CIEL, ECOS, Oeko 2015年9月
ナノ物質のための REACH 付属書の改訂 見解表明 (2015年9月) 情報源:CIEL, ECOS and Oeko Institute (訳注0) Revision of REACH Annexes for Nanomaterials - Position Paper, September 2015 http://www.ciel.org/wp-content/uploads/2015/10/Position-Paper-REACH-Annexes-Final.pdf 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2015年12月9日 更新日:2015年12月16日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/CIEL/ CIEL_ECOS_Oeko_2015_Sep_Rev_of_REACH_for_Nanomaterials.html
1. この見解書の目的 REACH は、欧州連合(EU)で製造される又は市場に出される特定の物質を含む物質、混合物及び成形品の健康、安全、及び環境リスクに対応する化学物質に関する欧州連合(EU)の主要な規則である。川下ユーザー(例えば調合者又は成形品製造者)はもとより、製造者及び輸入者は、欧州化学物質庁(ECHA)に対して、彼らの物質、混合物、及び製品を特定し、特性化し、評価した登録書類一式を提出しなくてはならない。登録者の義務は REACH 本文の法的テキスト中に見いだされ、またいくつかの REACH 付属書中でも補強されている。現在までのところ、ナノ特定条項は REACH 付属書中に含まれておらず、最新の知見によれば、現在のところ入手可能な登録書類一式はナノ物質に関する情報を含んでいない[脚注1]。これはひとつには、非ナノ形状物質と同じ化学的同定を持つナノ物質は別の物質とはみなされていないという事実に起因するのかもしれない。これらのナノ物質のために REACH は別の義務を規定しておらず、むしろナノ形状[脚注2]の物質は関連する非ナノ形状の物質と一緒に登録されなくてはならない。2014年5月に欧州委員会はナノ物質の登録の効果を確実にするために、付属書改訂計画をナノ物質に関する当局のサブグループ(CASG-nano)に提示した。この見解書はこれらの提案された改訂案を検討する。 2. 議論されている付属書改訂案 この章は、一般的問題(付属書 I 及び III)、物質同定(付属書 VI)、及び登録者の義務に関して REACH 付属書の中のナノ関連改訂案に焦点を合わせている。付属書 VII〜XI で REACH は物質は、(生態)毒性的ハザードはもとより環境的運命と挙動がテストされるべきことを求めている。 2.1 一般的問題(REACH 付属書 I, II, III) REACH では、ナノ形状の物質は別の物質であるとはみなされていないが、可能性あるリスクを適切に管理するために、分離して評価され文書化されなくてはならない。このことは特に、登録書類一式、化学物質安全性報告書(CSR)、安全データシート、及び川下ユーザーとのコミュニケーションに適用される。 2.1.1 化学物質安全性報告書(CSR)、グループ化、及び暴露評価 提案された欧州委員会の改訂案(REACH 付属書 I の 0.1 節及び 0.3 節 )によれば、ナノ形状物質の製造者及び輸入者は異なるナノ形状物質が彼らの化学物質安全性報告書(CSR)の中に含まれているかどうか、含まれていればそれがどれなのか、について記述しなくてはならない。もし製造者及び輸入者が他の形状の物質の安全使用を示すためにあるナノ形状物質に関する情報を使用するなら、彼らはこのことを彼らの CSR 中で文書化しなくてはならない。したがって登録者は、安全性評価がこの登録にカバーされる全てのナノ形状物質を適切に含んでいることを示さなくてはならない。 欧州委員会は、ナノ形状物質もまたカバーするために、異なる形状の物質をグループ化(訳注1)するための、又は暴露シナリオ中及びリスク管理措置において、みなし代用(read-across)を使用するための条項を改訂することを計画している(訳注2)(cf. sections 0.4 and 0.5 of REACH Annex I REACH)。そのためにも、ひとつのナノ形状物質のデータが同一物質の他の形状の安全な使用を示すために用いられるときにはいつでも、登録者は科学的根拠を提供し、それを記録しなくてはならない。 