ナノテク研究プロジェクト
ナノ食品・ナノ農業

安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年12月30日
更新日:2010年 4月15日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/project/nano_food_agriculture.html

はじめに

 本稿ではナノ技術の食品及び農業への適用について詳細に解説した「ナノフォーラムの報告書」及び「地球の友(FoE)グループの報告書」から、ナノ食品とナノ農業の概要と論点を紹介します。当研究会はこれらの報告書の全文を日本語訳しているので、詳しい内容を知りたい方は是非そちらもをご覧ください。

1.ナノ技術による食品・農業に関する報告書

1.1 ナノフォーラムの報告書
 欧州委員会(EC)のナノテク・インフォメーション・ネットワークであるナノフォーラムは2006年4月に『農業及び食品産業におけるナノ技術』[1](以降、「ナノフォーラム報告書」)を発表しました。この報告書はナノテクを推進する立場から書かれたもので、農業・食品産業の分野でナノテクがどのように適用可能であり、どのように将来性があるかを丁寧に解説しています。ナノテクを推進する側の思考を理解する上でも大変参考になります。

1.2 地球の友(FoE)グループの報告書

Nanotechnology in Food & Agriculture
Friends of the Earth Australia
 『食品と農業におけるナノテクノロジー 研究室から食卓へ』[2](以降、「地球の友(FoE)報告書」)は、国際NGOである地球の友オーストラリア(FoE-AU))が中心となり、同グループのアメリカ、ヨーロッパ及びドイツが支援して、2008年4月に発表した報告書です。安全基準、表示義務、規制、管理がないままに、世界中で、ナノ化した栄養成分、食品添加物、抗菌物質などが、加工食品、飲料、容器包装中で使用され、またナノ化された農薬、植物成長剤、防カビ剤、種子処理剤等も既に使用中又は開発中であるとして、食品及び農業におけるナノの問題を考察し提起しています。地球の友は、既に市場に出ている104種のこれらの製品を特定し、リストにまとめています。
 ナノテクノロジー及びナノ物質がもたらす問題は、安全性の確認されていないナノ技術やナノ物質の危険性だけでなく、そのような技術や物質を安全基準なしに市場に出すことを許す市場経済優先の仕組みや、さらには、ナノが私たちの食生活や地域の農業などに及ぼす社会的影響についても批判的に、しかしわかりやすく、議論を展開しています。
 報告書の議論は、発表されている世界中の膨大な論文に基づいており、参照文献として報告書の末尾に示されています。

2.食品産業におけるナノ技術
2.1 ナノ食品の定義
 「ナノフォーラム報告書」によれば、ナノ技術又はツールが、食品の栽培(培養)、製造、加工、又は包装のいずれかの工程で使用されることであるとしています。それは原子を操作した食品又はナノマシンによって製造された食品であることを意味していません。

2.2 ナノ技術の食品への適用
 食品の着色、フレーバー、栄養添加物、食品容器包装の抗菌成分などに現在使用されていますが、「ナノフォーラム報告書」によれば、近い将来は情報処理機能(スマート)を持つ容器包装、要求に応じた保存と相互作用食品などが実現されると言われています。要求に反応する食品の概念又は相互作用する食品の概念は、消費者が自身の栄養的必要性や味覚の好みに応じて食品を自由に変えることができることを意味します。この概念は、風味又は色強化剤、又は添加栄養素(ビタミンなど)を含んだ数千のナノカプセルが食品中で待機(休眠)しており、消費者によって選択されたときにのみ活性化するというものです。

