科学と環境健康ネットワーク(SEHN)2019年12月
SEHN 設立25周年
SEHN が発表した声明の略歴


情報源: Science & Environmental Health Network (SEHN), December 2019
In Celebration of 25 Years, SEHN Statements: A Brief History
http://www.trailblz.info/ScienceEnvironmental/doc/
NgAzADgAOQA0ADkAMgA4ADMALQAxADAAMwA1ADkA0/Statements_EMagazine.pdf


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2020年1月2日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/precautionary/sehn/
1912_SEHN_Statements_A_Brief_History.html


訳注:この記事には執筆者名が明示されていないが、記事に出てくるファーストネームの使用や一人称の主語から SEHN のエグゼクティブ・ディレクターである Carolyn Raffensperger によるものと推測される。


 SEHN の過去25年にわたる仕事の多くは、様々な困難な問いによって促されてきた。”なぜ”メディアはダイオキシンの科学をそのように誤解するのか?” ”環境的決定をするためのリスク評価に対しどのような代替があるのか?” ”予防原則で具現される倫理的な問題と価値はなにか?”

 我々がひとつの答えにうすうす感づくと、その答えを検証し、中身を豊かにし、説得力のあるやり方で明瞭に表現するために、我々はしばしば領域を超えるグループの人々を招集した。我々がその答えに合意した場合には、時にはひとつの宣言又は声明を発表した。これらは、昔ながらの方法で、問題を定義し、原則を主張し、行動を求めるマニフェスト(政策表明)のように機能する。

 25年前、有害化学物質が先天異常、がん、生殖障害、そして人間とその他の生物における多くの内分泌問題と関連することを示す証拠が増大したが、完ぺきな”証明”はしばしば欠如していた。その理由は無数にあった。当時、科学者らは内分泌かく乱の全領域を調査し始めたばかりであり;会社は化学物質をテストすることを拒否し、健康影響を示すどのような研究にもしばしば異議を唱え;規制当局はリスクを評価していたが、人の健康より経済を優先しつつ、費用と便益を評価し、”不合理なリスク(unreasonable risks)”を減らすために”最も煩わしくない(least burdensome)”方法を採用することを求められた。

 その結果、非常にわずかな化学物質しか規制されなかったし、市場から取り除かれなかった。人々は職場及び消費者製品中の有害化学物質に暴露して病気になり、地域社会全体は人々が有害化学物質工場及び廃物処分場の近くに住んでいることで健康危機に直面していた。

 問いへの答えであるように見える予防原則を採用するとして、”リスク評価に対してどのような代替がて利用可能なのであろうか?”

 予防原則はドイツ語で”事前配慮(forecaring)”の意味として述べられており、グリーンピースを通じて、及び環境史家でレイチェル環境健康(週刊)ニュースの出版者であるピーター・モンターギュの書き物を通じて訳注1)、アメリカに少しづつ伝えられ始めた。
(1/7)


 1997年には予防原則をどのように実施するかについて説明する書き物はほとんど存在しなかった。そこで我々は、多様な背景をもつ人々を国際的なひとつのグループにし、どのようにして予防原則を意思決定のための使用可能なツールにするか議論するために ”1998年予防原則に関するウィングスプレッド会議”を招集した。そして我々は予防原則に関するウィングスプレッド声明訳注2)を発表した。これは長く持ちこたえる文書であることがわかり、政府、研究者、非政府組織、及びビジネスにより広く使用されている。ウィングスプレッド声明の中の重要な節:”ある行為が人間の健康あるいは環境への脅威を引き起こす恐れがある時には、たとえ原因と結果の因果関係が科学的に十分に立証されていなくても、予防的措置(precautionary measures)がとられなくてはならない”。

”ある行為が人間の健康あるいは環境への脅威を引き起こす恐れがある時には、たとえ原因と結果の因果関係が科学的に十分に立証されていなくても、予防的措置(precautionary measures)がとられなくてはならない。”
ウィングスプレッド声明

 この定義は広く引用されており、言葉通りに法や規則の中に記述されている。サンフランシスコは、予防原則を採用した条例を2003年に採択し、後年、複数の後続の条例を採択した訳注3)。

 ウィングスプレッド会議の後に、我々はその原則の可能性をどのように完全に実現するかについて取り組んだ。我々は主に科学的不確実性のあらゆる次元に焦点をあてた。テッド・シェトラーと私(訳注:キャロリン・ラフェンスパーガー)は、特にそれが公衆の健康と環境に関連する時に、”科学的不確実性”という単句によってカバーされるより深い概念をもっと完全に理解するために科学哲学を研究した。しかし何かが抜けていた。
(2/7)


”生態系を保全(conserve)し、絶滅種を保護(preserve)するために今日、行動を起こさなければ、著しい社会的及び環境的コストを明日、支払うことになる。”
ミズーラ声明

