欧州環境庁(EEA)2013年1月 レイト・レッスンズ II
1. はじめに

情報源:European Environment Agency
EEA Report No 1/2013 Part A Summary
1 Introduction
http://www.eea.europa.eu/publications/late-lessons-2/late-lessons-2-full-report/late-lessons-ii-chapter-1-introduction

紹介:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico
掲載日:2013年2月22日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/precautionary/LL_II/01_Introduction.html


なぜ、さらなる早期警告からの遅ればせの教訓なのか?

 2013年の報告書 早期警告からの遅ればせの教訓 は、広範な外部の著者と査読者の協力を得て欧州環境庁(EEA)により作成されたこ第2巻目の出版物である。

 第1巻目である2001年に出版された早期警告からの遅ればせの教訓:予防原則 1896-2000 (訳注:日本語版:松崎早苗 監訳 水野玲子・安間武・山室真澄 訳  七つ森書館 発行)は職業的及び公衆の健康と環境の危険性として選ばれた事象の歴史に目を向けるものであり、危害を防止するために十分早く行動を起した方が良かったかどうかを問うた。よりよい意思決定のための12の重要な教訓が、科学的不確実性と”驚き”という背景に対して公共政策が形成され、人々と環境への危険性の明確な証拠がしばしば無視された事例から引き出された(末尾のリストを参照)。

 2001年報告書の14の事例研究と12の重要な教訓は今日でも極めて的を射たものであり、第2巻目である今回の報告書の4つの主要な理由を強調している。第一の理由は、ガソリン中の鉛、水銀、環境タバコ煙、及びDDTのような広範な社会に関わる影響をもつ長らく知られている重要な追加的問題や、避妊用ピルによる魚のメス化への影響や殺虫剤のミツバチへの影響のような、もっと最近出現している教訓についての問題に、遅ればせの教訓アプローチを拡張することに関連している。

 第二の理由は、政府の規制が予防に基づきとられたが、後に不必要であったことが判明した誤った肯定(false positives)の問題を分析することにより、2001年報告の中で認識されていたギャップを埋めることに関係する。この早期警告からの遅ればせの教訓の報告書で検証された事例のほとんどは、早期の警告が存在していたのに予防的行動がなにもなされなかった、誤った否定(false negatives)の例である。

 第三の理由は、携帯電話からの電磁界放射、遺伝子組み換え製品、ナノテクノロジー、及び外来種の侵入のような新たな社会的課題の急速な出現及び、予防的な行動が、どのように、どこで、ある役割を果たすことができるかに目を向けるためである。

 最後の理由は、どのようにして予防的アプローチが、世界が今日直面している急速に変化する多様で体系的な課題を管理することに役立つことができるのか、どのような新たな識見がこの文脈で引き出すことができるのか、そして、どのようにしてこれらが持続可能な革新のための機会を強化することができ、情報技術及び自身の選択によるもっと強化された公衆参加により支えられるのか、ということに関連する。

全体的なアプローチ

 第1巻目と同様に、第2巻目のアプローチは、外部の著者等により生成された広範な関連する事例研究をもとに報告書編集チームにより書かれた各章を含む((詳細については謝辞を参照のこと))。事例研究の取扱いに関連するトピックスは、編集チーム及び諮問委員会、EEA科学委員会、及びコレギウム ・ラマジニ(Collegium Ramazzini)[1])と協力して、編集者からの助言に基づいて選択された。

[1] The Collegium Ramazzini is an independent, international academy founded in 1982 by Irving J. Selikoff, Cesare Maltoni and other eminent scientists. Its mission is to advance the study of occupational and environmental health issues and to be a bridge between the world of scientific discovery and the social and political centers, which must act on the discoveries of science to protect public health.