 「地球の友(FoE)報告書」は、現在、既に食品に適用されているナノテクの具体例については次のように説明しています。
  • ビタミンや脂肪酸などのナノカプセル化された活性成分が、飲料、肉、チーズ、その他の食品の加工と保存用に加えられている。
  • ナノ粒子と数百ナノメートルの粒子が、加工段階の流動特性(注ぎ易さ等)や色の安定性改善のために、又は保存寿命を長くするために、多くの食品に加えられている。
  • アルミノ・シリケートが粒状又は粉状加工食品で固化防止剤として使われており、二酸化チタンを成分とする鋭錐石は食品漂白及び光沢添加剤として、菓子類、一部のチーズ、ソースなどに用いられている。
  • ナノ粒子と300nmまでの粒子が栄養添加物として使用されている。
  • 乳製品、穀物食品(シリアル)、パン、飲料は、ビタミン、鉄、マグネシウム、亜鉛などのミネラル、酸化防止剤、植物性ステロール、大豆などで強化されているが、これら活性成分のあるものは、ナノ粒子又は数百ナノメートルの粒子、又はナノカプセルの形状で食品中に添加されている。
2.3 容器包装への適用
 「地球の友(FoE)報告書」 によれば、食品分野でのナノテクノロジーの最も早くからの商業的適用のひとつは容器包装であり、現在、400〜500種のナノ容器包装製品が商業的に使用されていると推定されています。またナノテクノロジーは今後十年以内に全ての食品容器包装の25%の製造に使用されると予測されています。

 具体的な適用について、同報告書 は次のように説明しています。
  • 包装食品の保存寿命延長
    • ナノ容器包装の主な目的は、ガスと湿気の出入り及び紫外線暴露を低減することにより食品容器包装の遮蔽機能を改善し、食品の保存寿命を長くすることである。
    • デュポンはナノ二酸化チタンのプラスチック添加物の製品発表を行ったが、それは透明容器包装中の紫外線による傷みを低減することができる。
    • 2003年、ナノ容器包装の90%以上がナノ合成物質であり、その合成物質中のナノ粒子は、食品のプラスチック・ラップや飲料のプラスチック・ボトルの遮蔽機能を向上するために用いられている。
    • ナノ容器包装はまた、保存期間を延ばすために、抗菌剤、抗酸化剤、酵素、風味、及び栄養薬品を放出するように設計することもできる。
  • ノンスティック ナノライニング ボトル
    • ボトルの内面にへばりつた最後のトマトケチャップやマヨネーズを取り出すのに、振ったりたたいたりする必要がなくなるのがノンスティック ナノ食品容器。20nm以下の薄いフィルムを容器の内面に張って実現。
  • 可食性ナノコーティング
    • 可食性ナノコーティングは、肉、チーズ、果物、野菜、菓子、パン、ファースト・フードなどに使用される。
    • 湿気とガスの出入りを遮断し、色、風味、抗酸化剤、酵素、抗褐色化剤を含み、容器包装の開封後も食品の保存寿命を延ばすことができる。
  • 化学的放出ナノ包装容器の開発
    • 保存寿命の延長と味や香りの改善のために、ナノの抗菌剤、抗酸化剤、風味、香り、栄養薬品を条件に応じて食品や飲料に自動放出するナノ包装容器の開発が行われている。
    • 外部刺激に反応して食品又は飲料中に成分を放出するポリマーが湿度、酸素、バクテリア、臭気、食品自体の風味を制御する。
    • 化学物質の"味を調べ"消費者個人の嗜好に対応して、香り、味、栄養薬品の食品中への放出を制御する。
  • ナノ抗菌容器包装と食品接触物質
    • 容器包装や食品接触物質に抗菌ナノ物質を導入して容器包装自身を抗菌剤とする。
    • これらの製品は一般的には銀ナノ粒子を使用しているが、酸化亜鉛や二酸化塩素のナノ粒子を使用しているものもある。
  • ナノセンサーと追跡探知容器包装
    • ナノセンサー装備の容器包装は、サプライチェーンを移動する食品、パレット、容器の内部又は外部の条件を追跡探知する。
    • ネッスル、英国航空、3M、その他多くの会社が化学的センサーを装備した包装容器を使用している。
3.農業におけるナノ技術
 農業におけるナノ技術の適用については、ナノ技術の推進に楽観的な「ナノフォーラム報告書」の展望と、ナノ技術の推進に懸念を示す「地球の友(FoE)報告書」の展望には下記に示すとおり、際立った相違があります。

3.1 「ナノフォーラム報告書」の展望
  • 農業と食品産業に革命をたらす
     "ナノ技術は、病気の分子レベルでの治療、迅速な病気の検出、植物の栄養吸収力強化などの新しいツールをもって農業と食品産業に革命をもたらす潜在的能力を持っている。高性能センサーや高性能デリバリー・システムは農業がウィルスやその他の作物病原菌と戦うのに役立つであろう。近い将来、殺虫剤と除草剤の効率を上げるナノ構造の触媒が実現し、使用量を下げることを可能にするであろう。ナノ技術はまた、代替(再生可能な)エネルギー供給を通じて、また汚染を削減し既存の汚染を浄化するフィルターや触媒を通じて間接的に環境を保護するであろう。"