 これらのなるほどと思う瞬間のひとつに、国立健康研究所(NIH)のある科学者がした、予防原則は倫理を認識論と結びつける最初の決定規則であるという何気ないコメントがある。倫理。それは見えなくなってしまっていた!。だから環境法及び環境政策は科学に焦点をあてるが、科学は我々が何をなすべきかを告げない。

 我々は、予防原則の潜在的な価値を検証するために、もうひとつのワークショップを招集し、本質的価値に関するブルーマウンテン声明 2000 を発表した。

 同時に我々は、その原則を保全と野生生物問題に適用して活動を開始した。保全生物学者らは彼らの分野を危機的領域として扱っており、予防原則は不確実性に直面して予防的行動をとることを認可した。かくしてミズーラ声明:不確実性に直面した保全決定 2000、及び予防原則と生態系に関するアイシクル川声明 2001 が発表された。

 我々の全ての仕事における統一概念は、人間の健康は自然界に深く絡み合っているということであった。灰色熊が栄えれば、人間も栄える。ミズリー川がうまく流れれば、羊水も赤ちゃんをうまく育む。アマゾンの雨林(地球の肺)が健全ならば、我々の肺も健全である。しかしこれは医学または健康管理の分野で優勢な考え方ではなかった。医学と公衆健康の分野は広く分化している。そこで我々は環境医学の中心的な概念を開発するために会議を招集した。後に我々は次のように述べた。
(3/7)


 ”環境医学は、生態系、住民、地域社会、及び個人の介護と健康を調整するための調査と行動の新たな分野である。地球の生態系の健康は、全ての健康の基本である。人口圧力、資源乱用、経済的私欲、及び不適切な技術という形の人間影響は、急速に環境を劣化させている。この影響は次々に人間と生態系の貧困と病気の新たなパターンを生成している。生態系の健康、公衆の健康、そして個人の健康の中の緊張は、21世紀の初めに限界に達している”。環境医学声明:調査と行動の要請 2002 から

 その限界は永続する影響をもたらすであろう。我々は、現在のだけでなく将来の世代にも影響を及ぼすであろう環境的限界に直面している。先住民環境ネットワーク(IEN)の我々の仲間たちは将来志向性をもつ予防原則は実際に、7世代先のことを考慮して意思決定をすることを求める昔の先住民の意思決定の考え方であるという点を強調した。IEN と SEHN は会議を開催し、 7世代への責任に関するベミジー声明、2006年7月6日を発表した。

”価値は行動にふさわしい。あまりにも多くの我々の行動が、我々の地球を、我々の地域社会を、そして我々の心を殺している。”
ブルーマウンテン声明

 それから我々は、清潔で健康な環境を引き継ぐべき将来の世代の法的権利を認めるための法的枠組みを開発するためにハーバード・ロー・スクールの国際人権センターに向かった。我々はこれらの権利を認めるための法的枠組みを作り出した二つの報告書を生成した。我々は、政治機関が採用できる憲法条項、法律、そして制度モデルを含めた。

 我々は将来世代の権利に関して活動を続けながら、我々は現代の最悪の環境問題の多くは単に 7世代だけではなく、1万世代を脅かすという厳しい事実に直面した。すなわち、多くの永続する問題の中でも特に、高レベル放射線廃棄物、気候変動、そして採鉱廃棄物である。
(4/7)


 キャロリン(訳注:キャロリン・ラフェンスパーガー SEHN 執行ディレクター)は、カナダ、ノースウエスト準州イエローナイフ近くのジャイアントマインの永久的懸念に関する原則(Principles of Perpetual Care for the Giant Mine near Yellow Knife in the Northwest Territories of Canada)に関するプロジェクトを支援するために呼ばれていた。イエローナイフ市と近くの先住民(ファースト・ネーション)は金鉱山からの数千トンの有毒な三酸化二ヒ素により汚染されていた。そのヒ素は少なくとも25万年間危険であるらしい。どのようにして我々はそのように遠い将来の世代を守ることができるのか?

