2010年11月4日
アーレン・ブルム博士 有害で不必要な難燃剤の使用を止めることは 我々の健康と環境を保護することになるであろう 情報源:Arlene Blum, PhD Stopping the Use of Toxic and Unnecessary Flame Retardant Chemicals Will Protect Our Health and Environment http://www.psr.org/environment-and-health/environmental-health-policy-institute/responses/ stopping-the-use-of-toxic-and-unnecessary-flame-retardant-chemicals.html これは、2010年11月4日 PSR 環境健康政策研究所の 「次の政策課題になるべき新たに出現している環境的ハザード」 に対するアーレン・ブルム博士の回答である。 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2011年12月22日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/psr/psr_Arlene_Blum_Flame_Retardant_Chemicals.html 我々の寝椅子や介護用枕やテレビに潜んでいるものは、大量の有害難燃剤である。これらの物質は、DDTやディルドリン、マイレックスのような有機ハロゲン系農薬と同一のファミリーで同じような化学的構造をしている。これらの農薬は1980年代に禁止されており、我々の食料へのこれらの汚染レベルは低減しているが、これら化学物質の親類であるハロゲン系難燃剤の使用は毎年倍増している。しかし、地球上の全ての生物の健康に莫大な利益をもたらす比較的容易な解決方法はある。 ほとんどの有機ハロゲン系難燃剤の問題は、高い残留性、生物蓄積性傾向、及び有毒性である。人間と世界中の動物の汚染レベルは急激に増大しており、海洋哺乳類、鳥類、北極クマ及び赤ちゃんのように食物連鎖の頂点にいる生き物は最も高く汚染されている。 動物における有害影響は、ピアレビューされた多くの論文の中でよく報告されている。ヒトの疫学調査は、増大する難燃剤のレベルと、子どもの知能低下、内分泌及び甲状腺かく乱、男性ホルモンレベルの変化と生殖力の低下、女性の妊娠するまでの長期化、先天性障害、発達不全との間に関係があることを見つけている。ひとつの化学物質への消費者の曝露がそのように多くの有害影響と関連することを見つけるということは、全く異常である。ほとんどのヒト疫学データは職業的曝露からのものである。 急速に脳と神経系が発達している赤ちゃんと小さな子どもは、有害物質に最も脆弱であり、ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDEs)難燃剤のレベルは大人よりもはるかに高い。幼児は体内に難燃剤をもって生まれてくるが、さらに追加的な曝露を母乳から受け、また、手と口の接触から化学物質を含むホコリを摂取する。 いくつかのハロゲン系難燃剤の禁止にもかかわらず、これらの化学物質を含む大量の布/皮革張り家具、電子機器、カーペット詰め物、自動車がまだ使用されており、寿命が尽きたら廃棄する必要がある。埋め立て場や水処理プラントのような屋外で処分されると、これらの化学物質は将来、環境中や食物連鎖中に四散する。 我々はこれらの難燃剤への曝露を通じて我々の健康をリスクに曝す一方で、それらは測定できる程の火災防止に役立っていない。1980年から1999年まで家具の可燃性を規制しなかった州においても、家具と赤ちゃん製品の発泡材(foam)に難燃剤を求めるカリフォルニア州で見られるのと同程度の火災死亡率の減少を経験した。難燃剤は材料が着火する時間を数秒遅らせるかもしれないが、それらは火災死亡とやけどを引き起こす一酸化炭素、有毒ガス、煙を増大させる。もっと効果的な火災安全戦略は、喫煙の低減、火災安全タバコ、火災安全ロウソク、スプリンクラーや煙検知器の使用促進などである。これらは、消費者製品に潜在的に危険な化学物質を加えることなく火災を防止することができる。 科学的データは圧倒的にたくさんある。