剱岳・立山縦走 (3/3)

8月30日 晴れのち曇り

テント場
夜明け前の剱沢キャンプ場(05:08)
剱岳
早朝の剱岳(06:07)
寝坊して3時半頃に目が覚めた。相棒はすでに起きていて支度を始めていた。テント内の気温は16.2℃。前日よりかなり暖かく感じた。ラッキーなことに、テント内はまったく結露していなかった。
カレーうどんの朝食をとり、テントの撤収をしているとちょうど夜が明けてきた。手を休めて朝焼けの剱岳を堪能した。

6:10 キャンプ場発(高度計:2580m)

テント場
振り返ってテント場を見下ろす(06:14)
最短コースで室堂に行けばその日のうちに帰宅できないでもなかったが、せっかくここまで来たのだから立山に行かないテはない。それに、魔の山・剱岳に登っておいて、立山に挨拶に行かないというのでは義理に欠けるというものだ。

6:29 分岐(2690m)

20分ほどで分岐に到着。右が剱御前小舎、左が別山への直登の道だ。ここは直登の道をとる。
この道はうんざりするくらいのザレザレの道だった。下りには使いたくないなあ。唯一の救いは朝早くてまだ日陰だということだった。
稜線で左に進路を変えてさらに登る。稜線は直射日光を浴びてまぶしいが、まだ早いので暑いというほどではない。

7:14 別山(2910m)

かなり歩いてからようやく別山山頂の祠が見えた。かなり遠く感じた。
まだ朝早く誰もいない山頂からはぐるり大パノラマ。この日も素晴らしい快晴で、前日に剱の山頂から見えた山は、立山に隠れた北アの山々以外はすべて見えた。富山の街と能登半島もよく見えた。前日見えなかった妙高などの頸城の山も見えたので、これは前日以上の超快晴だ。

7:24 別山北峰(2915m)

道
のびやかな北峰への道(07:21)
祠の陰にザックを置いて、剱の展望が絶品という北峰に向かう。10分ほどのなだらかな散歩道だ。
北峰の方が本峰よりもわずかに標高が高い。別山本峰は山頂がなだらかなので、遠景を撮ろうとすると手前の地面が入ってしまうが、北峰は幾分か切り立っているので、あまり邪魔にならなくて済む。テント場も覗きこめた。しかし逆に、黒部五郎や薬師が本峰に隠れてしまって見えなかった。
確かに、北峰からの剱岳は素晴らしい。テント場から見ると前剱が大きく自己主張していてゴツゴツと武骨な印象だが、ここではその前剱が控えめなので、すっきり整っていてスタイリッシュだ。

別山に戻る

立山
別山からの立山(07:57)
富士山
別山からの富士山と南ア(07:57)
ひとしきり景色を味わってから本峰へ帰った。望遠レンズで剱岳を見ると、山頂やカニのたてばいに人が群がっているのが見えた。昨日の今時分はたてばいを通過して山頂直下にいた頃だろうと、早くも懐かしさがこみあげてきた。

8:10 別山発(2910m)

道
別山からなかなかの悪路を下る(08:15)
行動食を少し口に入れてから出発。立山までは稜線漫歩だと勝手に思っていたが、いざ目の前にしてみるとかなり下ってちょっぴりショック。しかもこの下りがガレていてなかなか手強かった。10分ほどで巻道を合わせ、平らになったあたりは歩きやすかった。この最低鞍部で登り対策。暑くなってきたのでTシャツ1枚になり、貴重な水でタオルを湿して濡れタオルにした。

9:06 真砂岳(2875m)

道
富士ノ折立への険しそうな登り(09:12)
真砂岳は巻道もあるが、ここは完全縦走を目指してピークを踏んだ。なだらかな稜線に小さな標識があるだけで特段目立つところもない山中の道という感じだし、鞍部で休んでまだ間もないので通過した。剱岳は別山の上から先っちょだけをちょこんと見せていた。
有名な化石氷体はさすがに分からなかった。残雪の下なのに違いない。雷鳥平へ向かう大走りの分岐を分けて、富士ノ折立への登りの直前で休憩をとり、なかなか険しそうな登りに挑む。
ここもガレたキツい道だ。好調の相棒を先行させて、かつりんは室堂平の景色を眺めながら亀足で行く。上の方の稜線に標識が見えてきて、いよいよかと思ったところで上から下りて来た人に富士ノ折立はこっちですか、と尋ねられた。え、この上じゃないの。双方の話を総合すると、どうやら山頂へは縦走路からピストンする必要があるらしい。標識まで行ってから往復するのだろうと思ったが、この人の言うには標識からの道はないという。いかにも道がついていそうな雰囲気だったが、その後ろの人たちもみんな下りてくるし、ここは仕方なく言われたことを信じてみる。
登山道脇の適当なところにザックをデポして、あちこちにある踏み跡のひとつを適当に選んで、岩をよじのぼった。