  • 精密農業
     "精密農業は、環境変数を監視し目標操作を施してアウトプット(作物生産高)を最大にし、インプット(肥料、殺虫剤、除草剤など)を最小にすることを可能とする農業として長年待ち望まれている。精密農業は、コンピューター、GPS システム(Global satellite Positioning Systems)及び高度に局所化された環境状況を測定するための遠隔検出装置を使用して、作物が最大の効率で育っているかどうかを判定し、問題があればその特質と場所を特定する。土壌の状態と作付け計画を決定するためのデータを利用して、種まき、肥料、化学物質及び水の使用を正確に調整することができ、生産コストを下げ、生産性を高めることで農家に利益をもたらす。"

  • 高性能デリバリー・システム
     ”カプセル化や制御放出手法などの技術が殺虫剤や除草剤の使用に革命をもたらした。多くの会社は、既存のものよりも水にもっと効果的に溶けることができる(したがって反応性を増す)サイズが100〜250nmのナノ粒子を含む調剤を製造している。他の会社はナノ粒子懸濁(ナノエマルジョン)を採用しているが、それは水又は油ベースのどちらもあり、殺虫剤又は除草剤を施した200〜400nm径のナノ粒子の一様な懸濁を含んでいる。これらは容易に、ゲル、クリーム、液体、など様々な媒体に組み込むことができ、予防的措置、治療、又は収穫作物の保存など多くの用途を持つ。環境的変動に対応することができる肥料と農薬のデリバリー・システムを実現する様々な技術が取り組まれている。最終的な目標は、電場、熱、超音波、湿度など異なる信号に対応して、よく制御された方法で(ゆっくりと又は素早く)搬送するような製品を用途に応じて作ることである。”
3.2「地球の友(FoE)報告書」の展望

Nanotechnology in Food & Agriculture
Friends of the Earth Australia
  • 持続可能ではない大規模農業ビジネスをもたらす
     "ナノ技術は、もっと持続可能な食料システムへの支援を増やすべきこの時に、現在使用されているものより、潜在的にもっと有毒な農薬、植物成長調整剤、及び化学的肥料等の一連の新たなものを導入している。遺伝子操作のための新たなツールを提供することにより、ナノテクノロジーはまた、作物の遺伝子操作を広げるように見える。ナノ・ベースの相互反応農場監視管理システムの商業化はまだ先のことである。もしそれらが実現されれば、農産物はもっと高効率で生産されるかもしれないが、農場管理の更なる自動化により、今よりもっと少ない農業作業者しか雇用しない大規模農業ビジネスをもたらすようになる。"

  • ナノ農薬は既に商業的に利用されている
     ”最初に開発されたナノ農薬(agrochemicals)は、既存の農薬、防カビ剤、植物、土壌、種子処理のナノ化である。農薬会社は既存の化学的エマルジョンの粒子サイズをナノスケールにまで下げている。あるいはある条件、例えば、太陽光、熱、又は害虫の胃の中のアルカリ条件に反応して、破れるよう設計されたナノカプセル中に活性成分を封入している。食品と容器包装分野で開発されているナノカプセルやナノエマルジョンと同様に、農薬で使用されるより小さいサイズのナノ粒子やナノエマルジョンは、それらの能力をもっと高めることが意図されている。”

  • 農業作物と家畜のナノ遺伝子操作
     ”数十年間、分子生物学者らは、微生物、植物及び動物の遺伝子操作を探求している。ナノバイオテクノロジーは現在、外来DNA及び化学物質を細胞に運ぶためにナノ粒子、ナノファイバー、ナノカプセルを使用することにより植物又は動物の遺伝子発現の引き金となる遺伝子や化学物質をもっと数多く運ぶことができる。理論的には、ナノテクノロジーの使用はまた目標場所において、DNAの放出制御を提供する。ナノバイオテクノロジーは、すでに、科学者らが農業生産物のDNAを再配置することを可能としている。外来DNAをカーボンナノファイバーでコーティングした細胞"注射"が、遺伝子組み換えの"黄金"の米(Golden Rice)のために用いられているという報告がある。”
4.新たなリスクと社会的・文化的影響
 ナノ食品やナノ農業が及ぼす新たなリスクや社会的・文化的影響についてはほとんどが未解明であり、ほとんど全ての領域に大きな不確実性が存在しますが、その有害性を懸念するに足る研究報告や類似の過去の経験があります。このような場合には予防原則が適用されなくてはなりません。
 「地球の友(FoE)報告書」は、これらのリスクや有害影響を懸念し、重要な問題として捉えているので、それらを以下に紹介します。

