ピコ通信/第42号
発行日2002年2月18日
発行化学物質問題市民研究会
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URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 『シックスクールの問題点』
    昨年1年間を振り返って(下)/黒嶋 恵 (子どもの健康と環境を守る会)
  2. 市民のためのやさしい化学教室−化学はなぜ環境を破壊するのか
    第3回「物の性質と周期律」
  3. 化学物質解説講座(4) 毒物とは(その1)
  4. 化学物質問題の動き(2002年1月17日〜2月7日)
  5. お知らせ/編集後記


1.『シックスクールの問題点』
  昨年1年間を振り返って(下)
  黒嶋 恵 (子どもの健康と環境を守る会)


ワックス
 一昨年のシックスクールの症例集めの時の原因物質として一番多かったのがワックスでした。ここではっきりしておかなければならないのは、学校でワックスと呼んで使用している物の中に、ワックスと塗料の2種類があるという事です。
 ワックスの相談や問い合わせは、本当に多くあります。自然系のワックスは、何処の何が良いかと聞かれるのですが、一応知っていて確認した所の物は、お知らせしていますが、その際必ず一緒にお伝えしているのは、自然系のものでもアレルギーは起きる可能性があり、必ずご自分で試される事が大事である事、単価の高いものは学校はなかなか使わない事、そしてワックスは本当に必要なのかという事です。
 ワックスの必要性を学校関係者は皆「床を保護する為」だと言います。確かに床材が木であった場合、水分から木を守る事は必要でしょう。しかし、Pタイルやクッションフロアーなどの塩ビシートは、「水にも汚れにも強い」が売る側の歌い文句だったはずです。ワックスを塗らないと磨耗すると思っているのは、実は、可塑剤が年月とともに抜けて劣化するのを思い違いしているのではないでしょうか。傷に対してはどうかというと、塗料メーカーの専門家は、塗料を塗って、硬い皮膜が出来上がっているフローリングの上にやわらかいワックスを塗っても意味がないと言います。学校側が求めているワックスは、艶ありのピカピカ光るタイプです。自然系の艶なしのワックスは、塗ったか塗らないかが分からないとよく言われます。ピカピカの「ハイ塗りました」という床が欲しいだけのようにしか思えません。
 私達は、色々調べた結果、木の床材は、水分から床を保護する為、安全な塗料かワックスが必要だと思いますが、Pタイルや塩ビシート(これ自体使って欲しくない)は、せっけんによる念入りな清掃で十分だと考えています。

教材(絵の具)
 校舎の問題だけではなく、教材でもシックスクールは、起こっています。子ども達が安全に使える代替品を常に探している私達ですが、絵の具もその一つでした。会員の2人の子どもは、絵の具に反応する事から、色のないモノクロの絵を書いていました。
 北海道環境サポートセンターの子ども向けの講座の中に、環境NGOアースネットワークという団体による「天然の絵の具」の講座を見つけました。都合の付いた親子に先発隊で行って試してもらい、反応が出なかったことを確認して、絵の具に反応している子ども向けに特別に講座を開いてもらいました。「天然の絵の具」とは、土や草木の顔料とアカシヤの樹液や卵、蜜蝋などの溶剤で作る絵の具で有害化学物質は入っていません。
 子ども達は、喜々として、目を輝かせ、思い思いの絵を描き、パステルを作りました。この時、「青はないの?」の子どもの声に、青は、藍という草花からしか取れないことを知りました。藍からの青の顔料を子ども達に与えたいと考えた私達は、畑で藍を育て、顔料を取る事、そして子ども達に絵の具の指導が出きるようにと修業を始めました。
 絵の具を勉強していて分かった事ですが、学校でよく、木工作品に絵の具を塗り、ニスを塗って作品を仕上げますが、そもそも木工作品に市販の絵の具が乗る訳がなく、乗らなく落ちてしまう絵の具をニスでおさえなければならないという事です。「天然の絵の具」には、紙に使う場合の溶剤、木に使う場合の溶剤がはっきりしていて、ニスを塗る必要もありません。今年は、市販の絵の具を検査機関に依頼して、安全性データシートに表れない成分分析をしたいと考えています。
 私達の願いは、一人別室で絵を描いている化学物質過敏症の子どもが、例え1時間でもクラスの友達と一緒に「天然の絵の具」を使って授業を受けられる事です。2002年度から実施される環境教育に、環境に大きな負荷をかけない絵の具として授業の中に取り組んでもらいたいと思っています。