成形品中で基盤中に恒久的に埋め込まれている又は技術的方法で強固に含められているナノ形状物質の物質特定暴露評価に関して欧州委員会は、”関連し適切な場合には(where relevant)”、ナノ形状物資の放出推定は REACH 付属書 XI 3.2 節 c) 項の条件を考慮に入れることを提案している(cf. 付属書 I section 5.2.2 of REACH)。 我々の見解: ナノ形状の物質は別に評価され文書化されなくてはならないことを明確にしているので、我々は提案されている改訂案を歓迎する。ナノ形状物質の暴露評価に関しては、REACH 付属書 I section 5.2.2 における”関連し適切な場合には(where relevant)”という文言の追加は、非ナノ形状物質に比べてナノ形状物質のための追加のステップであり、不確実性をもたらす法的解釈が必要なので削除されるべきである。 さらに欧州委員会は次の文言を付属書 I section 0.1 に加えることを提案した。”化学物質安全性報告書はまた、いつ、どのようにひとつの形状に関する情報が他の形状の安全性を示すために用いられているのかに関する情報についての供述を含んで、製造され輸入される異なるナノ形状物質が彼らの化学物質安全性報告書(CSR)の中に含まれているのかどうか、含まれていればそれがどれなのか、について記述しなくてはならない。この付属書の中のナノ形状物質に特定する要求は、影響を与えることなく、その物質の他の形状に適用可能な要求である”。 我々の見解: ナノ形状物質の使用は、化学物質安全性報告書の中で登録者によって特定されなくてはならないということが REACH 付属書 I の中で明確に述べられるべきである。もし、ある特定用途のためのあるナノ形状物質が非ナノ形状又は他のナノ形状物質とは異なる暴露及び/又はリスクを示すということがあれば、その用途によって示されるリスクに関する有害影響、暴露評価、及び記述の異なる決定がなされなくてはならない。 2.1.2 段階的導入物質のための(生態)毒性学的情報 (REACH 付属書 III) 生産量が 1〜10トンまでの物質の登録書類一式は、登録者に入手可能な物理化学的及び(生態)毒性学的情報を含まなくてはならない(cf. 付属書 III に関連して REACH 第10 章及び第 12 章)。REACH 発効の2008年6月1日以前にすでに製造されていた又は上市されていた物質(段階的導入物質(phase-in-substance)と呼ばれる)のナノ形状のものについて、登録者は毒性学的及び(生態)毒性学的情報を提出することは求められない。登録者は物理化学的特性に関する情報を提供することだけが求められる(cf. REACH 第 12 章(1) lit b))。その義務とは対照的に、2008年6月1日以降に上市された物質(非段階的導入物質(non-phase-in-substance と呼ばれる)の登録者、及び発がん性、変異原性、又は生殖毒性のあるらしい段階的導入物質の登録者、又は分散的又は放散的用途の物質、例えば消費者混合物及び消費者成形品中、は、付属書 VII ((cf. REACH 付属書 III lit. a) 及び b) )によれば、物理化学的及び(生態)毒性学的情報を提供しなくてはならない。最新の改訂案によれば、欧州委員会は、ひとつ又はそれ以上のナノ形状物質を持つ段階的導入物質を付属書 III に含めることを望んでいる。 我々の見解: 提案された改訂案の結果として、登録者は、ひとつ又はそれ以上のナノ形状物質を段階的導入物質のための登録書類一式中に物理化学的及び(生態)毒性学的情報を含めなくてはならなくなるであろう。さらに、もし(REACH 付属書 III の b) (ii) 項に対応して)”ナノ形状物質が消費者用調剤の中で使用されている、又は消費者用成形品中に導入されている”なら、物理化学的及び(生態)毒性学的情報は登録書類一式中に含まれなくてはならないということが REACH 付属書 III の b) (i) 項に述べられるべきである。この改訂案により、既存のナノ物質(すなわち、ナノ形状の物質それ自身又はすでに市場にある消費者製品中で使用されているナノ形状の物質)のひとつの重要な抜け穴が閉じられるであろう。 2.1.3 試験材と試料調整の詳細な記述 提供されたデータの妥当性を確保するために登録者が使用した試験材と資料調整について記述することは非常に重要である。 欧州委員会は、下記の改訂を付属書 VII〜X の導入部文言に含めることにより、全てのトン数帯(tonnage band) に対応することを望んでいる。 ”他の形状物質のために提出された情報に影響を与えることなく、どの様な関連する物理化学的、毒性学的、及び生態毒性学的情報はテストされたナノ形状物質の特性化と試験条件を含まなくてはならない。情報が定量的構造活性相関(QSARs)又は試験以外の他の方法を通じて得られた証拠の適用によって提供された場合も同様でなくてはならない”。 我々の見解: 我々は、登録者に試験材と試料調整を記述することを課す改訂を歓迎する。しかし、登録者はまた、なぜ選定された材料と試験方法が最も適切なのか、及び期待される結果は多様な形状物質に利用できるのかどうか説明すべきである。その正当性の説明は、みなし代用(read-across)の結果の品質−すなわち、特定のナノ物質のためのハザード評価(例えば、二酸化チタン20 nm)は他のナノ物質(例えば、二酸化チタン30 nm)にとっても真実である−を管理するために必要である。さらに、正当性は歴史的データの使用にも適用されるべきである。 2.2 物質同定と物理化学的特性(REACH 付属書 VI) REACH 第3条 1項における物質の定義は、ナノ形状の物質をもカバーするということは合意されていることである。それにもかかわらず、同一の化学成分を持つ物質のナノ形状と非ナノ形状(バルク形状)はひとつのものであり、同一の物質かどうか、又は規制の観点から別々の物質なのか、依然として不明確である。ひとつの解決は、ある物質の非ナノ形状とナノ形状のものをを別々の物質として扱うことである。欧州委員会は、この選択肢に注意を向けていないが、ナノ形状物質と非ナノ形状物質を同一物質の異なる形状として扱っており、REACH 付属書 VI, 第2節に従ってナノ物質を特定するための基準はもちろん、”ナノ物質”のための定義を含めることを提案している。”ナノ物質”という用語の定義に関して、欧州委員会は2011年10月18日の勧告(訳注3)[脚注3]を付属書 VIの中で実施することを提案している。 ひとつの物質の登録がまたナノ形状の物質をカバーする場合には、提案される改訂案は、下記の基準に従って、ナノ形状物質の特性化を求めている。
我々の見解: REACH 付属書 VI にナノ定義を含めることを歓迎する。それはナノ特定条項を適用するときに法的確実性を与える。しかし、さらにその定義を本文テキストに含めれば、REACH が適用する全ての利害関係者に対して拘束力を持たせることになるであろう。ナノ形状物質の特性化のための提案は、最低限の特性化要求をカバーしているだけである。1〜100 nm の範囲外の粒子サイズ分布に関する情報;表面の化学的特性及び表面電荷;使用中及び(環境的)放出時におけるず凝集体(アグロメレート)/凝集塊(アグリゲート)の形成;及びナノ形状物質の”結晶状態”の可能性など、重要な特性化情報が欠けている。ナノ形状物質のリスク評価に関連する重要なパラメータのひとつであると考えられる表面処理、コーティング、機能化に求められる情報は著しく制限されている[脚注4]。 2.3 人と生態への毒性 (REACH 付属書 VII - XI) REACH の下では、登録者は、登録者当たり、及び年間当たりの製造量によって異なる登録とテスト要求に従わなくてはならない。
ナノ形状の物質は、(生態)毒性及び環境的挙動に関し、化学的に同一の非ナノ形状物質及びその他のナノ形状物質の両方と異なることがあり得る。以前の研究が、ナノ物質の(生態)毒性について、サイズ以外の基準が重要かもしれないことを示した。例えば、結晶形状(例えば TiO2)、汚染の可能性、3-D 構造(例えば CNT)、及び表面処理である[脚注5]。2012年、ナノ特有の要求は、例えば評価項目−要求特定テストに関して、ECHA の”情報要求と化学物質安全性評価に関するガイダンス”に導入された[脚注6]。現在、REACH 付属書に含まれるナノ特定条項は存在しない。欧州委員会は REACH 付属書の次に続く改訂を検討している。 我々の見解: ナノ形状物質の登録者は、もし吸入又は皮膚がもっと適切な経路なら、経口テストの代わりに又は追加して、吸入又は皮膚調査を実施すること義務付けるべきである。さらに、登録者は、どの経路がそのナノ形状物質にとって最も妥当であるとみなされるかについての科学的根拠を示すことを義務付けるべきである。残念ながら、追加的暴露経路のテストはもっと多くの動物テストををもたらすであろう。しかし、我々は、これらのテストを求めないということは、代わりにその物質を人間でテストすることになるということを主張する。 2.3.1 人の健康ハザードのための妥当な評価項目に目を向ける 急性毒性 ナノ形状物質の急性毒性の見地から、一般的に人間の健康にとって、”吸入”が最も関連性のある暴露経路であると考えられる。