百花繚乱・十勝連峰縦走(富良野岳・十勝岳・美瑛岳) 2005年7月15 - 17日 山小屋・テント縦走

7月14日 曇り

渡道

白金温泉
白金温泉からオプタテシケ(右)とトムラウシ(中央奥にちょこっとだけ)
旭川で買い物をする時間がとれそうにないので、横浜でみかんやプチトマトを買って羽田へ向かう。飛行機は出発が大幅に遅れ、旭川到着は定刻を20分近くも過ぎていた。これでは旭川駅行きのバスに乗っても、そのあとの白金温泉行きのバスに乗り継げない。すっぱりと諦めてタクシー利用に切り替えた。横浜で買い物をしておいてよかった。空港2階の土産物屋でイワタニのガス缶を買い、タクシーに乗り込む。白金温泉までは約8,000円だった。
宿にチェックインしてからすぐに、すぐ近くにある「観光センター」に行く。コースの情報などは得られなかったが、偶然にもここが登山届の提出場所だったので、届けを出した。大きな双眼鏡があり(デパートの屋上にあるようなやつ)、稜線のようすがはっきりと見えた。誰もいなかったが、人がいたらわかるくらいだ。また、センターの前からは、オプタテシケが大きく、トムラウシも先っちょだけ見えた。

宿

宿は湯元白金温泉ホテル。前日夜に電話したら予約できてしまった。本当は十勝岳温泉から登りたかったが宿がとれなかったので、下山予定だった白金に泊まってコースを逆に組みなおすことにしたのだ。料理のグレードによって宿泊料金が3段階に分かれるが、翌日からの山中では1銭も使わないので、いっちょう奮発して最高の料金にした。懐石コースで、なかなか美味であった。特に美瑛牛が美味かった。部屋食でゆっくりできた。部屋も風呂も広くて気持ちよかった。できれば、出発前ではなく下山後に泊まってのんびりしたい宿だと思った。
入浴後に天気予報をチェックすると、なんと2日目が曇り時々雨に悪化してしまった。1泊目を美瑛富士避難小屋にした場合、2日目が停滞だと一番のお目当ての富良野岳に行けなくなってしまう。というわけで予定を変更して(というより元に戻して)十勝岳温泉から入山し、富良野岳 - 十勝岳 - 美瑛岳と縦走することにした。これなら停滞しても大丈夫。十勝岳温泉へはタクシーで行くしかないが、これは仕方ない。

7月15日 晴れのち曇り

富良野岳
十勝岳温泉から富良野岳を望む
宿の朝食は6:30から。パッキングを全て済ませ、フロントにタクシーの手配を頼んでからぴったりの時間に朝食会場に行くと、すでに食事を終えている人たちもいて大賑わいだった。バイキングの食事を手早くしっかりと済ませ、部屋に帰って荷物を背負ってフロントに戻るとすでにタクシーが待っていた。タクシーで20分ほどで十勝岳温泉に到着。料金は3,000円ちょっとだったがお迎え料金が2,700円もついた。ちょっとショックだったが仕方ない。
さらにショックだったのは登山口に水場がないことだった。確かに、山と高原地図にも水マークはない。これはうかつだった。目の前の陵雲閣に分けてもらうように頼もうかと思ったが、どうやら朝食の時間らしく、大勢が食堂に集まっているので気が引ける。仕方なく駐車場の公衆トイレの水を汲んだ。結構カルキ臭がするのであまり飲む気にならないが、どうやら飲める水のようだ。

8:03 十勝岳温泉発(高度計:1205m, 温度計:27.8℃)

道
十勝岳温泉を出発
そんなこんなで出発は8時になってしまったが、今日は富良野岳を登って上ホロ小屋までののんびりコース。「山と高原地図」のコースタイムは6時間ほどだが、ネットで検索するとそんなにかからないという報告も多く見受けられた。だが我々は天幕装備で、速く動ける自信はない。とりあえずコースタイムどおりで計画すれば間違いないだろう。
最初は車のわだちの残るダートを行く。日を遮るものがなく、暑い。道が広くて照り返しも厳しい。進む方向には安政火口があり、山肌は白い岩が剥き出しの荒涼とした光景だ。周囲の環境に加え、久々に背負う20kgの荷物が肩にずっしりとのしかかり一気に気分が滅入った。

8:20 三段山への分岐(1275m, 27.1℃)

8:34 安政火口の入り口(1325m, 25.8℃)

安政火口
安政火口手前で対岸に渡る
三段山への分岐を過ぎてなおも行くと、右手に荒れた沢が現れる。対岸を見るとこれから登る道が見えた。水のない沢のどん詰まりで左岸に渡る。まっすぐ詰めると安政火口だ。ここで下りの単独行者とすれ違った。登山道の情報などを聞き、上ホロ・美瑛富士ともに水はあると聞き一安心。昨夜の上ホロ小屋は4人だけだったそうだ。さらに、稜線はずっと花がきれいだと聞いて俄然やる気が湧いてきた。
左岸は潅木帯となっていて、エゾイソツツジがたくさん咲いていた。登るにつれてナナカマドやウコンウツギが増えてきた。さすがは花の名山だ。

