2007年12月18日 欧州委員会/消費者製品科学委員会(EC/SCCP)
化粧品中のナノ物質の安全性に関する意見
エグゼクティブサマリー


情報源:Scientific Committee on Consumer Products (SCCP)
OPINION ON
SAFETY OF NANOMATERIALS IN COSMETIC PRODUCTS
Adopted by the SCCP after the public consultation
on the 14th plenary of 18 December 2007
http://ec.europa.eu/health/ph_risk/committees/04_sccp/docs/sccp_o_123.pdf

本意見書は、欧州委員会/消費者製品科学委員会(EC/SCCP)により
パブリックコメントにかけられた後に2007年12月18日の第14回総会で採択されました。
この意見書は全文63ページですが、ここではエグゼクティブ・サマリーを紹介します。


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2008年3月8日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/eu/SCCP_071218_nano_cosmetic.html

エグゼクティブ・サマリー


 ナノ技術の重要性の増大に対応して、英国王立協会・王立技術アカデミー(RS&RAE)は、ナノ科学とナノ技術に関する報告書(訳注1)を発表したが、その中で主要な勧告のひとつはナノ物質はリスクの観点から新規物質として扱われるべきであり、また皮膚吸収の評価は正常及び異常(病的)両方の皮膚について考慮されるべきであるとするものであった。さらに、ナノ物質の大きな表面積は質量単位あたりの有毒性を高めるかもしれず、質量ベースの暴露評価はナノ物質には適切ではないかもしれない−としている。同報告書はまた、適切な非動物モデルがナノ物質のテストに利用できるかどうかを投げかけている。

 上記に鑑み、消費者製品科学委員会(SCCP)は、ナノ物質の化粧品での使用の安全性評価に目をむけ、動物テストに関する影響及び現在日焼け止め製品中で使用されているナノ物質に関する従来の見解が修正されるべきかどうかについてを検討するよう求められた。

 ナノ粒子は、1又はそれ以上の外形寸法がナノスケール(少なくともひとつの外形寸法が<100ナノメートル))であるような粒子である。ナノ物質は、1又はそれ以上の外形寸法、又は内部構造がナノスケールであり、ナノスケールの造作を持たない同じ物質に比べて新たな特性を示すような物質である。二つの要素が通常の物質に比べナノ物質の特性をと著しく異なるものとする。相対表面積の増大と量子効果である。

 ナノ粒子は二つのグループに分けることができる。
 i) 皮膚に塗ると分子成分に分解する溶解性及び/又は生物分解性ナノ粒子(例えば、リポソーム、マイクロエマルジョン、ナノエマルジョン)
 ii) 不溶解性粒子(例えば、二酸化チタンTiO2)、フラーレン、クオンタムドット)。

 最初のグループについては、質量測定に基づく従来のリスク評価手法が適切かもしれないが、不溶解性粒子については、粒子数のような他の測定、及び表面積や粒子分布もまた必要である。ナノ粒子に関連する潜在的なリスクを評価する場合には、それらの摂取を考慮することが非常に重要である。局所的な使用における暴露経路は、本質的にfollicular and other transadnexal経路を含む経皮であり、吸入、摂取、粘膜からの暴露も時には関連するかもしれない。

 摂取に関連する健康への潜在的懸念が生じるかもしれないのは、主にこの不溶解性粒子である。もしそれらが全身的な転移/移動が可能なら、最終的には2次目標組織での蓄積が起こるかも知れない。このことは化粧品を繰り返し使用するときに重要になるであろう。必然的に不溶解性ナノ粒子は環境への負荷を及ぼすので完全なライフサイクル評価が求められる。