現在、1トン以上生産される物質には経口毒性テストだけが求められている(付属書 VII, Section 8.5.1)。しかし、その物質が皮膚に腐食性があると分類される、又は吸入による急性毒性に関する研究が利用可能である場合には、経口毒性テストは要求されない。 欧州委員会は、1トン以上生産される物質について、もしそれらがより適切な暴露経路なら、付属書 VIII Sections 8.5.1 及び 8.5.3 に従い、吸入又は皮膚研究を求めることを検討している。 我々の見解: テストが求められるものは分離した”ナノオブジェクト”であり、その凝集塊(アグリゲートまたは凝集体(アグロメレート)ではないことが明確にされるべきである。さらに、テストにおいて、ナノ形状物質の表面処理を考慮することが義務付けられるべきである。 2.3.2 妥当な評価項目又は環境的運命と環境的ハザードに目を向ける 安定性 環境中におけるナノ形状物質の運命を予測するために、ある物理化学的特性(例えば加水分解など)は関連ある要素である(cf. REACH 付属書 VIII Section 9.2.2.1)。しかし、ナノ形状物質にとって、イオン溶出のような他の非生物的な分解メカニズムの方がもっと妥当かもしれない。欧州委員会は、付属書 VIII Section 9.2.2.1 でこの側面を議論しており、他の非生物的分解メカニズム(例えば光分解又は他の化学物質との相互反応など)の方が加水分解より妥当なら、ナノ形状物質のためのもっと適切な研究を求めることを計画している。 生物蓄積性 生物蓄積の可能性は、100 - 1,000 t/y のトン数帯の物質についてテストが行われなくてはならない(cf. REACH 付属書 IX Section 9.3.2)。この点については脂溶性が重要である。それはオクタノール/水分配係数 (log Kow)により測定される(訳注4:log Pow とも表記される)。もし、log Kow が 3 より大きいことが分ければ、その物質は生物蓄積性を有する引き金とみなされる。しかし、付属書 IX Section 9.3.2 によれば、もしその物質が脂溶性でなければ(log Kow が 3 より小)、生物蓄積性テストは免除されることができる。log Kow はナノ形状物質の生物蓄積性の能力を決定する指標として適切ではないかもしれないので、そのテストの免除はナノ形状物質の log Kow だけで正当化することはできないことを欧州委員会は提案している。 移動と分散 同様に欧州委員会は、”吸着/離脱”パラメータに関してナノ形状物質のテスト免除を制限することを議論している(cf. REACH 付属書 VIII Section 9.3.1, 付属書 IX Section 9.3.3)。欧州委員会は、“Kow”だけでは低い吸着能力に基づくテストを免除する根拠とならないということを規定するために Section 9.3.1 を修正することを計画している。 長期的毒性 トン数帯 100 - 1000 トンの範囲で生産される物質の登録者は、長期毒性テストを実施しなくてはならない(REACH 付属書 IX Section 8.6.2)。現在までのところ、もし短期毒性テストが有毒性の証拠を示さなければ、長期テストは免除することができる(cf. REACH 付属書 IX Section 8.6.2 第二列)。欧州委員会は、短期毒性の証拠欠如に基づき、長期毒性テストの免除の可能性を抑えることを提案している。 ある物質の長期亜慢性毒性を評価するために、付属書 IX Section 8.6.2 は、皮膚又は吸入経路が最も適切かどうか登録者が決定するのに役立つ基準を含んでいる。欧州委員会は現在、ナノ形状物質が登録に含まれている時には、追加的基準に”心循環系毒性”及び”呼吸系感作”を含めることを提案している。 土壌と沈殿物にとっての有害性 物質の土壌微生物へのハザードを評価するために、もし土壌微生物の毒性データが利用可能でなければ、分配平衡法(equilibrium partitioning method)が適用されるかもしれない(cf. ”陸生微生物への影響” 付属書 IX section 9.4 第二列)。欧州委員会の改訂案によれば、分配平衡法はナノ形状物質にもまた適用可能かもしれないが、その使用は科学的に正当化されなくてはならない。 2.3.3 グループ化/みなし代用/定量的構造活性相関のための科学的根拠(REACH 付属書 XI) REACH 第13条によれば、付属書 VII〜X に規定される標準テスト要求を適合させるために、もし付属書 XI の一般的規則に合致するなら、テスト以外の方法で物質の本質的特性に関する情報を生成してもよい。