1.『シックスクールの問題点』
昨年1年間を振り返って(上)
黒嶋 恵(子どもの健康と環境を守る会)
私達の「子どもの健康と環境を守る会」は、シックスクールの健康被害から子ども達を守る為、子ども達が学校で教育を受ける権利を守る為、活動してきました。
2000年の11月には、「シックスクールに関する要望」を文部省と北海道教育庁に提出し(本紙29号参照)、続いて12月には、「学校校舎内における薬剤散布に関する緊急要望」を北海道教育庁に提出しました。そして、北海道教育庁とは何度か協議を重ねた結果、間近に迫ったビル管理法により行われる予定の全道立高校の校舎内薬剤散布(有機リン)の実質的な全面中止を得る事が出来ました。
厚生労働省からの「室内空気中化学物質の室内濃度指針値及び総揮発性有機化合物の室内濃度暫定目標値等について(依頼)」の通達を受ける形で、文部科学省からはシックスクールを念頭に置いたと思われる通達文が2001年1月29日付で、教育関係機関に出されました(本紙33号参照)。それは、学校関係・各関係機関に対して、具体的な改善対策を訴えていけるものであると思われました。
一連の活動を通じて、行政や学校関係機関には様々な問題点が内在し、シックスクール対策を遅らせている大きな原因になっている事が見えてきました。昨年1年間の活動を振り返りつつ、報告致します。
通達は、関係各機関に周知徹底されていない
文部省に要望を提出して以来、全国から問い合わせや相談を受けるようになりました。春休みに入ってからは、特に入学・進級に伴って生じた問題や校舎の改築工事に関しての相談が多くなってきました。それに対し、「学校関係者には文部科学省から通達が届いているはずなので、それをもとに、学校で対応できるものは学校へお願いし、教育委員会でなければ対応しきれない問題は、教育委員会にお願いすれば速やかに対応してくれるはず」とアドバイスしてきました。
どの相談も、トイレのパラ剤(パラジクロロベンゼン)の撤去や工事の塗料を有害物質(キシレンなど)の多く入っているものから安全な物への変更など、初歩的な対応が必要な事例であり、通達文を読み理解していれば、「対応しない。できない」などとは言えないはずのものでした。
しかし、やはり対応してもらえない、という電話が再度かかってきます。各教育委員会及び学校は、通達が出された事も知らない(知らされていない?)状態の所がほとんどだったのです。一体、この「通達文」は、どこの誰が受け取り、どこに行って、どこに保管されてしまったというのでしょうか。
校舎工事
7月に入り、夏休みに行われる予定の工事についての問い合わせが各地から多くなってきました。
学校や教育委員会から保護者に対して、あらかじめ工事説明や安全確認などの説明があるケースはほとんどありません。不安を覚えた保護者が問い合わせた結果、ほとんど安全対策がされていない事を知り、驚きと怒りと不安感を増幅させる事が多いようでした。
ここでもやはり、「通達文」は、知らされておらず、こちらから提示し、使用される予定の材料と安全性データシートの提示を求め、シックスクールの健康被害が起きないよう安全対策をお願いするように助言しました。材料の安全性、施工時期(子どものいない夏休み中に終わるのか、2学期になって子ども達がいる中で行われる工事か)など、それぞれの学校・それぞれの地区の親達が建築行政の担当者や教育委員会そして学校と頑張って話し合い、専門的で分からない事や使用材料が本当に安全なのか分からない時などは、相談に乗り、後ろから後押しをする形で一つずつ解決していきました。
この頃、各地・各学校で親の会ができ、建築行政・教育委員会と同じテーブルで話し合いを持ち、仕様について意見を言っていく姿が見えてきました。そういう人たちはまだ良いのですが、一人で頑張らなければならない人にとって、シックスクールがどういうものなのか、何が有害物質かも分からない担当者に理解し、分かってもらうのは並大抵の事ではなかったようでした。
