科学と環境健康ネットワーク(SEHN)2009年10月
レイチェル・プレコーション・レポーター(RPR)#187
米政府 携帯電話使用の危険性についての公聴会を開催
ハーブ・デネンバーグ

情報源:Rachel's Precaution Reporter Number 187, Oct 2009
Government Holds Hearings Over Cell Phone Use Dangers
by Herb Denenberg, The Bulletin (Philadelphia), September 20, 2009

http://www.sehn.org/rpr187.html#T2

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年11月8日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/precautionary/sehn/0910_RPR_187_Hearings_Cell_Phone.html


 議会は、アメリカ人2億7,000万人と世界の40億人が使用する携帯電話の危険性に目を向けるために数十年の長きにわたる休眠から目を覚ました。9月14日、米上院は携帯電話使用の健康影響に関する公聴会を開催した(訳注1)。公聴会は上院議員トム・ハーキン(民主・アイオワ)を議長とし、自身が携帯電話の使用によって引きこされるかもしれないと研究が強く示唆する多くの医学的疾患のひとつである脳腫瘍の患者である上院アレン・スペクター(民主・ペンシルベニア)によって要求されたものである。

 C-spanのウェブサイトから公聴会の完全なビデオと速記録を見ることができるが、公聴会が開かれる前には長年の論争と議論があったのに、公聴会が終わると、どのような責任ある人々も痛いほどに明白な結論をもってこの公聴会を後にした。我々は携帯電話の使用ががんやその他の医学的問題を引き起こすかどうかわからないが、もっと確実性をもってわかるまで、予防原則と呼ばれるものを適用する方がよい。すなわち、我々は携帯電話の使用を最小にし、放射源を耳や脳の直ぐそばに近づけないようハンドフリー携帯電話を使用するよう試み、子ども達による携帯電話の使用は厳しく制限するようにすべきである。子ども達は携帯電話放射の影響に対して大人より脆弱であり、そのような放射の累積影響に直面する期間が長い。その結果、フランス政府は実際に子ども達の携帯電話の使用を制限することに取り組んでいる。

 問題の核心はフィンランドの放射防護の権威ダリウス・レスジンスキーによって述べられた。公聴会で彼は次のように証言した。”現状の科学的不確実性の下では、携帯電話の使用は安全であると述べることは早すぎる”。スペクター上院議員はこのことを次のように述べた。””我々は何が答えであるか分からない・・・。予防は悪い考えではない。そして子どもたちの問題にはもう少しよく目を向けるべきである。我々には子どもたちを保護するためになすべきもっと多くのことがある”。

 イスラエルの疫学者、シーガル・サデツキーはいわゆるインターフォン研究(訳注2)における発見を概説した。”私が懸念することは、私の研究では常に一貫した肯定的結果を得ており、それらは常に生物学的にありそうなことに見えたということである。それらは10年以上の使用歴のある古いグループの中で見られ、それらは受信機を保持するのと同じ側に現われ、それらはよく使う人々の中に見られ、都会に比べて田舎で見られ(このことは田舎では通信のための放射量は都会より多いので生物学的にありそうなことであり)、・・・。そこで、これらの兆候の全てが現れるべき所に現れているという事実が、それは本当に赤信号であると私に伝えているように見える。しかし一人の科学者として、それは因果関係を決定的に示すためには十分ではないと考えるが、私の判断によれば、その兆候は予防原則を勧めるために十分である”。

 携帯電話産業界の代表として、移動通信産業協会(CTIA)のリンダ・エルデリッチは、いつもの不合理な産業側界の立場を固執した。”現在の科学的証拠は無線電話ががんやその他の有害影響を引き起こすということを示していない”。しかし、そのことは問題ではない。我々が科学的確実性をもって携帯電話の完全な医学的影響を知るのに数十年かかるるかもしれない。しかし、これは単に科学的な問題というだけでなく、公衆の健康に関わる問題でもある。そして、どこの放射関連公衆衛生当局も携帯電話の使用による脳腫瘍のような深刻な健康影響があるかもしれないということを示唆する証拠が積み重なることを見るであろう。したがって、科学的研究からのもっと決定的な言葉を待つ間、我々は予防的措置をとることを勧める。まさにタバコの場合がそうであったように、公衆健康当局は予防的措置を取ることなくタバコの健康影響を示す最後の科学的研究まで待つ−というようなことはすべきではない。

 ルイス・スレジンはマイクロウェーブ・ニュースの編集者で長年の論争をフォローしており、この問題に関する世界の第一人者であり、携帯電話放射と関連事項に関する情報発行の第一人者であるが、彼は疫学者ががんの傾向を詳細に検証するまで我々は最終的な回答を得ることはないかもしれないと述べている。がんは10年以上の潜伏期間を持つかも知れない。将来のある時点で脳腫瘍の急激な増加があれば、我々は決定的な答えに近づいたといえるかもしれない。過去10年間ですでに脳腫瘍の増大が特に若い人々20〜29才の中に見られる。

