米疾病管理予防センター(CDC)2005年7月21日
ヒトの環境化学物質暴露に関する第3回報告書 2005年
エグゼクティブ・サマリー

情報源:Centers for Disease Control and Prevention July 21,2005
Third National Report on Human Exposure to Environmental Chemicals 2005
Executive Summary
http://www.cdc.gov/exposurereport/3rd/pdf/thirdreport_summary.pdf
National Report on Human Exposure to Environmental Chemicals

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年3月27日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/cdc/cdc_2005_exposure_report.html

背景
 ヒトの環境化学物質への暴露報告書は、バイオモニタリングを用いてアメリカ国民の環境化学物質への暴露について継続中の評価に関する報告である。ヒトの環境化学物質暴露第2回報告書(第2回報告書)は2003年に発表されたが、それは1999年から2000年までの2年間にわたるアメリカの民間人の116環境化学物質へのバイオモニタリング暴露データを示すものであった。この第3回報告書は2001年から2002年までの期間のアメリカ国民の148環境化学物質への同様な暴露データである。第3回報告書はまた第2回報告書のデータ、すなわち1999年から2000年までのデータも含んでいる。

 環境健康試験所は、疾病管理予防センター(CDC)の全国健康統計センターが実施した全国健康栄養試験調査(NHANES)の参加者から任意に選び、その血液と尿サンプル中の化学物質又は代謝物を測定した。全国健康栄養試験調査(NHANES)は2年毎にアメリカ国民の調査サンプルを提供するための継続的な活動であり、1999年に始まった。

 本報告書では、環境化学物質は、大気中、水中、食物中、土壌中、粉塵中、又は他の環境媒体(例えば、消費者製品)に存在する化学成分又は化学元素を意味する。バイオモニタリングが血液中又は尿中の化学物質又は代謝物を測定する。代謝物は体の組織が当初の成分を化学的に変えるときに生成される物質である。血液と尿レベルは実際に環境から体内に取り込まれた化学物質の量を反映する。

 前回の報告書には含まれていなくて第3回報告書でカバーされている化学物質は次の通りである。
  • ピレスロイド系殺虫剤
  • 追加の多環芳香族炭化水素(Benzo[a]pyrene を含む)
  • アルドリン、エンドリン、ディルドリン
  • 追加のフタル酸エステル類代謝物
  • 追加の殺虫剤と除草剤
  • 追加のダイオキシン類、フラン類、PCB類

公衆健康のための報告書の利用
 本報告書は、環境化学物質への暴露に起因する疾病を防止することに役立てるために科学者、医師、及び保健担当官にユニークな暴露情報を提供する。第3回報告書の中の暴露情報の特定の公衆健康のための用途は下記の通りである。
  • どのような化学物質がアメリカ人の体内に入り、その濃度はどの程度かを決定すること
  • 毒性レベルが既知の化学物質に対し、有害健康影響を引き起こすレベル以上の濃度で化学物質を体内に持つ国民の割合を決定すること
  • 個人又はグループが異常に高い暴露をしているかどうか決定するために医師又は科学者らが使用できる参照範囲を確立すること
  • 特定の化学物質へのアメリカ人の暴露を削減するための公衆健康の取組の効果を評価すること
  • 少数民族、子どもたち、妊娠可能年齢の女性たち、又はその他の脆弱なグループの中で暴露レベルが高いかどうか決定すること
  • 母集団の暴露のレベルの傾向をその後も追跡すること
  • 暴露に対するヒトの健康影響に関する研究のための優先度を設定すること

データの解釈
 人々が環境化学物質を血液中や尿中に持っているいうことが、その化学物質が病気を起こすということを意味するわけではない。化学物質の毒性は、個人の感受性に加えて、用量又は濃度に関連する。少量なら健康影響はないが、量が多くなれば有害健康影響を及ぼすかもしれない。どのくらいのレベルなら健康に影響を及ぼし、どのらいのレベルなら大きな健康懸念をもたらさないかを決定するために、この報告書とは別の研究調査が必要である。鉛のようなある化学物質に対しては、その研究調査は様々な血液レベルに関連する健康リスクのよい理解を提供するであろう。情報がこの報告書の中に示されている環境化学物質の大部分については、ここで報告されているレベルの暴露が健康懸念を引き起こすかどうかを決定するために、更なる研究が必要である。疾病管理予防センター(CDC)は他の機関や研究所と協力してこの種の研究のためにバイオモニタリング測定を実施する。

