EHN 2014年2月18日
弱い性か? 男のぜい弱性が
月並みな考えに挑戦


情報源:Environmental Health News, Feb. 8, 2014
The weaker sex? Male vulnerabilities challenge a stereotype
By Alice Shabecoff
http://plone.environmentalhealthnews.org/news/2014/feb/mans-fate

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2014年3月18日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/ehn/140218_EHN_the_weaker_sex.html

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男の子は基本的な生物学的理由のために、女の子にはないある弱さを持っている。

 我々はおかげさまで、将来のヒトの雄の存在に対するひとつの恐れを我々の懸念リストから外すことができる。雄の Y 染色体は、数百万年の間に当初のたくましいサイズからのゆっくりとした縮小の後、明らかにその消滅活動動を停止している。

 しかし、まだ喜ぶのは早い。男の子はより強く、よりたくましいという文化的な仮説に反して、基本的な生物学的な弱さが我々の種の雄には組み込まれている。これらの弱さは、彼らの脳やホルモンを標的にする殺虫剤、鉛、及びプラスチック可塑剤のような環境汚染物質を含んむ生命の危険に対して、女の子より脆弱にしている。いくつかの研究は、男の子はこれらの化学物質暴露により、女の子にはないいくつかの点で害を受けている。言ってみれば、雄の宿命である。

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男の赤ちゃんはより多く
早産で生まれてくるようである。
 第一に、ヒトの雄は消滅しつつある。母なる自然は常に、男の子の壊れやすさと目減りをわかっており、人類が始まって以来、女児の出生100に対して男児の出生は106となるようにして補償している。(この仕組みは人間だけに特有ということではない。例えば、雄の子豚は雌の子豚より出生前に死ぬ可能性が高いので、それを補償するために雄はより大きな比率で母豚のおなかに宿る。)しかしこの数十年間、アメリカから日本まで、カナダから北ヨーロッパまで、研究者らが見てきたどこでも、男の新生児が減少していた。アメリカの 1970 年から 1990 年までの出生記録を調べて、この数十年間で男の子が1,000人当たり1.7人減っており、特に日本については男の子が3.7人減っていることを彼らは明らかにした。

 また妊娠期間 37 週以前に早産で生まれてくる男の子は、女の子より3分の2以上多いようである。そして、公衆衛生の発達にもかかわらず、1970年代に男の子は最初の誕生日を迎えるより前に死亡する確率が女の子よりも30%高かったが、一方これとは対照的に1750年代に戻れば、そのように早死にする男の子は女の子より10%多かったようである。

 幼児期を何とかうまく乗り切っても、男の子は他の困難に直面する。彼らは広範な神経系障害を被りやすい。悪名高いことに、自閉症には女の子よりも男の子の方が罹りやすく、現在、ほぼ5倍近いと米国・疾病管理防止センターは算出している。男の子は女の子より非常に低レベルでの鉛暴露によるダメージを受けやすい。さらにもう一つの問題は、男の子はまたぜんそくに女の子より高い率で罹患する。また大気汚染とぜんそくとのより強い関連が男の子に見られる。

 そこには何があるのか?なぜ男の子はそのような身体的な困難に直面するのか?

 その答えは、雄の問題は子宮の中で始まる:もっと複雑な胎内での発達、遺伝的体質、そしてホルモンがどのように作用するかなどである。

 わずかな細胞から幼児になるまでの9か月間の変換が最も脆弱な期間である。多くの慢性疾患は子宮中で種(seed)をまかれている。我々の種(species)では雌がデフォルト(初期設定)の性というのが基本的で単純なモデルである。ヒトは子宮内で雌の特徴をもって始まる(男が乳首を持っているのはそのためである)。子宮内での雌から雄への複雑な変換は特別な危険に満ちた旅路である。Y 遺伝子からのテストステロン(男性ホルモンの一種)の最初の一撃が約 8 週目に生じるときに、情報センター中のある細胞を殺し、性と攻撃センター中の細胞を増やしつつ、雌雄別のない(ユニセックスの)脳は雄の脳に変身する。より単純な雌の生殖系は、精巣や前立腺のようなもっと複雑な組織を発達させながら雄の生殖器官に変わらなくてはならない。さらに、雄を作るために非常に多くの細胞分裂が起こり、それぞれの細胞にエラーが生じたり、汚染物質に対してよりぜい弱となるリスクをもたらす。

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自閉症は女の子より男の子に多い。

 これらの困難に加えて、ヒトの雄の XY 染色体の組み合わせは単純にもっとぜい弱である。我々の種の雌にある二つの XX 染色体は、ある保護を提供する。ひとつの X 染色体が遺伝的な欠陥を持っても、雌の健康なバックアップ染色体が受け継ぐことができる。しかしひとつの X 染色体しかもたない雄は、最後のよりどころとする遺伝子の正常なコピーを持っていない。かつて縮小したことのない X 染色体は大きな染色体であり、”Y 染色体よりはるかに多くの遺伝情報を持っている”ことをカリフォルニア大学デービス校の自閉症研究者イルバ・ヘルツピッチオット(Irva Hertz-Piciotto)(訳注1)は発見している。”したがって、男の子の脳の発達又はメカニズムの修復にとって重要ななたんぱく質の何らかの本質的な喪失があるかもしれない”。このことが男の子に自閉症の罹患率が高いことを解くてがかりであると、彼女は力説している。