9:05 上ホロへの分岐(1390m, 23.9℃)

十勝岳
花畑で振り返ると十勝岳が見えた
通称「300階段」という上ホロへの道の分岐は小さな雪渓の中だった。この頃から雲が湧いてきて、富良野岳が隠れてしまった。小さな雪渓をいくつか越え、振り返ると十勝岳が姿を見せていた。雪渓周りの雪解け跡にはエゾコザクラやエゾツガザクラが咲いていて、いよいよ花の名山らしくなってきた。

10:40 富良野岳分岐(1740m, 24.9℃)

分岐
分岐から富良野岳へは階段を登る
道は三峰山の北斜面を斜上するようについている。斜度はほどほどできつくなく、ナナカマド・イソツツジ・ウコンウツギがランダムに現れ周りを彩る。木々の間から時折見える右下の斜面には白い花が一面に咲いているのが見えた。おそらくナナカマドだろう。クリーム色はウコンウツギに違いない。それにしても同じ花ばかりだ。コザクラやツガザクラは先ほどの雪渓近くにあっただけで、ちょっぴり期待外れに思った。
一方左上は岩場になっていて、ナキウサギが頻りに鳴いていた。その岩場が終わると、道は唐突に90度左に向きを変え、直登になる。直登なので斜度は急になるが、そう長くは続かない。やがて富良野岳へと続く階段が見えてきて、えぐれた道になると、ほどなく分岐に到着した。周囲には花畑などはなく、本当にこれが花の名山なのだろうかと拍子抜け。座るのにちょうどよい岩がいくつかあったので、腰を下ろして休憩。ここにザックをデポしてこれから富良野岳の山頂を往復する。

10:55 分岐発(1735m, 23.1℃)

花畑
富良野岳南斜面のエゾノハクサンイチゲ大群落
サブザックに軽食やカッパを詰めて出発。いきなりの階段に滅入る。階段道は緩く左へカーブを描きながら上昇し、尾根の突端に出たところで右に向きを変える。ここで初めて南側の斜面が見えた。パッチワークのような原始ヶ原の湿原が美しい。
そしてなんと斜面には一面にハクサンイチゲが咲いていたのだった。よく見ると他にもたくさんの花がある。エゾツガザクラやエゾコザクラ、エゾヒメクワガタなどなど。それらが斜面を埋め尽くしていた。ようやく花の名山の本領発揮だ。こういうときにはいつも頭の中でアルプスの少女ハイジの歌が響く。荷物がサブザックだけということもあり、嫌いな階段をウハウハしながら登る。
やがて階段は終わり、石ゴロと土の道となった。相変わらず周囲は花で埋め尽くされている。

11:23 富良野岳登頂(1900m, 23.3℃)

道はいったん緩やかなトラバースとなったあと、残雪の渕を小さく渡り、再び急になって山頂に着く。その間も終始花だらけだった。山頂はさほど広くなく、ちょっぴり混雑していた。それまであれほど花が多かったのに山頂の周りだけは不思議とハイマツと岩しかなかった。しかしふと見回すと、少し離れたところに、ピンク色に染まっているところがあった。ぼうっとピンク色に見えるというレベルではなく、「染まっている」のだ。遠目にも明らかな花畑だ。そこには道も付いているのが見えた。原始ヶ原へ続く登山道の途中なのだ。その花畑には誰もいなかった。混雑した殺風景な山頂よりも、人のいない美しい花畑で休んだ方がいいに決まっている。我々は3分ほど離れたその地点に向かった。

山頂のちょっと先で花を楽しむ

花畑
富良野岳山頂付近の花畑
花畑
富良野岳山頂付近の花畑
やはりすばらしい花畑であった。チングルマ・エゾツガザクラが密集して咲いていたのだった。山頂は雲の下だったが、なぜかこの花畑のあたりだけ日が当たり、時折青空も見えた。さんざん写真を撮り、みかんなどを食べながら花を眺めて過ごした。山頂からも我々の様子はわかるはずだが、こちらに来る人は誰もいなかった。なんともったいない。たっぷり30分も楽しんでから山頂に戻ると、ようやくひとりの人がこちらに向かってくるところだった。

12:09 山頂発(1920m, 28.5℃)

