ツクモグサを見に八ヶ岳へ2007年6月30日 - 7月1日 テント縦走

6月30日 曇り

中央線の各駅停車を乗り継いで茅野に着いたのは8:23。8:30の美濃戸口行きバスに乗れた。このバスに乗るには八王子5:35発の電車に乗らねばならず、したがって関東でも西の方の住人しか間に合わない。
中央線に乗ると車窓から南アルプスを眺めるのを楽しみとしているのだが、やはりこの日は山はほとんど見えなかった。地蔵のオベリスクは雲間からなんとか見えたものの、甲斐駒にはまるで刷毛で塗りたくったように白い雲がべったりと張りついていた。パイ投げコントでクリーンヒットを喰らった志村けんの顔を連想してしまった。

9:47 美濃戸口発(高度計:1510m, 温度計:25.9℃)

美濃戸口の小屋で着替えてから出発。このへんは昨年秋に歩いたばかりなので道のようすはだいたい覚えている。
美濃戸までの林道歩きはしょっちゅう車を避けなければならないのが腹立たしく思うのだが、この日は時間が早かったせいか、やってきたのは1台だけだった。

10:37 美濃戸(1720m, 23.9℃)

道
北沢コース
美濃戸山荘で水筒をマンタンにしてから出発。
この先、行者小屋へ行く南沢は何度か歩いたことがあるのだが、赤岳鉱泉へ向かう北沢は初めてだ。南沢は美濃戸からすぐに沢沿いの山道となるが、こちらは林道の延長ですこぶる歩きやすい。

11:42 堰堤広場(1935m, 23.1℃)

沢
滑りやすいスラブ状の河岸を行く(右の白いのは沢です)
堰堤をひとつやりすごし、山小屋関係者の駐車場を過ぎるともうひとつ堰堤があり、その手前が広場になっている。堰堤広場といわれるところのようだ。ザックをおろして一息入れた。
ここで橋を渡ってから、ようやく山道となる。ここは巻道との分岐となっているが、よく歩かれている(であろう)沢沿いの道を選択。
斜度もキツくなく、大きな段差もない、歩きやすいよい道だった。よく歩かれているせいかもしれない。ちょっとした難所はスラブ状の河岸で、岩が滑りやすく、ツルリといくとそのままドボンだ。ここはちょっと緊張した。あとは、短いが木製のハシゴ階段があって、これまた滑りやすかった。
空気は蒸して不快だった。気温はさほど高くないのに蒸すということは相当な湿気なのだろうと思った。風邪をひくといやなので風呂には入らないつもりだったが、赤岳鉱泉でひとっぷろ浴びようと思った。

12:46 巻道との合流点(2115m, 24.3℃)

林床にはキバナノコマノツメやシロバナノヘビイチゴがそこらじゅうに咲いていて楽しい道だ。

13:05 赤岳鉱泉着(2180m, 23.4℃)

少々早いが今日はここで行動終了。テントはまだ2張しかなくて、場所は選び放題だ。
小屋にテントの受付に行くと、なんと翌日は日曜だというのに荷揚げがあって、ヘリが来るから7時までに撤収せよとのお達し。天気や体調によってはテントを張ったままにして山頂を往復することも考えていたが、これで荷物を担いで行かざるをえなくなった。
また、風呂に入るつもりでいたが、なんと入浴料は1,000円(!)。テント代も他ではまず聞かない1,000円/人だし。小屋泊まりは1泊2食8500円とごく一般的な値段で、しかも風呂にも入れるというのが癪に障る・・・というわけで、風呂には入らないことにした。
さらに、テント場が汚い。ごみがあちこちに散乱していて、古い空き缶の燃えかすなんかもある。まあこれは利用者の側にも問題があるのだが、それにしてもこの有様は・・・ただ、トイレはとてもきれいだった。テント代の1,000円には、キャンプ当日と翌日の2日間のトイレ利用料が含まれているということだが。
テントは最終的には10張もなかったと思う。小屋も空いていたらしく、奇妙なくらい静まり返っていた。夕食には、昨年買ったまま消費期限を過ぎてしまったフリーズドライのシチューを食べた。いつもは1泊だと食事を豪勢にしようとするのだが、この日はサラダもなくて、これだけ。とても寂しく、悲しかった。テント山行における食事の重要性を再認識したのだった。

