EHN 2011年7月20日
撥水・撥油・防汚剤などに使われる化学物質に
より高い曝露をした子どもたちは
注意力がなく衝動的である


情報源:Environmental Health News, July 20, 2011
Children less attentive, more impulsive with higher exposure to repellent chemicals
Synopsis by Joe Braun and Steven Neese
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/newscience/children-less-attentive-more-impulsive-with-rising-exposure-to-perfluorinated-chemicals/

オリジナル論文:
Gump, BB, Q Wu, AK Dumas and K Kannan. 2011. Perfluorochemical (PFC) exposure in children: Associations with impaired response inhibition. Environmental Science and Technology
http://dx.doi.org/10.1021/es103712g

Stein, CR, and DA Savits. 2011. Serum perfluorinated compound concentration and attention deficit/hyperactivity disorder in children aged 5 to 18 years.
Environmental Health Perspectives http://dx.doi.org/10.1289/ehp.1003538

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2011年7月27日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_110720_PFCs_ADHD.html


 過フッ素化合物(PFCs)は、子どもの注意力と行動の問題に関連すると7月にオンラインで発表された二つの研究が示唆している。これらの研究は、過フッ素化合物(PFCs)と行動の問題、具体的には注意欠陥多動症(ADHD)や衝動的行動との関係を初めて探求したものである。

 ひとつは、6種類の過フッ素化合物(PFCs)を血中に高いレベルで持っている10歳前後の子供たちは衝動的であるというものである。もうひとつの報告は、過フッ素化合物(PFCs)のひとつのタイプである PFHxSの血中濃度がより高い子どもたちはADHDになる機会が増大するというものである。

 様々な製品が製造過程で過フッ素化合物(PFCs)を使用しており、その化合物はほとんど全ての人々の体内に存在する。同時に、これらの報告書は、PFC曝露のヒト健康影響を理解するためにさらなる研究が必要であることを示唆している。

何をしたか?

 先月、オンラインで発表された二つの別々の研究は子どもたちのADHDと多動及び衝動的行動を調べ、その後、その結果と子どもたちの血中のPFCレベルを比較した。

 最初の研究でブルックス・グンプと同僚等は、DRLタスクと呼ばれる一般的な行動テストを使用して衝動的行動を評価した。彼等は9歳から11歳のニューヨーク州オスウェゴ郡の83人の子どもたちを調査した。彼等はまた、6種の異なる過フッ素化合物(PFCs)であるPFOS, PFOA, PFHxS, PFNA, パーフルオロデカノイク酸(PFDA) 及びパーフルオロオクタンスルホン酸アミド(PFOSA) を測定した。鉛及び水銀DRLもDRLタスクに影響を与えるので、それらもまた分析された。

 この作業で、子どもたちは、25セントの褒美をもらうために、コンピュータ上のスペース・キーを押した。最初の3回はキーを押すと褒美がもらえたが、その後、研究者等は、子どもたちが褒美を得るためにはキーを押す前に20秒間待たなくてはならないようにした。正しくキーを押すたびに、”正しい”という表示がコンピュータのスクリーン上で点滅した。

 環境健康展望(EHP)にオンラインで発表された二番目の研究では、研究者チェリル・ステインとデービッド・サビツは2005年と2006年に実施された C8 健康プロジェクト調査からのデータをレビューした。このプロジェクトは、パーフルオロオクタン酸(PFOA)を製造していたデュポンの工場近くのウェスト・バージニア州とオハイオ州に住んでいた10,000人以上の両親と彼等の5歳〜18歳の子どもたちを検証した。同工場を取り巻く地域共同体は、水道水及び工場からの排出によるPFOAに高い曝露をした。

 研究者等は、子どもたちの血中のPFOA, PFOS, PFHxS 及び PFNA の濃度を測定した。彼等は両親に、子どもたちに学習障害があるか、又は ADHD と診断されたことがあるか、又はリタリン(Ritalin)のような ADHD 治療薬を使用したことがあるかを含む、一連の質問をした。

 両方の研究で、性別、収入、教育、及びその他のライフスタイル要素が分析で考慮された。

何がわかったか?

