百花繚乱・十勝連峰縦走(富良野岳・十勝岳・美瑛岳) (2ページ目)

7月16日 曇りときどき霧

上ホロ
朝の上ホロとエゾツガザクラ群落
3:30に起床。トイレに行くため外に出ると、あたりは深い霧だった。小屋内の温度は13度と暖かかった。早出してオプタテまで行くつもりだったが、この霧では止めだ。というわけで二度寝する。昨夜は一悶着あってよく眠れなかったので、この睡眠は効いた。次に目が覚めたのは5時ごろで、外は明るくなっていた。どうやら日が差してきたようだ。外に出てみると十勝岳こそ見えないものの上ホロ周辺は晴れており、太陽がまぶしかった。これなら停滞はしなくてすみそうだということで、美瑛富士避難小屋まで行くことに決めた。朝食にエスプレッソパスタを食べ、7:30に出発。小屋を出たのは我々が一番最後だった。

7:38 上ホロ小屋発(高度計:1815m, 温度計:18.9℃)

三段山
上ホロ小屋付近から三段山の眺め
1921mピーク
大砲岩(左)、1921mピーク(中)、十勝岳は雲の中
小屋から稜線に上がると上ホロの向こうに富良野岳も見えた。天気は期待できそうだ。と思っていたら、とたんに雲が増えてきて、富良野岳も隠れてしまった。前日は、空荷で上ホロに登ろうとか言っていたものの、結局面倒になってやめた。縦走中、上ホロだけ欠落するのは画竜点睛を欠く感がしないでもないが、どのみちオプタテまで行かないんじゃ同じことだ。
歩き始めると、道の左(北)側は火山の荒々しい眺め、右側は広大な花畑と、まったく対照的な光景が不思議だ。行く手には道がすうっと伸び、雲の中へ消えていた。大砲岩までは数十分だったが、その間に周辺はすっかりガスに包まれてしまった。小屋からは見えた1921mのピークももうわからない。花も乏しくなり、道はザレた痩せ尾根に変わった。空は黒っぽく、北からの風が強い。あまり良い傾向ではない。

8:12 1921mのピーク(1895m, 15.5℃)

道
1921mピーク付近の痩せ尾根の道
道
ガスの中、火山岩のガレ場を登る
1921mのピークのあたりで登山者とすれ違った。朝早く望岳台を出れば、もうこの時間には十勝岳のピークを踏むことができるのだ。ピークを過ぎて少しすると痩せ尾根は終わり、広いガレの斜面を直登するようになる。必然的に道も急になる。周辺の石はいかにも火山らしく黒々としていて、ぶつかり合うといかにも火山らしいカラカラと乾いた音をたてた。全く目標のないまま辛抱強く登りつづけると、ガスこそ晴れないが上空が明るくなってきた。どんよりと暗いイヤな感じはなくなって一安心した。なおもじりじりと登りつづけると、唐突に十勝岳の山頂に着いた。

8:46 十勝岳登頂(2050m, 16.1℃)

山頂には10人ほどの人がいて、まあまあの賑わいだった。まともな山頂標識がないのが意外だった。
風下側に陣取ると風は見事にブロックされ、空も明るく、暑いくらいだった。コーヒーを飲んだりしてゆっくりと休んだ。

山頂発

道
ガスの中、砂礫の道を行く
道
ガスの中、砂礫の道を行く
展望がほとんどないため30分ほどで飽きてしまった。これより美瑛岳に向かう。普段はガスなら即停滞または下山する我々だが、上空は明るく、まったく下りる気にならない。
この先は砂礫の道となり、悪天時は迷いやすいとガイドブックにはあるが、踏み跡もしっかり付いているし、10mくらいの間隔で道標もある。少なくとも、今日のような明るいガスならば、よほどのことがなければ大丈夫だろうと思った(念のために合わせたコンパスも見る必要がなかった)。むしろ、ルートファインディングで一番難しかったのは、山頂からの下りがどこから始まるのかわかりにくいところだと思った。実際、望岳台に下りようとして上ホロ方面に行ってしまった人がいたくらいだ。