7月1日 霧のち曇り

4時起床。テントの中は15.7℃もあって非常に暖かだった。そのせいか、フライの内側もほとんど結露していなかった。外は、50mほど先の小屋がときどき隠れて見えなくなるくらいのガスだった。
フリーズドライの五目めしを朝食にとり、テントを撤収。

5:39 赤岳鉱泉発(2160m, 20.8℃)

赤岳鉱泉
閑散とした赤岳鉱泉
道
ジョウゴ沢には立派な標識が立っている
小屋の前は閑散としていた。まず、小屋の目の前の石段を登っていく。
いくつか沢があるが、遡上しないように進む。沢に沿う踏みあとはいかにも道らしくて、思わず踏み込みそうになる。10分ほどすると立派な橋と標識のあるジョウゴ沢に着き、それを最後に沢とは離れて登りにかかる。地図には「急登」とあるが、ジグザグに登っていくせいでそんなことをまったく感じなかった。歩きやすい、よい道だ。

7:05 赤岩の頭分岐(2555m, 18.0℃)

分岐
ガスの中の赤岩の頭分岐
霧がかかった朝の森を歩くのは気持ちよかったが、それは最初のうちだけだった。しだいにあたりは暗くなり、とうとうポツポツ来始めた。ただ降ったり止んだりだし、しかも「ひょっとして木の雫なんじゃ」と思わせるほどのわずかな降り方だし、さらに止んでいる時間の方が長かったので、ザックカバーを付けただけで進んだ。
林の中の日当たりのよさそうなところでは相変わらずキバナノコマノツメがたくさん咲いていて、コミヤマカタバミやイワカガミも姿を見せるようになった。
そして登るにつれて明るくなってきた。すれ違った下りの人のようすを見ると、ザックカバーもカッパも着けていないし、濡れたようすがまったくない。すると上は晴れているのか? などと期待しているうちに森林限界を突破したと思ったら唐突に分岐に着いた。稜線は残念ながら濃いガスに包まれていた。

7:24 硫黄岳

道
ガスガスの中を進む
硫黄岳
ガスガスの硫黄岳山頂
まあそれでも降っていないだけマシだ。ということでガスの中を進む。岩屑の広い山稜は道迷いが心配だが、ところどころにケルンがあってほっとする。
稜線からは花の種類はがらっと変わって、コメバツガザクラやイワウメが主役となった。しだいに風が強くなり寒くなってきたので、途中で上着を1枚羽織ってから進み、ほどなくガスガスの硫黄岳に到達した。あまりに寒いので、証拠写真だけ撮ってすぐに硫黄岳山荘へ向かう。

7:55 硫黄岳山荘着(2550m, 12.0℃)

硫黄岳から硫黄岳山荘の間は八ヶ岳稜線の中でももっとも風の強いところだ。この日も西からの湿った風が強烈に吹いて、ザックカバーは激しい音を立ててはためき、メガネは水滴だらけになってしまった。メガネがないほうがよく見えるのでメガネをとると、今度はまつ毛が水滴だらけになってしまう。ひとりだったらおそらく撤退していたに違いない。
硫黄岳山荘に着いたときにはなにしろ寒くて、暖かい飲み物が欲しくなり、中に入ってココアを注文して飲んだ。ついでに小屋の人にツクモグサの状況を聞くと、横岳のクサリ場の手前に咲いているが、もう花期が終わりなので数は少ないだろう、ということだった。

8:30 硫黄岳山荘発(2565m, 16.6℃)

さらにカッパを羽織ってから、ザックを小屋の軒先にデポしてカメラだけ持って横岳方面へ向かう。途中の花がとてもきれいだが、まずはツクモグサを見て、帰りにじっくり楽しむことにして先を急いだ。
道は歩きやすいがなにしろ風が強い。

8:58 横岳のクサリ場

ツクモグサ
ツクモグサ
ツクモグサ
斜面の下までツクモグサの群生が続く
硫黄岳方面からの最初のクサリ場であるカニのヨコバイまで来て、ようやくツクモグサを見つけた。クサリ脇の岩場にぽつぽつと咲いていた。ネットなんかでよく見る写真では毛がふさふさしているが、この日は露をたっぷり含んでしっとりとしていた。それに日が出ていないせいか花があまり開いていない。
なんというか、今まで見た花からは感じたことのない、独特の雰囲気を持っている花だ。「清楚」とも違うし「可憐」とも違うし「ゴージャス」でもないし・・・