 第3回報告書は、アメリカの民間人の暴露の推定値を得るために収集したデータを示している。現在の調査設計は疾病管理予防センター(CDC)が州毎に、又は市毎に暴露を推定するようになっていない。例えば、CDCはある州の血中鉛レベルのデータセットを抜き出して検証することはできない。


主要な調査結果
報告書に含まれる148種の化学物質のうち、38種は初のアメリカ国民暴露情報である
 38種類の新たな化学物質は、ピレスロイド系殺虫剤、有機塩素系殺虫剤アルドリン、エンドリン、ディルドリン、追加の多環芳香族炭化水素(Benzo[a]pyrene を含む)、追加のフタル酸エステル類代謝物、追加のダイオキシン類、フラン類、PCB類、及び追加の殺虫剤と除草剤である。これらの化学物質の測定の結果、母集団の化学物質の血中及び尿中濃度の”参照範囲”が95%信頼区間を含んで初めて入手可能となった。95%信頼区間とはその母集団の血清、血液、又は尿のサンプルの95%がそのレベル以下の濃度であることを意味する。公衆健康担当官は、あるグループの人々の暴露が母集団中のそれ以外の人々が受けている暴露に比べて異常であるかどうかを決定するために参照範囲を用いる。

子どもたちの血中鉛レベルは減少し続けている
 1歳から5歳までの子どもの血中鉛レベルに関する新しいデータにより、もっと高いレベル(すなわち、10μg/dL以上)の子どもたちの数を推定することが可能になった。1999年〜2000年の期間、1歳から5歳までの子どもの1.6%が高い鉛血中濃度であった。この値は、1990年代初期の4.4%から減少している。

 これらのデータは、一般母集団において高い血中鉛濃度を有する子どもの数を減らすための公衆健康の取組が成功していることの証拠である。しかし、他のデータは、鉛暴露の高いリスクにさらされている特別な子どもたち(例えば、鉛塗料を使用した家、あるいは鉛を含んだダストのある家に住んでいる子どもたち)の血中鉛レベルは高く、まだ重要な公衆健康問題であることを示している。

環境中のタバコの煙への暴露
 コチニンはニコチンの代謝物であり、血中のコチニン濃度は喫煙しない人々の環境中のタバコの煙(ETS)への暴露を示す。高いコチニン濃度は、ヒト発がん性物質である ETS により多く暴露していることを示している。アメリカ国民の血中コチニン濃度に関するデータはCDCの以前の調査で1988年〜1991年までのデータも入手可能である。この第3回報告書では1999年〜2002年のデータが入手可能である。

 1988年〜1991年の期間の結果と比べると、1999年〜2002年のデータは非喫煙者のコチニン濃度中央値は、子どもは68%、青少年は69%、成人は75%減少している。非ヒスパニック黒人の濃度は、メキシコ系アメリカ人及び非ヒスパニック白人の2倍以上である。子どもの濃度は成人の2倍以上である。ETS暴露を削減する取組は著しく進捗していることを示しているが、ETS暴露はまだ大きな公衆健康問題である。

カドミウムへのの暴露
 最近の研究調査は、尿中のカドミウム濃度が人々のクレアチニン(訳注:脊椎動物の筋肉・尿・血液中に含まれる白色結晶)1g当たり1μgのレベルでも微妙な腎臓傷害(すなわち容易には見えない障害)に関連し、骨の鉱物濃度が低下するリスクが高まることを示している。疾病管理予防センター(CDC)はこの報告書の中では健康に懸念を及ぼすレベルの新しい値を確立していないが、どのように国民の尿中のカドミウム濃度を最近の調査結果と比較するかについて述べている。第3回報告書は、20歳以上のアメリカ国民の約5%はこれらの濃度に近い値を示している。タバコの喫煙がこれらの高いカドミウム濃度の原因であると考えられる。これらのカドミウムに関する調査結果に基づき、人々のカドミウムによる健康影響をに関する更なる研究調査を促進すべきである。

有機塩素系農薬アルドリン、エンドリン、ディルドリンへの暴露に関する調査結果
 これら3つの農薬はよく似ており、かつては農業で、特に綿花とトウモロコシに殺虫剤として広く使用された。農業用途としてのアルドリンとディルドリンはアメリカでは1970年に中止され、シロアリ駆除用としての使用は1987年にやめた。エンドリンの製造と使用は1986年に打ち切られた。これらの農薬はアメリカではすでに使用されていないにもかかわらず、他の諸国ではまだ使用されている。第3回報告書の結果は、これらの有機塩素系農薬のそれぞれの濃血清中レベルは検出できないか又は非常に低い値であった。

