UWM Report 2015年2月17日
UWM による研究:
ドラッグデリバリーの金ナノ粒子担体の隠れたコスト


情報源:UWM Report, February 17, 2015
UWM study: Golden vehicle for drug delivery has hidden costs
By Laura L. Otto
https://uwm.edu/news/uwm-study-golden-vehicle-for-drug-delivery-has-hidden-costs/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
掲載日:2015年3月3日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/150217_UWM_Golden_vehicle_hidden_costs.html


訳注:UWM: ウィスコンシン大学ミルウォーキー校(University of Wisconsin-Milwaukee)

 疾病の治療における最大のアイディアのひとつは、非常に小さくて目に見えない材料を利用することである。原子数個分のサイズである極小の金粒子は、副作用と用量を最小にしつつ、薬剤を体内の必要とする場所に正確に搬送する担体(vehicles)として大いに宣伝されている。

 しかし、最近の UWM による研究訳注1)は、工業用金ナノ粒子は高機能ドラッグデリバリーにとって魅惑的であるが、その反面、女性の生殖力をかく乱する大きな可能性があることを見つけた。

 ”我々は、新たな内分泌かく乱物質の出現と呼んでいる”と、生物科学教授レイノルド・ハッツは述べた”。この研究は生体の卵巣組織中のナノ粒子の毒性影響に目を向ける最初のものであり、したがって非常に早期の証拠である”。

 内分泌かく乱物質は、例え微量であっても、広範囲の正常な細胞活動を変更又は阻害しつつ、複雑なホルモン信号系を混乱させる。

 それらには、農薬、食品容器包装中の柔軟剤、及び衣類などに適用される難燃剤などがある。それぞれは人間に対して様々に有害である。

 今回の UWM の研究はナノ粒子を内分泌かく乱物質として調べた最初のもののひとつである。

ナノ粒子はどこにでもある

 金ナノ粒子がどのように体に影響を与えるかを理解することは、人体でのドラッグデリバリーのために使用され始めているので重要であると、この研究の多くを実施した生物科学部門の元大学院生ジェルミー・ラーソンは述べた。

 また、金だけでなく様々な物質のナノ粒子は、食品容器からサンスクリーンのような身体手入れ用品まで、様々な消費者製品中に成分として使用されるようになっている。

 ラーソンは、金ナノ粒子は、エストロゲン(女性ホルモンの一種)とテストステロン(男性ホルモンの一種)の生成に影響をする性ステロイドホルモンである黄体ホルモンの生成に影響を与えることを突き止めた。その変化は微細であるが、臨床用途での用量より200,000倍低い量で検出された。

 ”ステロイド産生(steroidogenesis)と呼ばれる我々が評価した生化学的経路は非常に大きい”とラーソンは述べた。”それは黄体ホルモンやエストロゲンの生成を含むだけでなく、組織のタイプに依存して、ストレスホルモンやその他の生成物の生成もまた含む”。

 このことは、ナノ粒子は、免疫系や脳機能のようなエストロゲンが関与する生殖系以外の体の機能に変化を引き起こすかもしれないということを意味する。

 ハッツとラーソンは、UWM の淡水科学校のマイケル・カーバンの毒性学研究室とともに、この研究を実施した。カーバンの研究室と子ども環境健康科学中核センターが資金提供を行った。

より小さなナノ粒子の方がより大きなダメージをもたらすかもしれない

 ラーソン、カーバン、及びハッツは、彼らの研究を卵巣組織での影響に限定したが、ラットによる他の研究が、オスの生殖器官中に堆積した金ナノ粒子がテストステロン(男性ホルモンの一種)に変化を及ぼすことができることを示した。

 ナノ粒子の健康影響の包括的な状況を把握するためにもっと多くの研究が必要である。この作業には時間がかかるであろうとハッツは述べた。

 ”ナノ粒子は全て、サイズ、成分及び挙動が変化するので、ひとつひとつを調査しなくてはならない”と、彼は述べた。

 ナノ粒子を研究することに対するもうひとつの障害は、 原子のスケールでは分子はバルクスケールの時とは異なる挙動をするということである。

 ”複雑さにはレベルがある”とラーソンは述べた。”概して、粒子が小さければ小さいほど、環境と相互作用する能力は大きくなる”。

 ハッツは、もし化学的構造が細胞内での活動を制限するよう変更されていれば、粒子の有害性は小さくなるであろうと信じている。


訳注1
Low-dose gold nanoparticles exert subtle endocrine-modulating effects on the ovarian steroidogenic pathway ex vivo independent of oxidative stress
(低用量の金ナノ粒子は酸化ストレスと無関係に体外卵巣のステロイド産生経路に微細な内分泌変調影響を及ぼす)
Jeremy K. Larson, Michael J. Carvan, Justin G. Teeguarden, Gen Watanabe, Kazuyoshi Taya, Evan Krystofiak, and Reinhold J Hutz

Abstract
Gold nanoparticles (GNPs) have gained considerable attention for application in science and industry. However, the untoward effects of such particles on female fertility remain unclear. The objectives of this study were to (1) examine the effects of 10-nm GNPs on progesterone and estradiol-17β accumulation by rat ovaries ex vivo and (2) to identify the locus/loci whereby GNPs modulate steroidogenesis via multiple-reference gene quantitative real-time RT-PCR. Regression analyses indicated a positive relationship between both Star (p < 0.05, r2 = 0.278) and Cyp11a1 (p < 0.001, r2 = 0.366) expression and P4 accumulation upon exposure to 1.43 × 106 GNPs/mL. Additional analyses showed that E2 accumulation was positively associated with Hsd3b1 (p < 0.05, r2 = 0.181) and Cyp17a1 (p < 0.01, r2 = 0.301) expression upon exposure to 1.43 × 13 and 1.43 × 109 GNPs/mL, respectively. These results suggest a subtle treatment-dependent impact of low-dose GNPs on the relationship between progesterone or estradiol-17β and specific steroidogenic target genes, independent of oxidative stress or inhibin.



化学物質問題市民研究会
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