夏の利尻・礼文 2009年8月8日 - 12日 テント定着・旅館利用

計画

合計4泊のうち、まずは利尻で2泊して間の1日で利尻山を往復する。その後、礼文島に渡ってトレッキングというのが大体のプランだ。
利尻ではテント泊となるが、完全な山の中ではないので、食事は現地でなんとかなるだろう。山頂をピストンした2泊目はさすがに自炊しなければならないが、ほかの日は鴛泊やら香深やらで店に入るか弁当でも買うかすれば済む。ただし、朝食は自炊しなければならないだろう。というわけで、1日分の夕食と、4日分の朝食を持っていくことにした。山に行くはずなのに食料計画が適当なのはかなり奇妙な感じ。
奇妙と言えば、利尻・礼文には北海道登山の最大の不安と言えるヒグマとエキノコックスの心配がないというのも違和感ありまくり(礼文島では過去にエキノコックスの痛ましい歴史があるが)。熊におびえずに眠れて、水ががぶ飲みできる。

8月8日 快晴

羽田から空路稚内へ。飛行機は直前まで空席があったが、出発時には満席となった。
羽田空港の空弁を楽しみにしていたが、チェックインした中の売店の品揃えはなんかイマイチだった。先に外で買ってから入ればよかったと後悔。そういえば空港ターミナルが第1・第2に分かれて以降、ANAに乗るのは初めてなことに気づいた。

稚内へ

稚内駅
日本最北の踏切から日本最北の駅をのぞむ(ちなみに駅舎は隠れて見えない)(12:43)
稚内は涼しくて実にさわやかだった。空港からフェリーターミナル行きのバスに乗り、稚内駅で下車。駅近くの「ハセガワ」なるスポーツ用品店でガスカートリッジを買うためだ。店は駅前の車通りの向かいですぐに見つかったが、店内は電気も消えたままで薄暗く、声をかけても無反応。こりゃあピンチだ、と思ったら、実は駅の側は裏口で、反対側に回ればOKだった。無事にガスを入手してほっとする。なお、ガスはイワタニとEPIが置いてあった。
次のフェリー便は15:30発のため2時間半も待つが、とりあえずフェリーターミナルへ。歩いても10分ほどで、途中で日本最北の踏切を渡る。フェリーターミナルは場所が移転して立派な建物に変わっていた。ちょっぴり期待していた臨時便はなかった。
ターミナル2階にイタリアンのレストラン「アズーロ・ターヴォラ」があり、メニューを見ると地の物を使っているのでここで昼食をとることに決定。ふたりともパスタをとることにし、相棒は稚内産つぶ貝のジェノヴェーゼ、かつりんは猿払産ホタテのカルボナーラを注文。濃厚な味わいで、やはり海の物が旨い。
日差しが猛烈に強いので外に出ることはやめてターミナルの待合でじっと船を待つことにした。集まった乗客を観察すると、テント装備の人たちが結構多い。こりゃあテント場が混むんじゃないか、テント張れなかったらどうしようか、などと恐れながら乗船。

利尻島

利尻
利尻山が見えた!!(16:56)
船後尾の甲板席に陣取る。喫煙所があるため臭かったが、灰皿から離れた場所では風で拡散されて我慢できるレベルだった。
稚内を出ると遠くに風力発電の風車が林立しているさまが見えるのが最初の見どころか。その後はノシャップ灯台を過ぎても利尻は見えず、淡々と船は進んだ。1時間もすると山頂部分がしだいに雲の上の方から見えてきて、島に到着する少し前には全体が姿を現した。惚れ惚れするほど美しい。船客もみんな大フィーバーだ。
鴛泊のターミナルは宿の送迎とタクシーの客引きで賑わっていた。それらをくぐり抜け外に出ると、通りの向かいに土産物屋や食堂が並んでいた。夕食をここでとることにし、そのうちの一番左端の「食堂さとう」に入り、うに丼を注文。バフンとムラサキと両方あるけどどっちにする? と聞かれたので、相棒はバフンのみ、かつりんはバフンとムラサキの2色にした。もちろんバフンの方が高級品で甘くてクリーミーだが、ムラサキも捨てがたい。比べてみるとよくわかる。
満足して外に出てみると、最終便が行ってしまったフェリーターミナルは閉まってしまい、あたりは閑散としていた。時刻はすでに18時になんなんとしているが、まだまだ明るい。
そんな中、ターミナルの前にタクシーが1台だけ止まって運転手が車内の掃除をしていた。こっ、これは、タクシーを使えという天の声では。明るいし、海抜0からの登頂を目指して港からきっちりと歩くつもりで来たのだが、満腹になったいま意欲は急減速。・・・というわけで、初日からいきなり日和ってしまった。