 この称賛すべき研究は過フッ素化合物(PFCs)と行動障害との関係を見出した。

 過フッ素化合物(PFCs)は両方の研究における子どもたちの血中から検出された。全体として、グンプらの研究の10歳前後の子どもたちは、血中に複数の化学物質を有意なレベルで持っていた。全ての子どもたちは、PFOS, PFOA 及び PFHxS を血中に持っており、これら3つの化学物質が子どもたちから測定された全化学物質の大部分を占めていた。

 同じ3つの過フッ素化合物(PFCs)プラス PFNA が C8 研究に参加した子どもたちから検出された。このグループでは、PFOAレベルが測定された4種類の化合物の中で最も高かった。驚くべきことに、PFOA濃度はこのグループの子どもたちのADHDと関係なかった。

 しかし、 より高い濃度の PFHxS は、ADHD のオッズ(odds)の増大と関連した。オッズ(odds)とはある事象が起きる可能性の指標である。事象の確率(probability)が低いときには、オッズはその確率(probability)に近づく。PFHxSに最も高い曝露をした子どもたちは、ADHDになり、ADHD治療薬を服用する可能性が60%高い。他の二つの過フッ素化合物(PFCs)は、ADHDとの強い関連性は見られなかった。学習障害と関連する過フッ素化合物(PFCs)はなかった。

 グンプらは、少し異なる研究アプローチを取ったが同様な所見を報告している。彼等の研究では、全体的及び個々のPFCレベルは、衝動的行動と関連していた。過フッ素化合物(PFCs)全体の血中レベル増大は、DRLテストで、より早い、より高い頻度の反応を示し、20分間のテストのうち最後の15分の間に、顕著に見られた。早まった反応の増大はまた、PFOS, PFNA, PFDA, PFHxS 及び PFOSA からなる5種類の個別化学物質の血中レベルに関連していた。しかし、測定されたこれらの化学物質の血中レベルは、お互いに高く関連しており、研究者等がどの過フッ素化合物(PFCs)が最も影響を与えているのか告げることを困難にしている。

何を意味するか?

 両方を併せると、これらの研究は過フッ素化合物(PFCs)への曝露が子どもの行動に与えることがありえることを示唆している。過フッ素化合物(PFCs)への曝露の影響はほとんど分かっていないので、これらの研究は、これらの化学物質への曝露のヒト健康影響をよりよく理解するために追加研究の必要性を強調している。

 異なる研究において研究者チームは、PFCs単独又は混合は子どもたちの衝動的行動を増大することができ、一方、あまりよく分かっていないPFCである PFHxS の高いレベルは10歳前後子どもたちにADHD影響を与えることを報告している。

 これらの研究は異なる方法で行なわれたことが重要であるが、両方ともに以前の発見と一貫性がある。

 グンプらの結果は、PFCの血中レベルを衝動的行動と直接的に関連付けた最初のものである。この研究の結果は過フッ素化合物(PFCs)に特有のものであるが、それらはPCB類や水銀などの汚染物質への出生前(胎内)曝露をした子どもたちのDRL能力に似ている(Stewart et al. 2006)。今回の研究のひとつの限界は、DRL能力に影響を与えるPCB類など他の有害物質が測定されなかったということである。

 C8研究によるステインとサビッツの発見は、非常に多くの子どもたちを検証し、その子どもたちはPFOAに高度に汚染していたという点で独自である。これらの結果は、PFHxS の血中レベルとADHDとの関連に目を向けた他の研究と一貫性がある。以前の研究が12歳から18歳の10代を調査しており、同様な関連性を発見している(Hoffman et al. 2010)。

 PFOSへのヒト曝露は近年、減少しているが、 PFNA のような他の化学物質への接触は減少していない(Kato et al., 2011)。測定された衝動性と可能性あるADHDとの関連は、継続する過フッ素化合物(PFCs)へのヒト曝露、特に子どもたちについての懸念を提起するものである。将来の研究は、これらの発見を確認し、姓名の初期及び子どもたちの曝露が他の健康影響をもたらすかどうか調査するする必要がある。


訳注:関連情報


化学物質問題市民研究会
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