 スレジンはまた、この問題について今まで議会のリーダーシップはなかったと述べている。事実、1992年、上院議員ジヨー・リーバーマンと上院議員クリス・ドッド(両者とも民主・コネチカット)は、The Effects of Traffic Radar Guns on Law Enforcement Officersに関する公聴会を開催した。レーダー銃による放射は携帯電話による放射と同じである。レーダー銃と携帯電話の両方ともマイクロウェーブ放射とも呼ばれるものを放射する。当時、上院議員リーバーマンとドッドは、警察のレーダー使用とがんとの関連についての疫学研究をするよう国立労働安全衛生研究所(NIOSH)に要求した。上院議員リバーマンは、”上院議員ドッドと私は何らかの答を得るまではこの問題に固執するつもりだ”と述べた。しかし、NIOSHはこの研究を決して実施せず上院もフォローしなかった。これは、”話だけでフォローなし”という通常の議会と政府のアプローチである。

 残念ながら、これが国及び州レベルにおける議員の典型である。私は30年間私が調査で明らかにした問題に目を向けるよう議員に要求しているが、この深刻な問題に一貫して留意し、フォローし、この問題を改善するためにほとんど常に何らかの法的措置をとってきたのはたった一人の上院議員だけであった。その議員はペンシルベニア州上院議員スチュワード・グリーンリーフ(共和・モントゴメリ郡)である。

 スレジンは、携帯電話使用の問題に関し真のリーダーシップを発揮した議員はいまだかっていないと述べている。ほとんどの議員のように、彼らは公聴会又はその他の表明において広報(PR)には出てくるが、上院議員グリーンリーフのようなやり方と一貫性をもってフォローアップすることはない。スレジンは、上院議員ハーキンはこの問題に関してよく説明を受けており、この公聴会を手腕とノーハウをもって舵取りをし、必要とされる国のリーダシップを発揮する能力を確かに持っている。しかし、彼がそのようにするかどうかは今後を見なければならない。スレジンはまた、携帯電話の使用に予防原則を適用することについて、ヨーロッパはアメリカよりもはるかに進んでいると指摘した。

 携帯電話の安全性問題についての私の十年以上の観察で、携帯電話使用に予防原則を適用していないこと又は公衆に対して適切な警告を発していないことは国家の恥であると私は結論づけた。食品医薬品局(FDA)と国立健康研究所(NIH)は措置をとることを拒否し、携帯電話の安全性について深刻な問題があるということを認めることすらしない。彼らはこの数年間この国家的不面目を許し続けた人々の先頭にいる。すくなくとも、我々は携帯電話とマイクロウェーブ放射シナリオからいくつかの重要な教訓を得ることができる。政府がその明白さを認め、明白な措置(この場合には予防原則)をとるのに時には数十年、さらには数世紀かかるということである。もうひとつの教訓は、この最も単純な問題を解決することができないのは、経済の6分の1を占める我々のヘルスケア保障制度の改革に今、取り組んでいるのと同じ議員及び政治家たちであるということである。この最も単純な問題解決に彼らが失敗するなら、彼らが最も複雑な問題のひとつを解決しようとしていることに用心する方がよい。

 もうひとつの問題はニューヨーク・タイムズのようないわゆる主要メディアに関する教訓である。それは、偏見、不正、詐欺まがいのジャーナリズムを重量級の無能なジャーナリズムと結びつける。長年、この問題に関する最も包括的で信頼できる報告をしているのは、スレジンのマイクロウェーブ・ニュースからのものである。彼らはニューヨークタイムズやワシントンポストに授与された全てのピューリツァー賞をスレジンに与えるべきである。

 一方、公衆は予防原則を携帯電話の使用に適用し、上院議員ハーキンやその他の議員に連邦政府の健康安全当局がこの問題に合理的なアプローチをとるように圧力をかけるよう助言を十分に与えられるべきである。上院議員ハーキンは公聴会の結論で次のように述べた。”私はこの問題が本当に興味深く非常に課題あるものであることが分かり、私は何らかのフォローアップを行うであろうことを請合うことができる”。私はこのフォローアップが上院議員リーバーマン及びドッドの時よりよいことを希望するが、私の経験によれば、それは頼るには心もとない細いアシのようなものであることを知っている。

ハーブ・デネンバーグ(Herb Denenberg)
http://thebulletin.us/


訳注1:米議会公聴会関連情報

訳注2:INTERPHONE studyに関する参考情報


化学物質問題市民研究会
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