夏の利尻・礼文 (2/2)

8月10日 晴れ一時曇り

隣の親子連れテントの子どもの高らかな話し声で目が覚めたのは3:30だった。そのさらに隣のダンロップV8テントの高校山岳部らしき集団が異様に静かだったのと対照的だった。
その前の晩が暑く感じられたので昨夜はテントの入り口をメッシュだけにして寝たため、朝は冷えて温度計は17.2℃まで下がっていた。やはり風がなく、フライの内側は盛大に結露していた。

5:55 キャンプ場発(245m, 20.7℃)

道
朝日の差し込む登山道(06:23)
今日はポン山に登って利尻の絶景を眺めてから姫沼まで下る。幕営地に温泉隣のオートキャンプ場でなく北麓キャンプ場を選んだのは、このためなのだ。
甘露泉までは利尻登山と同じルートを行く。甘露泉のちょっと先から道が分岐していきなり登りとなる。道はよく踏まれている感じで歩きやすかった。
笹の刈り払いになると姫沼方面とポン山登山の分岐となる。ポン山へはこの分岐から往復なので、ザックは分岐の近くの日陰にデポして水筒とカメラだけを持って進む。

6:40 ポン山

林
原生林が雄大に広がる(06:58)
ポン山からの眺めはほぼ予想どおり、ほぼ最高だった。「ほぼ」であって100点でないのは、礼文島が前日同様、雲で見えなかったためだ。
利尻山本体の姿はもちろんだが、ここのよいところは裾野の原生林の雄大な広がりだと思う。

7:07 下山開始(460m, 26.6℃)

10分くらいですぐに下りるつもりだったが、なんだかんだで30分近くもいてしまった。その間、やってきた人は一人だけだった。
ふたたびザックを背負い、姫沼に向かう。まずはほぼ平坦な道がしばらく続いた。しかしこの道は両脇の草が覆い被さってきて朝露で下半身がびしょ濡れになる。その平坦な道に続いては、細かいアップダウンが連続する悪路が登場。滑りやすい坂道の登り下りで神経が摩耗した。涸れた沢を3回ほど渡るが、最後のは石が滑りやすく、昨日と違って幕営装備を担いでいる我々にはなかなか辛かった。
分岐から30分で、ベンチに到着。ザックを背負ったまま腰を下ろして小休憩した。小さな広場の一角には木目調の携帯トイレブースが設置されていた。

8:06 中間点(370m, 27.7℃)

木
木にはキツツキが突ついた跡が残っている(08:00)
休憩地点から10分ほどで、道が完璧に90度に曲がる。エアリアマップのチェックポイントだ。ここから道は、今までのあれは一体なんだったんだ、というくらい唐突に、歩きやすく、そして真っすぐになった。
そんな道をゆる~く下っていく。

8:36 姫沼(165m, 26.1℃)

道
道路脇にクマゲラが!!(08:57)
順調に下って、観光客の歓声が聞こえるようになると、ようやく姫沼に到着だ。ショッキングなことに利尻山は雲の中で、楽しみにしていた姫沼越しの利尻富士の図が見られなかった。そういえばポン山から見たとき、左手、つまりこの姫沼の方面から雲が差し掛かっていたのを思い出した。
休憩舎の素晴らしい写真を見物してから姫沼口のバス停に向かってふたたび歩き出した。ここから先は舗装路となる。

9:06 姫沼口(45m, 26.6℃)

花
海岸に植えられているリシリヒナゲシの花(09:12)
海
姫沼口の海を触って海抜0m達成(09:13)
下りきった突き当たりがバス停。時刻表を見てみると、鴛泊行きは9:44で、あと30分くらいある。いっぽう鴛泊の港はここからも見えて近そうだ。地図で大雑把に計測してみたところ、2kmちょっとくらいで、歩いても30分もあれば着くだろう。同じ30分なら、何もないここでただバスを待つよりは、歩いた方がきっと楽しいだろう。
周辺にわんさか咲いている可愛らしいリシリヒナゲシを激写し、海辺に出て靴を海につけて海抜0mへの下りを達成してから歩き出した。
鴛泊には予想どおり30分ほどで着いたが、最後の最後でバスにぶち抜かれてしまったのは残念。しかし道中に『長寿の泉』なる湧水があり、水を補給できたのは成果といえる。これまた甘露泉同様、クセのない飲みやすい水だ。