4.1 ナノ食品とナノ農薬の新たな健康リスク
 ナノ技術利用の食品、飲料、栄養補助食品、食品容器包装、可食性食品容器、肥料、農薬、種子処理等への導入は、公衆、食品産業労働者、及び農民に対する全く新たなリスクをもたらす可能性があり、懸念されます。これらナノ技術の導入についての法的規制はなく、その安全性を検証したテストデータもほとんど公表されていません。

  • ナノ物質は深刻な健康影響を及ぼすかもしれない
    • ナノ物質は、そのサイズと形状のために我々の細胞や組織の中に取り込まれやすい。
    • ナノ物質のあるものは、同じ化学成分でサイズがより大きなものに比べて質量当りの毒性が強い。
    • 例えば、二酸化チタンは通常の大きな形状では生物学的に不活性であると考えられており、食品添加物として広く使用されている。しかしナノ粒子二酸化チタンはDNAを損傷し、細胞の機能をかく乱し、免疫細胞の防御作用を邪魔し、バクテリアの一部を吸着して胃腸管全体に”密輸”することにより、炎症を引き起こす可能性がある。
    • 急性毒性反応を起こさない非生分解性ナノ粒子が体内に蓄積し、時間の経過と共に”ナノ病変”を引き起こす可能性がある。例えば、 肉芽腫、病変、がん又は凝血等。
    • 数十年に及ぶかもしれないような長期的な病理学的影響を実験調査することは困難である。

  • ナノ食品の有害リスク
    • ナノ添加物の毒性を調査した研究は非常に少なく、ナノ食品の安全テストは要求されておらず、市場に出ているナノ食品の安全性は確認されていない。
    • 300nmの鉄と亜鉛粒子が食品と飲料の栄養強化としてすでに市場に出ていることには懸念がある。他にも、ナノ酸化亜鉛、ナノシリカ、その他のナノ添加物を販売する多くの会社がある。
    • ビタミン又はミネラルの過剰な用量を運ぶ強力な生物学的利用能の潜在能力に懸念がある。
    • ナノ粒子及びナノカプセル化食品成分は、意図したよりもはるかに多く吸収したり、他の栄養素の摂取を変更するなど予測できない影響を及ぼすかもしれないとの指摘がある。
    • 食品中のナノ成分やナノ汚染を検出し評価することは実際には難しく、ナノ食品の安全性を確保するためのリスク管理は現実的な困難に直面するので、予防原則が適用されなくてはならない。

  • ナノ食品容器包装は新たなナノ暴露の経路となる
    • 食品容器包装と可食性コーディング中でのナノ物質の使用は公衆のナノ物質摂取の可能性を高め、潜在的な新たな健康リスクをもたらす。
    • 食品包装容器から食品へのナノ物質の移動量を定量化したデータで公表されているものはない。
    • ナノ物質が抗菌食品容器包装から食品中に移動して新たなリスクをもたらす可能性がある。
    • ナノ−フィルムやナノ容器包装が、バクテリア、菌類、カビ類の成長を検出した場合にナノ抗菌剤を食品表面に放出するように設計されているなら、食品への移動は避けることはできない。

  • ナノ農薬に関連する健康リスク
    • 既存農薬のナノ調合は、従来の農薬よりもっと反応性があり、もっと生物活性があるよう設計されている。
4.2 ナノ食品とナノ農業の新たな環境リスク
 ナノ物質を含む食品、食品容器包装、農業生産物の製造、使用及び廃棄は、これらのナノ物質の環境への放出を必然的にともないます。また、農薬又は植物成長処理のように環境中に意図的に放出されるものもあります。しかし、ナノ物質に関連する生態学的リスクはほとんど分かっていません。水生生物のあるものはナノ物質を濃縮するという報告がありますが、植物への取り込みについてはほとんど研究されておらず、ナノ物質が食物連鎖を通じて蓄積するかどうかも不明です。農業用に開発中のナノ物質や合成生物学的有機体を使用する遺伝子組み換え作物に関連する環境的リスクも分かっていません。

