かった。ほとんどは花が終わっていたが、登山道から遠いところにはまだ活きのいいのがあるようだった。

13:40頃 頂上宿舎テント場

テント場
頂上宿舎テント場:奥からは白馬山頂も見える(13:48)
テント場は、入口近くはすでにぎっしり。遠い記憶では奥の方は比較的空いているはずで、まあ奥まで行けば楽勝だろうと思っていた。・・・しかし、それは甘かった。この日は1年でも最も混み合う日。かなり奥までテントが張られていた。
それでも我々はなんとか平らなサイトを確保できた。それにしても、この時刻でこの混雑は・・・
この日の最大高度は2885m、最低高度は1845m、積算上昇は1145m、積算下降は400mだった。

山頂直下の午後

花
テント受付所近くの花(15:25)
テントを張り終えて、水汲みがてら小屋に行ってみることにした。レストランに入り、相棒がケーキセット、かつりんはアップルジュースを注文した。レストランからは本来は眺めがいいのだが、やはりまだ雲がとれず、杓子岳の端っこがようやく見える程度だった。店内のテレビがNHKに合わせてあって、そのデータ放送の天気予報は翌日の超晴れを予告していた。
テント場の受付所脇にポリタンクの飲用水が用意されているが、小屋前を少し降りたところの残雪が水源になっているので、レストランの帰りにそちらで汲んだ。しかし後で気づいたのだが、残雪の端っこの方でビールやら何やらを冷やしてあるのが見えた。そこまで入り込んだ輩がいるのだ。水源をなんと心得ているのだろうか。
少し道を登って花の写真を撮ったりしてからテントに戻った。17時半頃、テントで夕食の準備をしていると、稜線の上で人々がやたらと手を振っているのが見えた。どうやらブロッケンが出ているようだ。食後にケイタイで tenki.jp を見ようと思ったが、テント場では Foma は通じなかった。夜、外では人々が口々に星がきれいだ、と言う声が聞こえた。まあこの分じゃ、どうせ明日も晴れだろう。明日は朝日小屋までのロングコースで、4時半出発を目指して2時に目覚ましをセットした。
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