米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)
NIOSH eNews 2012年7月3日
NIOSH ナノテクノロジー更新情報


情報源:National Institute for Occupational Safety and Health
NIOSH eNews Volume 10 Number 3 July 2012
A NIOSH Nanotechnology Update
http://www.cdc.gov/niosh/enews/enewsV10N3.html#director

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2012年7月23日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/niosh/120703_NIOSH_Nanotechnology_Update.html


長官デスクから

 ナノテクノロジーは、新たな構造、材料、装置を生み出すために、原子に近いスケールで物質を操作することを可能とする技術である。この技術とそれが作り出す精巧な物質は、医療、消費者製品、エネルギー、材料、製造など多くの分野において科学的進展を約束する。どのような新たな技術についても同様であるが、新たに出現したまだ特性化されていない危険性(ハザード)への、最も早い最も広範な曝露は、これらの新たな物質やツールが最初に開発され使用される職場で最も起きやすい。

 利害関係者や政策策定者らは、この革命的技術の安全な開発を支えるために、ある重要な疑問に目を向けるべきであるということに広く同意している。その疑問とは次のようなことである:

▼ナノ物質は、製造及び工業的利用に携わる労働者に健康上又は安全上のリスクを及ぼすかどうか?

 過去数十年間、公的及び民間分野は、これらの先進的物質の市場への急速な導入に対する疑問と慎重なリスク管理とリスク評価に関与するために必要な戦略的研究を特定し始めた。

 2004年に NIOSH は、同機関を横断し、さらに多様な外部団体とのパートナーシップに対応し調整するために事実上のナノテクノロジー研究センターを設立した。それ以来、多くの連携が形成され、論文が発表され、勧告がなされた。

 私は、NIOSHの科学者と技術者の複合領域チームが、必要な研究の達成及び、より大きな特殊性にとって重要な複雑で科学的な疑問を我々が調査し続けるにあたり、ナノ物質への職業的曝露を管理するための証拠に基づく勧告の開発に対して国家的リーダーシップの役割を果たしていることに満足している。

 この点に関する我々の最新の成果として6月に、NIOSH はナノ物質を利用する研究者のための優れた実施手法(good practice)のための勧告を提供するガイダンス文書を発行した。この文書『General Safe Practices for Working with Engineered Nanomaterials in Research Laboratories(研究実験室で工業ナノ物質を取り扱うための一般的安全実務)』は、実験室において工業用ナノ物質を利用する合成、特性化、実験のために必要な職業的な安上及び健康上の実施手法に関するする意識向上に資するものである。このガイダンス文書は、研究・実験室における工業ナノ物質を取り扱うときに従うべき工学的制御と安全作業実施手法に関する現時点で入手可能な最良の情報を提供する。

 NIOSH はまた、新たな発見を学び、先端的な研究の連携を涵養するために、仲間の科学者らと提携するすることができる国の及び国際的な会議に積極的に参加している。今年の夏は、NIOSH とニューヨーク州のアルバーニ大学の College of Nanoscale Science & Engineering が8月14日〜16日に開催する会議、Safe Nano Design: Molecule-Manufacturing-Marketで貴重な機会を得ることができるあろう。このワークショップの参加者は、prevention-through-design(PtD)アプローチ(設計による防止アプローチ)により、安全なナノ粒子の合成と関連する製品のためのガイドラインの開発をもたらしつつ、ナノ製品の安全な商品化に寄与する機会を持つかも知れない。

 NIOSH の研究者等はまた、このトピックスの領域でピアレビューされたジャーナルで多くのしっかりした論文を発表し続けている。いくつかの注目に値する最近の発見と研究領域を下記に挙げる。

  • カーボンナノチューブ(CNTs)が作業に関連するがんリスクを及ぼすかどうかを決定するための今日までのラボ研究を整備している。これらの研究を続ける一方で、 NIOSH は、これらの物質の責任ある利用を確実にする慎重なリスク管理実施手法を特定するために、公的及び民間分野パートナーとともに活動している。最近、NIOSH の研究者により発表されたピアレビューされたある論文は、労働者を保護するための行動に焦点を当てるのに役立つ5つの領域に目を向けている。

    • ラボ研究に基づくカーボンナノチューブ(CNTs)の発がん性に関する現在の証拠のレビュー
    • がん発症に関連する物理的及び化学的特性の役割
    • カーボンナノチューブ(CNTs)は、実験室動物及びヒトの組織試料における遺伝子の変更又は損傷に関連するかどうか
    • 職場でのカーボンナノチューブ(CNTs)への曝露
    • 労働者を守るために必要な特定のリスク管理行動

  • もうひとつの研究は、ナノ粒子への曝露を自己免疫リスクに関連する細胞応答と関連付けている。実験室の研究では、ある種のナノ粒子への曝露は、リウマチ性関節炎のような自己免疫疾病のリスクに関連する細胞変化を引き起こした。

  • ナノ物質安全データシートの精度はまた、NIOSH 研究者の懸念の問題でもある。最近のある論文は、ハザード特定、曝露管理、個人防護装置、及び工業用ナノ物質についての毒性学的情報に関連するナノ物質安全データシートの情報の品質及び完全性の評価から得られた発見を強調している。この研究は、2010年〜2011年の間に得られた安全データシートの大部分は、工業用ナノ粒子の潜在的なハザードについての情報伝達のためのデータが不十分であると結論付けた。

  • 数年間に及ぶ集中的な調査にもかかわらず、科学者らはナノ粒子が細胞に影響を及ぼす又は損傷するメカニズムを理解するための共通のモデルをまだ確立していない。そのような損傷は体内にもっと持続する又はもっと深刻な影響を与える前兆である可能性がある。6月に発表されたある論文で、NIOSH 研究者らはナノ粒子への反応から生じることができるプロセスをよりよく理解するために、一般的に細胞の損傷に関連するプロセスを理解するために広く受け入れられている科学的モデルである”酸化ストレス・パラダイム”を精査している。この疑問への回答はナノ粒子の潜在的な有害影響の緩和のための戦略開発のための重要な結果を持つであろう。

  • NIOSH 研究者らによる最近の発見はまた、不適切に設計され、保守され、又は設置された工業的制御装置は、職場のナノ物質放出の制御に完全には効果的ではないかもしれないことを発見した。カーボンナノファイバーへの保護されていない皮膚の曝露が二つの事例で言及され、個人防護装置の使用について労働者を教育することの必要性が示された。

  • NIOSH ナノテクノロジー現場研究チームは最近、テスト用に自主的に提供された4つの施設で収集した排出データの要約を発表した。測定値は、特定の作業が工業用ナノ物質を職場の大気に放出することがあり、換気など従来の装置が曝露を制限するのに使えることを示した。もっと多くの研究がナノテクノロジーの健康への影響を理解し、適切な曝露監視と制御戦略を決定するために必要である。
 適切なリスク評価とリスク管理をナノテクノロジーの開発に導入することは、この技術の安全な発展及び世界の競争市場でアメリカが指導力を発揮するために重要である。我々はNIOSHの複合領域研究プログラムの第2十年期に近づいているが、我々は新たに注目すべきこの技術自身の進展を既に見ている。健康と安全研究を開拓するためのひとつの領域、すなわち先進的なナノ物質の領域は今後のNIOSH科学ブログの主題である。

 NIOSH のナノテクノロジー研究に関するさらなる情報は下記にて入手可能である。
 http://www.cdc.gov/niosh/topics/nanotech/



化学物質問題市民研究会
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