ZMWG 2011年1月
INC2 エレメント・ペーパー変更勧告の概要

情報源:Zero Mercury Working Group, January 2011
INC 2 Briefing Paper Series
Summary of Recommended Revisions to Elements Paper

http://www.zeromercury.org/UNEP_developments/ZMWG%20Summary%20of%20changes%20to%20Elements%20Paper%20for%20INC%202%20final.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
Translated by Takeshi Yasuma (Citizens Against Chemicals Pollution (CACP))
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2011年3月11日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/zmwg/ZMWG_110110_summary_changes_elements_paper.html

概要
 ZMWGは、INC2のためにUNEPによって準備されたエレメント・ペーパーを歓迎し、このドラフト・エレメント・ペーパーを交渉開始のベースとして使用することを勧告する。水銀の世界の供給と貿易を削減するための全体的アプローチは妥当であり、新たな石炭火力発電所からの水銀放出の規制とともに、製品とプロセスの廃止を目標とすることは歓迎される。

 しかし、それを成功させるために、水銀条約は、エレメント・ペーパーの多くのセクションにおいて、もっと野心的であることが必要である。下記は最も重要な領域の一部である。

第7条:水銀含有製品
 ZMWG は、禁止される/廃止されるべき製品のリストではなく、使用を許されるべき製品のリストとすることを勧告する。もし、各国政府代表者らが後者のアプローチを支持するなら、廃止対象となる現在の製品リストは拡張され、将来製品を追加するための合理的な規則が作られるべきである。さらに、非締約国との貿易はもっと制限されなくてはならない。エレメント・ペーパーはこの点が特に弱く、変更して強化すれば、政府に対し条約加盟国になることを強く促すことになるであろう。

第9条:小規模金採鉱
 小規模金採鉱(ASGM)は、世界で最大の水銀用途であり、この分野での使用を削減するためのもっと強い措置を求めなくてはならない。領域内に小規模金採鉱を持っている締約国は、いつ、どのように、この最悪の水銀管理手法を廃絶するかについて、及び、採鉱者及び影響を受ける地域社会に情報を提供するための戦略を含んで、どのようにこの分野における水銀使用と放出の削減を達成するかを具体的に示す目標とタイムテーブルを備えた行動計画を作成し、実施することが求められなくてはならない。

第10条:大気への水銀放出削減
 エレメント・ペーパーの第10条は、管理技術を新たな施設だけに適用しようとするものであり、 したがって世界の水銀放出の現在のレベルに対し、本質的に祖父条項を適用する(新規の規則の適用を除外する)ことになる。最良の利用可能な技術(BAT)と考えられるものは、新規の放出源と、すでに設置されている汚染管理機器を考慮しなくてはならない既存の放出源には相違があるが、このBATが、新たな優先大気放出源と同じく、既存の放出源にも適用されなくてはならない。

第13条:汚染サイト
 曝露した人々が暴露についての情報にアクセスできるようにすること、汚染サイト周辺の健康調査を実施するための能力を政府内に構築すること、被害者が汚染者負担の原則に基づいた適切な補償を確実に受けることができるようにするためのメカニズムを作り出すこと−などを含んで、曝露した人々が必要とすることにもっと目を向けるための改善が必要である。

第15条:財源と財務メカニズム
 条約は、基金が条約義務を満たすための重要な財源を提供すること;条約遵守を促進する方法で運営すること;条約優先事項への財源を目標とすること;及び統制構造内に広範な締約国代表を含むこと;を期待して、財務メカニズムとして特化した基金を設立すべきである。


詳細コメント
パートT:はじめに
1. 目的
 目的の現在の言い回しは非常に弱い記述であり、たとえそのようにすることが実行可能であっても、水銀使用と放出を廃絶するという基本的な目標を確立することができないので、後日の交渉まで、"placeholder"という語に置き換えること。