10:06 富士ノ折立(3020m)

剱岳
富士ノ折立からの剱岳(10:08)
槍
富士ノ折立からの槍ヶ岳(10:09)
背中が軽くなって楽に頂上に着くと、先行していた相棒はザックを背負ったまま登りきっていた。
ここもまた眺めが素晴らしく、今までの山からは見えなかった黒部湖が見えた。反対側は室堂平が広がり、大日岳の奥に富山の街や富山湾が見えた。剱岳も相変わらずよく見えたが、手前に別山が入るため、より距離感が増して見えた。この富士ノ折立は剱岳と同じ標高2999m。岩がちな山頂は狭く、ちょっと休んでからすぐに下って大汝に向かう。

10:21 ライチョウに遭遇

下り始めると人だかりがあった。何かと思ったらライチョウだった。このライチョウが人間をまったく恐れないヤツで、人が集まろうがお構いなしに草をついばんだりしていた。ライチョウを見るのは初めてではないが、こんなに近くでじっくりと見たのは初めてだった。人間どもの視線を一身に集め、ツンとすました顔で闊歩する姿はまるでファッションモデルのようだった。
結局、富士ノ折立から稜線の標識へも踏み跡があって、重荷の相棒はそっちの道をとった。

10:44 大汝山(3020m)

巨岩地帯を行く(中央奥が大汝山頂)(10:38)
大汝山までは巨岩の道を行く。富士ノ折立からは20分弱だ。
大汝山には休憩所があり、山頂はその目の前から片道2分程度ピストンすることになる。山頂は暑いだろうと休憩所に入ろうと思ったら、休憩料100円とあったので、ケチって建物の陰に入って休んだ。
パンなどを食べてから少しして山頂へ向かった。この山行の最高地点だ。大汝の山頂は富士ノ折立よりは少し広く、なかなかの賑わいだった。雄山まで登った人がここまで足を伸ばしてくるようだ。眺めは富士ノ折立とだいたい同じ感じ。すぐ近くだから当たり前だが。

11:20 大汝山発(3025m)

雄山
雄山を目指す:雲が多くなってきた(11:23)
続いて雄山へ向かう。ここから先は14年前にも歩いた道だ。歩き出すと突然雲が湧いてきた。少し下って少し登る。

11:39 雄山着(3020m)

雄山神社
雲の中の雄山神社:この右下を回れば社務所前に躍り出る(11:35)
雄山神社
黒部側は晴れていた(11:46)
ひときわ高い雄山神社の下を回りこむと社務所の前に着いた。雲が取れて暑かった。しかし遠くは雲で眺望はあまりなく、室堂や唐松岳でさえ雲で見え隠れする状態。そんな中で槍だけはくっきりとよく見えた。社務所の陰は休んでいる人でいっぱいだった。
山頂神社にお参り。登拝料はひとり500円。神社に参拝なんて、何年ぶりだろう。脱帽すると暑い暑い。宮司の祝詞を聞いていると、まだまだ下りがあるにもかかわらずゴールに到着した気がしてきた。

12:19 雄山発(3020m)

道
善男善女が一ノ越に向かって下る(12:26)
観光客にまみれて下山開始。岩に慣れていない人が多くて思うように歩けない。しかも剱岳の下りに匹敵するようなガレ・ザレの道だ。じりじり灼かれる神経戦の様相。

13:01 一ノ越(2745m)

一ノ越には40分ほどで着いた。小屋の日陰にザックを下ろして水をがぶ飲みした。
本日は雷鳥沢でテント泊の予定だったが、この下りですっかり意気阻喪。暑さで疲労がピークに達し、さらに雄山山頂でゴールした気分になってしまいモチベーションも右肩下がり。テントを張るにしても、晴れていればまだしも雲で山は見えないし、予報では今夜は雨なのだ。今朝、乾いたテントを撤収したのに濡らしてしまってはもったいない。翌朝も、あの滑りやすく歩きにくい石畳の道を1時間もかけて室堂へ上がらないといけないし。と理由をいくつも並べて自らを説得し、ダメ元で室堂のホテル立山に電話してみると、なんと空きがあるという。というわけで、日和ってしまったのだった。山小屋3泊分の料金だが、この3泊をすべて山小屋泊まりだったと思えばいいのだ。