ダイオキシン様化合物へのヒトの暴露が改善されたことを示すデータ
 この報告書は29種のダイオキシン類、フラン類、及びダイオキシン様PCB類のデータを示しているが、一般的に以前に比べてより低い検出限界を持つ。3つの化学物質については初めてこの報告書で示された。ダイオキシン類と関連化合物の新たな暴露情報は、この化学物質族への暴露がアメリカ国民に及ぼす健康リスクを決定するために現在進行中のリスク評価に著しい改善をもたらすであろう。

妊娠可能年齢(16-49歳)の女性の水銀暴露
 血中の水銀のほとんどは、水中及び土壌中からのメチル水銀を蓄積した魚介類の摂取に起因する。水銀は食物から摂取される程度の血中レベルで発達中の胎児に神経発達系影響を及ぼす可能性があるので、妊娠可能年齢の女性の水銀暴露を監視することは重要である。1999−2002年の期間の第3回報告書データは妊娠可能年齢の全ての女性は、胎児の神経発達影響と関連する濃度である58μg/Lより低かった。

 しかし、妊娠可能年齢の女性の5.7%は神経発達影響に関連する濃度の係数10の範囲に入っているので、これらの女性の水銀濃度を監視し続けることは価値がある。

広く使用されているピレスロイド系殺虫剤のうちのいくつかの新たな測定
 ピレスロイド系殺虫剤は、現在、家庭で最も一般的に使用されている合成殺虫剤のグループである。第3回報告書は、初めて5種類の一般的に使用されているピレスロイド系殺虫剤の暴露情報を示した。その結果は、いくつかのピレスロイド系殺虫剤の一般的な代謝物 3-phenoxybenzonic acid が多くのアメリカ国民から検出されたので、ピレスロイド系殺虫剤への暴露が広がっていることを示唆している。この報告書で示されたレベルでのピレスロイド系殺虫剤のヒトへの健康影響に関しては、非常に限られた科学的情報しか現在、入手できない。

改善されたフタル酸エステル類への暴露マーカー
 フタル酸エステル類は、プラスチックやビニルを柔らかくしたり柔軟性を増す化学物質のグループに命名された”プラスチック可塑剤”である。これらのプラスチック可塑剤への暴露は広い範囲に及んでいる。新たに特定されたマーカーは暴露についてよりよい指標となる。動物実験では生殖毒性やその他の影響をを示している。この報告書で示されたレベルでのフタル酸エステル類のヒトへの健康影響に関しては、非常に限られた科学的情報しか現在、入手できない。


報告書中の化学物質
 下記の化学物質又は化学物質族への暴露データは、第3回ヒトの環境化学物質への暴露報告書 2005に示されている。この報告書は第2回報告書の更新暴露データと今回追加された化学物質(緑文字)の初めての暴露データを示している。
(訳注:リスト省略)
第3回報告書エグゼクティブ・サマリー参照のこと


報告書で測定された化学物質の血中及び尿中濃度のための95%信頼区間
(訳注:リスト省略)
第3回報告書エグゼクティブ・サマリー参照のこと


報告書に含まれる化学物質の選定
 この報告書で収集された化学物質と示される情報は以下を示唆する科学的データに基づき選定された。
 アメリカ国民の暴露、暴露に起因する既知の又は疑いのある深刻な健康影響、化学物質への暴露を削減するための公衆健康活動の効果を評価するための必要性、適切な精度、正確さ、感度、特殊性、及びスピードをもったバイオモニタリング分析手法の有効性、十分な量の血液と尿サンプルの入手、及び化学物質分析のためのコスト。

 2002年10月、疾病管理予防センター(CDC)は、将来の報告書に含める可能性がある化学物質又は化学物質族の候補を挙げるよう国民に要請し(連邦官報)Vol.67, No. 194, October 7, 2002)、数百種理の候補を受領した。候補選定手続きと候補リストの詳細は下記ウェブサイトで入手可能である。
http://www.cdc.gov/exposurereport/chemical_nominations.htm


将来の計画
 疾病管理予防センター(CDC)は、2年の期間をカバーする(例えば、2003−2004年、2005−2006年、2007−2008年)アメリカ国民の暴露の報告書を将来発行する計画である。これらの報告書は、もっと多くの化学物質と、年齢、性別、及び人種又は民族によって定義される母集団における暴露に関する追加情報を含むであろう。



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