2. 定義
 定義の技術的な一連の修正を行なうこと。
  • ”小規模金採鉱(ASGM)”は、公式及び非公式な活動状態の両方を表すこと。
  • ”許される使用”は、少量の水銀が研究目的で使用されるかもしれないことを明確にすること。
  • ”水銀(mercury)”は、金属水銀だけをさし、条約中の文言に反映すること
  • ”環境的に適切な保管”は、保管の目的を明確にすること。 ・ “environmentally sound storage” to clarify the objective of the storage; and
  • ”水銀化合物”は、放出、廃棄物、汚染サイトに関連する潜在的に関連する全ての化合物を含むこと。
パートU:水銀の供給削減措置

3. 水銀供給源(及び関連 Annex A)
  • 条約発効後3年以内に水銀の一次採鉱を止めること。
  • ある地域では潜在的に著しい水銀供給源である天然ガス製造からの副産物回収を管理された水銀供給源のリストに加えること。
4. 環境的に適切な保管
  • 保管要求は水銀化合物由来の金属水銀に適用することし、化合物自体には適用しないことを明確にすること。
5. 水銀又は水銀化合物の締約国との国際貿易
  • 条約の下に許可された貿易だけが行えるよう、水銀と水銀化合物の貿易の許可のための国内の枠組みを求めること
  • ASGMのための水銀貿易が禁止されるのであって、ASGMにおける水銀の使用が禁止されのではないことを明確にすること。
  • 水銀の歯科用途のための国際貿易は、歯科アマルガムの形態でなくてはならず、金属水銀又は他の水銀化合物の形態であってはならない。(注記:歯科用水銀として輸入が正当化された水銀が、しばしばASGMに向けられる。)
6. 水銀又は水銀化合物の非締約国との国際貿易
 非締約国による水銀の横流し又不適切な保管を防ぐために、どのような状況であろうと非締約国への水銀輸出は禁止すること。この広範な禁止は、もっと多くの政府が条約に参加することを促進するという効果もある。

パートV:水銀の意図的使用を削減する措置

7. 水銀添加製品(及び関連 Annex C)
 我々は、禁止される用途をリストする現在のアプローチではなくて、条約の下に具体的に免除されるものを除き全ての水銀添加製品が廃止されるアプローチを勧告する。しかし、もし、現在のアプローチが取られるなら、INCは次のことをすべきである。
  • 将来における対象製品の見直し及び追加のために合理的なプロセスを作り出だすこと。
  • Annex C に、次の廃止すべき製品カテゴリーを追加すること。
     @.石けんと化粧品
     A.マーキュロのような局所消毒剤
     B.塗料
     C.農薬

  • 単純な禁止では短期間に水銀含有を最小にせずに全面的使用免除をもたらすかもしれないので、ランプのタイプ毎に水銀含有制限を設定すること。
  • 新規製品は、非水銀代替の利用可能性が評価できる許可使用免除プロセスの下に承認されるべきこと。
  • 締約国となることを促進すること、及び、制限された水銀製品は条約の免除手続きに従ってのみ使用されることを確実にすることの両方のために、非締約国との水銀製品貿易を制限すること。特に:
     @.制限製品の非締約国への輸出を禁止すること。
     A.非締約国からの制限製品の輸入のための使用許可免除を得ることを締約国に求めること。
     B.条約の下に制限されている製品を製造するために用いられる機器の非締約国への輸出を禁止すること
     C.締約国会議が禁止されている水銀プロセスを用いている製品と工場を特定することができる場合、PVC又は苛性ソーダのような条約で禁止されている水銀プロセスを使用して非締約国により作られた製品を締約国が輸入することを禁じること。

8. 水銀が使用されている製造プロセス(及び関連する Annex D)
  • 要求される廃止行動計画の開発と実施の両方を求めること。
  • 廃止されるプロセス危機の非締約国への輸出を禁止すること。
  • ポリウレタン・エラストマー製造を禁止プロセスのリストに加えること。
  • 塩素アルカリ製造は、これもまた水銀電極を使用するナトリウムメチラート製造を含むということを定義すること。
  • 条約に水銀プロセスの範囲に著しい隙間がないかどうか、又は新たな技術や情報が以前には目を向けられなかったプロセスの管理技術にもたらされるるべきかどうかを決定するために、 Annex D の定期的なレビュー要求を加えること。
9. 小規模金採鉱(ASGM)(及び関連する Annex G)