13:33 一ノ越発(2745m)

花畑
晩夏の花々が咲く道(13:52)
一ノ越からは室堂周辺と同じく石畳の道で、スピードがまったく出ない。しかし今日はもうあと1時間の行程で、ゆっくり下りればいいので気が楽だ。道の周りはミヤマアキノキリンソウとかウサギギクなど、夏の終わりの花が多かった。またハクサンボウフウらしきセリ科の花が見事な群落を作っていた。
ここでふと、大雪山を下山するときと同じような気分になっている自分に気づいた。雄山は旭岳で、室堂は姿見だ。観光客にまみれて下山し、石畳の歩きにくい道を行き、下りきったところは花がきれいで人がいっぱいなのだ。温泉もあるし、山が映る池があるところなんかも同じだ。大雪山姿見は自分にとっては完全にスタート・ゴール地点だ。旭岳温泉にもキャンプ場はあるが、自分はあそこで幕営する気にはとうていなれず、下山したらどこか宿をとってゆっくりしたい。今の状況とそっくりだった。

14:26 室堂着(2505m)

花畑
現存最古の山小屋・立山室堂の近くにはミヤマアキノキリンソウが一面に咲いていた(14:15)
ホテルのチェックインは15時からというので、自然保護センターに寄ることにした。まずはライチョウ目撃情報を申告して、記念シールをゲット。係員の話では、ここのところは暑い日が続いたので、ライチョウの目撃場所も室堂周辺ではなく、山の上の方が多いということだった。2階のライチョウクイズなどで時間をつぶしたら(なかなかタメになった)、15時になったので宿に向かった。

立山ホテル

立山
なんとこれがホテルの部屋からの眺め(16:50)
チェックインを済ませてすぐに風呂に入り、パッキングを市街地仕様に直したあと、売店で地ビールを買って飲んで一眠り。目が覚めると、外は快晴になっていた。部屋の窓からも立山の大パノラマが楽しめる。ロケーションは抜群だ。
夕食はチェックイン時に和食か洋食を選ぶのだが、とりあえず洋食にした。コース料理だったが、前菜の量からして足りなさそうな予感がしたので、富山名産の白えびの掻揚げを追加で注文してしまった(山の中なのに・・・)。ワインは、山奥なのに驚くほど充実したリストでたいそう迷ったが、結局地元の立山ワインの赤を注文した。ぶどうが富山県産というのが第一の理由だ。ベリーAの軽いワインだが、そのせいか赤なのに白えびにもよく合った。メインのステーキは予想外に量が多くて、おかげで満腹になった。
食事の最中には雷雨があった。雨音からするとかなりの土砂降りのようだったし、結構近くに落ちたような音もしたので、テントだったら生きた心地がしなかっただろう。ホテル泊まりにして結果オーライだった。
この日の最大高度は3,040m、最低高度2,500m、積算上昇700m、積算下降780m。積算高度は上昇・下降ともに前日の剱岳登頂日よりも若干大きかった。そりゃあ道理で疲れたわけだ。

8月31日 晴れ

剱
最終日も剱岳が見えた(06:27)
黒四ダム
黒部湖全景(09:02)
6時には支度をととのえ、ほとんど人のいない早朝の室堂を散策し、剱岳との別れを惜しんだ。帰宅後のコーヒーを愉しむために玉殿の水をくんだあと、7時からの朝食バイキングを10分フライングして7:20には食べ終え、チェックアウトを済ませて7:45発の始発便で室堂を後にした。
平日早朝のトロリーバスの乗客はわずか8人で、しかもそのうち2人はどこかの施設の職員のようだった。大観峰の駅では来年の剱岳カレンダーを土産に買い、誰もいない屋上展望台から黒部湖の眺めを満喫した。ロープウェイ・ケーブルはともに順調に乗り継いだ。ロープウェイなんかはイスが空いている状態で、快適そのものだった。黒部ダムを山の格好で歩いていると、すれ違う人の何人かに「あの山は何という山ですか」と聞かれた。そう聞いてくる人たちが気にしているのはみんな赤牛岳だった。黒部ダムからは赤牛岳がちょうどよい位置に見えるのだ。次のトロリーバスは、乗り継ぎの信濃大町行きバスに合わせて1本見送り展望台などを観光した。
信濃大町からの大糸線は少し混んでいたがなんとか座れ、松本で乗り継いだ12:10発のあずさはがらがらだった。車中では駅弁とビールで山旅を締めくくった。
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