欧州労働安全衛生機関(EU-OSHA)
2018年10月4日
ナノ物質:そのリスクを理解し管理する

情報源:European Agency for Safety and Health at Work (EU-OSHA) News 04/10/2018
Nanomaterials: understanding and managing the risks
https://healthy-workplaces.eu/en/media-centre/news/nanomaterials-understanding-and-managing-risks

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2018年10月23日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/EU-OSHA/
181004_EU-OSHA_Nanomaterials_understanding_and_managing_the_risks.html

 ナノテクノロジーの急速な進展は人の健康に対する潜在的な危険についての懸念をもたらしている。職場におけるナノ物質に関連するリスクを管理することは、他の危険な物質についてすることと基本的に同じである。しかし、いくつかの重要な相違が考慮される必要がある。もしあなたが職場でナノ物質を扱っているなら、ナノ物質の進展状況を常に把握してください。

ナノ物質とは何か?

 工業ナノ物質は、その原子又は分子に匹敵するスケールの構造であり裸眼では見えない。それらの小さなサイズは、高い強度、高い電気伝導性、又は高い化学反応性を持った軽量物質の開発を可能にする。ナノ物質はしばしば、21世紀の重要な躍進のひとつとしてみなされている。

 ナノ物質は現在、広範な製品と分野で使用されている。それらは、例えば、食品容器、化粧品、塗料、及び電子機器などに使用されているので、あなたは日常生活でそれらに遭遇しているかもしれない。それらはまた、航空産業、建設業、医療技術、自動車分野のような産業でますます使用されている。

暴露と健康影響

 ナノ物質の研究はまだ途上であり、全てのナノ物質が有害影響をもたらすわけではないということを強調することは重要である。それらの影響は個別的に(on a case-by-case basis)検討される必要がある。しかし、あるナノ物質は、当初考えられていたより危険であり、またバルク形状の同一物質より大きな健康リスクをもたらすというようなことを示す証拠が増えている(訳注1)。あるものは人に対して潜在的に発がん性があると分類されている(訳注2)。

 職場での危険なナノ物質への暴露は、作業者がそのことには気が付いていないかもしれない、サプライチェーンの様々な段階で生じる。主要なリスクは、ナノ物質を取り扱い、加工するという作業の結果として、大気中に浮遊する粒子により生じる。これらの粒子は、吸入される、あるいは皮膚に接触することがあり得る。そのようなリスクは多くの産業分野で、とりわけ、医療、保守、及び建設の分野で生じる可能性がある。

 欧州委員会の”ナンテクノロジー製品のリスク評価”は、ナノ物質は特に肺に影響を及ぼすことがあり得ることを発見した。心血管系もまた影響を受けるかもしれず、ある物質は肝臓、腎臓、心臓、脳、骨、軟組織に達していることが発見されている。

職場でのリスク管理

 現在、職場での職業的暴露の限界は規定されていないので、職場でこれらの物質を扱う時には予防原則訳注3:日本語訳)が採用されるべきである。このことは暴露を、”合理的に達成可能な限り低く(As Low As Reasonably Achievable:ALARA)”削減することを意味する。一般的に雇用者は、他の危険物質に対するものと同じアプローチをとるべきである。従来通り、リスク評価、 STOP 原則訳注4)の適用、及び訓練が推奨される。雇用者はまた、職場におけるナノ物質に関連する潜在的なリスクから労働者の健康と安全を保護することに関する欧州委員会のガイダンスに従うべきである。

 しかし、考慮が必要な幾分困難なことがある。すなわち、ナノ物質の特性の多くは未知なので、リスク評価はより困難であり、暴露レベルを測定し、放出源を見つけるための手法と機器はまだ開発中である。この OSHwiki の記事はこれらの困難を詳細に記述している。

 あなたは、EU-OSHA の Infosheet を読むことにより、また、雇用者、労働者、及び労働安全衛生(OSH)の専門家のための情報への多くのリンクを含む EU-OSHA の専用ウェブページを見ることにより、ナノ物質についてもっと多くを見つけることができる。

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訳注1:ナノ物質の有害性
当研究会 ナノテク研究プロジェクト ナノ物質の有害性研究の紹介

訳注2:ナノ物質の発がん性
ナノ材料のリスク評価の国際動向/小林 憲弘(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部 第三室 室長)

訳注3:欧州委員会の予防原則
予防原則に関する欧州委員会コミュニケーション COM2000 (当研究会訳)

訳注4:STOP 原則
Control measures: STOP the risks posed by dangerous substances (European Agency for Safety and Health at Work (EU-OSHA))
 ・・・あなたが職場で危険な物質により脅かされるリスクを管理し、低減したいと望むなら、最も効率的で効果的な方法は、排除又は代替による方法である。これは、雇用者が従わなければならないEU法によって規定されている防護措置の階層の最上位にある。それはSTOP 原則として知られている。

訳注:EU-OSHA のナノ物質関連情報
2012年6月 欧州労働安全衛生機関(EU-OSHA) 職場におけるナノ物質に関する リスク認識とリスク・コミュニケーション(抜粋)(当研究会訳)



化学物質問題市民研究会
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