いつも思う事ですが、「何とか今のまま、登校出来るようにしてやりたい」、「学校に行けなくなったらどうしよう」、「健康被害を受けたくない」と必死で子ども達を守ろうとしている当事者の親に対して、建築行政・教育委員会そして学校関係者までが、真剣に予防しようという姿勢ではないのが気になります。まるで他人事というか、問題が起きるわけがない、大丈夫だと言ってかなり楽観的です。
危機感がなければ、こちらが問題だと思っても相手は問題としてとらえません。話し合ってもなかなか噛み合わないのも当然です。私の長女が通う中学校でも給食準備室の工事がありました。以前から私が市に働きかけていた関係もあり、学校からは工事内容の説明があり、工事で使う材料仕様が決まり次第、安全性データシートを提出するように手配している事、それが届き次第、それで大丈夫かどうか確認をして欲しいとの話がありました。どの子にも健康被害を起こしたくないとの学校側の配慮からでした。
給排換気設備が無い
この時期(夏)は、来春(2002年4月)開校予定の学校の新築工事の内部仕様が決まる時期でもありました。
北海道のような寒冷地では、窓を開けて授業が出来る期間は、6〜9月までととても短く、窓を締め切る期間は半年を超えます。真冬でも窓を開けて換気しているはずだと主張し、換気設計そのものをしていない自治体が多くありました。学校現場では、真冬に窓を開けて換気をしていない事、換気の重要性を訴えて粘り強く交渉を続け、給排換気システムの導入を得た学校もありました。
8月下旬、北海道は2学期を迎えます。2学期より新築校舎で授業が始まった学校の情報が入ってきました。頭痛がして、登校出来ない日があるという生徒の情報でした。後に他の2人も同様の症状を訴えていました。しかし、市と学校側は、使用した材料にほとんど含まれていない3物質(ホルムアルデヒド・トルエン・パラジクロロベンゼン)だけを測定し、国の指針値を下回っているので、シックスクールではなく、化学物質過敏症だ、個人的体質の問題だと、医師でもないのに言い切っていました。
この学校を現場見学して分かった事ですが、校舎の上の階に上がれば上がるほど化学物質の揮発した臭いがひどく、特に水周り部分であるトイレ・シンクのある保健室・手洗い場、合成畳(合板・ポリスチレン・ポリウレタンのサンドの製品が多い)のある武道場、2人の生徒が症状が出る講堂がひどい状態でした。
その後、市教委からこの学校に対して、換気を十分にするように指導が入りましたが、換気設備がない為、窓を開けるしか方法がなく、寒くなってからは辛い状況で、健康被害を受けた子どもが肩身の狭い思いをする結果になっています。
メーカーに聞いて分かった事ですが、床材(塩ビ樹脂)のメーカーが水周りで剥がれ等のクレームが起きないようにと推奨している接着剤は、エポキシ樹脂系接着剤等で、トルエン、キシレン、ビスフェノールAなど有害物質が多く入っています。
長女の学校の場合は、市と話し合い、塩ビシートをやめ、有害な接着剤もやめ、剥がれたらまた貼れば良いというふうに考え方を切り替えてもらう事が出来ました。物を何にするかは、床材と接着剤のメーカーの担当者(開発研究室)に問い合わせ、有害物質を含有していない物を教えて頂くという作業を繰り替えして決めた結果、給食準備室で働く方々にも健康被害は出ていません。
学校建築はここが問題
学校建築に関して、問題点を整理したいと思います。
○内部仕様・材料が決まらない状態での入札
○有害物質が入っているかどうか十分に吟味されていない材料が使用されている
○工期が大変短く、冬の施工が多い
○工期が短い為、十分に換気されないまま使用開始になっている
○教育委員会は文部科学省、建築行政は国土交通省と、十分な横の連絡がなく、情報交換がされていない
○窓を開けられない時の給排換気設備がない
○健康調査もされず、換気一辺倒の対応策のみで原因究明がされていない
○有害化学物質は、厚生労働省から指針値が出されている物質だけではないのに、情報収集がされていない
(次号に続く)
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