利尻北麓野営場

キャンプ場へは10分もかからずに到着。1200円でお釣りがきた。
管理棟はすでに閉まっていた。翌日のための携帯トイレを入手したかったがこれでは無理だ。キャンプ料はたしか無料だったはずだが、いつの間にかひとり300円を徴収するようになっていた。しょうがないので料金は翌日払うことにする。
大混雑を恐れたキャンプ場であったが、それはまったくの杞憂で、テントはこの日は全部で10張りほどだった。夕食も済ませていたので特にすることもなく、翌朝のお茶漬け用の湯だけ沸かして眠りについた。風がそよとも吹かない夜だった。そのためかテントの中は暑く感じ、フライシートの内側は早くも結露を始めた。20時ころのテント内の気温は22.1℃もあった。

8月9日 快晴

3時起床。北海道の夜明けは早く、ほんのりと明るくなってきていた。テント内の気温は21℃もあって、前夜とほとんどかわらなかった。この山行からシュラフを新調してダウンにしたのだが、暑くて中に入れず、掛け布団のように使った。

4:35 キャンプ場発(高度計:260m, 温度計:21.6℃)

お茶漬けの朝食をとり、出発。水筒は空っぽで、水は甘露泉でくむことにする。甘露泉までは木材チップなどで舗装された歩きやすい道が続く。

4:42 甘露泉・3合目(300m, 19.7℃)

甘露泉
甘露泉で水を補給する(04:49)
甘露泉は冷たくてさらりとしたクセのない水がどばどば流れている。水筒を満タンにする。朝食時の残りのお湯を含めて、水は2.75Lとなった。
空は雲が多くてすっきりしない。しかし上空には明るい青が感じられて、これは朝霧で、そのうち晴れるに違いない。とは思ったものの、やはりこのまま晴れないままだったらどうしよう、などと考えながら歩く。

5:14 野鳥の森・4合目(450m, 22.0℃)

林
最初は針葉樹の林を行く(05:23)
林
徐々にカンバと笹の道になる(05:29)
ちょっとした広場になっていて休憩適地。野鳥が多いというが、まったくさえずりは聞こえず。荷も軽いのでここは休憩はとらずにさらっと通過する。
周りの木は徐々にカンバが増えてくる。そして期待どおり、空はきれいに晴れ渡ってきた。

5:44 ゴミは持ち帰ろう・5合目(655m, 23.9℃)

この利尻北麓ルートには1合ごとに看板があり、『野鳥の森』などの地名が書いてあるのだが、この5合目はマナー標語。あまり特徴がない場所のようだ。斜度はまだまだ大したことはなく、キツくはないが、拳大の石がごろごろとしていて歩きにくいのが難点だ。
5合目を過ぎて10分ほどもすると、途中で道の真ん中に大きな岩があって見晴らしがきくところがあるが、まだ第一見晴台ではない。しかし素晴らしい雲海の眺めにちょっと足を止める。

6:03 第一見晴台・6合目(795m, 24.3℃)

道
カンバのトンネル道が続く(06:29)
大きな岩から10分ほど登って、看板の立っているほんとうの見晴台に到着だ。ここはちょっと広めの広場で、名前どおりの好展望台となっている。
先ほどの大岩でもそうだったが、雲海が素晴らしかった。下が海のため、気流を乱すものがないからだろう、整った美しい雲海だった。標高わずか800mで、これほどダイナミックな眺めはそうそう見られないのではないか。日本アルプスなどで見慣れた雲海は、雲の海の向こうに他の山が見えたりするのだが、ここから見渡す先は雲と空ばかりなのが凄い。近くに見えるのはポン山と礼文岳くらいなのだが、両山の標高はそれぞれ444m・490mで、いかに雲海が低いところにあるかがよくわかる。そしておそらく今、ポン山の山頂からは、周囲360度の雲の中に利尻山がどかんと聳えていて、それはそれは素晴らしい景観に違いない。

6:34 七曲・7合目(920m, 23.6℃)

雲海
第二見晴台の眺め(07:04)
長官山
長官山(07:07)
ここは数人が立ったまま休憩する程度のスペースしかない。
七曲を過ぎてもカンバのトンネル道が続き、少しするとハイマツへと変わる。道が空に突き抜けると、第二見晴台に着いた。大きな岩がごろごろしていて休憩によさそうだったが、いずれも先客がいたのでここは突き進む。振り返ると雲海が相変わらず素晴らしかったが、滑らかだった表面は少しずつ綻びはじめてきたようだ。行く手には長官山が聳えていた。

7:17 長官山・8合目(1225m, 22.9℃)