礼文島へ

船で礼文島の香深へと渡る。鴛泊からは45分で着いた。その間、利尻は終始雲の中だった。
礼文島での予定は未定だったので、船中で作戦会議をした。キャンプ場は2ヶ所あるが、いずれも港からかなり離れていてバスに乗る必要があるのと、どうやらオートキャンプ場らしいのがひっかかる。そこまでテント泊にこだわっているわけではないので、礼文では宿をとることにした。そして宿は香深港の近くにとることにして、この日の午後は島内を歩くことにした。
香深港には宿泊案内があって宿を斡旋してくれる。3軒ほど紹介されたが、選びようがない。そのうち港から一番遠い『さざ波』を選んだ。あんまり港に近いと混んでいたりするのが心配だったからだ。1泊2食で申し込んだところ、この夜は『海峡まつり』なる催しがあるらしく、屋台がたくさん出て、宿泊客はみな夕食はとらずにこの祭りで済ませるという話。海鮮焼きの屋台なんかも出るとか。そういうのもまた楽しいかなと思い、1泊朝食のみで予約をした。
早速宿に行って荷物を預かってもらうことにした。食堂兼業の民宿だったので(それとも民宿兼業の食堂なのだろうか)、ついでに昼食もとった。ここでも生うに丼だ。うーん、甘い・旨い。丼は大・中・小が選べたので、かつりんは中、相棒は小を注文。ほどよく満腹になった。
カメラとペットボトルカバーと地図だけを持ってまた港に戻る。眺めがないのでレブンウスユキソウ群落地にでも行こうと思っていたが、店の外に出たら意外にも利尻が海上に浮かんでいた。そこで方針転換して知床から桃岩の遊歩道を歩くことにした。

12:51 知床発(65m, 29.0℃)

道
利尻をバックに草原を行く(13:21)
知床行きバスは港から出ている。ターミナル前の売店でお茶とポカリのペットボトルを買ってからバスに乗った。水はこの1Lと、利尻島でくんだ長命の泉の残りだけだが、コースタイムも2時間弱なので充分だろう。車内からは海の向こうの利尻ががずうっと見えていた。終点の知床で降りたのは数人。中には前日に利尻の山頂で見かけた人もいた。
まずは民家の間を抜けて車の轍の残るダート道を行く。振り返るとどこからでも利尻が見えた。しかしなにしろ暑い。草原のため日陰がほとんどないうえに、極地に近いせいか日差しがとても強いのだ(ちょっと大げさかな)。しかしごくたまに現れる木陰に入ると風がひやっと冷たくて気持ちよい。高緯度地方の島の海のそばということで気温じたいは低いのだろうが、それでも強い光線のせいで体感的には猛暑日のようにも思える。しかし関東の都市のようなもわっとした空気ではなく、やはり3,000mの稜線のような、爽やかで強い暑さに近い。それだけ気候が厳しい、ということが言えるかもしれない。

13:25 元地灯台(260m, 29.3℃)

草原
花の咲く斜面がそのまま海に落ち込んでいく(13:36)
ダート道はゲートの先から遊歩道らしくなり、ほどなく元地灯台に到着。灯台前にはなにやら看板があったがここはスルーしてなおも山を登る。笹の草原が続いていたがこのあたりを過ぎてから花が増えてきた。ツリガネニンジンやシシウドが目立ち、秋になりつつあることを感じた。
ゲートのちょっと前から木立すらない完璧な草原になり日よけがない。なにしろ暑いので、適度に水分をとりながらゆーっくりと歩く。暑くても、景色がいいうえに人がほとんどいなくて静かなのでたいへん気分がよい。

13:42 桃岩遊歩道(280m, 28.5℃)

道
海の上の草原の道(13:51)
利尻
花咲く草原の向こうの利尻(14:23)
ユニークな形の桃岩が見えてくると、足元にはレブンウスユキソウがちらほらと咲くようになった。右手には、草原の向こうの青い海に利尻が浮かんでいるという、ジャポニスム的な構図の景色が続く。一度は見たいと憧れていた景色だったが、手前の花畑が寂しいのはちょっと残念。観光パンフレットやTV番組なんかだと、手前の斜面をエゾカンゾウとかエゾノハクサンイチゲなんかが覆い尽くしているのだが。

14:38 桃岩展望台(285m, 28.8℃)

