UNEARTHED 2021年6月28日
石油及び化学産業はマイクロプラスチック化学物質の
画期的な世界的規制に反対してロビー活動を行なっている

エマ・ハワード, UNEARTHED
国連のストックホルム条約における提案は、マイクロプラスチック中の
化学物質の規制に先例を作るはずであったが、産業界がそれに反対した。

情報源:UENEARTHED, June 28, 2021
The oil and chemical industry is lobbying against
landmark global regulation of microplastic chemicals

A proposal at the UN's Stockholm convention could set a precedent
for the regulation of chemicals in microplastics, but trade groups have opposed it
By Emma Howard, UNEARTHED
https://unearthed.greenpeace.org/2021/06/28/microplastics-
chemicals-lobbying-oil-industry-stockholm-convention/


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2021年9月14日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_21/
210628_UNEARTHED_The_oil_and_chemical_industry_is_lobbying_
against_landmark_global_regulation_of_microplastic_chemicals.html




ギリシャの研究センターの生物学者が海の生物種中で見つかったマイクロプラスチックを調べている。
Photo: Louisa Gouliamaki/AFP via Getty
 ENEARTHEDが入手した文書によると、BASF、ExxonMobil、Dow Chemical、DuPont、Ineos、BP、Shell など、世界最大の石油及び化学会社を代表する
業界団体は、マイクロプラスチック中の有害で残留性のある化学物質の世界的な規制に反対している。

 業界は、プラスチック添加剤 UV-328(訳注1)は放出されると事実上容易には分解しない化学物質である残留性有機汚染物質(POP)に関する国連の世界的条約であるストックホルム条約に導入することを正当化するには証拠がまだ不十分であると主張した。

 これを同条約に含めると、その製造と使用が禁止され、マイクロプラスチックやプラスチック廃棄物を介して世界中に広がっているこの化学物質類の規制にとって画期的な出来事となる。

 バイデン政権は、UV-328 に関する業界の立場を支持しているように見える。

 マイクロプラスチックは今や至る所に存在しているように見え、粒子は食品、水、空気、動物、さらには人間の便にも検出されている。それらの影響についてはほとんど知られておらず、UV-328 に関する研究は比較的少ないが、科学者らは、UV-328 が環境中で容易に分解されず、生物に蓄積し、野生生物や人間の健康に害を及ぼす可能性があることを懸念している。

 また、北極圏はプラスチック汚染の主要な掃きだめであり、そのような地域の先住民らは、彼らが食べる伝統的な食品を通じて POPs にさらされることが多いため、懸念されている。

 北極圏のシブカクにあるユピク先住民地域社会の一部であるサボオンガ部族の先住民村の住民で、最近バイデンの新しいホワイトハウス環境正義諮問委員会に任命されたビオラワギイは、米国の立場を批判した。


ワァー、それはとんでもない先例になる。これは驚いた。
米環境保護庁 上級官僚 2019年4月

 ”この化学物質が北極圏に到達しており、有害である可能性があることを私たちは懸念していますが、これはひとつの化学物質についてだけではありません”と彼女は UNEARTHED に語った。”私たちの地域社会はすでに非常に多くの化学物質にさらされています。ストックホルム条約は北極先住民の特別な脆弱性を認めていますが、EPA は私たちの人々の健康と幸福に目を光らせていいません。米国は非常に多くの有害化学物質を生産していますが、条約の締約国でさえありません”。

 米国は、締約国ではないにもかかわらず、オブザーバーとして条約に参加し、介入することができる。

 先住民の地域社会が UV-328 にさらされているかどうかは不明であるが、北極圏の鳥の卵やミンクの肝臓で発見されている。

非常に高い懸念

 UV-328は、プラスチック製品、ゴム、塗料、コーティング、化粧品に広く使用されており、紫外線(UV)による損傷から保護する。 EU は、環境中に残留し、生物に蓄積し、毒性があることに基づいて、高懸念物質(SVHC)として分類している。
(訳注:UV-328 CAS 25973-55-1 分子式 2-(2H-benzotriazol-2-yl)-4,6-ditertpentylphenol)