特に人への毒性をテストするときに、脊椎動物テストは回避されるべきである。その代わり、試験管テスト、定量的構造活性相関(QSAR)の使用、又は構造的に関連がある物質のデータ使用(グループ化又はみなし代用)のような代替手法が使用されるべきである。登録者は、もし暴露及びリスク管理手法に関する利用可能な情報によって正当化されるなら、付属書 XI, section 3 に規定されているように、付属書 VIII, sections 8.6 及び 8.7 、付属書 IX 及び 付属書 X に従って、テストを省略してもよい。 欧州委員会は、ある物質とともにナノ形状物質が登録される時には、ナノ形状物質については別個に対応することを基本的に提案している。さらに、付属書 XI section 1.5 にある物質のグループ化とみなし代用のための規則がナノ物質にもまた適用されなくてはならない。 我々の見解: 一件ごとにナノ形状物質をグループ化するという類推概念は歓迎される。この条項に関する議論は、登録者は(生態)毒性学的評価のためにこれらのナノ形状物質をグループ化することを決定する前に、すべての形状の物質の完全な特性化を提供しなくてはならないのかどうかということに関連する。特性化されていないナノ形状物質の(生態)毒性学的評価のためのグループ化を許すことは、提案された改訂のほとんどの目的を覆すことになるであろう。ハザード評価の目的のためのグループ化は、ひとつのナノ形状物質安全性に関する情報が他のナノ形状物質の安全性を示すことに用いることができるという前提に基づいている。ナノ物質は多様な物理化学的特性をもつことができ(例えば、サイズ、コーティング、形状、表面特性、溶解性など)、それはその(生態)毒性に影響を及ぼす(cf. Fact sheet “Toxicity of Engineered Nanomaterials”)。これらの特性は、物質特性化プロセスを通じて特定される。従って、ハザード評価のためにいくつかの特性化されていない物質をグループ化することは科学的に無意味である。そうではなくて、ナノ物質がハザード評価目的のためにグループ化される前にそれらの特性化を求めることが本質的に重要である。 2.4 川下ユーザー (REACH Annex XII) 川下ユーザー[脚注7](例えば調剤者又は成形品の製造者)もまた、彼ら自身の現場で安全な使用を実施し、彼らへの供給者及び彼らの顧客の両方に適切な情報を伝達することにより、化学物質の安全な使用に責任がある。彼らは、供給者(登録者)が暴露シナリオの中で除外したどのような用途のためにも、又は供給者が使用しないよう助言したどのような用途のためにも、付属書 XII に従って化学物質安全性報告書(CSR)を作成することが求められている(cf. REACH 第 37 条(4))。付属書 XII は、川下ユーザーが物質を評価し、CSR を作成するための一般条項を含んでいる。 欧州委員会は、川下ユーザが”使用する混合物及び成形品中のナノ形状物質の物理的状態、濃度、濃度範囲、または数量に関する利用可能な情報を保持する”義務を付属書 XII の導入部に記述することを提案している。欧州委員会によれば、この義務は、川下ユーザーが供給者の安全データシートから得た全ての情報に適用する((cf. REACH 第 31 条、及び 32 条)。 我々の見解: 川下ユーザーのためのこの新たな義務は歓迎される。我々はまた、ナノ形状物質のライフサイクルにおける過去の操業条件及び彼らの物質のハザード評価における現在の暴露条件を考慮することを歓迎する。 脚注1 RPA et al (2014): Study to Assess the Impact of Possible Legislation to Increase Transparency on Nanomaterials on the Market, Evaluation Report for DG Enterprise and Industry, November 2014, p. 110. 脚注2 この見解書の中で、”ナノ形状物質(nanoform of a substance)”という用語は、REACH における物質に同等な科学的同一性を持ったナノ物質に関連する。 脚注3 定義は次のように読むことができる: ”ナノ物質は、非束縛状態(unbound)、又はアグリゲート(aggregate)又はアグロメレート(agglomerate)の状態であり、サイズ数分布が50%以上であるような粒子については、1 又はそれ以上の外形寸法が1nmから100nmの範囲にある、天然、非意図的、又は工業的に製造された物質を意味する。 