  • 商業的に使用されているナノ物質は深刻な生態学的リスクを及ぼす可能性がある
    • ナノ物質の生態学的影響を検証した研究の数は限られているが、ラップ、まな板、食卓用器具、食品保管容器を含む食品容器包装や食品接触材に使用されている銀、酸化亜鉛、二酸化チタンのような抗菌ナノ物質は藻類やミジンコ等に有害影響を及ぼすことを示す研究報告がある。
    • カーボン・ナノチューブは食品容器包装と食品製造、及び食品の貯蔵寿命を延ばすよう設計された包装フィルムに使用される可能性があるが、その製造に伴う副産物が水生生物に影響を及ぼすことを示す予備研究がある。

  • ナノ農薬は従来の化学物質農薬よりもっと問題を起こすかもしれない
    • ナノ調合農薬はもっと難分解で残留性があり、土壌と水路に新たな汚染をもたらす結果が生じるかもしれない。
    • ナノ農薬は農薬の全体使用量を減らすという主張は、遺伝子組み換え作物になされた同様の約束が果されていないことと同じであると批判的に受け取るべきである。
    • 英・国王立協会/王立工学アカデミーは、ナノ粒子の環境的放出を”可能な限り回避すべきこと”及び、その意図的な放出は”適切な研究が実施され、潜在的な便益が潜在的なリスクに勝ることを実証することができるまで禁止されるべきこと”を求めている。

  • ナノ・バイオテクノロジーと合成生物学の生態学的リスク
    • ナノ粒子を用いた遺伝子組み換え作物により及ぼされる生態学的リスクは、既存の遺伝子組み換え作物に関連するものと非常に類似している。
    • 新たに作り出したナノ粒子を用いた遺伝子組み換え作物は、既存の血統や種がとって代えられ、食料農産物の遺伝子的多様性が浸食されるという結果をもたらす可能性がある。
    • 合成生物学的生物は、他の種をかく乱し、取って換え、感染させ、生態系の機能が危うくされる程に環境を変えてしまい、取り除くことは不可能であるような系を作り上げてしまう可能性がある。
    • 環境に放出された合成生物学的生物が予測できない方法で変異する可能性がある。
4.3ナノ食品とナノ農業が社会や文化に及ぼす影響
 食物や農業は数千年もの間、人々の暮らしと密接に関わり、社会の文化を育んできました。しかし、市場経済の下に最先端の技術を駆使して効率や便利さ、そして大規模化、グローバル化を徹底的に追求するナノ食品製造やナノ農業は、小規模な食品製造者や農業経営者を圧迫し、また社会や文化に大きな影響を及ぼす可能性があります。

  • ナノテクノロジーは食料と農業に関する文化的知識を侵食する
    • ナノ加工又はナノ栄養添加物は、例えば新鮮な果物と同じ健康特性を持つものとして市場に出ることを可能にする。したがってナノ食品の宣伝文句以外の食品の健康的価値を理解する能力をそのうちになくしてしまうことになる。
    • 野菜はその色とつやで、魚は目を見て新鮮さを見分けてきた。しかし、ナノセンサー容器包装の拡大は、これらのパッケージ製品をナノセンサーによって表示される色に基づいて買うということを意味する。どのようにして安全で新鮮な食品を見分けるかに関する世代を通じて伝えられた知識を取り除いてしまうことになる。
    • 農場ナノ監視及び自動管理システムが予言通り開発されるなら、農業経営能力は少数の会社によって売られる技術パッケージに依存するようになる。ナノ農業経営システムは、数千年にわたって培われてきた食品製造に関連する知識と技能を商品化し、それらは我々が完全に依存するようになる独占的ナノ技術に埋め込まれることになる

