白峰三山縦走 (2/3)

7月28日 曇りときどき雨

ガス
ガスと強風の中、北岳を目指す登山者たち
3時起床。テント内は15℃と、2900mの稜線にしては暖かい朝だった。ガスに強風。夜中にトイレに行ったときはまだ富士山が見えたが、朝はもうどこにあるのかもわからなかった。せっかく一等地にテントを張れたのに残念だ。
今日の予定は大門沢までだが、この風と視界の中、間ノ岳と農鳥岳の2つの3000m峰を越えて行くことにどうも気が乗らなかった。風は強烈な西風で、6年前歩いたときと同じパターンだ。そのとき西農鳥のてっぺんあたりの足場の悪いところで、風にあおられて怖い思いをした経験がフラッシュバックする。北岳に戻り、花を楽しみながらの下山に心が動く。西風にさらされるのは、北岳越えで小太郎分岐まで2時間半ほど、間ノ岳・農鳥岳を越えて大門沢下降点までは5時間半。どちらがラクかは考えるまでもない。
小屋の前で相棒と協議するもなかなか結論がでなかったが、時折誘うように晴れ間がでたりしたので、縦走を決行することにした。

5:21 出発(2925m, 14.6℃)

道
チラリズムで誘ってくる富士山
道
イワオウギに囲まれた道
上空の雲は分厚いが、それでも富士山や仙丈がちらちらと見え隠れして、天気の予測はつかない。
東に一段下がった小屋から稜線の縦走路に出ると、予想以上の強風に苛まれた。たぶんこれほどの強風の中を歩いたのは初めてだと思う。途中で何度もよろめいてしまい、耐風姿勢をとったりしながら進んだ。中白根への登りでライチョウ1羽と遭遇。こいつがいるってことはやはり天気は良くないのだろう。

5:59 中白根(3125m, 10.8℃)

道
中白根を通過
中白根は山頂に行かずに東側の広場で風を避けて休憩をとった。過去2回通過した中白根は花がきれいな印象があったが、今回は花が少なかった。山荘から間ノ岳をピストンする人が多いらしく、何人もの軽装の人とすれ違った。

7:11 間ノ岳登頂(3185m, 10.4℃)

山頂
ガスガスの間ノ岳山頂
濃霧の中をじわじわと登り、間ノ岳登頂。6年前の縦走時も同じようなガス・強風の中を歩いていて、間ノ岳の山頂で劇的に晴れたことをよく覚えているが、さすがにまた同じというわけにはいかなかった。山頂の岩の東側に入って短い休憩をとり、農鳥小屋へと下る。

7:33 間ノ岳発(3190m, 13.2℃)

残雪
山頂に残る残雪
道
岩礫の道を下る
山頂の東の凹部には残雪があり、ペンキ印が一部消えていた。問題ない距離だったが、ガスがもっと濃いとちょっと不安に思うかもしれない。残雪の解けたところにはチングルマが咲いていた。
下りは地形がとても複雑。二重山稜なのだが、素直に下らないで、途中で山稜を横切るようなところがあるため、勘が狂ってしまう。それでもペンキ印がやたらとあるので迷うことはないだろう。
途中でまたまたライチョウと遭遇。今度のはヒナを1羽連れていた。

8:35 農鳥小屋着(2835m, 14.2℃)

道
ペンキ印に導かれて進む
農鳥小屋
閑散とした農鳥小屋
鞍部に下りきってからもだらだらと歩いてようやく農鳥小屋についた。この鞍部はおそらく縦走路中で一番風が強いところで、歩けなくなるほどの強風に何度も見舞われた。
最後はガレた小山の東を巻くことを覚えていたのだが、同じような地形ばかりで結局直前までそれとわからなかった。

9:04 農鳥小屋発(2835m, 14.1℃)

小屋の陰でザックをおろして休憩。まず相棒がトイレに向かうも、なかなか帰ってこない。そうとう時間が経ってからこれはおかしいと思い様子を見に行ったところ、なんと留め金が外からかかってしまい、相棒は閉じ込められていたのだった。叫んだりしたらしいが、折からの強風でそんな声は聞こえず、救出が遅れてしまったのだった。
行動食を食べてからいざ出発しようとするとなんと雨が降ってきた。ポツポツという程度だったので、少し考えてから、ザックカバーだけ付けて(ふたりともカッパの上着はずっと着ていた)再度出発。

9:16 今度こそ農鳥小屋発(2835m, 15.3℃)

歩き始めてテント場を過ぎたところでとうとう本降りになった。再び小屋に戻り再協議。さすがに朝の8時では、停滞を決め込むわけにもいかない。それに小屋はあの農鳥小屋。同じく出発を躊躇していたパーティが、雨宿りを申し込んだところ却下されたのを目にしたばかりだ。
いずれにしても進まなければならない。これから北岳山荘へ戻るよりは大門沢下降点を目指した方が早いため、進軍を続けることに。カメラもザックにしまい、稜線をなるべくスピーディに通過することを心がける。午前のうちならまだ雷は大丈夫だろう。樹林に入ってしまえば、たとえ雷雨が来ても稜線よりはマシだろうと考えた。
雨具フル装備に身を固め、今度こそ農鳥小屋を出発。結局小屋で40分もうろうろしていたのだった。