 それは、プラスチック製造工程で添加される多数の化学物質のひとつであり、一部の科学者はマイクロプラスチックを介して広範囲に拡散し、野生生物、人間の健康、または環境に潜在的なリスクをもたらす可能性があると懸念している。

 国際汚染物質廃絶ネットワーク(IPEN)による最近の報告では、規制当局は魚の減少に対する化学物質及びプラスチックによる汚染の影響を”まだ把握していない”と警告している。

 ナイジェリアのコヴナント大学の環境化学者であり、マイクロプラスチック中の化学物質に関する昨年の論文の筆頭著者であるオモウンミ H. フレッド=アーマデュ博士は、UNEARTHED に次のように語った。

 ”プラスチックは、UV-328 などのあらゆる種類の化学物質のカクテルであり、それらはその構造と機能を変更するために埋め込まれています。 しかし、それらはプラスチックに化学的に結合していないためプラスチックから、又はそれらがたとえ生物に侵入してもプラスチック自体は便と共に排泄された後、それらの化学物質は便から、環境にゆっくりと放出されます。 これが、ほとんどの毒性(害)の発生源です”。

 ”それらが人間に与える害の程度はまだ調査中ですが、生殖の問題や臓器の成長阻害など、海洋生物にかなりの程度の毒性作用が分かっています”と彼女は続けた。

”私たちの未来へようこそ”

 締約国がストックホルム条約の下で新しい化学物質をリストする提案を提出するときには、その化学物質を特定し、それは残留性があり、生物に蓄積し、悪影響を与え、そしてそれが元の発生場所から遠く離れて世界中を移動する可能性があることを示す 5つの初期基準(スクリーニング基準)を満たしているという証拠を提供しなければならない。

 昨年スイス政府によって提案された UV-328 をリストする提案(訳注2)は、マイクロプラスチック及びプラスチックの破片をある程度発生源としてひとつの化学物質が”長距離移動”と呼ばれる最終基準を満たしていることを主張する最初の提案である。

 これは、欧米の化学業界団体を懸念させているようであり、情報の自由の規則を使用して米国環境保護庁から入手した文書の中で、その提案が重要な前例となる可能性があることへの恐れを表明していた。

 また、米国の環境規制当局にとっても懸念事項のようである。 2019年4月、トランプ政権下で、米国化学工業協会(ACC)は、欧州化学工業連盟(CEFIC)がその提案について懸念を表明したという電子メールを EPA に転送した。 EPAの高官は、ACC に次のように返信した。”ワァー、それはとんでもない先例になる。これは驚いた。”

 ACC は、”ストックホルム条約へのマイクロプラスチックの導入について多くのプレゼンテーションを見てきたが、これが最初の具体的な提案のようである”と答えた。

 EPA の当局者は、”私たちの未来へようこそ”と答えた。

 同じ当局者、カリッサ・コブナーと呼ばれる上級政策顧問は、提案に反対しているバイデン政権下でのこの問題に関する EPA の作業を依然として主導しているようである。

 ストックホルム条約の科学委員会は1月の会議で、その化学物質を残留性有機汚染物質としてリストするための最初の基準を満たすのに十分な証拠があることに同意したが、米国、ACC、CEFIC はすべて当時これらの基準のいくつかに反対した。 BASF、ExxonMobil、Dow Chemical、DuPont、Shell、BP は両方のグループのメンバーであり、Ineos は CEFIC のみのメンバーである。

 2か月後の ACC 主催の会議でコブナーは、米国は長距離移動を含む 5つの基準のうち 3つに同意しなかったと説明した。

 ”長距離移動に関する科学を見ると、世界レベルの多くの同僚や残留性有機汚染物質検討委員会(POPRC)に代表される科学者とは、率直に言って異なった感じがした”と彼女は述べた。


開示された文書

プラスチック問題に関する更なる詳細  会議においてその問題に関する加盟国の分断を考慮して、新しいガイダンスを起草するための作業部会が形成された。つまり、明確な前例はまだできていない。

