ドイツ環境健康研究センター 2015年6月22日
芯は柔らかいが殻は堅い
ナノテクノロジーの最新


情報源:German Research Center for Environmental Health, June 22, 2015
Soft core, hard shell - the latest in nanotechnology
https://www.helmholtz-muenchen.de/en/news/latest-news/press-information-news/article/27093/index.html
訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
掲載日:2015年6月30日
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 ナノ粒子は将来、例えば標的場所への薬剤搬送のための担体として利用できるなどのために、医学はナノ粒子に大いに期待を寄せている。研究者らの国際チームの協力で、ドイツ環境健康研究センターとマールブルク大学の科学者らは初めて、これらの粒子の体内における安定性と分布を分析することに成功した。ネイチャー・ナノテクノロジー誌に発表された彼らの研究結果は、この分野ではもっと多くの研究が必要であることを示している。

 ナノ粒子は、実質的に体内の全ての部分に到達することができる能力をもつ最小の粒子である。研究者らは、ナノ粒子が医学で使用できる方法、例えば物質を腫瘍のような体内の特定の場所に運ぶ方法をテストするために様々なアプローチを用いている。この目的のために、ナノ粒子は、表面の品質が体内で遠くの標的を決定するのに重要な役割を果たすので、一般的に有機物質で表面処理される。ナノ粒子が、もし撥水性の殻(表面)をもつなら、体の免疫系により素早く特定され排除される。

金粒子はどのように体内を放浪するか

 現在はドイツ環境健康研究センター内の疫学 II 研究所の外部科学諮問委員である ウォルフガング・クレイリング博士と、マールブルク大学のウォルフガング・パラク教授により率いられた科学者チームは、動物モデルでそのような粒子の時間的挙動を追跡することに初めて成功した。この目的のために、彼らは、金の放射性同位体(*)で 5 nm という小さな金ナノ粒子を作成した。これらはまた、ポリマーで表面処理され(ポリマーの殻で覆われ)、異なる放射性同位体で標識を付けられた。研究者らによれば、このことは、技術的には非常に高いレベルのナノテクノロジーが必要であった。

 しかしそれに引き続くこの粒子の静脈注射の後に、同研究チームは、この特別な方法で処理された殻のポリマーが分解するのを観察した。”驚いたことに、金粒子は主に肝臓に蓄積した”ことをクレイリング博士は観察した。”対照的に殻の分子は著しく異なる様子で反応して、それ自身が体中に分布した”。科学者らにより実施されたさらなる分析で、この理由は;ある肝臓細胞中の、いわゆるタンパク質分解酵素(**)が粒子の殻から粒子を分離するらしいことがわかった。研究者らによれば、今まで粒子共役(particle-conjugate )は細胞培養でしかテストされておらず十分に検証されていないので、生体での影響は現在までのところ不明である。

 ”我々の結果は、たとえ安定性が高いように見えるナノ粒子共役(nanoparticle-conjugates)(***)であっても、人の体内に展開するとその特性が変わることがあることを示している”と、クレイリング博士は結果を評価した。”この研究は、消費者製品中の、及び科学と技術におけるナノ粒子の評価はもちろん、将来の医学的応用に影響を及ぼすであろう。

更なる情報

(*)同位体は、異なる質量数を持つが同じ元素を意味する原子のタイプである

(**)タンパク質分解酵素は、例えば体に栄養を与えるために又は解毒するためにはタンパク質の構造を分割する。

(***)ナノ粒子共役(nanoparticle-conjugates)は、ひとつの粒子中で結合されているいくつかの分子のタイプである。

原著:
Kreyling, W. et al. (2015). In vivo integrity of polymer-coated gold nanoparticles, Nature Nanotechnology DOI: 10.1038/nnano.2015.111


訳注:関連情報




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