例外として、1 又はそれ以上の外形寸法が 1 nm以下のフラーレン、グラフェンナノフレーク、及び単層カーボンナノチューブはナノ物質とみなされるべきである。 この目的のために、粒子(particle)は、物理的境界を持つ物質の微細な断片を意味する。アグロメレート(agglomerate)は、外部表面積が個々の要素の表面積の和とほぼ同じであり、弱く束縛された粒子又はアグリゲートの集合を意味する。 アグリゲート(aggregate)は強く束縛された又は溶解された粒子を意味する。 ナノ物質は、ある形状の物質又は 明確な物質かもしれない。ナノ物質は異なるナノ形状を持つかもしれない。 参考:欧州委員会2011年10月18日 ナノ物質の定義に関する勧告 脚注4 Stone, V.; Hankin, S.; Aitken, R.; Aschberger, K.; Baun, A.; Christensen, F.; Fernandes, T.; Hansen, S.F.; Hartmann, N.B.; Hutchison, G.; Johnston, H.; Micheletti, C.; Peters, S.; Ross, B.; SokullKluettgen, B.; Stark, D.; Tran, L. (2009): “ENRHES ? Engineered nanoparticles: review of health and environmental safety”. 脚注5 Stone, V.; Hankin, S.; Aitken, R.; Aschberger, K.; Baun, A.; Christensen, F.; Fernandes, T.; Hansen, S.F.; Hartmann, N.B.; Hutchison, G.; Johnston, H.; Micheletti, C.; Peters, S.; Ross, B.; SokullKluettgen, B.; Stark, D.; Tran, L. (2009): “ENRHES ? Engineered nanoparticles: review of health and environmental safety”, EC contract number 218433. 脚注6 See the website of ECHA: http://echa.europa.eu/guidance-documents/guidance-on-information-requirements-and-chemical-safety-assessment (as from 21.11.2014). 脚注7 Downstream users are companies or individuals who use a chemical substance, either on its own or in a mixture, in the course of their industrial or professional activities. 訳注0:CIEL, ECOS, Oeko 紹介
HPV化学物質プログラムにおける化学物質カテゴリーの作成と使用の手引き(HPV 化学物質点検マニュアル 経産省) 訳注2:REACH におけるグループ化とみなし代用(参考情報) 欧州委員会/BiPRO最終報告書 2013年1月14日 ナノ物質のためにREACH 要求を変更するための可能性あるオプションの、産業、消費者、人の健康、及び環境に及ぼす影響の検証と評価 ”評価されたコストは、REACH 規則の規定にあるように、広範なグループ化と 定性的みなし代用 (read-across)アプローチを考慮に入れている。このようなアプローチをしなければ、最終コストは劇的に増加して、1億ユーロ(125億円)から6億ユーロ(750億円)に跳ね上がるであろう”。 訳注3 欧州委員会2011年10月18日 ナノ物質の定義に関する勧告 訳注4:オクタノール/水分配係数 分配係数/ウィキペディア 分配係数とは、化学物質の疎水性や移行性を表す指標となる無次元数である。対象とする物質が、ある2つの相の接した系中で平衡状態にある場合を対象として、各相の濃度比またはその常用対数で示す。最も広く使用されている分配係数は、溶媒として n-オクタノールと水を用いたオクタノール/水分配係数 であり、特に強調したい場合は Octanol / Water を意味する添字をつけ Log Pow と表記される。 |