米化学会 C&EN 2011年6月29日
過フッ素化合物(PFCs)は衝動性に関係する
産業汚染物質:
科学者は高血中濃度は注意欠陥多動症の
中心的特徴に関連することを発見

情報源:Chemical & Engineering News, June 29, 2011
DOI:10.1021/CEN062911151208
Perfluorochemicals Linked With Impulsivity
Industrial Pollutants: Scientists find that high blood levels correlate with a core feature of attention deficit hyperactivity disorder
Charlie Schmidt
http://pubs.acs.org/cen/news/89/i27/8927scene.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2011年7月2日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/c&en/110629_PFCs_Linked_with_Impulsivity.html


 ある種の農薬やフタル酸エステル類を含む増大する産業化学物質への子どもたちの曝露は、注意欠陥多動症(ADHD)の発症に関係している。現在、過フッ素化合物(PFCs)は子どもたちを衝動的な行動に駆り立てるというADHDのリスクを高めることを示唆する証拠がある(Environ. Sci. Technol., DOI: 10.1021/es103712g)。

 1950年代以来、テフロンやその他の多くの防汚性、防水性製品に用いられているPFCsは、現在、地球規模の汚染物質である。科学者等は、すでに、高濃度PFCsを運動機能発達のような神経系問題と関連付けている。昨年の12月に発表されたある研究は、血中PFC濃度とADHDの診断との間にある関連性を見つけた(Environ. Health Perspect., DOI: 10.1289/ehp.1001898)。シラキュース大学の心理学者ブルックス・グンプは、さらに一歩進めたいと望んだ。彼と同僚等は、この化学物質がADHDの中心的な特徴である衝動性にどのように影響を与えるのかに関心をもっていた。衝動性は、計画立案、言語機能制御、運動機能管理のような、いわゆる”実行機能(executive functiona)”につながる影響を及ぼす。ADHDは、実行機能の欠陥からもたらされる複雑で多面的な診断であるとグンプは述べている。PFCsが衝動性に与えるどのような影響でも特定することにより、グンプは、化学物質曝露、神経系、及びADHDにいたるプロセスという”点”をつなぎたいと望んだ。

 その研究の中でグンプのチームは、9歳から11歳までの83人の子どもたちに、指示を与えることなくコンピュータゲームを習い、遊ぶよう依頼した。このゲームには、ただひとつのルールがあった。すなわち、ゲームをする人は、ゲームを再開するにはキーボードのスペースキーを押してから少なくとも20秒間待たなくてはならない。我慢強い子どもはスペースキーを押して毎回、(ゲームで)25セントをもらったが、スペースキーを早く押しすぎる衝動的な子どもたちは、褒美がもらえなかった。”このテストは、子どもたちの反応を抑える能力を測定している”とグンプは説明する。”そして反応禁止の測定は直接、衝動性に関係する”。

 研究者等はまた、高速液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析法を用いて、子どもたちのPFC血中濃度を測定した。彼等は、血中濃度が高い子どもたちは、待てずにキーボードを押す間隔が短くなることを発見した。グンプによれば、この結果はPFCのレベルが衝動性に影響を与えることを示唆している。しかし彼は、原因と結果は不明確であると注意を促している。開始するのに衝動的な子どもたちは、製品を舐めたり噛んだりしてすごす時間が多くて、PFCsへの曝露が高くなるのかもしれない。”我々は、この関連の方向性を理解する必要がある”とグンプは言う。”それは、もしPFCsが本当に衝動性に影響を与えているなら、これは重要な公衆衛生上の発見である”。彼は、研究対象となった子どもたちは全て、血中にPFCsがあったと述べた。

 ラスベガスのネバダ大学の毒性学者マギー・ペデン−アダムスは、グンプの結果は説得力があるとコメントし、因果関係を解く次の段階が重要であるということに同意した。彼女は、次のステップは、へその緒と母親の血中のPFCレベルを測定することから始める前向き調査(訳注1)であろうと考えている。”その後、我々はこれらの子どもたちを経時的に追跡し、誰がADHDを発症するかを見つけることができ、そうすれば、子どもの血液測定に戻り、さらに胎児期曝露に戻ることができる。


訳注1:
前向き調査 (prospective study)は、因果関係を検討するための疫学調査法の 1 つ。現時点での原因への曝露の有無・程度別にいくつかの集団を設定し,将来にわたって追跡調査して結果の発生状況を比較する。例えば喫煙群と非喫煙群について,数 10 年後の肺癌発生率を比較するような場合。

後向き調査 (retrospective study)は、現時点での結果別にいくつかの集団を設定し,過去にさかのぼって原因への曝露の有無・程度などを調査し比較する。例えば肺癌患者群と健康者群について,2 群の過去の喫煙率を比較するような場合。

訳注:関連情報


化学物質問題市民研究会
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