9:20 ツクモグサ群生地を後にする

コマクサ
コマクサはまだまだパセリ状
チョウノスケソウ
チョウノスケソウが咲き誇る
さて、ツクモグサを堪能して帰ろうとして、実はクサリ場の手前にもたくさん咲いていたことに気づいた(小屋の人もそう言っていたのに・・・)。そして、そういうところには例外なく踏みあとが付いていた。ツクモグサは斜面の下の方で咲いているので、近くで写真を撮ろうとして踏みいる輩が多いのだろう。いい花を見て気分がよくなったあとだけに、なおさら、やりきれない寂しい気持ちになった。
帰りの道すがら、ウルップソウやオヤマノエンドウやチョウノスケソウなどをじっくり見ながらのんびり歩いた。

9:46 硫黄岳山荘(2565m, 16.1℃)

イワカガミ
硫黄岳山荘近くのイワカガミ
さらに硫黄岳山荘の南側にはイワカガミがどっさりと咲いていた。
ここでこのあとの行動を決める。で、稲子湯14:10発のバスには間に合わないだろうということで、また美濃戸口へ引き返すことにした。その次にもバスはあるにはあるが、帰宅がとても遅くなってしまうのだ。

10:09 硫黄岳山荘発(2555m, 17.4℃)

小屋の入口に温度計がかけてあって、見ると8℃を示していた。耳がすっかり冷え冷えになってしまったので、小屋でバンダナを買って耳を覆うように巻いてから出発した。
相変わらず風が強い。周囲はガスガスだが明るく白くなってきて、往きのときほどの不吉さはなくなった。

10:31 硫黄岳(2650m, 14.3℃)

道
歩きやすい道をくだる
諦めきれずに再度地図を見るも、やはりどう考えても稲子湯に下るには遅いと再確認。残念だがしかたない。苔むした森は秋にでも楽しむことはできる。というわけで結局赤岳鉱泉から硫黄岳・横岳の往復という結果になったわけだが、それだったら赤岳鉱泉にザックを置いて登ってきてもよかった。すっかり修行山行となってしまったのだった。
赤岩の頭を過ぎて樹林帯に入ると、朝と同様、風は微風に変わった。すぐに上着を脱いでTシャツ1枚になった。

11:53 赤岳鉱泉(2155m, 20.8℃)

道
往きと違って明るくなった登山道
苔むした深い森を味わいながらどんどん下ると、雲の下に出たらしく、周囲がすっかり明るくなって日も差すようになった。そういえばこういう森を歩きたくて稲子湯に下山しようと思っていたのだった。
赤岳鉱泉では荷揚げの真っ最中で、ヘリがうるさかった。厚木基地のジェット機で轟音にはある程度の耐性があるはずの我々だが、さすがにこの至近距離ではタマラン。

12:11 赤岳鉱泉発(2160m, 21.9℃)

赤岳鉱泉
赤岳鉱泉から山を振り返る
花
大量のキバナノコマノツメ
荷揚げの合間をぬって出発。
満開のキバナノコマノツメも、往きと違って光を浴びていて、また一段ときれいだった。

13:01 堰堤広場(1905m, 22.4℃)

新緑
木々の美しいコントラスト
堰堤
堰堤広場から山を振り返る
スラブの沢道は、往きに通って状況を知っているということもあるが、下りだとルートを見つけやすくてさほど恐くはなかった。
堰堤広場に着いて上を見上げると、新緑のコントラストが美しかった。

13:39 美濃戸(1700m, 22.9℃)

森
緑が美しい森
堰堤広場から美濃戸へはおよそ30分で到着。森の中の日当たりのよいところでは、シダ類の緑があざやかだった。
バスで座れないと困るので、休憩もそこそこに出発。

14:26 美濃戸口着(1480m, 23.9℃)

バスは14:48発。時間に余裕があるので、着替えることもできた。バスは、2人掛けの座席に1人ずつ座る程度の混み具合だった。茅野駅からは、あずさが満席だったので「はまかいじ」で帰った。
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