教材(版画用版木
 12月に入ると版画の授業が始まります。一昨年も版画の版木で初めて具合が悪くなって、それ以後鉛筆が使えなくなった子どもがいました。また今年度も健康被害が報告されました。1人は、手の皮が一皮むけてしまい、もう1人は、眼球異常や倦怠感など登校出来ないまでになってしまいました。
 12月15日に当会が主催で行った講演会の場で、講師の方に問題の版木の臭いを確認してもらいました所、「このシナ合板を内装材として部屋に貼ったら、夏場だとホルムアルデヒドが0.2ppmぐらいでるかもしれない。これを子どもに使わせるのは危険だ」との答えでした。
 検査機関に検査してもらった方が良いとのアドバイスを頂き、北海道立林産試験場(旭川)に試験を依頼しました。納入業者が学校を通して提示してきた成績表には、FC0と明記されていますがホルムアルデヒド放散量(r/l)試験結果は、A:2.15(未使用の版木)、B:1.67(授業で数回使用した版木。ある程度揮発して数値は下がったが、揮発分は子ども達が呼吸とともに体内に取り込んでしまったと考えている)と両方ともがFC2であることが判明しました(表参照)。何故このような事が起きるのでしょうか。
 数年前、一般住宅に使えなくなったF2の建材の在庫処理を公共建築でされているとの噂がありました。公共建築でも使用出来なくなった建材は、問題意識を、何も持たずにいる学校へ教材として、納入されているというのでしょうか。学校が、きちんと購入計画の時に、問題意識を持って選定作業をしないと、有害物質の多い商品を入れられても防ぎようがないのです。今回のように健康被害が生じ、保護者が業者に成分を問い合わせても、連絡先を明らかにしないばかりか、データをすり替え、FC0であるかのように嘘でごまかし、露見しなければ良いという態度を許す訳にはいきません。各関係機関へ、原因究明と指導を求め、今後の教材納入に関して、働きかけて行く予定です。

文部科学省から実態調査が発表
 12月21日、文部科学省から「学校における室内空気中化学物質に関する実態調査(概要)」(下記HP参照)の報道発表がありました。これは、「学校環境衛生の基準」見直しの参考資料にする為に、行われた調査です。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/13/12/011232.htm
 しかし、この報道発表から読み取れるのは、測定したと言う事実だけです。測定した時に、子ども達は何の教材を使い授業を受けていたのか、それとも受けていなかったのか、夏場にコンピューター室の20%が指針値を超えていたのも全PCを立ち上げ授業がされていたのか、それとも電源は入っていなかったのか、コンピューター室の指針値が超えた原因は、PCのせいなのかコンピューター室の工事のせいなのか、また、するべき健康調査が何故同時に行われていないのでしょうか。指針値を超えた教室・学校、超えていない教室・学校、同時に一斉の健康調査をし、子どもは指針値を超えなくても健康被害は起きているのか起きていないのかなど事実確認のための調査をするべきです。