 第2巻目の各章は5つのパートに分類されている。パートA. 健康に及ぼす有害性からの教訓;パートB. 生態系から新たに出現している教訓;パートC. 新たに出現している問題;パートD. コスト、正義、革新;パートE. 科学と統制の意味合い。

 各章は、程度の差はあるが対象とする領域について十分に関与した著者により書かれている。実際に、もし執筆を依頼された事例について既に広範に研究していなかったなら、彼等は依頼されなかったであろう。その分野で尊敬される専門家として、また彼等の専門的な科学的訓練と調和して、彼らの全てはEEAにより示された質問に可能な限り客観的に答えることを期待された。このことを支えるために、そして各章間の一貫性を保つために、著者等は彼等の章を構築するときに従うべき7つの構造的な質問を示された。

 事例研究は、それぞれの分野で認められている専門家により素読され、彼等はEEAにより提供された一式の編集用ガイドラインの範囲内で、自由な時間に彼等のフィードバックを与えた。

範囲

 この報告書は、特に政治家、政策決定者及び公衆に対して、下記について役立つよう、設計され、構成され、書かれている。
  1. 科学的知識が、資金が裏づけられ、生成され、評価され、無視され、使用され、誤用される仕組みと、害の少ない革新を促進し有用な雇用を生成する一方で、いかに危害を低減するかについての予防的決定をよりよく理解すること。

  2. 現在、及び将来、特にナノテクノロジーや携帯電話のように比較的新しく、知られていない部分が多いが、既に広まってしまった技術について、社会がおかす誤りを少なくすることに役立てるために、過去におけるいくつかの非常に高価な”誤り”から学ぶこと。

  3. 有害な技術のために行動する/しないコストが見積もられてきた歪曲された方法、及びあるビジネスが早期の警告を無視し、素のような警告を支持する科学について疑いを作り出すのに果たしてきた役割のような、よく見えないが重要な要素を知ること。

  4. 法律又は管理的手はずが、不十分に設計された又は不具合に展開された革新により危害を与えられている、又はその可能性のある人々に対して、正義を果たすために、いかによく用いることができたかを検討すること。

  5. 公衆を、市民科学を通じて生態系管理及び長期的監視はもとより、革新への戦略的選択、及び彼等の技術的及び社会的経路を作成するのを支援するために、どのように最もよく関与させるかを探求すること。
 報告書のパートAは、誤った肯定(false positives)の分析を行い、それは、誤った否定(false negatives)と比較するとはるかに少なく、たとえそのリスクが真実ではない、あるいは当初恐れられたほどには深刻ではないことが判明しても、注意深く設計された予防的行動は革新を促進することができることを示している。残りの9つの章は、誤った否定(alse negatives)−ガソリン中の鉛、パークロルエチレン(PCE)で汚染された水、水俣病、職業的ベリリウム症、環境タバコ煙、電化ビニル、農薬DBCP、ビスフェノールA、農薬DDTであり、それらから3つの共通のテーマが出現する。もっと早い行動のための十分な証拠;素の製品が作業者に危険をもたらすビジネスによるり緩慢で時には妨害的な行動;独立系の科学的研究とリスク評価の価値。

 パートBは、自然系の悪化からの新たに出現している教訓とそれらの社会への広範な影響に焦点をあてている。−増強殺生物剤;ピルと魚のメス化;気候変動;洪水;殺虫剤とミツバ;生態系と回復力管理である。前のものと同様に、行動する/しないためのベースとしての科学的証拠の問題、多様でしばしば複雑な要素と活動におけるフィードバック、その多くは十分には理解されておらず、また科学、政治、及び社会の相互作用、そして全ての利害関係者がどのようにして高まる全体的なリスク及び実質的な不知という文脈で必要な行動に向けて一緒に動くことができるかを検討する。  パートCは、いくつかの新たに出現している大規模な製品、技術及び傾向を分析しており、それらは潜在的に多くの便益を提供するが、同時に人々と生態系に、したがって最終的には経済発展に潜在的に有害である。対象とされた事例は、チェルノブイリとフクシマの原発事故;遺伝子組み換え作物と農業生態学;侵入外来種の増大する脅威;携帯電話と脳腫瘍リスク;ナノテクノロジーである。こえらの新規に出現している技術の管理を支援するための科学はほとんどなく、直接的な後知恵も非常に少ないが、もし有害性が回避されるべきなら、この歴史的な事例研究からの教訓は適用される必要がある。