  • その領域内に小規模金採鉱を持っている締約国は、そのような採鉱において、どのように水銀使用と放出の削減を達成するかを具体的に示す行動計画を準備し実施するよう求めること。
  • 行動計画は、他の要素のもある中で、特に戦略、目標、及びタイムテー-ブルを下記のために含むよう規定すること。
     @.全鉱石アマルガメーション、蒸気捕捉なしのアマルガム加熱法などの特定の実施方法を防止すること。
     A.小規模金採鉱者や影響を受ける地域社会に情報を提供すること。
     B.この分野で水銀使用を廃絶する長期目標を達成すること。
     C.農薬
パートC:水銀及び水銀化合物の大気、水、土壌への放出を削減する措置

10. 大気放出(及び関連する Annex E)
  • BAT/BEP 指針が様々な異なる燃料タイプとプラント構成に適用される水銀放出を管理するための管理オプションのメニューを提供するということを認識しつつ、条約遵守を達成するために、新たな放出源よりもっと長い時間ともっと多くの柔軟性をもって、既存の設備にBATを適用し、効果的な多種汚染管理戦略の長所を取り入れること求めること。
  • BATに、水銀放出に関する正確でリアルタイムデータを提供する連続放出監視装置(CEMs)の使用を含めること。
  • 行動計画の開発と実施を求めること。
  • 関連する水銀の全ての形態が大気管理措置の下に対応することを確実にするために、水銀放出を定義すること。
  • 条約の監視と効果測定に資するために、効果データの調和と比較を促進する報告イシステムを設計するよう締約国会議(COP)を促すこと。
  • 天然ガス製造装置を管理された大気放出源のリストに加えること。
11. 水及び土壌への放出(及び関連する Annex F)

  • 歯科診療所は、水への顕著な水銀放出源であることがよく知られているので、Annex F に歯科診療所を加えること。
  • Annexes D と E にリストされているプロセスからの廃棄物処理設備がカバーされていることを明確にすること。
  • 当該放出が水銀と水銀化合物の両方の放出を含んでいることを明確にすること。
  • 締約国が、これらの指針に”準拠して行動”し、弱い管理体制をよいことに指針を無視又は回避するということができないようにすること。
12. 水銀廃棄物

  • 廃棄物を発生させた国は、実施可能なら国境内でその廃棄物を管理すべきとする原則を適用し、水銀廃棄物を先進国から途上国への投棄を禁止すること。
  • 廃棄物管理技術は、ほとんど常に水銀含有量ではなく、廃棄物のタイプ(すなわち使用済み製品)によって定義されるので、濃度による低水銀廃棄物の定義への参照を削除すること。
  • 第12条に該当する水銀廃棄物の範囲は、Annexes D-F にリストされた発生源に由来する廃棄物を含むことを明確にすること。
  • 締約国会議は、条約の下における水銀廃棄物管理のための主要な政策策定組織としての役割を保持することを明確にすること。
13. 汚染サイト

  • 汚染サイト修復は、必要に応じて健康影響調査を実施すること、曝露した集団に彼らが直面しているリスクに関する迅速で正確な情報を提供すること、及び、汚染者負担の原則に基づき、汚染サイトから危害を受けた被害者への適切な補償を確実にすることを含むことを明確にするために表現を強くすること。
  • 脆弱な集団は、修復期間中、保護されること。
  • BAT/BEP 指針は、修復期間中の健康調査実施と曝露低減に関する情報を含むこと。
  • 締約国会議(COP)は、汚染者負担原則に基づき、どのようにして適切な責任体制を構築するかに関する指針を締約国に提供すること。
パートX:過渡的措置