 EPA は UNEARTHED に、その見解は科学者による技術的レビューに基づいていると語った。

 ”前政権下での米国による UV-328 のリスト化に関して、「政策的立場」はとられなかったし、この政権下での政策的立場もなかった」と報道官は述べた。

 3月に議会にプラスチック汚染に関する重要な法案を再提出した民主党議員のアラン・ローウェンタールは、パー及びポリ-フルオロアルキル物質(PFAS)フタル酸エステル類など、プラスチックに一般的に使用される多くの化学物質の健康への影響を懸念していると UNEARTHED に語った。 ”私たちはもはや廃棄物で環境を汚染しているだけではない。私たちは自分自身を汚染している。これらの理由から、マークリー上院議員と私は、プラスチック汚染からの脱却法(Break Free from Plastic Pollution Act)において、プラスチックへのそのような化学物質の使用を禁止しようとした”と述べた。

 ”バイデン政権は、プラスチックの製造、処分及び廃棄物に関連する問題に対処するために、国内及び国際的にこの問題を主導するよう努めなければならない。これは、固形廃棄物や海洋汚染の危機以上のものである。それは今や環境正義、国際人権、気候、そして公衆衛生の問題である。”

証拠が足りない

 化学添加物が条約の下で禁止されるかどうかを決定するプロセスはまだ進行中である。

 9月に、提案はプロセスの次の段階に進む。そこでは、条約の委員会がリスク特性を作成し、UV-328 が世界的な行動を正当化するのに十分なリスクをもたらすかどうかを決定する。もっと後の段階では、社会経済的懸念を検討する。規制に至るまでのプロセス全体には、少なくともさらに2年かかり、さらに大幅なロビー活動が行われる可能性がある。


私たちが人間の母乳から化学物質類を見つけ始めたら、事態は良くない。
マサチューセッツ大学 ローラ・バンデンバーグ教授

 CEFIC が2019年4月に欧州化学機関(ECHA)の専門家グループに提出したスイスの提案に関する文書で、業界団体は、 UV-328がマイクロプラスチック、空気、水または移動性野生動物種を介して移動するという考えを支えるためにその提案で用いられた科学を批判する長ったらしい主張ををしている。

 彼らは入手可能なデータの質に疑問を投げかけ、ストックホルム条約の下での規制を正当化するのに十分ではないと主張した。

 科学者たちは UNEARTHED に、この化学物質に関して利用できるデータは比較的少ないが、それでも懸念があると語った。

 スイス連邦工科大学チューリッヒ校の上級科学者でストックホルム条約の科学委員会のオブザーバーであるザンユン・ワン博士は、UNEARTHED に次のように語った。”非常に確かな科学的証拠が得られるまで、規制に関してすべてを止める必要はない。私たちは、私たちが持っているどんなデータでも処理し、データを生成しながら前進しなければならないと思う。この化学物質の環境や生物への継続的な放出と蓄積が懸念されており、生物多様性、生態系サービス(生態系の公益的機能)、または人間の健康に長期的でほとんど軽減できない悪影響を与える可能性がある。”

 入手可能な研究では、UV-328 の短期毒性は軽微であることが示唆されているが、ECHA は、長期または反復暴露が肝臓または腎臓に影響を与える可能性があることを発見したラットの研究に基づいて、毒性基準を満たしていると 2014年に結論付けた他の研究は、それが体内のホルモンを管理する内分泌系に影響を与える可能性があることを示唆している。

 CEFICは、汚染は局所的な汚染源から来ている可能性があり、”遠隔地への十分な移動がなかったと主張した。

 北極圏だけでなく、ハワイのプラスチックゴミやカナリア諸島下水にも UV-328が検出されている。また、人間の母乳でも検出されている

汚染されたミルク

 マサチューセッツ大学アマースト校の教授であり、プラスチック中の内分泌かく乱化学物質に関する最近の報告書の共著者であるローラ・バンデンブルグは、 UNEARTHED に、”業界は基本的に、彼らが十分に汚染するまで、つまり彼らが十分に大きな問題を引き起こすまで、私たちはそれについて何もできないと言っている”と言い、さらに次のように語った。

 ”この化学物質の害を証明することになると、まだ利用できる証拠は多くはないが、化学物質が分解しない場合、私たちは恒久的な方法で環境を変えていることになるので、そうすべきではないと考えられている。私たちが人間の母乳から化学物質を見つけ始めたら、事態は良くない。それはその化学物質が脆弱な発達期の段階で赤ちゃんに入るということを意味する。ほとんどの人は、母乳は汚染されず、それは赤ちゃんに与えることができる最高の食べ物であると考えるであろう。”