利尻山
いよいよ利尻山頂が登場(07:20)
長官山でようやく山頂が姿を現した。東斜面には残雪が少しあり、融けたあとにはキンバイらしき鮮やかな黄色い花が群落をつくっていた。
ベンチには先客がいたので隅っこの石に座って休憩してから避難小屋へ向かう。ここからは少し下る。

7:45 利尻山避難小屋(1250m, 26.5℃)

道
滑りやすいところにはロープもある(08:10)
避難小屋前は木陰にベンチがあって涼しげだったが、長官山を出たばかりだったのでここは通過した。道はそれまでの石ゴロから土に変わった。V字型にえぐれていてすれ違いに難儀しそうだったが、さすがにまだ早くて対向者はなかった。
避難小屋を過ぎたところにはトリカブトの花がわんさか咲いていた。利尻特産のリシリブシのようだ。登りの途中からずっと白いノコギリソウが咲いていたが、ここらあたりにはピンク色のものもあった。

8:12 ここからが正念場・9合目(1405m, 24.1℃)

9合目
9合目から山頂方面をのぞむ(建物は携帯トイレブース)(08:14)
道
ザレザレの道が続く(ここを過ぎると追い抜き禁止の看板が)(08:36)
9合目には携帯トイレブースがある。広範囲が裸地化していている。『ここからが正念場』の看板が示すとおり、この先がおっそろしく悪路なのは10年前に経験済みだ。
と、覚悟のうえで登ったわけだが、現状はとんでもなかった。この鴛泊コースで崩落が進んでいるのは2箇所で、まずは沓形分岐の直下。「追い抜き・すれ違い禁止」の真新しい看板があって、どういうことだろうと思ったら、えらいことになっていた。登山道のギリギリまで崖の崩壊が進んでいて、あまり崖の際を歩くと崩落して谷底に落ちてしまいそうなのだ。こんなとこは10年前にはなかったような気がするが、果たしてどうだったっけか。
この危険ゾーンが終わったら沓形分岐に着く。

8:42 沓形分岐(1575m, 24.4℃)

沓形分岐
土のうで補強されている沓形分岐(08:43)
道
U字状にえぐれた登り:大人の背丈よりもはるかに深く侵食が進んでいる(08:50)
沓形分岐の周辺は土のうで補強され、「登山道の試験的な補修をしています」という2008年7月設置の環境省の看板があった。今さら「試験的」というのは遅きに失した感が拭えないが、そういえば予算がとれなかったのだとかいう話をテレビかなんかで見たような記憶が。
2番めの崩壊地点は分岐を過ぎてからの場所。ここはイヤらしい。ザレザレで、赤茶けた火山礫がザックザクで、踏み込んでも空回りして力が伝わらない。まったくの蟻地獄状態だ。下りの人のなかには、尻をついて下りてくる人もいるほどだ。
で、通過したと思ったら、U字状に深くえぐれた登り。ここもなかなかよく滑り、やはり傍らにはロープが下がっている。侵食はかなり深く、元の地表からは2mは凹んでいるだろう。横の壁は目の粗い火山礫が露出している。これまた雨や風に弱そうな土壌だ。

9:03 利尻山登頂(1705m, 26.4℃)

海岸線
山頂から沓形稜と海岸線をのぞむ(09:36)
そんなこんなで気の休む暇もなくたどり着いた山頂は狭くて、20人くらいでいっぱいになってしまいそうだった。通行禁止となっている南峰側の端っこに腰を落ち着けて、生温かくなったゼリーを食して足を休めた。山頂には、前日乗ったフェリーで見かけた人がかなりいた。祠の陰以外には日を遮るものもなく、とにかく暑かった。
眺望は素晴らしく、礼文島が雲の下で見えなかった以外はほぼ完璧だった。ローソク岩は輝いていた。島の周囲を囲んでいた雲海は徐々にとれてきて、海岸線もきれいに見えるようになってきた。島がまるごと2,000m級の山になっているところは日本ではこの利尻島と屋久島くらいだが、屋久島の宮ノ浦岳は山頂からは海岸線は見えないらしいから、こんな風景が見られるのは利尻山だけなのではないか。
山頂一体は花も美しく、イブキトラノオやノコギリソウなどが咲き乱れていた。ほかにはタカネナデシコが目立った。

10:48 下山開始(1740m, 33.9℃)

花
広角レンズでローソク岩とイブキトラノオの花畑を一緒に撮ってみた(09:44)
日差しが猛烈に強く暑いが、風は心地よい。そのために2時間近くものんびりとできた。今日は下りてから風呂に入りに行きたいので、15時までにテントに戻っておきたい。下りに4時間かかるとして、すると11時には山頂を後にしなければならない。ということで、下山開始。

11:12 沓形分岐(1605m, 31.4℃)