花畑
花畑の中を行く
下山開始、分岐に戻る。往きにだいたい目星をつけておいたところで花を眺めながら下りたので、登りよりも時間がかかってしまった。有名なエゾルリソウは近くで咲いていたのは1株だけで、あとは登山道から離れたところばかりだった。
分岐に近くなるとおぢさんが爆竹をパンパン鳴らしていた。一体なにやってんだと思っていると、なんとクマがいるという。しかも、これから進む三峰山だ。見ると雪渓の真ん中に黒い固まりがいるではないか。雪にはまってもがいているらしい。言われてみれば、なんだかもぞもぞと動いているようだ。三峰山方面に向かうのは我々だけだ。さあどうする。
水を飲みながらクマの動向を見守ったが、なかなか動こうとしない。雪にはまっていては仕方ないか。このまま下山することも考え始めたとき、山頂から大きな望遠レンズを持ったカメラマンが下りてきた。見てもらうと、岩のように見えるという。ったく、人騒がせな。とはいえ自分も「確かに動いてる」と思ったわけだが。

13:04 分岐発(1740m, 24.5℃)

十勝岳
分岐から三峰山・十勝岳を望む
少しほっとして、出発。いちおうクマである可能性も捨てきれないので、念を入れて、鈴を派手に鳴らしながら歩く。分岐からいったん最低鞍部に下る。花は多い。登りにさしかかると道は岩がちになり、左側から間断なくナキウサギの声が聞こえるようになる。登りのときに見上げた、ナキウサギの岩場の上にいるのだ。花はイワヒゲやメアカンキンバイが多くなった。地形は複雑で、岩稜の上を行ったり、小さなピークを巻いたりする。なかなか高度は上がらない。凹地には雪が遅くまで残るためだろう、チングルマやエゾツガザクラのような湿生の花が敷き詰められたように咲いていた。
件の雪渓の上まで来たので覗いてみると、あのクマはやはり岩だった。やれやれ。

14:02 三峰山の西のピーク(1860m, 23.2℃)

三峰山からの眺め
三峰山から十勝岳方面を望む
岩のごろごろする道をだらだら登り、ようやく三峰山の西のピークに到着。目の前には中央のピークが。結構下って登り返さなければならない。十勝岳はどす黒い雲の中だった。分岐から休憩をとっていなかったので、ここでザックを降ろした。

14:24 三峰山の中央のピーク(1860m, 22.9℃)

花畑
三峰山のイワヒゲ群落
西から中央のピークへはさほど時間はかからない。こちらの方に山頂標識があったが、休憩には西のピークの方が、広くて適していたようだ。東のピークは歩いていてあまり目立たず、あっさりと通過してしまった。3つのピークを歩いている間、ほとんどずっとイワヒゲが周りに咲いていた。上富良野岳への登りもごく緩い道。引き続き、イワヒゲの白い点々が左右に続いている。

15:15 上富良野岳(1875m, 20.8℃)

上ホロ
上富良野岳から上ホロ山を望む
花畑
上ホロ巻道のキバナシャクナゲ群落
上富良野岳の山頂でひとりの白人が休んでいた。そういえば、富良野岳の分岐からここまで、単独行者ひとりとすれ違っただけで、実に静かだった。上富良野岳を過ぎ、いよいよ上ホロに差し掛かろうというとき、巻き道の方から先ほどの白人の連れと思しき日本人がやってきて、上ホロ山の向こうは物凄いガレが続くから巻き道を行った方がいいと言う。見ると、巻き道の方は花もきれいそうだ。いちおう富良野岳 - オプタテシケの完全縦走を目指していた我々だったが、ここであっさりと巻き道を選択。上ホロは明日の朝にでも空荷で登ればいいだろう。
巻き道はキバナシャクナゲが咲き乱れ、予想以上の美しさだった。

15:54 上ホロ避難小屋着(1805m, 20.2℃)

上ホロ小屋
巻道から上ホロ小屋を望む
上ホロ小屋
上ホロ小屋とエゾツガザクラ群落
巻道の花がきれいだったのは最初だけで、そのうちハイマツの中のガレの登りとなった。ペンキなどの目印はなかったが、踏まれた石に土が付いているので大丈夫。登り切るとようやく上ホロ避難小屋が見えた。テントはまだ1張りもないようだ。
ここからガレ場を下る。結構ガレガレじゃん。こんなことなら上ホロ山に登っときゃあよかった。などと考えていたら泥で滑ってもんどりうって転んでしまった。たまたま岩のないところだったのでケガはなかったものの、ツイてない。
下りきって雪渓を渡り小屋へ。小屋の周辺は雪が解けたばかりで、エゾツガザクラがびっしりと咲いていた。ここでもナキウサギが鳴いていた。小屋の前まで来たが人の気配が感じられなかった。よくよく見ると、外からかんぬきがかかっていた。誰もいないのだ。これならテントを張る必要はない。イエーイ今夜は貸切だぜ。しかし、水をとり(今横切ってきた雪渓が水源だった・・・)、マーボー春雨とシウマイの夕食をとっていると、4人組がやってきた。そのあとさらに2人組がやってきて、計8人での泊まりとなったのだった。
ページ内を句点で改行する