14. 使用許可のための免除
  • ”自動的”な使用許可のための免除は2年間に制限すること。
  • 取得免除(COPのレビューと承認対象)は4年間に制限すること。
  • COPは、使用許可のための免除プロセスを開発する時には専門家と利害関係者と協議すること。
  • COPは、使用許可のための免除要求を評価するときに、水銀及び水銀廃棄物が適切に管理されるかどうか、及び水銀使用を廃絶するための活動が計画されている又は現在行なわれているかどうかを考慮すること。
  • その後はどのような免除も許可されないという免除プロセスのための”日没日”(最終日)を設定すること。塩素アルカリ製造、水銀添加の塗料、農薬、石けん/化粧品、局所消毒薬については、すでにこれらの製品とプロセスの廃止/廃絶が十分に行なわれているので、2020年の日没日を指定すること。
パートY:財源と技術的及び実施支援

15. 財源とメカニズム
  • 財政支援体制を次のように構築する。
     @.財政支援と説明責任の両方が適切であること。
     A.条約中の遵守メカニズムとの整合性を通じて十種を促進するやり方で運用されること。
  これを達成するために、条約は:
  • 専用の基金は特にこの水銀条約の必要に照準を合わせた新たな一貫した財源を提供することができるので、モントリオール議定書を支援しているものと同様な専用基金を創設すること。
  • 基金の統制構造は、締約国空の多様な代表とその運用における透明性を提供することを確実にすること。
  • 統制構造は、条約優先項目に従い財源を確保するために基金の安定性に役立つことを確実にし、条約が必要とする変化に適応すること。
  • 条約が発効する前に、財政行動計画の開発と水銀使用/放出に関する活動のための暫定的な財源を特定すること。
  • 基金の定期的評価が、利害関係者の関与の評価を含むこと、及びその活動の管理が透明性のあるやり方で行なわれること。
16. 技術的支援
 技術支援が締約国の地域的な支援を求める必要性に基づくべきことを明確にすること。

17. 実施委員会
 委員会は、条約の下に責任を負っているので、全ての関連団体からヒアリングすることで益することを確実にするために参照の用語を修正すること。

パートF:周知向上、研究と監視、情報伝達

18. 情報伝達
 変更なし。

19. 公開情報、周知、教育
  • 公衆が条約活動と水銀使用の削減又は廃絶に向けての進捗について関連する国内情報を提供されることを確実にすること。
  • 締約国は、水銀曝露によるリスクと、そのようなリスクを削減するための締約国の計画を理解するよう脆弱な集団を支援することを確実にすること。
20. 研究、開発、監視
  • 水銀使用と放出、及び脆弱な集団と世界中からの水産食物源の汚染レベルに関するデータを含んで、条約実施と効果に関連するデータの収集を改善すること。
  • 水銀化合物の放出の広い範囲を明らかにすること。
  • 非水銀製品とプロセスの開発とともに、放出管理と監視の改善を促進すること。
21. 実施計画
 開発と実施計画における利害関係者の関与が期待され促進されることを明確にすること。

22. 報告
 条約の進捗と効果をよりよく監視するために次のようなやり方で情報収集プロセスを改善すること。
  • 定期的な報告が求められる主要な分野を拡張すること。
  • データは公的に入手可能であること。
  • 条約発効2年後に報告システムを立ち上げること。
  • 水銀製品と貿易に関する年次報告を求めること。
  • 大気放出に関する2年毎の報告を求めること。
  • 特定のデータ(製品、プロセス、土壌と水への放出、等)が必要に応じて締約国会議(COP)に提供されることを求める条項を強化すること。
  • 新たな水銀添加製品は特別な事情がある場合だけ認可されるということを確実にするために、締約国会議U(COP)が必要に応じて新たな製品に関するデータを求める追加的権限を儲けること。
23. 効果の評価
 条約効果の評価のためにヒト曝露と水産食物供給の監視を含めること。

パート[(組織配置)及びパート\(紛争解決)(第24条〜第26条)
 変更なし。

パート]:条約のさらなる展開

24. 条約の改正
 変更なし。

25. Annexes の採択と修正
 既存のAnnexesへの追加と修正を行なうためのプロセスを合理的なものにすること。

パートXI:最終条項(第29条〜第36条)
 変更なし。


訳注:関連情報




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