ピコ通信/第54号
発行日2003年2月20日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 化学物質審査規制法の改正について(上)/毒性評価に新たに生態毒性を導入
  2. 「シックスクール調査」協力のお願い/子どもの健康と環境を守る会 代表 黒嶋 惠
  3. 化学物質による室内空気汚染と健康影響に関する国際会議から−その1
  4. 海外情報 レイチェル・ニュース#757
    沈黙の春から科学の変革へ−その1(抄訳)
  5. 化学物質問題の動き(2003年1月18日〜2月14日)
  6. お知らせ/編集後記


1.化学物質審査規制法の改正について(上)
 毒性評価に新たに生態毒性を導入


はじめに
 今通常国会に「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化学物質審査規制法)」の改正法案が提出される予定になっています。まだ現時点ではその詳細な内容については明らかにされていませんが、主な改正点は、現行の化学物質審査規制法が「人の健康を損なうおそれがある化学物質」による環境の汚染防止を目的として化学物質の審査及び製造等の規制が行われてきたのに対して、あらたに生態系への影響に着目したリスク評価の観点から新規化学物質の事前審査等の制度の見直しを行うというものです(『ピコ通信』第50号)。
 この化学物質の審査及び規制の在り方等制度の見直しに関しては、昨年3月、環境省から、生態系保全のための化学物質の審査・規制の導入についてまとめられた報告書について意見の募集(パブリックコメント)がなされ(『ピコ通信』第44号)、昨年10月からは中央環境審議会、産業構造審議会及び厚生科学審議会の下にそれぞれ制度見直しのための委員会が設置されて検討が進められてきました。そして昨年12月19日にこの3委員会から「今後の化学物質の審査及び規制の在り方について(案)」と題する報告書が取りまとめられ、この案に対するパブリックコメントの募集が行われました。意見募集は1月20日に締め切られましたが、ここであらためてこの内容についての紹介をし、そして改正法案が国会に提出された段階では再度取り上げたいと思います。

化学物質審査規制法とは
 この法律は「化審法」とも略称されていますが、1968年にPCBが原因となって発生したとされる「カネミ油症(カネミライスオイル食中毒)事件」(『ピコ通信』第53号)を契機に、PCBに代表されるような長期毒性や難分解性、高蓄積性等の性状を有する有害化学物質による環境の汚染の防止を目的として、1973年に制定されたものです。当初はPCBに類似した性状を示す新規の化学物質および既存の化学物質の製造、輸入、使用等に関する規制と難分解性等の性状を有するかどうかの審査を目的としたものでしたが、その後の改正(1986年)により、トリクロロエチレン等のように、高蓄積性ではない化学物質に対してもその性状に応じた規制が導入されました。
 しかし、この法律はあくまでも「人の健康を損なうおそれがある化学物質」による環境への汚染の影響を防止するためのものであり、昨今国際的に新たな課題とされてきている生態系への影響については考慮されてきませんでした。
国際的には、人の健康と環境(生物及びその生息環境を含む)の保護を目的とすることを基本として化学物質管理に係る各種の政策協調や協力が進展しつつあります。近年採択された国際条約や諸外国における化学物質の審査及び規制の制度においても、人の健康の保護だけでなく生態系も含めた環境の保全の観点が含まれるのが一般的となってきています。
 日本でも環境基本法や1999年に制定された化学物質排出管理促進法(PRTR法)に定める対象化学物質には、人の健康を損なうおそれのある化学物質に加え、動植物の生息もしくは生育に支障を及ぼすおそれのある化学物質も選定されています。
 そして昨年1月には、OECDが日本の環境保全成果レビューにおいて、化学物質管理において生態系保全を含むように規制の範囲をさらに拡大することが勧告されました。
 こうした国の内外における状況等もあって、今般、化学物質審査規制法の改正に向けた取組みが具体的に動き出しました。

今後の化学物質の審査及び規制のあり方について
 昨年12月19日付けで公表された報告書によると、今後の化学物質の審査及び規制の在り方の見直しとして以下のような点があげられています。

1.環境中の生物への影響に着目した化学物質の審査・規制について
(1)生態毒性に関する事前審査の導入
 個別の化学物質が生態系に及ぼす影響の定量的な評価は困難であるものの、特定の生物種を用いた生態毒性試験を活用することにより、新規化学物質の事前審査において生態毒性の評価を行う。
(2)生態毒性がある化学物質に対する規制の導入
 生態系への影響の可能性を考慮した適正管理を促す措置及び生活環境に係る動植物への被害を生ずるおそれがある化学物質に対する製造・輸入制限等の規制を導入する。

2.リスクに応じた化学物質の審査・規制制度の見直しについて
(1)難分解性及び高蓄積性の性状を有する既存化学物質に関する対応
 長期毒性等の有無が明らかになるまでの間も、製造・使用実態等に応じ、法令に基づく一定の管理の下に置く。
 ・製造・輸入実績数量、用途等の届出の義務化
 ・国が予備的な毒性評価を実施し、一定のリスクが懸念される場合には、事業者に対して環境放出量の抑制のためのリスク低減措置を指導・助言
 ・製造・輸入事業者に調査を指示し、長期毒性等がある場合には速やかに第一種特定化学物質に指定。
(次号に続く)(藤原)