ハロゲン系難燃剤の蓄積と健康影響を研究する世界中の化学者、疫学者、毒性学者ら数百人が、研究成果を共有するために臭化難燃剤会議及びPOPSに関するダイオキシン会議に毎年参加している。2010年9月に「ダイオキシン2010」が開催されたテキサス州サンアントニオの名に因んで、「臭化及び塩化難燃剤に関するサンアントニオ声明」名付けられた合意声明は、これらの広範囲にわたる汚染物質の有害性と火災安全の効果がないことを述べている。この合意声明は、22か国からの150人以上の科学者と医師によって署名された(訳注1)。 (参照:http://greensciencepolicy.org/node/269 、及び Linda Birnbaum と Ake Bergman によるEHPでの記事 http://www.ehponline.org/article/info:doi/10.1289/ehp.1003088) しかしこれらの化学物質を研究する科学者たちのこの合意は公衆には届いていない。ほとんどの消費者は、彼等の寝椅子や介護用枕で使用されている発泡材は、大きな危険性をもって赤ちゃんの体内に長い年月、留まることができる内分泌かく乱物質を重量で約5%も含んでいるらしいことを知らない。もし、危険であることを知らされれば、彼等は、曝露を低減するために予防的措置をとり、難燃剤の不必要な使用を低減するための政策をを支持しつつ、有害製品を回避することにより自分の家族を守るための行動を取ることができる。 このような欠陥があるなら、なぜ我々はハロゲン系難燃剤の使用を増やし続けているのだろうか? Chemtura(ケムチュラ)、Albermarle(アルバマール)、Israeli Chemicals Limited(イスラエル・ケミカルズ)という3つの化学会社はロビーストを雇い、彼等の産業に都合の良い可燃性基準を推進し維持するために国家及び州レベルで数百万ドル(約数億円)を費やしている。これらの化学物質の販売による巨額の利益は難燃剤での使用が大きな原動力となっているように見える。例えば、アルバマール社の四半期の儲けが2008年に比べて2009年には4倍になっているのは、”臭化難燃剤の販売の増加によって促進された”。この産業の金銭的な影響力は大きいが、この3社だけがこれらの化学物質を製造している。より安全な代替に移行させるためには、これらの会社に対する公衆の圧力が必要である。 我々の健康を守るための重要な第一歩は、子ども用製品及び布/皮革張り家具中のポリウレタン・フォームに対して、小さな裸火(open flame) への12秒間の耐火性を求めるカリフォルニア州の時代遅れの家具可燃性基準 TB117 を変えさせることであろう。1975年の同基準の実施以来、ハロゲン系難燃剤は、火災安全の効果が証明されていないのに、発泡材の重量の約5%のレベルでカリフォルニア州で売られている発泡材家具に加えられている。毒性のない強化された火災安全性を供給するために、この基準を法的に変えるための働きかけが4年間にわたり行なわれたが、化学物質製造会社からの資金たっぷりのロビー活動により挫折させられた。 難燃剤の問題は、有害物質規正法(TSCA)の改正を求めることの重要性を示す象徴である。難燃剤のような有害な化学物質の使用を規制する権限をEPAに与え、化学物質のより安全な代替を確実にし、市場に製品が出る前に化学物質の安全性を証明する情報を提出することを製造者に求めるために、1976年以来、初めてのこととして、上院及び下院の両方に法案が現在提出されている(2010年の安全化学物質法(The Safe Chemicals Act of 2010 )、及び、2010年の有害化学物質安全法(The Toxic Chemical Safety Act of 2010))。 有機ハロゲン難燃剤の不必要な使用を止めることは、我々の社会における、がん及び、神経系、生殖系、甲状腺、内分泌、発達等の障害を防止するのに役立つであろう。圧倒的な科学的証拠を用いて、今こそ、我々の健康、特に子どもたちの健康を守るための行動を起こすべき時である。さらなる情報を得るためには、我々のウェブサイト www.greensciencepolicy.org をご覧いただきたい。 訳注1 EHP Editorial 2010年10月28日 臭素系及び塩素系難燃剤に関するサンアントニオ宣言 |