Our Stolen Future (OSF)による解説 2006年12月7日 ラット胎児期のビスフェノールA暴露による 乳腺管の過形成及びがんの発生 Reproductive Toxicology, in press の掲載論文を Our Stolen Future (OSF) が解説したものです 情報源:Our Stolen Future New Science, 7 December, 2006 Induction of mammary gland ductal hyperplasias and carcinoma in situ following fetal bisphenol A exposure http://www.ourstolenfuture.org/NewScience/oncompounds/bisphenola/2006/2006-1207murrayetal.html オリジナル論文:Reproductive Toxicology, in press Murray, TJ, MV. Maffini, AA Ucci, C Sonnenschein and AM. Soto. 2006. Induction of mammary gland ductal hyperplasias and carcinoma in situ following fetal bisphenol A exposur 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2006年12月25日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/osf/06_12_osf_BPA_breast_cancer_rat.html マレーらはビスフェノールAへのラット胎児の暴露は成ラットになってから乳がんを引き起こすと報告している。以前の研究で、ビスフェノールA(BPA)は乳房組織の発達を変更し、乳がんのリスクを増大させ、乳房組織の発がん性物質への感受性を高める (訳注1)ことを示していた。 この新たな結果は、以前の研究を確認し拡張するものである。テストをした全てのレベル、2.5 μg/kg/day〜1000 μg/kg/day における暴露は、乳管過形成と呼ばれる異常細胞の形成をもたらしたが、それはヒトとげっ歯類の両方にとって乳がんの前兆であると考えられている。最も高い二つのレベルでは、ビスフェノールAへの胎内暴露は95日齢の成ラットに乳がんを引き起こした。 他の研究では、この研究で用いられた用量のうちの低い方の用量はヒトが日常的にビスフェノールAに暴露する用量範囲内であることを示唆している。がんを直接引き起こす最低レベルは、現在の EPA 及び FDA の安全暴露基準 50μg/kg/day のわずか5倍高いだけであった。いつもビスフェノールAの研究を批判する人々は、有害影響をもたらすレベルはヒトの(日常的な)暴露の数百〜数千倍であるとの断言を新聞で行っている。これはこの研究において明らかに当てはまらない。 何をしたか? マレーらは、ビスフェノールAを 2.5μg/kg/day〜1000μg/kg/day の範囲で妊娠中のメスラットに暴露させた。投与はメスラットに埋め込んだ小さなポンプを通じて行われた。ビスフェノールAはジメチルスルホキサイド中に溶解された。コントロールのラットは埋め込まれたポンプによりジメチルスルホキサイドのみが投与された。 研究チームは仔ラットの体重、肛門性器間距離、成熟までの期間を観察した。出生50日後に、メスのあるものは乳房組織の組織学的検証を行うために解剖された。
マレーらは50日齢のメスの乳房組織を電子顕微鏡で観察して、BPA に暴露した全てのラットは乳管過形成が3〜4倍増大していることを見出した(右図)。BAP 暴露の全てのラットはコントロール・ラットに比べて過形成が顕著であったが、BPA 暴露のラット間では個々の相違はなかった。
二つの最も高いレベル、250 と 1000μg/kg/day に暴露したラットに関し、マレーらは上皮内がん( Carcinoma in situ: CIS)と呼ばれる乳腺中のがん様病変を見いだした。これらのレベルで暴露されたラットの25%は50日齢で上皮内がん(CIS)を持っていた。これは95日齢では33%のラットに増大した。 マレーらは、ラットの乳管中のエストロゲン受容体の濃度を調べた時に、過形成乳管ではエストロゲン受容体αに陽性反応する細胞の数が増えることを見いだした。組織化学分析によりこの病変中に高い細胞増殖があることが分った。 これら二つの結果は乳がんのリスク増大と一貫性がある。暴露は体重と成熟時期には影響を与えないことが分った。胎内暴露を受けたオスは肛門性器間距離が短かった(訳注2)。
何を意味するか? これらの実験はビスフェノールAへの胎内での暴露が成ラットになってから乳がんを引き起こすことを示している。実験した全ての範囲の用量で後の段階でがんとなる”新たな病変”を引き起こしている。最高の用量では実際にがんを引き起こした。これらの結果は、現在 EPA と FDA によって承認されている安全閾値に対する重大な異議申し立てである。 ”参照用量(reference dose)”と呼ばれる現在の安全閾値(safety threshold)は、50mg/kg/day がげっ歯類の体重減少を引き起こすという動物実験に基づいて設定された。この場合の50mg/kg/dayは”最小毒性量(最小作用量) ”(lowest observed adverse effect level / LOAEL)と呼ばれるものである。それより低い用量のテストは行われておらず、従ってこれらの実験に基づいてどのような暴露レベルなら影響がないか(毒物学者が言うところの”無毒性量”(no observed adverse effect level / NOAEL)に関して言及することはできない。無毒性量は通常、生物種の相違及びその他の不確実性を考慮して参照用量を計算するベースとなる。現在の公式参照用量を決定するに当たり、それ以上の研究なしに 50mg/kg/day より1000倍低い用量が許容できる参照用量であろうという仮定に基づいて50μg/kg/day と設定された。今回の実験から得られたデータにこの過度に単純化した論理を当てはめるならその参照用量は、250 μg/kg/day の1000分の1 、すなわち250ナノグラム/kg/day となる。これは許容安全閾値より200倍低い。 しかし、このマレーらの実験は計算を複雑なものにしている。彼らは、有害影響(乳管過形成の増大)が2.5μg/kg/dayで見られることを観察した。言い換えれば、彼らがテストした最低のレベルを含んで、どのレベルでも、有害影響を引き起こすということである。このことは、彼らの研究は NOAEL(無毒性量)を特定できなかったということである。 同じ研究グループの以前の研究は、彼らがテストした最低用量25 ng/kg/dayで有害影響を示していた。彼らのより低い暴露限界の探求は今日に至るまで、(もし、乳腺腫瘍のリスク増大を有害影響と認めるなら)有害影響を引き起こさないというビスフェノールAのレベルを同定することはできなかった。もしEPAが、現在の実験から最小毒性量(LOAEL)として 2.5μg/kg/dayを使用するなら、そして現状の基準を確立するために同じロジックを用いるなら、参照(安全)用量は 2.5 ng/kg/day となる。 もしEPAが最小毒性量(LOAEL)として 25 ng/kg/day を採用するなら、同じ論理を用いて参照用量は 25 picograms/kg/day となる。このことはほとんど全ての商業使用の BPA、特に食品や飲料と直接接触するBPA ベースの材質、又は子どもの口に触れる可能性のある用途を廃止することになる。 BPA の細胞研究では細胞信号が0.23ppbの低用量でも重大な変化を受けることを示している。これはかつてテストされた最低の用量であり、それは生物学的に重要な影響である。毎年、60億ポンド(約270万トン)のBPAが製造されていることを考えれば、このような低用量の結果に抵抗があっても不思議ではない。 訳注1: Our Stolen Future (OSF)による解説/胎児期のビスフェノールA暴露はウィスター系ラットの乳腺に前腫瘍病変引き起こす(当研究会訳) 訳注2: Our Stolen Future (OSF)による解説/胎児期のフタル酸エステル類への暴露で男児の肛門性器間距離が短縮(当研究会訳) 訳注3:環境省EICネットの用語の定義
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