米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)2013年11月 
ナノ物質の製造と下流プロセスにおける
工学的制御のための現在の戦略


情報源:National Institute for Occupational Safety and Health (NIOSH) Nov, 2013
Current Strategies for Engineering Controls in Nanomaterial Production and Downstream Handling Processes,
http://www.cdc.gov/niosh/docs/2014-102/pdfs/2014-102.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2013年11月18日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/niosh
/NIOSH_Nov_2013_nano_production_dst_handling_processes.html

内容(Contents)
 Foreword...iii
 エグゼクティブ・サマリー(Executive Summary)...iv
 List of Figures...x
 List of Tables...xi
 List of Abbreviations...xii
 Acknowledgements...xiv
 1 Introduction...1
 2 Exposure Control Strategies and the Hierarchy of Controls...9
 3 Nanotechnology Processes and Engineering Controls...21
 4 Control Evaluations...47
 5 結論と勧告(Conclusions and Recommendations)...61
 References...65
 Appendix A: Sources for Risk Management Guidance...75
 Appendix B: Sources of Guidance for Control Design...77

エグゼクティブ・サマリー(Executive Summary)
 この文書は、工業用ナノ物質の製造中又は使用中の労働者の曝露の工学的制御のための戦略を特定し記述することに焦点をあてている。工業用ナノ物質は、意図的に製造され、少なくとも基本一次元が100ナノメートル(nm)以下であるような物質である。 ナノ物質は、同じ物質のより大きな粒子の特性とは異なり、特定の製品応用のためにユニークであり、望ましい特性を持つかもしれない。消費者製品市場には現在、1,000以上のナノ物質含有製品が出ており、それらにはメークアップ、サンスクリーン、食品保存用品、電気機器、衣料品、電子機器、コンピュータ、スポーツ用品、コーティング材などが含まれる。ますます多くのナノ物質が職場に導入され、ナノ製品が市場に出されているので、工業用ナノ物質の製造者と使用者にとって安全で健康な職場環境を確保することが重要である。

 ナノ粒子の毒性は、付加された機能的特性や結晶構造からの影響はもちろん、サイズ、形状、化学特性、表面特性、凝集化、生物学的残留性、溶解性、電荷などを含む異なる物理化学的特性によて影響されるかもしれない。ナノ物質の重量に対する表面積の比は、より大きなサイズの同一物質より大きいので、一般的に表面は活性化する。これらの特性が、多くの製品の製造において、まさにナノ物質を独自で価値あるものにする特性である。曝露による人の健康影響は報告されていないが、多くの動物実験による研究が実施されている。肺の炎症が、ナノサイズの二酸化チタンとカーボンナノチューブ(CNTs)に暴露させた動物に観察されている。その他の研究がナノ粒子は、循環器系及び脳に移動し、酸化ストレスを引き起こすことができることを示している。懸念されることは、ある種のカーボンナノチューブ(CNTs)はマウスにアスベストに類似した毒性学的反応を示したことを発見したことである。これらの動物実験研究の結果は事例であり、ナノ物質への急性及び慢性曝露による人間への潜在的な健康影響を確立するために、さらなる毒性学的研究を実施する必要がある。

 現在、アメリカにはナノ物質のための確立された規制的な職業暴露限界(OELs)は存在しないが、他の諸国では、あるナノ物質のための確立された標準を持っており、ある会社では製品のためにOELsを適用している。2011年に NIOSH は、超微小(ナノ)二酸化チタンのための勧告曝露限界(REL)並びにカーボンナノチューブ及びカーボンナノファイバーのためのドラフト RELを発表した。アメリカにおいては多くのナノ物質のための規制的標準と公式の勧告がないので、安全曝露レベルを決定する又は見積もることは難しい。

 ナノ物質を製造する基本的な方法の多くは、加圧下で運転される容器又は反応器の中で行われる。曝露は、この容器又は反応器からの漏れのために、あるいは作業者の行為がナノ物質の直接的操作に関わる場合に起こり得る。ナノ物質の製造にかかわるバッチ型のプロセスには、反応器、混合器、乾燥器、及び熱処理の運転を含む。製造工場及びナノ物質を扱う実験室における曝露要因となる行為には、収穫(例えば反応器から物質をこすり落とす)、袋詰、包装、及び反応器洗浄などがある。ナノ物質を放出するかもしれない川下の行為には、袋の廃棄、プロセス間の手動による移動、混合又は配合、ふるい分け、ナノ物質をふくむ部品の加工などがある。

 ナノ物質の製造及び処理に関わるハザードは包括的な労働安全衛生環境管理計画の一環として管理されるべきである。予備的ハザード解析(PHAs)は、もっと複雑な分析手法が必要かどうかを決定するための初期リスク評価としてしばしば実施される。 予備的ハザード解析(PHAs)は、制御措置の必要性を実現し、リスク低減のための方法が計画段階で運転の一部として設計することができるようにするために重要である。