 パートCの各章からの証拠は、概して、社会はその歴史から苦労して収集することができる高価な教訓を最大限には利用していないということである。下記を含んで行動が遅れる多くの理由が事例研究から特定されるなら、重要な疑問は、どのようにしてこれを改善することができるのかという点である。すなわち、問題自身の新規で挑戦的な特性;不適切に又は一貫性なく評価された情報;その時の企業や科学界による強い反対;そのままの状態及び短期的展望を好む意思決定の制度、方法及び文化。本章はまた、技術的経路の方向、利益、コスト及び知識の所有の公平な配分、及び局所的に感受性の高い技術的選択肢の多様性が食料、エネルギー及び生態系の危機に関連性があることを確実にする革新へのトップダウンアプローチと共にボトムアップアプローチの価値を描いている。

 この歴史的な各章は、その多くが責任を持たない会社によって引き起こされた多数の危害を描いている。早期の警告にいつ行動するべきかに関する政府の決定方法及び危害の犠牲者をいつ補償するようになるのかという法律の欠陥とあいまって、この事実は報告書のパートDで分析されている。それぞれの章は、そこで行なわれている実践の背景にある理由を分析し、次に、例えばいかにコスト計算手法が改善できるか;保険スキームが将来の危害の被害者を補償するために利用することできるのか;そしてなぜビジネスがしばしば早期の警告を無視するのかに関して識見を提供している。

 パートAからパートDに示される事例は、パートEで、科学のための統制の意味合い、公共政策と公衆の関与、及び、社会が革新の便益を最大化する一方で、危害を最小化すること可能にするために、どのように現在のやり方を改善することができるのかということを建都するベースの一部を形成している。主要な識見は、科学は予防的意思決定にもっと関連性があり得る;予防原則のより広い利用は危害を回避し、革新を促進する;そして歴史の遅ればせの教訓と予防的アプローチは、財政、経済、生態系の利用、気候変動、そしてエネルギーと食料の使用と供給のような、今日の多様な相互に関連する危機に極めて関連性がある。

 最後に、多くの歴史的及び最近の事例研究は、公衆が知識ベースを広げ堅固な革新を促進することに関与することの価値を描いている。


12の遅ればせの教訓

早期警告からの遅ればせの教訓(EEA, 2001)第1巻の事例研究に基づき、よりよい意思決定のために12の重要な教訓が引き出された。
  1. 技術的評価と公共政策の策定において、不確実性とリスクのみならず、無知も認め、配慮すること
  2. 早期警告に適切で長期的な環境と健康の監視及び研究をすること
  3. 科学的知識にある「盲点」と欠落を特定し、対応すること
  4. 学習に対する分野間の障害を特定し、減らすこと
  5. 現実の世界の状況が規制の評価に適切に考慮されることを保証すること
  6. 主張されている正当性と便益を潜在的なリスクと共に系統的に検証すること
  7. 評価中の選択肢とともに必要に合う広範な代替案を吟味し、予想外のコストを最小にし、革新の便益を最大にするために、堅実で、多様性があり、適用可能な技術を推進すること
  8. 評価において関連する専門家の専門性のみならず、”普通の人”と地域の知識の使用を確実にすること
  9. 異なる社会グループの前提と価値を十分に考慮すること
  10. 情報と意見に対する 全てを含んだアプローチを保持するとともに、利害関係者の規制的独立性を維持すること
  11. 調査と行動に対する制度的障害を特定し、減らすこと
  12. 合理的な懸念がある場合には、潜在的な危害を低減するために、分析による麻痺に陥らないようにすること

Source: EEA, 2001, Late lessons from early warnings: the precautionary principle 1986.2000, Environmental issues report No 22, European Environment Agency.



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る