 科学者たちは、CEFIC のコメントのいくつかは妥当であり、考慮されるべきであるとコメントしたが、ワン(Wang)によれば、”そこには真実でない情報もあり、他の結論は文脈から外されている”と彼は述べた。

 UV-328を規制する証拠に反対して、CEFICは、プラスチックに関連する化学物質についてより広くコメントするために彼らの議論を拡大した。

 彼らは、条約の評価は”他の暴露経路と比較してその重要性は最小”であるため、プラスチックに焦点を当てるべきではないと主張した。彼らはまた、野生生物がマイクロプラスチックを消費することによる動物内の化学物質の蓄積への影響は”本質的には一般的に軽微である”と主張した。

 ストックホルム会議で UV-328 に関する研究を発表した東京農工大学のマイクロプラスチック専門家である高田秀重教授は、CEFIC がこれを主張するのは間違っていると UNEARTHED に語った。

 ”マイクロプラスチックは、それらを摂取して保持する海洋生物にとって化学添加物の主要な供給源である”と彼は言述べた。

さらなる研究

 科学者たちは、緊急のさらなる研究の必要性に同意している。ケベック大学リムースキ校の生態毒性学者であり、北極圏の UV 安定剤に関する研究の筆頭著者であるゼ・ルウ博士は UNEARTHED に次のように述べた。”マイクロプラスチックがこれらのプラスチック関連化学物質のいくつかにさらされる可能性のある経路であることを示唆する証拠と、そうではないことを示唆する証拠の両方があると私は信じている。・・・一般的にこの化学物質に関しては、私たちはもっと多くの研究をする必要があると感じている。”

 声明の中で、CEFIC は、禁止することになった場合には禁止を支持すると述べたが、これまでにそのような決定を考慮するために使用された科学的証拠を批判し、さらなる研究が行われるまで待つべきであると示唆した。

 CEFIC は UNEARTHED に次のように述べた。”もし科学的証拠が、物質 UV-328 が条約によって規定される残留性有機汚染物質の基準に合致するなら、我々はその製造の世界的な禁止を完全に支持する。”

 ”CEFIC はまた、意図的に添加されたマイクロプラスチックが環境に及ぼす潜在的な影響が正当な懸念をもたらすことに同意する。水や土壌への影響を注意深く調べてから規制する必要がある。”

 CEFIC は、証拠が十分に堅固であるかどうかを疑問視したことを認めた。”我々の技術専門家らは、マイクロプラスチック及びプラスチック添加剤に関連する証拠の品質について、欧州化学機関(ECHA)に非常に具体的な科学的懸念を提起した。”

 アメリカ化学協議会のコミュニケーション・ディレクターであるジョン・コーレイJは、 UNEARTHED に次のように語った。”[残留性有機化合物]としての UV-328 の推薦は、ストックホルム条約 POPs 基準の解釈を拡大するための潜在的な先例を設定するものであると認識されている。全ての化学物質管理システムは、危険(ハザード)、暴露及び使用情報を利用可能な最高の科学と組み合わせたリスクベースの枠組を使用することが重要である。

 EPA は UNEARTHED に次のように語った。”米国は、生物蓄積、長距離輸送、及び有害影響に関する条約の要件が満たされていなかったことを発見した。したがって、米国は提案を外すことを提案した。この結論に到達するために使用された科学的分析は、EPAのキャリア科学者によって完全に開発され、典型的な省庁間レビュープロセス(参加機関のキャリアオフィシャルも含む)を通じて同意された。”

 BPはコメントすることを断ったが、石油化学事業を Ineos に売却したため、プラスチックを生産しなくなったと指摘した。”

 Shell もコメントを控えたが、UNEARTHED に CEFIC と ACC の両方の気候関連の方針に沿っていると述べている 2021年の業界団体のレビューを指し示した

 この記事はザンユン・ワン博士はストックホルム条約の科学委員会のオブザーバーであり、メンバーではないと 2021年6月30日に修正された。

 この記事のバージョンが the Daily Mail.に掲載さた

訳注1:UV-328 関連記事
訳注2:POPRC 16 でのスイスの提案



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