下る

下り
強烈なザレの急斜面を下る相棒K
濃いガスの中、ほとんど平坦な砂礫の道を北東に進む。砂漠を歩いたことはないけれど、きっとこんな雰囲気なんだろうなと思う。周囲には石と砂と道標以外に何もない。前後に伸びる道がなければ方向感覚を失くしてしまいそうだ。しばらくそんな中を歩いていると、激しい泥流の跡がついた丘が右手に見えて、徐々に下るようになっていった。最初は斜面をトラバース気味に下りていくが、小さな残雪(おそらく盛夏には消滅するだろう)を越えてから一気の下りになる。この下りが小石の強烈なザレで、くるぶしまで埋まってしまう。まるで新雪を下るような感覚だった。登りは体力を消耗しそうだ。かつりんは今回の山行ではフジヤマを履いているのだが、この靴は足首が低いので、注意しないと小石が入ってしまう。相棒はスパッツを着けていたので問題なし。

10:33 最低鞍部(1790m, 18.5℃)

最低鞍部
最低鞍部から美瑛岳方面を望む
ザレが終わりトラバースになったところでザックを降ろし、休憩がてら靴に入った小石を取り出す。ここで上を見上げると、先ほどよりは視界がよくなっており、ギザギザの奇妙な山稜が見えた。これが鋸岳の山頂で、我々はその直下で休んでいるのだった。再び荷物を背負い歩き出す。トラバースはすぐに終わり、再びザレた下りとなる。しかし先ほどのような強烈なものではなく、斜度も緩やかだ。
我々が歩いているのは鋸岳から張り出した小さな尾根で、ここを下りきれば最低鞍部だ。このあたりから周りに植物が見られるようになってきた。行く手が明るくなってきて、これから歩く道が見えた。外輪山の外側斜面を斜上していく。

斜上の終わり

鋸岳
振り返ると鋸岳の雪渓がおもしろかった
美瑛岳
ガスに煙る美瑛岳とメアカンキンバイ
山と高原地図にはこの斜面のあたりに花のマークが付いているので期待していたが思ったほどではなく、イワヒゲやメアカンキンバイ(たぶん)がぱらぱらと見られる程度だった。普通に考えればきれいなほうだと思うが、富良野岳や上ホロで大群落を見てしまい花に対する感覚が麻痺してしまったのだろう、ちょっとばかりきれいなくらいでは驚かなくなってしまった。
だんだん明るくなってきて、時折、雲の中から十勝岳が見えたりした。ずいぶん遠い。鋸岳の雪渓がおもしろい形をしていた。クリオネみたいだ。先ほどずうっと下った道も見える。
斜上を終え稜線に出たところは平坦だったので、岩の上にザックを降ろして休憩した。その間、美瑛岳方面から山岳マラソンらしき集団が2組も通り過ぎた。

12:06 美瑛岳への分岐(1990m, 19.3℃)

難所
核心の岩場は南(右)側を行くのが正解
花畑
登山道脇にはチングルマがどっさり
ここからいよいよ核心の岩場にさしかかる。緊張しつつ歩を進めると、最初に大きな岩があって手を使い攀じるが、その後はガレの急斜面で、あまり難所という印象ではなかった。ただ、下りだとちょっとイヤな感じだ。岩の間にはイワウメやイワヒゲがたんまり咲いていた。
登りきった頃からまたまたガスが濃くなり、風はそれまでにないほど強くなってきた。道はまたトラバースになった。そしてこの周辺は花がきれいだった。雪が解けたばかりと見えて、チングルマやエゾツガザクラの群落が斜面を埋めていたのだ。

12:24 美瑛岳登頂(2035m, 17.5℃)

山頂
ガスの中に浮かぶ美瑛岳山頂
分岐にザックをデポし、カメラだけ持って山頂を往復する。なにしろ風が強く、寒い。さっさと往復してしまおう。分岐から斜面を数分直登し、十勝岳方面への道との分岐から平坦な道となる。とはいえ、岩がちなので足元には注意して早足で行く。周辺の花は美しい。チングルマやらツガザクラやらが、当たり前のようにその辺の斜面を埋めている。
10分ほど歩くと、突然風が弱くなった。そういう地形なのだろうか。なおも進むと深い霧のなかにぼうっと岩峰が浮かびあがり、標識があるのが見える。それが山頂だった。
山頂周辺はなぜか風が弱かった。こんなことなら飲み物くらい持ってくりゃよかったと思った。証拠写真だけ撮って、深い霧の中を分岐へと戻る。ここでまたしても山岳マラソンパーティに出会った。十勝岳以降は普通の登山者とは1組しか会っていなかったので、なんだかヘンな感じだ。