 我々が、永久的懸念(Perpetual Care)の原則を書く準備をしている時に、我々は高レベル放射性廃棄物から将来世代を守るためのひとつの方法を提案していたジョアンナ・メイシーに相談した。それは、我々が残したままにしてきた恐ろしい遺産を警告し、それから将来の人間を守る任務を負うことになる保護者(guardians)を指名することであった。

”生態系は我々が知ることができる以上にもっと複雑なので、我々の自然との関係は対話でなくてはならない。我々は、謙遜と勇気の両方をもって、影響を調査し、適切な適応をしながら全ての行動を行わなくてはならない。”
アイシクル川声明

 その会議からは離れて、我々は現在の世代が将来の世代のために持つ責任を検討するために女性たちを集めることを決定した。女性たちは、将来の世代を生む独自の責任を有するが、彼女らの声は公開政策討論の場ではしばしば聞かれない。我々は、将来世代のための 3人の女性の議会を開催した。その最初の女性議会で我々は、将来の世代の権利と現在の世代の責任についての宣言を発表した。我々は、女性及び男性として共に立ち上がり、次のように述べた。

 ”我々は、考え方の共同的な明確な表現を通じて、そして政策に影響を及ぼすために、将来の世代のための市民の権利運動を元気づけることを求めている”。

 ”我々は、自然と将来の世代の権利、及び自然と将来の世代のための法的な保護者を認める新しい制度、考え、及び法律を求めている。多くの文化、特に先住民の文化はこれらの原則を 1000年間、実践してきた。今、これらのことを思い起こす時である。人類は重要で大きな変化を受け入れることができる。その能力をいつ実行するかは我々次第である。
(5/7)


 ”我々は、世界を危険にさらしている制度と実施から我々の同意を取り下げる”。

 我々は、全ての水の権利宣言の中の第2回女性議会において、同意を与える/保留するというその基本的な考えを拡張した。どの政府の合法性も統治される人々の同意に依存している。水は世界中で脅威にさらされている。ミシガン州フリントンからミズーリ川へ、ガンジス川へ、オガララ帯水層へ、太平洋へ。水がよければ、全ての赤ちゃんの羊水もよい。

 これらの声明と宣言の全ては、これらの呼びかけを行動に移すために膨大な量の活動をもたらした。我々は政府機関とともに働き、本を書き、研究者らと協力し合い、草の根グループに技術的専門家として招かれ、役目を果たした。

”人間と生態系の健康は、定常状態ではないが、回復力により動的状態を示す。医学及び生態系科学と管理は、人間と生態系の健康自身を守り、回復し、いやすために、生物系の固有の力を促進し回復することに注力すべきである。”
環境医学声明

 我々が書いた書籍類は、ここでの特別な紹介に値する。テッド・シェルターは、予防原則の使用について暗示的に順序だてて説明し、健康のための生態学的な枠組みの我々の探査を紹介したいくつかの本の著者又は共著者である。我々は予防原則に関する2冊の本を書いた。

 我々は、これまでに行ったすべての作業に関し、我々の次の作業の骨格を構築するであろう。2020年及びそれ以降のひとつの主要なプロジェクトは、政府の主要な目的は、”自由市場”を守ることではなく、全ての人々が目標に向かって前進し、力強く成長し、幸せを追求することができる状況を作り出すことであるという考えの中核を確立することである。この基本的な考えは、全ての問題に関する社会正義の主張のために、新たな言語、議論、及び機会を作り出す。
(6/7)


”人間として我々は、全ての水の権利を擁護すべき、そして我々の自由な事前の告知に基づく同意を与えるべき我々の責任を全うしない、水系の修理、修復、及び保護の実施から、我々の同意を取り下げる責任がある。”
全ての水の権利宣言

 政府の主要な責任は自由市場を高めることであると言われて 50年経つが、我々は現在、このことは公衆の健康、自然界、及び民主主義にとって悲惨であということ証明していることを知っている。それどころか社会正義の主張は、主な役割が自由市場の擁護である政府の新自由主義の見解の広がりに異議を唱えることがほとんどない。

 我々は、政府を考え直しており、民主的統治の諸原則を詳細に説明しており、人を食い物にする会社や縁故資本主義者ではなく幸福と国家の優先を主張している。これらの諸原則は、政府から会社を切り離す根拠、経済に対する政府の適切な関係についての記述、そして一人一票の原則に基づく民主主義の基本的な概念の詳細な検討を含む。我々は、全ての社会正義擁護者のために新しい言葉、議論、そして戦略を開発することを意図しつつ、これらの原則を調査し、書き、設計し、実施するための思想家、擁護者そして活動家の多様なグループを集めている。

 我々は、この新たな政府再考プロジェクト(new re-imagining government project)の進捗状況をお知らせしていくつもりである。我々はそれに関するあなた方の考えと、現在いただいているあなた方の財政的支援を歓迎する。この 25年間の活動を可能にしたのはあなた方である。どうもありがとう。

”我々には、危害ではなく健康のためシステムに置き換え、それを再考し、作り出す責任がある。”
将来の世代の権利と現在の世代の責任に関する宣言

(7/7)

訳注1:ピーター・モンターギュ
 当研究会ではレイチェル・ニュースとして、全1,000号の一部、115号分を日本語訳して紹介している。 訳注2:ウイングスプレッド声明
訳注3:サンフランシスコの予防原則
訳注:SEHN が発表した声明一覧


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