EHN 2012年10月4日
BPAに曝露した男児は甲状腺ホルモンが低い 情報源:Environmental Health News, October 4, 2012 Study finds lower thyroid hormones in baby boys exposed to BPA By Brian Bienkowski, Staff Writer, Environmental Health News http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/news/2012/bpa-and-thyroid-hormones オリジナル:Maternal Urinary Bisphenol A during Pregnancy and Maternal and Neonatal Thyroid Function in the CHAMACOS Study October 4, 2012 EHP Advance Publication http://ehp.niehs.nih.gov/2012/10/ehp-1205092/ Jonathan Chevrier,1 Robert B. Gunier,1 Asa Bradman,1 Nina T. Holland,1 Antonia M. Calafat,2 Brenda Eskenazi,1 and Kim G. Harley1 1Center for Children’s Environmental Health Research, School of Public Health, University of California, Berkeley, Berkeley, California, USA, 2Division for Laboratory Sciences, National Center for Environmental Health, Centers for Disease Control and Prevention, Atlanta, Georgia, USA. 訳:安間 武(化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2012年10月8日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_121004_BPA_lower_thyroid_hormones.html 本日発表された新たな研究によれば、より高いレベルのビスフェノールAに曝露した女性は甲状腺ホルモンが低い男児を出産する。 カリフォルニア大学バークレー校の科学者らによるこの研究は、いたるところに見出され、硬質プラスチック、食品缶の内面ライニング、レジ領収書用紙などに使用されているこの化学物質と男の赤ちゃんの甲状腺ホルモンへの影響を初めて関連付けたものであり、BPAが胎児に影響を及ぼすかもしれないという証拠にまたひとつ加わった。 母親のBPAレベルが2倍になる毎に、男の赤ちゃんの甲状腺刺激ホルモンが9.9%低下した。女の赤ちゃんには有意な影響は検出されず、動物実験はメスの方がこの化学物質をより良く代謝することができることを示唆している。 ”この点に関するほとんどの研究はBPAのエストロゲン(訳注:女性ホルモン)特性に焦点を当てていた。BPAが甲状腺ホルモン機能も損なうという事実は非常な驚きである”とBPAを研究しているがこの新たな研究には関わっていないタフツ大学のポストドクトル研究員のローラ・バンデンバーグは述べた。 専門家らは、赤ちゃんの甲状腺レベルは正常と考えられる範囲内なので、この甲状腺ホルモンの減少が赤ちゃんの健康に何か影響することを意味するのかどうかわからないと述べた。しかし以前の研究は甲状腺ホルモンの減少は学習能力と運動機能を損なうかもしれないことを示唆している。 ”甲状腺ホルモンは、脳の発達への影響という点で、おそらく最もよく知られている要素である”と、甲状腺ホルモンと脳の発達を専門的に研究しているマサチューセッツ・アマースト大学の生物学教授トーマス・ゾエラーは述べた。”研究者が少しでも関係があると見ている事実は、我々が無視すべきではない重要な問題である”。 科学者らは、ほとんどがメキシコ系アメリカ人農場労働者の低所得層地域社会であるカリフォルニア州サリナス・ヴァレーの364組の母親と新生児のデータを分析した。ほとんどの母親のBPAレベルは低く、42%がアメリカの女性の平均値以下であった。82%の母親の尿中からこの化学物質が検出されたが、妊娠可能年齢の女性の全国テストでは95%であった。 この研究では、BPAが赤ちゃんの甲状腺ホルモンに影響を与えたということは証明していないが、科学者らはこの関連性は今後さらなる調査がなされるべきであるとする証拠を提供していると述べている。 ”我々のデータは、曝露に安全なレベルはないことを示唆している”とカリフォルニア大学バークレー校環境研究と子どもの健康センターの研究員で、エンバイロンメンタル・ヘルス・パースペクティブに発表された本研究の主席著者であるジョナサン・シェブリエは述べた。 化学物質製造者を代表する米国化学工業協会(ACC)は、BPAは使用しても安全であるとの立場を維持し、この研究の有効性に疑問を呈した。 ”BPAは女性と新生児の甲状腺ホルモンレベルによって引き起こされる健康影響と関連するとする著者らの憶測はデータによる根拠がない”と、同協会のポリカーボネート/BPA世界グループのスティーブン・ヘントゲスは述べた。”