 雌はまた抗酸化プロセスを阻害するホルモンであるエストロゲンに満ちているので、雄より強い免疫システムを持っている。”エストロゲンは脳を保護する;すぐわかることであり、これはダジャレではない(Estrogen protects the brain; it's a no-brainer, pun intended,)”と、デューク大学医学部神経学教授のテオドール・スロトキンは説明している。”それは、たとえ神経損傷の後であっても、修復であり取り替えである”。低エストロゲンは、頭の損傷に対する男の子の感受性を高いままにする。雄の脳は、”全く壊れやすい装置であり、ほとん全ての脳損傷に対して感受性が高い”と、鉛中毒の専門家であるハーバート・ニードルマンは、 環境健康展望(Environmental Health Perspectives)の記者ジュリア R. バーレットに告げた。

 イギリスの精神病理学者サイモン・バロンコーヘンによれば、彼が”極端な雄の脳”と呼ぶ、自閉症の男の子らにより示される種類のもの−低い感情移入と高い体系化−をもたらすのは、懐胎中の重要な時期における子宮中のテストステロン(訳注:男性ホルモンの一種)の高いレベルである。そして、実際にこの数十年間のアメリカの研究は、自閉症の男の子たちの中に異常に低いエストロゲン(女性ホルモン)と高いテストステロン(男性ホルモン)のレベルを見出している。

 もし、雄のホルモンのバランスが狂ったら、何が起きるであろうか?研究者らはいくつかの手掛かりを得ている。

 ニューヨーク市のコロンビア大学子ども環境健康センター周辺の地域では、人々は、人気のある殺虫剤クロルピリホスを2001年に家庭での使用が禁止されるまで、長年、日常的に彼らのアパートで散布していた。研究者らは、この化学物質への胎児期の暴露は、女の子より男の子の知能指数(IQ)の低下により影響を及ぼすことを発見した。彼らの男性ホルモンのかく乱がその理由かもしれない。”クロルピリホスへのより大きな感受性についての可能性あるひとつの説明は、その殺虫剤が性特有のホルモンを抑制するために内分泌かく乱物質として作用するということである”と、研究のリーダーであるコロンビア大学のメガン・ホルトンは述べた。

 同様に、ビニール製品や玩具のあるものや、身体手入れ用品のあるもので使用されているフタル酸エステル類への妊娠中の母親の暴露は、彼らの娘より彼らの息子の攻撃性や注意力の問題のような行動のより大きな変化に関連していた。フタル酸エステル類はまた、男性器の女性化をもたらすかもしれない。

 男の子はまた、ポリカーボネート・プラスチック類、感熱紙領収書、食品や飲料缶のライニングなどに使用されているビスフェノールA(BPA)により脆弱であるように見える。カリフォルニア大学バークレー校の研究によれば、胎内で又は小児期に高めのBPAに暴露した男の子は−女の子ではない−、活動過多、攻撃性、不安の問題をより多く持っていた。さらに、この化学物質の高めのレベルに暴露した妊婦は、低めの甲状腺ホルモンを持つ男の赤ちゃんを出産した(訳注2)。そのような影響は女の赤ちゃんには見られなかった。これらの低めのレベルは正常値の範囲内にあるので、それが男の子の健康にとって何を意味するのかについて誰にもわからないが、甲状腺ホルモンは脳の発達を導くので、それは重要な影響を持っているはずである。

 これらの化学物質のあるもは偽のエストロゲン(女性ホルモン)のように、他のあるもは偽のテストステロン(男性ホルモン)のようにふるまうが、どちらも正常な発達をかく乱するように見える。これらの化学物質のわずかな量が胎児に及べば大きなダメージを与えることを動物テストが示している。そして、生物学的なぜい弱性のために、最も影響を受けるのは男の子である。

 公平と平等への求めを差し控えるわけではないが、雄の弱さという科学的現実を受け入れることが賢明であるように見える。このことは雄の終焉を意味するわけではないようであるが、もし彼らを危害から守る方法を見つけなければ、彼らの環境汚染物質と疾病へのぜい弱性は人類全体の将来にとって重大な結果をもたらすであろう。

 アリス・シャベコフは、彼女の夫フィリップ・シャベコフと著書『Poisoned for Profit: How Toxins Are Making Our Children Chronically Ill, Random House 2008, Chelsea Green, 2010』の共著者である。
訳注1
EHN 2009年1月9日 自閉症の流行 診断基準の変化のためではない 多分、環境的要因による

訳注2
EHN 2012年10月4日 BPAに曝露した男児は甲状腺ホルモンが低い



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