10:05 西農鳥岳(3045m, 10.7℃)

細かいジグザグを切る単調な登りは、視界もないため苦行の様相であった。カッパのフードを出していなかったため、横なぐりの雨粒が耳の穴に入ってくるといった状態だった。
西農鳥の山頂は、6年前にはあった棒切れの標識がなくなっていて、「←農鳥岳・農鳥小屋→」の新しい標識がぽつんと立っているだけだった。ちょっと腰を下ろしていると風が弱くなってきたので、この先の難所を通過するべくすぐに出立した。
6年前に恐怖を感じた岩稜は、なんということもなく通過してしまった。時間の経過とともに記憶の中で恐怖感だけが増長していたようだ。強風のガレ場に苦しみながら東農鳥へと進む。最低鞍部に下りる直前に、空が少し明るくなってきた。いい傾向だ。

10:56 東農鳥岳登頂(3040m, 10.0℃)

北岳
農鳥岳から北岳(右)と間ノ岳
西農鳥岳
農鳥岳から塩見岳(右)と荒川三山
下りきってからじわじわ登ると、なんと雲がとれてきた。登頂5分前にはなんと雨も上がった。農鳥小屋でぐずぐずしたおかげで、この晴れ間がちょうど山頂で得られたのだ。なんという偶然だろう。
雨が止んで視界が得られたと言っても風は強いまま。山頂の岩の東側に入ってザックを降ろす。写真を撮ろうにも風が強すぎて、カメラが固定できずにブレまくった。
山頂には5人くらいの人が休んでいたが、この突然の晴れ間にみんなニコニコ顔で、目が合うと「よかったですねええええ」「ホントによかったあああ」と叫びあう(強風のため、叫ばないと声は聞こえない)。

11:38 東農鳥岳発(3060m, 14.4℃)

道
ハクサンイチゲを眺めながらの道
富士山
オブジェのような岩と富士山
しかし30分ほどもすると再び雨が降ってきた。ただし今度は視界はそのままだった。
早々に下山にかかる。大門沢小屋までは標高差1200m。大門沢下降点までは塩見岳や荒川岳などを眺めながらの広い山稜の下りだ。上の方からも、下降点の黄色い櫓がよく見えた。ここも二重山稜みたいになっているが、間ノ岳ほどの複雑さはない。道中はハクサンイチゲがきれいだった。

12:23 大門沢下降点通過(2870m, 13.7℃)

広河内岳
形のよい広河内岳(大門沢下降点はほぼ中央あたり)
大門沢下降点は休憩したくなるところだが、実は強風地帯。少し下ってから休むことにして、ここはそのまま通過する。広河内岳までピストンする人も多かったが、風が強いし天気は不安定なので、残念だが割愛した。
5分もすると、ハクサンイチゲが斜面いっぱいに咲いている箇所があったので、そこでザックを降ろす。ザレ場の真っ只中だが、ジグザグの内周にザックを置けば邪魔にはならないだろう。ただ場所が場所なので、着替えを済ませてからただちに立ち去る。このあとは下り&無風で暑くなることが予想されたので、ウールシャツを脱いで、Tシャツ・カッパというスタイルにした。いつ雨が降ってもいいように、カッパは上下とも着用のままにした。
雨が降って良かったことがひとつだけあって、それはザレが落ち着いたことだった。スリップ恐怖症の我々はずいぶん助かったと思う。

14:27 河原(2180m, 23.6℃)

富士山
河原付近からの富士山
橋
ハシゴ橋が2本重ねてあるので歩きにくい
道中は花がきれいで、特にハクサンイチゲが多かった。ハクサンイチゲというと高山草原に咲くイメージがあるが、ここではカンバの林と同居していたのがちょっと不思議な感じがした。また眺めもよく、鳳凰三山のうち観音・薬師と富士山や甲府の街並みがよく見えた。
斜面のジグザグがいつの間にか尾根っぽくなり、ニッコウキスゲの花がちらほらと見えると、河原に到着。このあたりは正面に富士山が見えて気持ちよい。河原は道からちょっと降りたところなのだが、雷雨があると困るので、寄らずにまっすぐ小屋を目指す。

15:18 大門沢小屋着(1860m, 23.4℃)

道
見下ろすとはるか下にハシゴ橋が
下降を始めた頃は雨はあがっていたのだが、またポツポツと降ってきた。でもカッパも着ているし樹林帯だし気にならない。以前見た「大門沢小屋まで40分」の標識が見当たらずペース配分がつかめなかったが、かまわずそのまま下った。河原からはコースタイムどおりで小屋に到着した。

富士山を眺めながら

富士山
テントで富士山を眺めながら湯を沸かす
早速テントを張る。午後3時を過ぎていたが、我々はまだ2組めだった。テント場からは富士山がよく見えたが、稜線から比べるとずいぶん高い位置になり、下ってきたことが感じられた。
それにしても、とても長い一日だった。間ノ岳を越えたのが同じ今日のことだとはちょっと信じられなかった。テントに入って富士山を眺めていると、いつも山行後に風呂で感じるような、満ち足りた気分になれた。それほど充実した一日だったということなのだろう。
テントは徐々に増え、夕方には9張になった。夕食を済ませて眠ろうとしたが、興奮からしばらくは寝付けなかった。
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