2.「シックスクール調査」協力のお願い
 子どもの健康と環境を守る会 代表 黒嶋 惠


第1回目の調査から2年経って
 「子どもの健康と環境を守る会」は、主にシックスクール問題について活動している団体です。前回のシックスクール症例集め(「『シックハウス連絡会・シックスクール部」の呼びかけに当会も参加し、集計作業等を共同で行う)から早いもので2年の月日が経ちました。
 この2年間で世の中のシックスクールに対する関心、国・自治体・学校等の認識も2年前とは比べ物にならないくらい変わってきています。
 そうは言うものの、シックスクールによる健康被害は、減るどころか逆に増えているのはどうした事でしょうか。
 昨年の1月・2月の『ピコ通信』第41号第42号に書かせて頂いた「シックスクールの問題点(上・下)」の中で、私が問題点として挙げたものの内、何点が周知徹底され改善されたのでしょうか。この1年間に報告された学校工事での被害例の多さを見るとあまり変わっていないように感じます。被害例が増えた理由の一つには、シックハウス・シックスクールの情報が多くなり、以前は学校工事と関連付けて考えられることのなかった子どもの症状を、保護者が気付きやすくなった事が考えられます。

化学物質の被害は誰にでも起きる
 シックスクールは、個人の資質の問題で起きるかのように誤解している関係者も未だ多いのです。しかし、学校工事での多数の子ども達の被害報告は、それを否定するものであり、有害化学物質による被害は、誰にでも(教師にも)どの子にも起こり得るものだと、これらを例にとっても言えるものです。
 ところが、いつも予防策は取られず、事が起きてからの対応です。担当者のコメントは決まって「最善の注意を払って工事をしたのですが・・・」となります。最善の注意・安全確認とは一体何なのでしょう。しかも問題のあったほとんどの工事で、指針値の何倍も多く測定されたと発表されている物質は、厚生省(当時)より、2000年に指針値が発表され、文部省(当時)からも通達されている物質です。
 このことからも、有害化学物質を含有している材料を使用しても、測定濃度が指針値をクリアさえすれば良い(「学校環境衛生の基準の改訂」後は、4物質の測定だけで良いと誤解している)という工事関係者の意識が子どもの健康被害を増やしている大きな原因と言えるのではないでしょうか。
 子ども達を有害化学物質から守るためには、厚生労働省より指針値が発表されている有害化学物質の含有していない材料を選択して工事を行うという予防策が必要です。しかもこれは、指針値が示されているものが、有害化学物質の中のほんの一部であることを考えると「最低限の注意」でしかありません。

一番足りないのは子どもたちの実態情報
 さらにシックスクール対策で不足しているもの、それはシックスクールとは何かを知る為の情報です。その中でも一番不足しているのは、子ども達の学校での実態、特に「学校で体調が悪くなる子どもの本当の姿を知らない事」に由来すると考えられます。
 また、有害化学物質に対する認識の甘さ・勉強不足・間違った思い込み等があるようにも思われるのです。例えば、塗料・ワックス等の溶剤を油性から水性に替える事で有害化学物質の問題はなくなったかのように考える保護者・学校・自治体・メーカーの対応は充分だといえるのでしょうか。
 これらの点を考慮した結果、私達は、シックスクールの問題を全て洗い出さなければ、問題解決にはならないと考えました。そのため当会では、「シックスクール調査」を全国的に展開し、子ども達の学校生活の実態を集約したいと思います。ぜひ、「シックスクール調査」にご協力下さい。

シックスクール調査にご協力ください
 「シックスクール調査(小・中・高・大学生用)」は、問題点を全て明らかにする為に、設問の数が大変多くなっています。設問を追っていく事で問題点や対応を考えなければならない事項が分かるように配置しておりますので、これからシックスクール問題に取り組もうとお考えの方は、チェックリストとしても活用してみて下さい。設問中に「2001年1月29日の文部科学省通達」・「学校環境衛生の基準の改訂」等が出てきますが、シックスクール問題に取り組む時、必要不可欠の文書ですので、末尾参照にてご確認下さい。
 「シックスクール健康調査(2003年度就学予定児用)」では、「シックスクール調査(小・中・高・大学生用)」の中の学校生活での設問を全て除き、有害化学物質の影響を受けやすい子どもの人数把握という事で、健康面についての設問になっています。
 2003年4月より集計作業に入り、データ等を集積し、冊子にまとめ発表する予定です。シックスクール問題を予防する資料として、また要望・交渉する上での参考資料として活用していただければと考えています。
 なお、お寄せいただいた個人データは、「シックスクール調査」のみに使わせていただき、他の利用をしない事をお約束いたします。個人名を記入する事が不都合のある方は、イニシャルにされても構いません。
 「シックスクール調査」は、学校生活の中で有害化学物質などにより健康影響を受けている(受ける可能性がある)2003年度就学予定児・小中高大学生が対象になります。
 「シックスクール調査」の調査書は、下記のホームページでもダウンロード出来ますが、インターネットに接続できない方は、お送り致しますので、「シックスクール調査(小・中・高・大学生用)」と「シックスクール健康調査(2003年度就学予定児用)」の別、必要部数をお知らせ下さい。
 2003年3月31日までに、必ず郵送にて「子どもの健康と環境を守る会」までお送りください。記入される上で、不明な点・疑問点などがありましたら当会までお問い合わせ下さい。ご協力とご支援をよろしくお願い致します。

*参照
・2001年1月29日の文部科学省通達
 http://www.hokenkai.or.jp/1/1-3/1-31/1-31-31.html
・学校環境衛生の基準の改訂
 http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/14/02/020202.htm

【問い合わせ先】
子どもの健康と環境を守る会
代表  黒嶋 惠
〒069-0842 北海道江別市大麻沢町23−4
TEL・FAX 011-387-1556
E-mail kodomo@webone.ne.jp
http://www.webone.ne.jp/~kodomo/
郵便振替口座番号 02790-9-59545 電話での問い合わせは、14時〜17時の時間帯にお願い致します。


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る