12:43 再び分岐(1985m, 17.5℃)

下り
ガスと強風のガレ場を下る
風が弱かったのは山頂付近だけで、分岐に戻る途中からまたしても強風になった。山頂付近はそういう特性があるのだろうか。分岐で休んでいると、下から「普通の」登山者が登ってきた。
重いザックを背負い、ガレた道を下る。風は一向に収まる気配はない。湿り気を含んでいるので、メガネがあっという間に曇り、そして水滴だらけになった。行動時間はまだ5時間ほどだというのに、足取りも気分も重苦しい。一心不乱に足元を見つめながら進む。ペンキ印を逃したらたいへんだ。
下っている間、かつりんの頭を支配していたのは「この強風でテントが張れるか」ということだった。今日は3連休の初日で、小屋は混雑するだろう。美瑛富士避難小屋は平屋建てでかなり小さく、満員になるのは目に見えている。小屋に避難することになったら、全員で膝小僧を抱えて眠れぬ夜を過ごすことになるかもしれない。

13:28 美瑛富士分岐(1720m, 16.7℃)

分岐
ガスガスの美瑛富士分岐
結構しんどい下りだったが、それでも分岐にはコースタイムどおりに着いた。なにしろ風が強い。とてもじゃないけど休憩できる状況じゃないので、ちょっと足をうりうりしてからすぐに小屋に向けて歩き出した。
美瑛富士の裾を回るようについている道はハイマツの中の刈り払いの道で、根っこに足をひっかけないように注意しながら歩いた。山の風下側にまわり、さらにハイマツに囲まれた道は今までと打って変わって無風状態。日ごろ鬱陶しいハイマツのなんとありがたいことか。分岐にごく近い地点で残雪をトラバースし、その後も刈り払いの道を進む。小屋が満員かつ強風でテントが張れない場合を想定して、途中にテントを張れそうなスペースがないか注意深く観察しながら歩くが、さすがにそれは不可能なようだった。オプタテシケ方面への道を分けて数分すると小屋とテントが見えてきた。

14:10 美瑛富士避難小屋着(1645m, 18.5℃)

小屋
美瑛富士避難小屋
まだ2時過ぎだがすでに3張りほどのテントがあった。小屋を覗いてみると半分以上のスペースが埋まっていた。美瑛富士の分岐点よりもずいぶんと風が弱く、これならテントを張るのも楽勝だ。
風の機嫌が悪くならないうちに素早くテントを張って中でくつろぐと、テントで良かった、とつくづく思った。小屋の周辺は花畑が凄い。チングルマやハクサンチドリ、ウコンウツギやエゾヒメクワガタなどが文字通り咲き乱れていた。ハクサンチドリは、ノーマルのものとウズラバが混生していた。チングルマは花期の終盤のようだった。ナキウサギが頻りに鳴いていた。
水場はかなり遠く、涸沢林道方面に下ったところか、先ほど通ってきた美瑛富士の南側の雪渓からとる。どちらも遠く、前者は往復30分、後者は40分くらいかかる。いずれも8月には涸れてしまうようだ。かつりんは前者をとった。小屋から下って最初の雪渓では水をとれるところがなく困ったが、そのままさらに登山道を下ったら道端に雪渓尻がかかっているところがあり助かった。でも流量はかなり少なかった。
夕食はカレー。初めて「山岳グルメ」シリーズを使ってみた。野菜カレーに鶏肉を入れてみたが、なかなかスパイシーで、レトルトとは違う風味が楽しめた。調理に時間がかかるのが難点だが、今日は時間はたっぷりあるのでまあいいだろう。レトルトよりも水を多く使うのは仕方のないところ。次の機会にはクミンとかのスパイスを足してみよう。
その後テントは増えて12張となった。それでもまだスペースはあった。小屋は超満員だったようだ。
ページ内を句点で改行する