米国立労働安全衛生研究所
NIOSH Science Blog 2014年5月28日 ニッケルナノ粒子:職業暴露に関連する感作の事例 情報源:NIOSH Science Blog, May 28th, 2014 Nickel Nanoparticles: A Case of Sensitization Associated with Occupational Exposure Charles L Geraci, PhD; Paul Schulte, PhD; Vladimir Murashov, PhD http://blogs.cdc.gov/niosh-science-blog/2014/05/28/nickel-nano/ 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2014年8月22日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/niosh/niosh_blog_140528_Nickel_Nanoparticles.html 2014年5月8日に アメリカ産業医学ジャーナル(American Journal of Industrial Medicine) にオンラインで発表された論文の中で、研究者 W. Shane Journeay, Ph.D., M.D., と Rose H. Goldman, M.D., MPH は、ニッケルナノ粒子の紛体を扱う作業を行って、ニッケルへの感作を発症した作業者の事例を報告している。 Journeay と Goldman により発表された事例の詳細によれば、”26歳の女性化学者はかつて、通常は銀インク粒子を使用してポリマーとコーティングを処方していた。後に彼女は、防護装置なしにニッケルナノ粒子紛体を計量し、ラボベンチで扱う作業を行うようになってから、彼女はナノ粒子の作業と時間的に関連する喉の痛み、鼻づまり、後鼻漏、顔面潮紅、イヤリングやベルトのバックルへの新たな皮膚反応を発症した”。アブストラクトはさらに続けて、”その後、 T.R.U.E. パッチテストに陽性反応を示したこと、そして気管支拡張薬投与後に正常範囲の FEV1(訳注1)が16%増大したことがわかった(参照1)”。 Journeay と Goldman は、進展中の世界のナノテクノロジー産業における潜在的な労働安全衛生への影響に対応する前向きなアプローチ(proactive approach )の必要性についての現在の知識ベースに、価値ある新たな科学的証拠を加える。慎重な臨床医学者らによる事例研究は、ナノ物質への職業暴露により引き起こされるリスクを評価し、適切なリスク管理の実務のための勧告をするために、米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)とそのパートナーにとって重要である。 ニッケルへの暴露と作業者の症状との基本的な関連は驚くべきことではない。多くの科学的証拠が従来の形状のニッケルと呼吸器系及び皮膚感作のリスクを関連付けている。事例研究で提起された目下の疑問は次のようなことである。相等しい他の要因、とりわけこの事例の中で制御されていない作業者の暴露の特質として著者らに述べられているように、ニッケルナノ粒子の紛体への暴露は、従来の形状のニッケルへの暴露からもたらされるリスク以上に感作のリスクを増大させるか? Journeay と Goldman は、科学者らがその疑問に答える時に直面するむずかしさに言及する。この事例の記述と討議は、科学者らが、それから導き出すことができる合理的な仮定を強調し、彼らはまた、合理的な仮定から自信をもった結論に進むことを困難にする知識のギャップに言及する。 例えば、利用可能なデータに基づけば、1グラム当たりにより多くの絶対粒子数をもち、より大きな総比表面積をもつナノニッケルは、マイクロスケールのニッケルより強力であると仮定することは合理的であり、賢明であろう。しかし、この健康研究の比較的若い分野では、ナノスケールのニッケルが有害な反応に影響を与えるかもしれないプロセスのように、データがまだ欠如しているような要因について、まだよくわかっていないのに、科学はこれが真実であると明解に言うことを求められると、著者らは示唆する。 研究者や実務者らがこれらの問題に関与しているときに、我々はこの新たな研究から取り出されるいくつかの重要なメッセージを見つける。
実務家が適切な防護措置を特定し使用するのに役立てるための資料として、この論文は NIOSH の重要な文書である『研究実験室で工業ナノ物質を取り扱うための一般的安全実務(General Safe Practices for Working with Engineered Nanomaterials in Research Laboratories )』(訳注2)、及び『ナノ物質の製造と下流プロセスにおける工学的制御のための現在の戦略(Current Strategies for Engineering Controls in Nanomaterial Production and Downstream Handling Processes)』(訳注3)を挙げている。これら及びその他の資料は、我々の nanotechnology topic page 上で見つけることができる。もし Journeay と Goldman による論文の中で提起された問題に関連するコメントがあれば、このブログ上でのフィードバックを歓迎する。 Charles L Geraci, PhD; Paul Schulte, PhD; Vladimir Murashov, PhD Dr. Geraci is a Supervisory Physical Scientist in the NIOSH Education and Information Division and is the Coordinator of the Nanotechnology Research Center. Dr. Schulte is the Director of the NIOSH Education and Information Division and Manager of the Nanotechnology Research Center. Dr. Murashov is a Special Assistant for Nanotechnology to the NIOSH Director. 参照1 1 Journeay and Goldman, “Occupational Handling of Nickel Nanoparticles: A Case Report,” Am. J. Ind. Med. (published before inclusion in an issue), p. 1. 訳注1 【用語解説】FEV1(1秒量)/日経メディカル 患者が最大量の吸入を行った後に、強制的に呼出した空気の最大量を努力肺活量、あるいはFVC(Forced Vital Capacity)と呼ぶ。また、努力肺活量測定の最初の1秒間の努力呼気量を1秒量(FEV1)と呼んでおり、流量パラメータとして再現性が高く、この数値の変化がCOPDの重症度を反映する。また、このFEV1の低下、すなわち呼吸機能の低下が、COPD患者のQOL悪化をもたらすため、早期発見・早期治療が望まれる。 訳注2 米国立労働安全衛生研究所(NIOSH) NIOSH eNews 2012年7月3日 NIOSH ナノテクノロジー更新情報 訳注3 米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)2013年11月 ナノ物質の製造と下流プロセスにおける工学的制御のための現在の戦略 |