利尻
トラノオと船と利尻(14:32)
桃岩
桃岩(14:43)
桃岩展望台のベンチで足を休めてから香深へ戻る。山の斜面をトラバースするように歩道が付いているのだが、これがなかなか歩きにくい道で、しかも暑かった。

15:19 香深着(70m, 31.4℃)

香深に着くと、あたりは海峡まつりの準備中だった。宿に戻る道すがら屋台を眺めると、「フランクフルト」「豚串3本」などの文字が並び、中央部にはカラオケ会場が。なんかイヤな予感。ターミナルで聞いたときの印象では、ウニとか貝などの海産物が並べられた物産市みたいなのを想像してたんだけど・・・

礼文島の夜

16時になって祭りがスタートすると、あたりにはカラオケの歌声が鳴り響いた。予感が的中してしまった。風呂に入ってから外に出て、夕食のためにいちおう祭りに行ってみる。しかし、道路の中央に100mほどに渡って並べられたテーブルは、礼文島の人々で埋め尽くされていた。もちろんみんな顔見知り同士。とてもじゃないけど、割って入れる雰囲気じゃない。そう、「海峡まつり」は、島民の、島民による、島民のための、ごくごく普通の納涼夏祭りだったのだ。
しかしなんとかして夕飯を食べないと。漁協の建物にスーパーと食堂があったはずなので行ってみると、なんと海峡まつりのために閉まっていた。ピンチだ。今度は港まで行ったが、ターミナルは閉まって静まり返っていた。ターミナル近くの旅館では、宿泊客が楽しそうに食事をしている姿が食堂の窓から見えた。うう、こんなところでひもじい思いをするとは・・・ まさかの自炊も覚悟しはじめたとき、宿の2軒となりの炉辺焼きの『ちどり』に入ることができた。心底ほっとした。
そしてここが起死回生の大当たりだった。焼きウニと、ちゃんちゃん焼きと、ホタテと、ツブ貝と、宗八鰈と、牛タンをとって、〆にまた焼きウニをとった。飲み物は生ビール(サッポロだった)につづいて日本酒をとった(銘柄失念)。牛タンはあまり感心しなかったが、海のものは素晴らしく旨かった。中でも焼きウニが出色だった。焼くと甘みが増すのだ。
満足して店を出て、祭りの通りにあるセイコーマートでアイスクリームを買って宿に帰って食べてから寝た。宿には暖房はあっても冷房はなかったが、もちろんよく眠れた。そういえば「ちどり」にも冷房がなかったが、窓全開でもさすがに炉端はちょっと暑かった。

8月11日 晴れ

利尻
香深港から朝の利尻(08:10)
今日はレブンウスユキソウを見てから稚内に渡ることにした。8時間コース踏破も選択肢にはあったが、前日の桃岩遊歩道の印象から、時期的に花が少なそうな予感がしたのでやめた。宿の主人によるとウスユキソウならまだまだたっぷり見られるという話だった。
7時過ぎに朝食を食べてから、前日同様荷物を預かってもらい、サブザックに必要なものを詰めて港のバス停に向かう。バスで桃岩まで上がって時間短縮を図ろうという魂胆だ。

レブンウスユキソウ

道
ウスユキソウ群生地が見えてきた(09:23)
レブンウスユキソウ
レブンウスユキソウの群落(09:48)
しかしバスはなんと礼文林道の入り口で止まってくれた。桃岩まで行く覚悟でいたのでこれは大助りだった。バスを降りて歩き始めると、今日もまたジリジリと暑い。道はタカネナデシコがやたらと多い。意外にも眺めのよい道で、利尻がくっきりと見えた。10年前にも来ているのだが、そのときは小雨で景色はゼロだった。
およそ20分で群生地に到着。監視員のおぢさんも暑い暑いと言っていた。ウスユキソウは中央の花が茶色くなっていたりして盛りは過ぎていたが、まだまだたっぷりあって見ごたえ充分だった。ほかにはピンク色のノコギリソウがかなりあった。利尻山で見かけたのとは葉っぱの形がずいぶん違う。山の方がノコギリっぽかった。また、黄色いトウゲブキや、ピンクのタカネナデシコも目立った。
ここには、利尻富士温泉の近くで見かけた2人連れがいた。みんな似たような行動をとっているようだ。
1時間ものんびりと花を眺めてから来た道を戻った。礼文林道入口からは車道を下った。暑い。宿に戻って荷物を回収し、礼を言ってまた港に戻った。