著者自らが甲状腺ホルモンレベルは正常範囲内であったこと、及び研究はどのような健康影響をも測定するように設計されていなかったことを認めている”。 彼はまた、テストは妊娠中の母親のレベルの正確な代表とするには余りにも限定されすぎていたと述べた。 甲状腺ホルモンは継続的に生成されており、BPAは人々の胎内に長期間、留まっていない。しかし、このことはこの発見が懸念を引き起こさないということを意味するものではないとシェブリエは述べた。 ”我々が見るこの影響は永久的ではないかもしれない・・・として、ある人々はよいニューと考えるかもしれない”と彼は述べた。”しかし人々はBPAに曝露し続けている。その影響は永久的ではないが、人々は永久的に曝露している”。 しかし、ゾエラーは、”BPAは生物蓄積しないので、どのような曝露をしているのかをよく感知することは非常に難しい”と警告した。 ”たとえ多数の測定をもってしても、リンクを確立することは極めて難しいことだということを認めることから始めなくてはならない”と彼は述べた。 BPAと甲状腺機能を調べた以前の研究結果は一貫性がなかった。ラットでの様々な研究が、BPAは出生前の曝露で甲状腺ホルモンを増大させる、減少させる、影響を与えないと、異なる結果を示してきた。人間の研究では、今までは成人と10代だけに実施されていたが、BPAは甲状腺ホルモンの増加と減少の両方に関連していた。 この新たな研究は、妊娠の第一期や第二期ではなく、出産するすぐ前の女性のBPAレベルと比較した時だけに、赤ちゃんの血中の甲状腺ホルモンが有意に減少したことを発見した。そのことは、BPAの胎児のホルモンへの影響が一時的に、又はある時期だけに現われることを意味するのかもしれない。 ”この関係はBPAが妊娠第三期に測定されたときに最も強かったが、そのことは甲状腺刺激ホルモンへのBPAの一時的影響なのか又は発達ウインドウの感受性によるのかもしれない”ことをの研究は示している。 母親はまた、BPAレベルに関連したある甲状腺ホルモンの低下が見られた。しかし、T4と呼ばれるホルモンは生物学的には活性ではなく、その重要性は知られていないと、研究者らは書いている。この研究は、甲状腺ホルモンのレベルに影響を与えることができるヨウ素及び、母親が曝露する他の化学物質を管理した。 疫学者ブレンダ・エスケナジとキム・ハーレイに率いられた研究者等は、1999年と2000年に子どもたちが生まれる前から、サリナス・ヴァレーの女性たちとその子どもたちを追跡していた。彼等は、子どもたちの健康が脅かされているかどうかを調べるために、多くの化学物質、特に農薬を調査している。 この調査で甲状腺ホルモンをテストされた新生児らは現在10代になっており、シェブリエと彼の同僚等はこの低いホルモンによる潜在的な影響が無いかどうか調べることを計画している。”低いけれども正常な範囲にあるTSHの発達影響を調査したという研究を我々は知らない”と彼等は書いている。 子どものにおけるBPAの可能性ある神経影響を調査した研究はほんのわずかであるが、そのうちの二つは少女の多動症とその他の行動障害との関連を見出している。動物研究では記憶障害、遺伝子変化、及び行動変化を見出している。 マウントサイナイ医科大学准教授であるチェリル・スタインは、発達障害や知能発達遅れを助長することがあり得るので、通常は高い甲状腺レベルが懸念されると述べた。甲状腺が高いレベルであるということは、体が適切に機能していない甲状腺を埋めあわせようとしていることを示しているからである。 しかし、非常に低いレベルの甲状腺ホルモンもまた、低知能指数や学習障害を引き起こす問題があり得るとゾエラーは述べた。 オランダの科学者らは、220人の女性を調査し、甲状腺ホルモンのレベルが最も低い人々の赤ちゃんは、精神及び運動機能が低いスコアーであったことを1999年に報告している。彼等は、”それは幼児の発達を損なう重要なリスク要素かもしれない”と警告した。 この新たな研究には関わっていないゾエラーは、もっと完全な機能を示す体組織ではなく、赤ちゃんの血中のホルモンを測定しているので、潜在的な健康影響は曖昧なままであると述べた。 ”この研究は本当に、この関連をさらに調査するための引き金になるであろう”とゾエラーは述べた。 動物では、いくつかの研究が低レベルが生殖問題、肥満、がんを引き起こすことを報告している。人間の成人では、糖尿病と心臓障害のリスクを増大させることに関連していた。
BPAは妊娠した女性の血液中をめぐり、アルコールと同じように胎盤を通過すると彼女は述べた。また、子宮中で胎児にクッションとなり、発達のための栄養を供給する羊水中にも、BPAは見出される。 米環境保護庁によれば、BPAは、大量生産されており、多くの研究がなされており、論争もある。毎年、約60億ポンド(約270万トン)が世界で生産され、100万ポンド(約45万トン)以上が環境中に放出されている。 合成エストロゲンであるBPAは、ポリカーボネートプラスチックの成分として1950年代から使用されている。食品缶詰の内面ライナーのための合成樹脂を製造するためにも用いられている。 BPAはいたるところに存在するので、人々がどのように曝露しているのかを明確にすること難しいいが、バンデルバーグは缶詰食品が主要な曝露源であると述べた。 現在、アメリカの11州がいくつかの製品中での使用を禁止している。6月に、米食品医薬品局(FDA)は哺乳瓶とシッピー カップでBPAの使用を禁止したが、製造者等は既にその使用を止めていた。今年の初めに、FDAは、食品容器での使用を禁止する要求を拒否したが、研究が継続しているので、それは最終決定ではないと発表した。 |