米国立環境健康科学研究所ジャーナル
EHP 2009年4月号
PFOS と PFOA は不妊と関係がある

情報源:Environmental Health Perspectives Volume 117, Number 4, April 2009
Forum
Study Associates PFOS and PFOA with Impaired Fertility
http://www.ehponline.org/docs/2009/117-4/forum.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年5月9日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/09_04_ehp_PFOS_PFOA_Impaired_Fertility.html


 最近の数十年間、先進国では女性が産む赤ちゃんの数が著しく減少している。この減少の多くは社会文化的な変化と産児制限の普及によるようである。しかし、いくつかの研究は環境汚染物質への暴露が役割を果たしており、おそらく、生産力、すなわち赤ちゃんを産む能力が損なわれていることによるかもしれないと示唆している。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究者らが、妊娠するのに時間がかかった女性は、二つの一般的なフッ素化合物 PFOSとPFOA の血中レベルがより高いらしいことを発見した。

PFOSとPFOA は、布製品、カーペット、食品容器、シャンプー、焦げ付き防止鍋、殺虫剤、消火泡、その他の家庭用品、さらには産業用界面活性剤や乳化剤などの中に広く見出される残留性の高い人工汚染物質である。環境中のPFOAの潜在的な主要発生源は、これらの製品に用いられたフッ化アルコールの分解物質である。動物実験ではPFOSとPFOA の両方が流産の増加と性ホルモンの恒常性(ホメオスタシス)(訳注1)及び性的成熟のかく乱との関係を示している。以前の研究は、農薬やPCB類のような汚染物質が妊娠までの時間がかかることを関連付けていたが、今回のカリフォルニア大学の研究は、過フッ素化合物との同様な関係を示した。

 今回の研究で、研究者らは、1996年〜2002年までのデンマーク全国出生コホート(Danish National Birth Cohort)に参加した1,240人の妊婦のPFOAとPFOS血中濃度を測定した。血液サンプルは、妊娠4〜14週に採取され、女性は約12週目に、妊娠するまでにどのくらいっかったか、及びそれが計画的な妊娠であったかどうか質問された。

 母親のPFOAとPFOSの血中レベル中央値はそれぞれ5.3 ng/mL と 33.7 ng/mL であった。女性を暴露の四分位に分け、最小の四分位グループを参照グループとした。第3四分位の女性は、参照グループに比べて、妊娠するのに又は妊娠するための不妊治療に12か月以上長く要し、約2倍かかった。生理期間が不規則であるとする報告がが少し多いようであった。『Human Reproduction 2009年5月号』に掲載予定のこの研究結果は、2009年1月28日にオンラインで発表された。

 デンマークの女性で測定された血液濃度は、他の西欧諸国の集団で見出されたものと類似しており、”したがって、この結果は多分、他の裕福な白人社会にも適用可能である”とUCLA公衆健康校疫学部門の議長で研究のリーダのジョーン・オールソンは述べている。しかし、”誰か他の人が他の女性グループでこの研究を再現することが重要である”と彼は述べている。PFOS と PFOA が不妊にどのようにかかわっているのか不明であるが、化学物質が性ホルモンをかく乱し、排卵を遅らせ、又は気がつかない流産(2004年の論文『臨床婦人科内分泌学と不妊 第7版』で著者らは、女性が妊娠に気がつく前に女性の20〜49%が流産していると推定している)を起こしている可能性がある。

 このUCLAの研究は、”私の知る限り、このトピックに関して初めてヒトで行った研究である”とニューヨーク市にあるマウントサイナイ大学医学校疾病防止公衆衛生研究所のディレクター、デービッド・サビッツは述べている。この研究は、”この課題について限定された最初の調査であるが、PFOS と PFOA の生殖毒性の評価を継続することを鼓舞するものである”とサビッツは述べている。

 2006年、米EPAは、製造者に自主的にPFOAの排出と製造を2010年以前に85%削減し2010年までに廃絶するよう要請した(訳注2)。オールセンは、新たなデータは最終的に PFOS と PFOA を規制又は廃絶するための議論を強化するのに役立つと述べている。一方、米疾病管理予防センターのアントニア M. カラファトらによる EHP 2007年11月号に発表された研究は、 PFOS と PFOA のヒトの血中レベルが1999年から2000年のデータに比べて2003年から2004年のデータは著しく低減(それぞれ2 5% 及び 32%)していることを見出した。その研究の著者らは、これらの化学物質の使用と排出を削減するための政府と産業の努力がその減少傾向の最もそれらしい理由であると示唆している。(訳注3

キャロル・ポテラ(Carol Potera)


訳注1:ホメオスタシス
恒常性:出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
 恒常性、ホメオスタシス(ホメオステイシスとも)は、生物のもつ重要な性質のひとつで、生体の内部や外部の環境因子の変化にかかわらず、生体の状態が一定に保たれるという性質、あるいはその状態を指す。生物が生物である要件のひとつであるほか、健康を定義する重要な要素でもある。生体恒常性とも言われる。

訳注2
訳注3


化学物質問題市民研究会
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