 現在、下記に関して十分な情報がないことが懸念される。
  • ハザードの特定
  • 暴露評価
  • 摂取(人の生理学的に正常又は病的な皮膚からの摂取を含む)
  • 腸と肺の細胞膜を貫く吸収と移動を決定するナノ粒子の物理化学的パラメータの役割
  • 2次目標組織でのバイオキネティックスと蓄積を決定する全身的循環におけるナノ粒子の物理化学的パラメータの役割
  • 潜在的な健康影響(影響を受けやすい個人を含む)
  • 胎盤を貫くナノ粒子の胎児への移動
 従来のリスク評価においては皮膚浸透研究は健康な及び/又は損なわれていない皮膚を用いて実施されている。損なわれた皮膚の場合には、摂取が強まる可能性があるので安全域(Margin of Safety (MoS))でカバーされるよう考慮される。しかし、ナノ物質の場合には、従来の安全域(MoS)では安全性を適切に表さないかもしれない。もし全身的に活性な組織への吸収があるなら、皮膚から全身的循環系への急速な排出をもたらすかもしれない。どのような全身的吸収も異常な皮膚状態(例えば日焼け、アトピー、湿疹、乾癬)でより多く起こりそうであるということが予測される。皮膚における物理的、特に機械的及び/又は化学的反応はナノ粒子の浸透に影響を与えるかもしれないという証拠がある。

 現在、インビトロ チャンバー型拡散セルが経皮的な吸収を評価するための標準装置である。しかし、機械的要素がナノ粒子の潜在的な浸透/吸収において重要かもしれないので、この標準装置は理想的ではないかもしれない。したがって、経皮的浸透経路を評価するための新たな手法が緊急に必要である。

 化粧品中のナノ粒子の吸入と摂取に関するデータについての評価手法に大きなデータ・ギャップがある。

 ナノ物質の体内分布(トキシコキネティクス)は、詳細には研究されていない。

 ナノ物質の変異原性/遺伝毒性テストの基本的要求は他の粒子物質のそれらと類似しているが、ナノ粒子の特性は更なる考慮を求めるかもしれない。しかし現在の確認されたインビボでの遺伝毒性テストは、ナノ粒子の予測される目標組織(特に気道)をカバーせず、化粧品に関連するナノ粒子を含む参照物質で確認されていない。

 ナノ粒子のための全てのインビボ及びインビトロのリスク評価手法はまだ研究段階である。いくつかの確認されたインビトロ手法が存在するが、それらは参照成分としてのナノ粒子で確認されたものはない。

 動物テストは皮膚浸透研究で大幅に削減することはできるが、それらは慢性毒性研究と共に体内移動と蓄積研究に欠かせない。

 化粧品の安全評価に対して、化粧品指令第7次修正(Amendment of the Cosmetic Directive (76/678/EEC))は動物テストとマーケッティングの禁止を課しており(訳注2)、このことは、現在は化粧品の、将来はそれらの成分のインビボ・テストを禁ずるものであることを消費者製品科学委員会(SCCP)は強調する。インビトロ・テストで確認された手法のみ使用してもよいが、現在はナノ物質について上記の手法で確立されたものはまだない。

 日焼け止めで現在使用されているナノ物質について、2003年の酸化亜鉛に関する見解(SCCNFP/0649/03)の中で、ナノサイズの酸化亜鉛(ZnO)に関する安全性データ文書の提出が化粧品及び非食品に関する科学委員会(SCCNFP)によって求められた。そのような物質の安全性に関する見解は適切なデータ文書に依存する。二酸化チタンに関する化粧品及び非食品に関する科学委員会(SCCNFP)の見解(SCCNFP/0005/98)が出されて以来、二酸化チタンを含んでナノサイズ粒子の多くの新たな科学的データが出現している(訳注3)。したがって、消費者製品科学委員会(SCCP)は、最近の情報に照らしてナノサイズの二酸化チタンの安全性を検証し、病理学的な皮膚異常と皮膚浸透に関する機械的反応の影響の可能性を考慮する必要があると考えている。


訳注1
訳注2
訳注3
訳注4:関連記事


化学物質問題市民研究会
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