UCD Research ニュース 2011年12月14日
ナノ粒子と細胞分裂への新たな洞察

情報源:University College Dublin (UCD) Research News, 14 December, 2011
New insights into nanoparticles and dividing cells
http://www.ucd.ie/research/newsevents/latestnews/mainbody,112539,en.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2011年12月24日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/europe/111214_UCD_.nanoparticles_and_dividing_cells.html


 生きた細胞がナノ粒子を取り込んだときに起きることは、体内に薬を運ぶ新たな方法に応用することができるかもしれない。アイルランドのユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(UCD)の研究者らの新たな研究は、細胞が分裂するときにナノ粒子の挙動を追跡し、最近 Nature Nanotechnology に掲載された彼等の研究成果は、体内の異なる組織がある量のナノ粒子をどのように処理するかを我々よりよく理解するのに役に立つであろう。

 ”ナノ粒子は我々が製造する工学的な物質であり、それらについて非常に興味深いことは、それらはたんぱく質より少し大きいナノメートル範囲のサイズであることである”と、UCD 化学・化学生物学部の博士号取得後の研究者であるアンナ・サルバチ博士は述べている。”それらのサイズのナノ粒子は、新たな方法で細胞と相互作用することができる”。

 サルバチ博士によれば、これらのナノ相互作用は、新たな方法で薬を細胞に送り込む潜在的な可能性への道を切り開き、現在は治療法がないとされる癌や神経変性(neurodegeneration)疾患(訳注1)などの病気を治療する最も有望な方法のひとつを提供するものである。”なぜナノ粒子はそのように簡単に細胞内に入り込むことができ、それらがどこに行くのかを我々が理解すれば、我々は新たなドラッグ・デリバリー・システムを設計し、医薬品を標的細胞に送り込むか方法を習得することができる”と彼女は述べている。

 我々はまた、安全性の見地からもっと一般的に生物−ナノ相互作用を理解する必要があると、彼女は付け加えている。”それらはエネルギーや電子機器から塗料に至るまで多くの応用分野で使用されているので、我々はある場合にはナノ物質に曝露することがあり得る。それらの安全を確保することが重要である”。

 サルバチ博士は、UCDに拠点を置く、ナノ安全性、ナノ生物学、及びナノ医療のための国家機構である生物ナノ相互作用センター及び、生物分子生物医療研究のための UCD コンウェイ研究所のケニス A. ダウソン教授とのチームで研究している。

 ジョン・ア・キムとクリストファー・アベルグ博士と共に実施したこの研究のひとつの要素は、細胞が成長し分裂するという個々の細胞のライフサイクルの間のナノ粒子の運命を観察することであった。彼等は、研究室で培養したヒト肺癌細胞にナノスケールのポリスチレン粒子を導入し、ナノ粒子の空間的及び時間的な挙動を追跡するために蛍光マーカーを使用した。彼等が特定したことは、ナノ粒子は容易に細胞内に入り込み、細胞の成長段階では細胞外に排出されることはないが、個々の細胞が二つに分裂するときに娘細胞に渡されるということであった。

 ”細胞が分割するときに、内部ナノ粒子の用量は娘細胞に分配される”とサルバチ博士は説明する。”このことは、同じ集団の細胞は、細胞サイクルの段階に依存して、異なる内部ナノ粒子量を持つことを意味する”。

 重要な観察は、ある細胞集団におけるナノ粒子の用量は細胞が分割する時に影響を受け、個々の細胞は異なる細胞用量になるということである。

 ”ある用量のナノ粒子で、ある時間曝露させた時に、全ての細胞が同じように振舞うという単純なことではなく、個々の細胞が異なる振舞いをし、そのことが細胞のナノ粒子の用量に影響を与えることができるということを我々は観察した”と、サルバチ博士は説明する。

 ”この意味合いは人間にも当てはめることができる。体内では、ほとんどの特化された細胞は分割が非常に遅い傾向があるが、一方、非常に頻繁に分割する細胞もある。分割頻度が高い細胞は、分割するたびにナノ粒子の負荷を軽くするので、ナノ粒子用量は希釈され、一方、分割頻度が低い細胞はより多くのナノ粒子を蓄積している”。サルバチ博士によれば、これらの観察結果はナノ粒子の安全性を確保するのに役に立ち、UCD の研究者らは、継続してこの相互作用の理解を展開している。

 ”我々は、ナノ粒子が細胞集団の中でどのように振舞うのかを予測することに使うことができるよう、理論的なモデルを用いてナノ粒子の蓄積と動態を記述しようとしている”と、彼女は述べている。

 ”ナノ粒子が、がん細胞のように迅速に分割する細胞を標的にすることができる、又はナノ粒子が細胞成長のある段階ではより容易に細胞に入り込むことができる段階をコントロールできるよう設計することができるということは興味深いことである。それは、医療における選択肢を完全に新しい範囲に広げるであろう。”


訳注1
神経変性疾患/ウイキペディア

中枢神経の中の特定の神経細胞群が徐々に死んでゆく病気。脳神経疾患の一つ。 筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン症候群、アルツハイマー型痴呆、進行性核上性麻痺(PSP)、ハンチントン病、多系統萎縮症(MSA) 、脊髄小脳変性症(SCD) などであり、治療は薬物療法で、甲状腺ホルモン放出ホルモンの誘導体である酒石酸プロチレリンを用いる。



化学物質問題市民研究会
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