道
恐怖の蟻地獄を見下ろす(11:01)
道
分岐のすぐ上のザレザレ急斜面(ここはまだマシな方)(11:12)
分岐上部の蟻地獄は当初考えていたよりはラクに通過。そして追い抜き・すれ違い禁止の崩落箇所もさほど恐怖感はなかった。ここで強風に吹かれたらさぞかし恐ろしいことだろうが、今日は微風で助かった。とは言うものの、ビビリの我々は、結局この山頂-沓形分岐間は登りよりも下りのほうが時間がかかったのだった。

11:36 ここからが正念場・9合目(1430m, 28.8℃)

花
避難小屋付近のリシリブシの群落(11:56)
9合目に着いてようやくほっとできた。難所はほとんど終わったと言ってよいだろう。あとは海と花を眺めながらのんびりと下りるだけだ。
しかしそれにしても暑い。稜線で風に吹かれている間はまだよかったが、背丈ほどもある笹の刈り払い道では風もなく、そのうえ頭上は遮るものもない。ギラギラと太陽が照りつけ、暑さの極みだ。極に近いせいか、日差しの強さは半端ない。

12:21 長官山・8合目(1265m, 32.7℃)

鴛泊
長官山付近から鴛泊を見下ろす(12:36)
避難小屋の木陰のベンチが空いてたので少し腰かけて足を休ませる。水を飲んだが、今日のこの暑さを考えると、残量がちょっと気になって、量は少しにしておいた。
歩き出すと少しして、トレランの3人組に抜かれた。長官山では彼らが休んでいたので、彼らの出発を待ってから我々もスタート。少ししてから下を見ると、彼らがはるか彼方を走っているのが見えた。

13:00 七曲・7合目(935m, 29.2℃)

暑い。

13:18 第一見晴台・6合目(810m, 30.3℃)

暑い。

13:37 ごみは持ち帰ろう・5合目(670m, 30.2℃)

とにかく暑い。渇きに弱い相棒が、水が残り少ないことで精神的に参ってきたようで、無口になる。

14:06 野鳥の森・4合目(465m, 28.0℃)

5合目より下は樹林帯に入って体感的にもやや涼しく感じられた。しかし同じような道が延々と続くのが辛い。だが、ここまで来れば甘露泉まではあとちょっとだ。
あとで気づいたことだが、6合目 - 5合目 - 4合目の所要時間は登りとほぼ同じだった。かなり疲れていたということだろう。

14:29 甘露泉・3合目(325m, 27.0℃)

ようやく水にありつけたが、がぶ飲みして腹をこわしては元も子もないので、ここは我慢が肝心だ。我慢といえばトイレも限界に来ていた。夜の飲み水用に水筒2本だけを満たしてキャンプ場に戻る。

キャンプ場に帰着

テント場に帰り着いたのはそれから10分ほど後のこと。登り4時間半に対して、下りは4時間弱かかった。
トイレを済ませ、管理棟に出頭して昨夜と今夜の2泊分のキャンプ受付をし、それからテントに戻った。テントは直射日光を浴びて見るからに暑そうだったが、中に入ってみると、風さえあれば、快適とは言えないまでも、いられなくはない感じ。北の地の風は、吹きさえすればヒンヤリなのだ。

利尻富士温泉

着替えてからタオルを持って利尻富士温泉へ。下りだがゆっくり歩いて40分近くかかった。途中、前日に同じ船に乗っていた人たちが歩いているのを見かけた。この人たちは山頂にもいたが、船で見たときはテント装備だったので、温泉の隣のオートキャンプ場に幕営しているに違いない。
風呂からは利尻の山頂がよく見える(女湯からは見えないらしい)。登ってきた山を眺めながら入る風呂は最高だった。肌がつるつるになるいい湯だった。風呂から上がって冷房の効いた休憩室で北海道限定ビールの『北の職人 長熟』を飲むと幸せな気分になれた。休憩室のテレビでは大泉洋が何やら騒いでいた。北海道だと思った。
夕食を作るのが面倒になったので、温泉施設のレストランで済ませちゃうことにした。まあ、なんというか、よくある公立の施設の、よくあるレストランだ。かつりんはハンバーグカレー、相棒はうどんを食べた。たぶんレトルトの業務用食材なのだろうが、最初からそう思っていたせいか、意外に美味しく食べられた。疲れていたせいかもしれない。
食後にまたしても『北の職人』を飲んでから、汗をかかないようにゆーーっくり歩いて40分ほどかけてテントに帰った。帰り着いたのは19時少し前で、ちょっと暗くなりはじめていた。テントは前日よりもかなり増えて20張りほどになっていた。翌朝のお茶漬け用のお湯を沸かしてから、眠りについた。
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