8月10日 晴れ一時曇り
隣の親子連れテントの子どもの高らかな話し声で目が覚めたのは3:30だった。そのさらに隣のダンロップV8テントの高校山岳部らしき集団が異様に静かだったのと対照的だった。その前の晩が暑く感じられたので昨夜はテントの入り口をメッシュだけにして寝たため、朝は冷えて温度計は17.2℃まで下がっていた。やはり風がなく、フライの内側は盛大に結露していた。
5:55 キャンプ場発(245m, 20.7℃)
今日はポン山に登って利尻の絶景を眺めてから姫沼まで下る。幕営地に温泉隣のオートキャンプ場でなく北麓キャンプ場を選んだのは、このためなのだ。甘露泉までは利尻登山と同じルートを行く。甘露泉のちょっと先から道が分岐していきなり登りとなる。道はよく踏まれている感じで歩きやすかった。
笹の刈り払いになると姫沼方面とポン山登山の分岐となる。ポン山へはこの分岐から往復なので、ザックは分岐の近くの日陰にデポして水筒とカメラだけを持って進む。
6:40 ポン山
ポン山からの眺めはほぼ予想どおり、ほぼ最高だった。「ほぼ」であって100点でないのは、礼文島が前日同様、雲で見えなかったためだ。利尻山本体の姿はもちろんだが、ここのよいところは裾野の原生林の雄大な広がりだと思う。
7:07 下山開始(460m, 26.6℃)
10分くらいですぐに下りるつもりだったが、なんだかんだで30分近くもいてしまった。その間、やってきた人は一人だけだった。ふたたびザックを背負い、姫沼に向かう。まずはほぼ平坦な道がしばらく続いた。しかしこの道は両脇の草が覆い被さってきて朝露で下半身がびしょ濡れになる。その平坦な道に続いては、細かいアップダウンが連続する悪路が登場。滑りやすい坂道の登り下りで神経が摩耗した。涸れた沢を3回ほど渡るが、最後のは石が滑りやすく、昨日と違って幕営装備を担いでいる我々にはなかなか辛かった。
分岐から30分で、ベンチに到着。ザックを背負ったまま腰を下ろして小休憩した。小さな広場の一角には木目調の携帯トイレブースが設置されていた。
8:06 中間点(370m, 27.7℃)
休憩地点から10分ほどで、道が完璧に90度に曲がる。エアリアマップのチェックポイントだ。ここから道は、今までのあれは一体なんだったんだ、というくらい唐突に、歩きやすく、そして真っすぐになった。そんな道をゆる~く下っていく。
8:36 姫沼(165m, 26.1℃)
順調に下って、観光客の歓声が聞こえるようになると、ようやく姫沼に到着だ。ショッキングなことに利尻山は雲の中で、楽しみにしていた姫沼越しの利尻富士の図が見られなかった。そういえばポン山から見たとき、左手、つまりこの姫沼の方面から雲が差し掛かっていたのを思い出した。休憩舎の素晴らしい写真を見物してから姫沼口のバス停に向かってふたたび歩き出した。ここから先は舗装路となる。
9:06 姫沼口(45m, 26.6℃)
下りきった突き当たりがバス停。時刻表を見てみると、鴛泊行きは9:44で、あと30分くらいある。いっぽう鴛泊の港はここからも見えて近そうだ。地図で大雑把に計測してみたところ、2kmちょっとくらいで、歩いても30分もあれば着くだろう。同じ30分なら、何もないここでただバスを待つよりは、歩いた方がきっと楽しいだろう。周辺にわんさか咲いている可愛らしいリシリヒナゲシを激写し、海辺に出て靴を海につけて海抜0mへの下りを達成してから歩き出した。
鴛泊には予想どおり30分ほどで着いたが、最後の最後でバスにぶち抜かれてしまったのは残念。しかし道中に『長寿の泉』なる湧水があり、水を補給できたのは成果といえる。これまた甘露泉同様、クセのない飲みやすい水だ。
礼文島へ
船で礼文島の香深へと渡る。鴛泊からは45分で着いた。その間、利尻は終始雲の中だった。礼文島での予定は未定だったので、船中で作戦会議をした。キャンプ場は2ヶ所あるが、いずれも港からかなり離れていてバスに乗る必要があるのと、どうやらオートキャンプ場らしいのがひっかかる。そこまでテント泊にこだわっているわけではないので、礼文では宿をとることにした。そして宿は香深港の近くにとることにして、この日の午後は島内を歩くことにした。
香深港には宿泊案内があって宿を斡旋してくれる。3軒ほど紹介されたが、選びようがない。そのうち港から一番遠い『さざ波』を選んだ。あんまり港に近いと混んでいたりするのが心配だったからだ。1泊2食で申し込んだところ、この夜は『海峡まつり』なる催しがあるらしく、屋台がたくさん出て、宿泊客はみな夕食はとらずにこの祭りで済ませるという話。海鮮焼きの屋台なんかも出るとか。そういうのもまた楽しいかなと思い、1泊朝食のみで予約をした。
早速宿に行って荷物を預かってもらうことにした。食堂兼業の民宿だったので(それとも民宿兼業の食堂なのだろうか)、ついでに昼食もとった。ここでも生うに丼だ。うーん、甘い・旨い。丼は大・中・小が選べたので、かつりんは中、相棒は小を注文。ほどよく満腹になった。