礼文をあとに

利尻
船から終始見えていた利尻島(13:14)
フェリーターミナルではまず、稚内の宿を予約。i-mode で検索して、風呂のよさそうな『ドーミーイン稚内』にした。まだ昼少し前なので、ターミナル2階の『武ちゃん寿司』で昼食をとる。いろいろなメニューがあったが、結局また生うに丼にした。ここのうに丼はご飯が酢飯だ。それがさほどキツくなく、なかなか合う。もうこの後は歩くこともないので、サハリンビールも注文。これがまた生うにによく合った。
稚内行きは13:05発。かなり空いていたが、この船だと飛行機を利用する旅行者には不便だからなのだろう。乗客も往きと違って帰りはもう船旅に慣れて(飽きて)、甲板で景色を眺めたりする人もほとんど見受けられず、そこはかとなく寂寥感が漂っていた。我々も居眠りしたりしてまったりとした2時間を過ごした。

稚内

線路
日本最北端の線路(18:05)
防波堤ドーム
夜の北防波堤ドーム(20:51)
港からはすぐに宿に向かった。まったく知らなかったのだが、『ドーミーイン』はホテルチェーンだった。料金が前金制のところからして、ビジネスホテルという位置づけのようだ。風呂は10階の屋上にあり、とても気持ちよかった。
のんびりしてから17時過ぎに夕食にでかけた。さんざんうろうろして、宿にほど近い『北の味心 竹ちゃん』という料理屋に入った。この店に決めたのは食べたかった宗谷黒牛がメニューにあったから。地物の刺身盛り合わせ、厚岸産生牡蠣、焼きタラバ、じゃがいもサラダ、八角の唐揚げ、利尻産ホッケ、宗谷黒牛の網焼きなどなど、たらふく食って大満足。宗谷黒牛はサシの加減がなかなかよく、旨い肉だった。カキは岩ガキだろうと思ったら、普通のカキが出てきた。時季が時季なのでちょっと緊張したが、ぷりぷりして濃厚だった。酒は釧路の「福司」と、旭川男山の稚内限定「北海航路」を飲んだ。いずれも辛口だったが、福司の方がコクがあって自分好みだった。相棒はふらのワインを飲んだ。最後はにぎり寿司バフンウニの握りで〆た。
いい気分で店を出たあとは夜の北防波堤ドームを見物してから宿に帰った。ドーム下はライダーやチャリダーのテント場と化していた。

8月12日 曇り

ノシャップ岬
ノシャップ岬と利尻島(09:14)
交番
宗谷岬近くのN字をかたどった日本最北端の駐在所(10:59)
最終日。羽田行きの便が午後なので、午前中は定期観光バスで稚内・宗谷観光をした。風力発電の風車群がお目当てだったのだが、残念ながら風車は上半分がガスの中に入っていた。
バスガイドは20代前半と思しき女性で、生まれも育ちも宗谷だということで、地元の人ならではの話が聞けたのがよかった。一番興味深かったのは、彼女が修学旅行で東京に行ったとき、雨が上からまっすぐ降ってきたのに驚いた、という話だった。この辺りは気候が厳しくて風が強く、雨は降ったら全方向から来るのが当たり前だから、ということらしい(だから傘はささないのが普通なんだとか)。人が生活している土地だが、気象条件は本州の3,000m級の山の稜線のようなものなのだろう。実際、小雨が一時的にぱらついた宗谷岬はむちゃくちゃ寒くて半袖ではいられなかった。自販機も、真夏だというのにホット飲料があった。
定観バスは空港でも降りられるが、土産物をまだ買っていない。空港の売店はとても小さいので稚内まで戻ることに。途中の副港市場がよさそうだったが、ここだと空港連絡バスが止まらない。結局稚内駅まで乗りつづけた。稚内駅の最北端の線路をぐるりと回って駅裏の『北市場』で買い物をして(じゃがポックルが買えた!!)、その2階の『夢広場』で最後の昼食に最後の生うに丼を食べた。ここも酢飯だった。やっぱり酢飯とウニの相性はよい。
稚内空港でじゃがポックルを追加ゲットして(ここは個数限定してなかった!)、北海道をあとにした。
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