EWG プレスリリース 2006年10月4日
ロケット燃料 過塩素酸塩で
4,400万人の女性が甲状腺レベル低下のリスクに脅かされる

米疾病管理センターの調査が確認
過塩素酸塩(パークロレイト)は広範な公衆健康への脅威

情報源:EWG Press Release, October 4, 2006
44 Million Women at Risk of Thyroid Deficiency From Rocket Fuel Chemical
Federal Study Confirms Perchlorate as Widespread Public Health Threat
http://www.ewg.org/issues/perchlorate/20061004/release.php

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年10月8日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ewg/06_10_04_ewg_Rocket_Fuel.html


 【オークランド、カリフォルニア 10月4日】 米疾病管理センター(CDC)の驚くべき新たな調査(訳注1)は、全米でミルク、青果物、及び飲料水供給系中で検出されるロケット燃料化学物質は女性の甲状腺ホルモンを低下させることを示している。
 エンバイロンメンタル・ワーキング・グループ(EWG)の分析は、妊娠中、甲状腺障害、又はヨウ素不足の女性はこの化学物質への暴露によりリスクが高まることを見いだした。

 規制当局は、固体ロケット燃料の爆発成分である過塩素酸塩(パークロレイト)が胎児や幼児の適切な発達や成人の健康に重要な甲状腺ホルモンのレベルを低下させることがであり得るということを長年、知っていた。しかし、新たな科学的証拠が、過塩素酸塩は従来認識されていたよりもはるかに大きな公衆健康への脅威であるということを明確に示した。
 1,000以上の果物、野菜、牛乳、ビール、及びワインのサンプルとともに、ほぼ3,000人分の尿と母乳のサンプルのテストが行われた結果、人々の過塩素酸塩への暴露が広がっていることが判明した。

 本日発表された米疾病管理センター(CDC)の新たな調査は、過塩素酸塩への暴露がアメリカの女性、特にヨウ素摂取の少ない女性の甲状腺ホルモンのレベルに影響を与えていることを見いだした。CDC の研究者らは1,100人以上の女性から採取した尿サンプルを過塩素酸塩について分析し、それらの化学物質への暴露が甲状腺ホルモンのレベルを予測することができるかどうかを検証した。
 彼らは、過塩素酸塩レベル 3ppb−オリンピック用水泳プール中にスプーン1杯程度の濃度−と全ての女性の甲状腺ホルモンのある1種類との間に統計的に有意な関連性を見いだし、さらに過塩素酸塩レベルとヨウ素摂取の少ない女性の甲状腺ホルモンのある2種類との間にはもっと顕著な関連を見いだした。アメリカ女性の36%がこのヨード摂取のカテゴリーに入る。

 ”飲料水供給系中の過塩素酸塩の多くに責任アあるペンタゴン(訳注:国防省)と防衛産業は、過塩素酸塩は健康な成人に対し脅威を及ぼさないと主張して連邦政府標準規格に対して激しいロビーイング活動を行った”と、この化学物質について2000年から調査している EWG の分析者レニー・シャープは述べた。”この新たな研究は、水中又は食物中の非常に低いレベルの過塩素酸塩でも女性の甲状腺レベルに著しい影響を与えることを示している。”

 CDC の調査で尿中の過塩素酸塩の中央値はわずか2.9μg/l(μ/l は 1ppb に等しい)であった。1日の平均排尿量は約1.5リットルなので、このことはこの調査の女性はどこかで1日に約5μgの過塩素酸塩を摂取しているということを意味している。この低いレベルであっても、研究者らは甲状腺ホルモンのレベルへの影響を見いだした。しかし連邦政府の”安全用量”レベルは、この用量のほとんど10倍に近い。このことは、現在のEPAの参照用量と浄化指針は値が数桁高いということを示している。

 EWG は、連邦政府は速やかに、過塩素酸塩レベルが 0.1ppb 以上ではない飲料水基準を設定するよう主張した。このレベルは、汚染水浄化のための現状の連邦政府勧告よりほぼ250倍厳しく、また現在までのところ措置をとっている州として、カリフォルニア州とニュージャージー州(最終決定値は未定)、及びマサチューセッツ州の飲料水基準より20〜60倍厳しい。
 広範な食品汚染と一般的な暴露レベルでの甲状腺への影響を示す新たな証拠により飲料水を通じての過塩素酸塩への暴露は許容することはできない。日常の食事での不十分なヨー素摂取は過塩素酸塩の健康影響を増悪させ、ヨウ素不足は1970年代から急激に増加しているので、EWGはまた、米食品医薬品局(FDA)が食塩のヨード処理化を義務付けることを検討するよう主張する。