  • ナノテクノロジーは新たなプライバシーの懸念をもたらす
    • ナノセンサーと追跡探知容器包装はによる販売時点以降の食品の潜在的追跡はまた、特にどのような種類の情報が収集されるのか、そしてその情報がどのように管理されるのかに関連して、プライバシーと倫理的懸念を提起する。
    • 顧客について収集された情報(例えば、購買習慣又は居住場所)は、目標とする市場戦略又は製品の販売促進を通じて商業的優位さを得ようと望む会社によって、又は他に転売するために利用される。
    • ナノセンサーがもっと個人に関する微妙な情報、例えば、遺伝子構成、健康又は疾病の情報を収集するために用いられる可能性がある。

  • ナノテクノロジーは既存の不公平をさらに悪化させる
    • ナノテクノロジーは主要な農薬会社、食品加工会社、及び食品販売会社の市場の独占をさらに拡大する。
    • ナノ追跡探知技術は、世界の食品加工者、販売者、供給者にもっと広い地理的地域でもっと効率よく事業運営することを可能にし、小規模事業者を圧迫する。
    • ナノ食品包装容器は食品損傷の発生を低減し、輸送距離をさらに延ばし、貯蔵寿命を長くすることにより、地球規模の供給者と販売者の競争力をさらに高め、小規模事業者を圧迫する。
    • 農薬は主要な農薬会社によって供給されており、既に市場を大きく占有しているが、強力なナノ農薬はさらにその占有を広げようとしている。
    • 環境的トリガーに反応して活性成分を放出するよう設計されたナノカプセル農薬、肥料、及び植物成長処理は、もっと少人数でもっと広大な作物畑の大規模農業経営を可能にし、小規模農家の経営を圧迫する。
    • 遠隔農場監視と自動化農場管理システムを可能とするナノテクノロジーは、大規模高度技術農業生産の現在の傾向をさらに劇的に加速し、農場にはほとんど労働者を必要としない状況をもたらすであろう。
    • 労働者の必要性は下がるが、投資コストが上昇するナノ農業はまた、小規模農家が経済的に生き残ることを難しくする。
    • ナノテクノロジーは少数の大規模経営者により支配される農業と食品産業のグローバル化をさらに進め、食料主権として知られている地域の人々による地域の食料を生産する権利を損ねる。

  • 真の食料と真の農業はナノ農業に対する真の代替を提案する
    • 貧しい食習慣と食事に関連する病気を克服するためにナノ食品を利用するという大きなリスクを負うべきではなく、最小限の加工食品、有機食品を含んで、もっと新鮮な果物や野菜を食べることをベースにした、もっと健康的な食習慣を支えるべきである。
    • 食品の栄養的価値を高めるためのナノ食品の開発に目を向けるより、人々が適切な果物や野菜を含む新鮮な食品の変化ある食事を摂るよう、あらゆる努力を払うべきである。
    • 食料の必要性のもっと多くの部分を地域ベースで満たし、食料生産及び輸送に関連する温室効果ガスの排出を削減し、化石燃料使用の少ない農業にするなど、環境的により持続可能な食料生産システムに目を向けるべきである。
    • 食料と農業の新たな健康的なパラダイムの一部として、小規模で地域が管理する有機的生産がきわめて重要な役割を果たすことを認識すべきである。
    • 世界の食料生産は、66億の人口が必要とする食料需要を満たすに十分な量以上であるが、食料分配と販売は少数の巨大企業の手に集中しており、この食料の分配は極端に不公平である(FAO 2006)。世界の食料システムにの問題目を向けるべきである。

参照

[1] Nanoforum Report: Nanotechnology in Agriculture and Food Tiju Joseph and Mark Morrison Institute of Nanotechnology, April 2006
http://www.nanoforum.org/dateien/temp/nanotechnology%20in%20agriculture%20and%20food.pdf
ナノフォーラム・レポート 2006年4月 農業及び食品産業におけるナノ技術
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/nanoforum/nano_agri_food.html

[2] Friends of the Earth, April 2008 OUT OF THE LABORATORY AND ON TO OUR PLATES Nanotechnology in Food & Agriculture Written by Georgia Miller and Dr. Rye Senjen, Friends of the Earth Australia Nanotechnology Project.
http://www.foeeurope.org/activities/nanotechnology/Documents/Nano_food_report.pdf
地球の友 2008年4月 報告書 食品と農業におけるナノテクノロジー 研究室から食卓へ
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/FoE_au/FoE_au_nanofood.html



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