 工学的制御は、ハザードを除去し又は作業者とハザードの間に遮蔽を置くことにより、及び適切な安全取扱い技術を用いることにより、作業者を保護する。これらはナノ物質のためのもっとも効果的な制御戦略であるように見える。他の産業で効果的であることが実証されている制御技術の特定と採用は、工業用ナノ物質への作業者の曝露を低減する重要な第一歩である。適切な設計、使用、及びこれらの制御の効果の評価は包括的な健康安全プログラムにおける重要な要素である。一般的に使用されるプロセスのための潜在的な暴露制御アプローチは、実験室用ヒュームフードのような商業的技術、又は連続的製品袋詰めシステムのような医薬品産業から採用する技術を含む。

 制御効果の評価は、施設の曝露目標が適切に達成されていることを確認するために重要である。重要な制御評価ツールは、 トレーサーガスの測定を含んで、定量容器テスト手法はもとより、気流可視化及び測定のような有効性が確認されている技術を含む。ビデオ曝露監視のようなさらなる手法は重大な作業に基づいた曝露に関する情報を提供し、高曝露作業の特定と介在のためのベースを提供するのに役立つであろう。


結論と勧告(Conclusions and Recommendations)
 工業用ナノ物質は、意図的に製造され、少なくとも基本一次元が100ナノメートル(nm)以下であるような物質である。ナノ物質は、バルク物質とは異なる特性を持ち、特定のプロセスのために独自で望ましい特性にする。これらの同じ特性はまた、作業者に有害健康影響を及ぼすかもしれない。現在、多くのナノ物質の毒性は知られていないが、初期研究は、職業暴露に関連する健康の懸念があるかもしれないことを示している。健康影響の可能性があるので、作業者の曝露を可能な限り制御することが 重要である。下記は、現状の知識に基づき、製造プロセスに関わる従業員の曝露を低減するための結論と勧告である。

5.1 一般

  • ナノ物質の製造及び処理に関わるハザードは包括的な労働安全衛生環境管理計画の一環として管理されるべきである。予備的ハザード解析(PHAs)は、制御措置の必要性を決定するために計画段階の間に実施されるべきである。ハザード解析は施設の運転中に実施され、定期的に、そしてプロセスの変更が生じた場合には、更新されるべきである。

  • 設計を通じての防止(PtD)の概念とは、設計段階の早い時点でハザードを排除する又は最小にするということである。PtDが実施される時には、作業に関連するけがや病気を防止するために安全な作業環境を設計することにより、その制御の階層が適用される。

5.2 コントロール・バンディング
 
  • 職業暴露限界(OELs)がないときに、コントロール・バンディングはナノ物質のリスク管理において潜在的に有用な概念である。コントロール・バンディングはOELsの代替として意図されているものではなく、また環境監視又は産業衛生の専門性の必要性を軽減するものではない。
(訳注:コントロール・バンディングとは

5.3 制御の階層
  • ナノ粒子の潜在的な職業的ハザードを制御する時には、制御の階層に従うべきである。排除及び代替が階層の最上位にある。しかし、ナノ物質の独自の特性のために選択されているのなら、ナノ物質を排除することは可能ではないかもしれない。これらの物質が取り扱われ処理される方法は、プロセスの全体的な安全性に大きく影響を及ぼすことができる。

  • 危険性の高い物質のより低い物質への代替は作業者へのリスクを低減するために考慮されるべきである。代替もまた利用される物質の形状に適用される。例えば、曝露の可能性が小さいスラリー状態は、乾燥粉末の代替として使用できるかもしれない。

5.4 工学的制御
  • もし排除と代替がハザードを低減するのに実行可能ではないなら、工学的制御が実施されるべきである。これらは、局所的排気、遮蔽措置、又はダスト抑制のための水又はその他の物質の適用を含む。

  • 工学的制御は、ナノ物質のために最も効果的な制御戦略のようである。ナノテクノロジー産業で一般的に用いられている制御には、ヒュームフード、生物学的安全キャビネット、グローブボックス遮蔽、グローブバッグ、バッグダンプステーション、 ラミナーフローブース等がある。これらの制御の各々は、効果的であるよう注意深く設計され運転されるべきである。

  • 工学的制御が設計条件で運転されることを確実にするために、予防保全スケジュールが策定されるべきである。

  • 非換気工学的制御は広範な制御をカバーする(例えば、防護物や障害物、物質処理、添加物)。これらの制御は、作業者の保護のレベルを強化するために換気措置と合わせて使用されるべきである。分離閉込めシステムを含んで医薬品産業向けに開発された多くの装置が、ナノテクノロジー産業に適切かもしれない。
    1. 連続ライナー・システム(continuous liner system)は、物質をポリプロピレンバッグの中に密閉してを容器に詰めることができる。このシステムは、紛体をドラムに充填するような時に考慮されるべきである。
      訳注:Continuous Liner Systems
    2. 散水は、機械加工(例えば切断、研磨)のようなプロセスからの吸入があり得るダストの濃度を低減するかもしれない。切断又は成形される材料はもちろん、機械やツールは水と調和しなくてはならない。もし水以外の液体が用いられるなら、適用される液体による作業者への健康ハザードを回避するよう注意が払われるべきである。
  • 様々な制御が、現在、商業的に入手可能である。