 アメリカで製造される過塩素酸塩の大部分は、ロケットとミサイルの固体燃料を作るために国防省によって使用されており、一方、少量の過塩素酸塩が花火や道路作業用信号炎管で使用されている。過塩素酸塩はまた、20世紀には使用されていたが現在ではその使用が制限されているある種の肥料の汚染物質でもある。

 7月に、マサチューセッツ州は、過塩素酸塩レベルが2ppbという米国初の飲料水基準を設けたが、一方カリフォルニア州とニュージャージー州は現在 6ppb 及び 5ppb の基準をそれぞれ検討中である。EPA はいずれ連邦飲料水基準を設定しなくてはならないが、24.5ppbという議論あるレベルの浄化”指針”を発表した。3月には、子どもの健康に関する連邦諮問委員会はEPAを鋭く批判し、EPA長官ステファン・ジョンソンに対する手紙に、指針は根本的な科学によって支えられておらず生涯の早い時期に神経発達計のリスクを引き起こす暴露の結果をもたらすことがあり得ると書いた。

 2003年に、EWGとリバーサイド・プレス・エンタープライズは冬レタスを店頭で購入して過塩素酸塩のテストを独立に実施し、テストしたサンプルの半分以上から汚染を見いだし、ある場合には高いレベルであった。一年後に、EWGはカリフォルニのミルクの過塩素酸塩をテストし 32サンプル中 31 にこの化学物質を見いだした。ほぼ同時期に、カリフォルニア食品農業局は秘密裏に自身のミルクのテストを実施し、収集した32サンプル全てから過塩素酸塩を見いだした。これらの調査は、汚染飲料水に加えて、食品が過塩素酸塩への重要な暴露経路かも知れないということを初めて示した。

 その後、政府と独立系科学者らによる1,000以上のテストが行われて議論の余地がなくなった。アメリカ国民は、水と食品を通じて広く過塩素酸塩に暴露している。過塩素酸塩は数百万人のアメリカ人のための水供給系を汚染している。EPAの規制されていない汚染の監視規則(Unregulated Contaminant Monitoring Rule)の下に実施されたテストによれば、22の州の160の公共水システムが過塩素酸塩で汚染されている。

 過塩素酸塩はまた広範囲の米国内生産品及び輸入産品から検出されており、高いレベルで検出されているものの中には、オレンジ、ブドウ、キイチゴ、アプリコット、メロン、レタス、トマト、バジル、ケール、ホウレンソウ、アスパラガスなどがある。この化学物質は米22州から集められた222のミルクのサンプルの98%で検出され、また数百のビール及びワインから検出された。果物と野菜が最も濃度が高かった。全体として、テストされた1,090の食品と飲料の69%に検出可能な過塩素酸塩が存在した。

 米疾病管理センター(CDC)と独立系研究者らは、多くのアメリカ人が甲状腺低下をもたらすレベル以上の過塩素酸塩を体内に持っていることを確認した。米疾病管理センター(CDC)は、全体の人口集団に対して統計的に有効な数である3,000人近くのアメリカ人の尿を採取し、一人当たり平均5.5ppbの過塩素酸塩を検出した。母乳についての学術調査は、18州の36人の女性からのサンプル全てに過塩素酸塩を検出し、その平均レベルは10.4ppbであった。
訳注1:
Urinary Perchlorate and Thyroid Hormone Levels in Adolescent and Adult Men and Women Living in the United States / doi:10.1289/ehp.9466 (available at http://dx.doi.org/) Online 5 October 2006

訳注2(参考資料):
EWG プレスリリース 2006年3月3月/ホワイトハウス 調査結果の発表を遅らせる:有毒ロケット燃料 ほとんどのアメリカ人の体内を汚染(当研究会訳)

環境毒性学化学 Vol.25, No.8 論文アブストラクト/過塩素酸塩はトゲウオに雌雄同体性をもたらす (当研究会訳)


化学物質問題市民研究会
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