カメラとペットボトルカバーと地図だけを持ってまた港に戻る。眺めがないのでレブンウスユキソウ群落地にでも行こうと思っていたが、店の外に出たら意外にも利尻が海上に浮かんでいた。そこで方針転換して知床から桃岩の遊歩道を歩くことにした。
12:51 知床発(65m, 29.0℃)
知床行きバスは港から出ている。ターミナル前の売店でお茶とポカリのペットボトルを買ってからバスに乗った。水はこの1Lと、利尻島でくんだ長命の泉の残りだけだが、コースタイムも2時間弱なので充分だろう。車内からは海の向こうの利尻ががずうっと見えていた。終点の知床で降りたのは数人。中には前日に利尻の山頂で見かけた人もいた。まずは民家の間を抜けて車の轍の残るダート道を行く。振り返るとどこからでも利尻が見えた。しかしなにしろ暑い。草原のため日陰がほとんどないうえに、極地に近いせいか日差しがとても強いのだ(ちょっと大げさかな)。しかしごくたまに現れる木陰に入ると風がひやっと冷たくて気持ちよい。高緯度地方の島の海のそばということで気温じたいは低いのだろうが、それでも強い光線のせいで体感的には猛暑日のようにも思える。しかし関東の都市のようなもわっとした空気ではなく、やはり3,000mの稜線のような、爽やかで強い暑さに近い。それだけ気候が厳しい、ということが言えるかもしれない。
13:25 元地灯台(260m, 29.3℃)
ダート道はゲートの先から遊歩道らしくなり、ほどなく元地灯台に到着。灯台前にはなにやら看板があったがここはスルーしてなおも山を登る。笹の草原が続いていたがこのあたりを過ぎてから花が増えてきた。ツリガネニンジンやシシウドが目立ち、秋になりつつあることを感じた。ゲートのちょっと前から木立すらない完璧な草原になり日よけがない。なにしろ暑いので、適度に水分をとりながらゆーっくりと歩く。暑くても、景色がいいうえに人がほとんどいなくて静かなのでたいへん気分がよい。
13:42 桃岩遊歩道(280m, 28.5℃)
ユニークな形の桃岩が見えてくると、足元にはレブンウスユキソウがちらほらと咲くようになった。右手には、草原の向こうの青い海に利尻が浮かんでいるという、ジャポニスム的な構図の景色が続く。一度は見たいと憧れていた景色だったが、手前の花畑が寂しいのはちょっと残念。観光パンフレットやTV番組なんかだと、手前の斜面をエゾカンゾウとかエゾノハクサンイチゲなんかが覆い尽くしているのだが。14:38 桃岩展望台(285m, 28.8℃)
桃岩展望台のベンチで足を休めてから香深へ戻る。山の斜面をトラバースするように歩道が付いているのだが、これがなかなか歩きにくい道で、しかも暑かった。15:19 香深着(70m, 31.4℃)
香深に着くと、あたりは海峡まつりの準備中だった。宿に戻る道すがら屋台を眺めると、「フランクフルト」「豚串3本」などの文字が並び、中央部にはカラオケ会場が。なんかイヤな予感。ターミナルで聞いたときの印象では、ウニとか貝などの海産物が並べられた物産市みたいなのを想像してたんだけど・・・礼文島の夜
16時になって祭りがスタートすると、あたりにはカラオケの歌声が鳴り響いた。予感が的中してしまった。風呂に入ってから外に出て、夕食のためにいちおう祭りに行ってみる。しかし、道路の中央に100mほどに渡って並べられたテーブルは、礼文島の人々で埋め尽くされていた。もちろんみんな顔見知り同士。とてもじゃないけど、割って入れる雰囲気じゃない。そう、「海峡まつり」は、島民の、島民による、島民のための、ごくごく普通の納涼夏祭りだったのだ。しかしなんとかして夕飯を食べないと。漁協の建物にスーパーと食堂があったはずなので行ってみると、なんと海峡まつりのために閉まっていた。ピンチだ。今度は港まで行ったが、ターミナルは閉まって静まり返っていた。ターミナル近くの旅館では、宿泊客が楽しそうに食事をしている姿が食堂の窓から見えた。うう、こんなところでひもじい思いをするとは・・・ まさかの自炊も覚悟しはじめたとき、宿の2軒となりの炉辺焼きの『ちどり』に入ることができた。心底ほっとした。
そしてここが起死回生の大当たりだった。焼きウニと、ちゃんちゃん焼きと、ホタテと、ツブ貝と、宗八鰈と、牛タンをとって、〆にまた焼きウニをとった。飲み物は生ビール(サッポロだった)につづいて日本酒をとった(銘柄失念)。牛タンはあまり感心しなかったが、海のものは素晴らしく旨かった。中でも焼きウニが出色だった。焼くと甘みが増すのだ。
満足して店を出て、祭りの通りにあるセイコーマートでアイスクリームを買って宿に帰って食べてから寝た。宿には暖房はあっても冷房はなかったが、もちろんよく眠れた。そういえば「ちどり」にも冷房がなかったが、窓全開でもさすがに炉端はちょっと暑かった。