  • 基本的なプロセス情報(例えば容量、場所、用途)及び制御の運転と保守パラメーターを収集するチェックリストは、既存の暴露制御を最適化し改善することができる。チェックリストのサンプルは表4に示されている。

5.5 運用管理

 運用管理と個人防護具(PPE)は、工学的制御だけではハザードが効果的に制御できない場合に、既存のプロセスとともにしばしばしば使用される。このような状況は、制御措置が実行可能ではない又は曝露を許容レベルまで低減できないときに生じる。運用管理と個人防護具(PPE)プログラムを確立することは、高価ではないかもしれないが、長期的には維持するために非常に高くつくことがあり得る。作業者を保護するためのこれらの方法は、他の措置より効果が低く、影響を受ける作業者による相当な努力が必要であることが証明されている。個人防護具(PPE)が使用される時には、存在するハザード、従業員訓練、並びに個人防護具(PPE)の選択、使用、及び保守に目を向けるプログラムが適切に実施されるべきである。

 運用管理と個人防護具(PPE)はまた、特にハザードが高い状況では重複措置として有用である。工学的制御は主制御として利用し、運用管理と個人防護具(PPE)はバックアップとして使用する。雇用者は、作業者のナノ物質への曝露を制御するために下記の作業方法を実施すべきである。
  • 吸入曝露と皮膚接触の可能性を最小にするために、工業用ナノ物質の安全な取扱いに関して作業者を教育すること。

  • いかにして曝露を防ぐかに関する指示とともに、製造している又は取り扱っているナノ物質の危険な特性に関して、作業者に情報を提供すること。

  • 外部ソースからのナノ物質を使用する時には、物質安全データシート(MSDS)を入手し、その物質に接触するかもしれない従業員とともにその情報をレビューすること。多くのナノ物質について完全な健康情報が欠如しているので、そのMSDSは適切な指針を提供しないかもしれず、したがって健康安全室によって評価されるべきこと。

  • ナノ物質放出の可能性を低減するために、可能ならば、粉末をスラリーに変換することを検討すること。

  • 漏れたナノ物質は直ちに浄化し、書面による手順に従うこと。浄化作業中は適切な個人防護具(PPE)をつけること。

  • 工業用ナノ物質が作業区域の外に出ないことを確実にするために、追加的な制御措置(例えば、ハザードの近くの緩衝区域、除染施設)を設置すること。ナノ物質の拡散の可能性を低減するために、製造区域の出口に吸着マットを置くこと。

  • 飲食、喫煙、又は職場を離れる前に手洗い施設を使用するよう作業員に働きかけること。

  • 衣服や皮膚についたナノ物質を持ち出すことによる他の場所の意図しない汚染(家に持ち帰ることを含む)を防止するために、シャワー設備と更衣室を設置すること。

  • ナノ物質が取り扱われている作業区域での飲食は禁止すること。

  • 作業区域と設備は、例えば、各作業シフトの終わりには、少なくともHEPAフィルター真空掃除機又は湿式ふき取りにより、浄化されるべきこと。作業区域の浄化に、乾式ふき取りや圧縮空気洗浄は行わないこと。浄化は作業者が廃棄物に接触することを防止するようなやり方で実施されるべきこと。全ての廃棄物の処分は、全ての適用可能な連邦政府、州政府、地域自治体の規制に従うこと。

  • ナノ物質は、可能なら、密閉した容器の中で、水中浮遊又は乾燥粒子形状で保管すること。

  • 作業実施と工学的制御が効果的であることを確実にするために、日常的な産業衛生及び医学的監視を実施すること。

5.6 個人防護具(PPE)
  • ナノ粒子は、皮膚を浸透することが発見されているので、ナノ粒子を扱う作業をする時には、手袋、長手袋、実験衣又はコート等をつけること。防護具をつけるための適切な衛生措置が取られるべきこと。

  • ネオプレン、ニトリル製の手袋、又はその他の化学的耐性の手袋を使用し、頻繁に、又は擦り切れ、破れ、汚染が目に見えるときには交換すること。

  • 工学的制御の据え付け又は保守の間、工学的制御が実施できない短期の作業、及び緊急事態の場合、効果的な工学的制御が利用できない場合、許容できるレベルに作業者の曝露を低減するために、呼吸保護具が使用されるべきこと。

  • 職場における呼吸マスクは、包括的な呼吸保護プログラムの一部として使用されるべきこと。このプログラムは、書面による標準操作手順;職場監視;ハザードに基づく選択;適合性テストと使用者の訓練;洗浄、消毒、保守、再使用可能な呼吸マスクの保管;呼吸マスクの検査とプログラム評価;使用者の医学的知識;及び NIOSH認定呼吸マスクの使用を含むべきこと。




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