「学校環境衛生の基準」が改定
 2002年2月5日、先の実態調査の結果を受け「学校環境衛生の基準」の改訂について(下記HP参照)の発表がありました。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/14/02/020202.htm
 改訂された点は、教室等の空気環境の定期検査では、これまでは、温度・湿度・CO2等一般的な検査項目しかなかったものが、新たに、4物質(ホルムアルデヒド・トルエン・キシレン・パラジクロロベンゼン)の濃度が加わり、検査回数、判定基準、基準値を超えた場合の事後措置等について規定されました。また、臨時検査は、コンピューター等新たな学校用備品の搬入時にも実施することが追加され、新築、改築、改修時には、濃度が基準値以下であることを建築業者に確認させた上で、校舎の引渡しを受ける事が盛り込まれました。
 今回の改訂で、評価出来る点は、定期・臨時検査に、ホルムアルデヒド及び揮発性有機化合物を測定し、検査するという項目が加えられたことと、事後措置の中に、発生原因究明と発生抑制措置が加えられた事です。
 しかし全文を熟読すると残念に思う点がいくつもあります。1つ目は、上記で測定項目4物質とありますが、キシレンとパラジクロロベンゼンは、特に必要と認める場合にのみ実施すれば良いと明記されており、学校での実質的な測定物質は、ホルムアルデヒドとトルエンの2物質に限定されてしまうのではないかという事です。
 厚生労働省の動きを受け、私達の会はすでに2年前から各関係機関へ「指針値が定められた物質の測定の義務付け」と、「安全を確認後の校舎の引き渡し」を働きかけています。この「学校環境衛生の基準」の改訂を理由に4物質または、2物質のみの測定が慣例となってしまうのではと、懸念しています。
 2つ目は、測定結果が著しく低濃度だった物質の場合、次年度からの測定を省略しても良いとなっている点とホルムアルデヒドの測定は夏期に行うのが望ましいと明記されている点です。検査方法を説明した項では、教室内の空気を採取する時には通常の授業時と同様の状態で採取するようにとあります。夏期の測定では窓を開けた状態で採取される場合が考えられ、測定結果も、実際の濃度よりも、低くなると予想されます。東北以北の学校では、風が冷たくなる秋から窓を閉め切り、冬期には毎日暖房を入れて授業をしています。揮発性化学物質はこの時期が高濃度になっており、夏期に測定した結果が低濃度であったからといってその後の測定を省略されてしまっては問題です。
 測定する時期や時間等測定が必要と思われる教室等の判断は、測定を実施する当事者に一任されています。当事者が、シックスクールの原因と発生のしくみについて十分理解していなければ、1番汚染濃度の高い、危険な時期・日時に測定は行われず、結果的に問題を放置することになりかねません。
 いずれにしましても、この改訂内容が全教育関係機関に周知徹底され、実施されるとした上での問題点であり、改訂前の「学校環境衛生の基準」さえも徹底されず守られていない現状で、先の通達と同じように改訂がされた事すら知らないという事態にならなければよいがと心配しています。

問題点から考える今後の課題
 国レベルでは、文部科学省・厚生労働省・国土交通省の3省が共同研究し、シックスクールが起こらない安全対策を確立し、指導して欲しいと思います。
 都道府県教委、市町村教委は、校舎の新築・増改築が行われる時は、安全性の高い材料を使用し、保護者向けに早めの説明会を開き、保護者が工事内容の把握が出来る体制作りと工事完了後の有害化学物質の測定・健康調査を義務付けして欲しいと思います。
 一番子ども達の身近にいる先生・学校は、他人事ではなく、自分自身も同じ空気を吸っているのだと、問題意識を持ち、教材・備品・日用品の選定購入の際には、十分すぎるぐらいの安全確認を保護者と共に行って欲しいと思います。

会の活動
 会の今後の活動は、シックスクールに関する正しい知識の普及と提言が中心ではありますが、資金面などで無理だった教材などの成分分析に着手しようと考えています。
 また、「天然の絵の具」の講座を開き、指導に伴う小さい子どもでも分かる作り方・使い方を説明する絵本的なものも作りたいと考えています。
 現在製作中の「シックスクール健康調査票」を使い、医師の方達の協力の下、データを集め、問題点を洗い出し、関係機関に働きかけていきます。
 情報発信のためのHPも準備中です。

 小さな子ども達が、学校で健康被害を受けないで済む、そんな日が一日も早く来る事を切に願っています。2002年、子ども達が毎日笑顔で元気に登校できますように!


化学物質問題市民研究会
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