米化学会 EST 2009年8月4日
紫外線吸収剤ベンゾトリアゾール
日本の海洋環境を汚染


情報源:Environmental Science & Technology, August 4, 2009
UV-stabilizing chemicals contaminating Japan's marine environment
By Noreen Parks
http://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/es902293a

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年8月7日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/est/090804_est_BUVSs_Ariake.html


 日本の九州にある干潟で多くの海洋生物が生息する有明海は、紫外線を吸収するためにプラスチック中でよく使用されている化学物質で汚染されている。 ES&T (2009, DOI 10.1021/es900939j) に発表された新たな報告書はベンゾトリアゾール紫外線吸収剤(BUVSs)と呼ばれる化学物質が海洋環境中に存在することを始めて報告した。

 BUVSsは、産業用プラスチック含有製品(建材、塗料、自動車部品など)及び消費者製品(靴やスポーツ機器など)を太陽光による劣化を防ぐために広く使用されている。現在、そのような化学物質3種類、UV-336、UV-337、UV-338 が日本では使用のために登録されている。4番目の UV-320は、2007年に日本政府により禁止されたが(訳注1)、その理由はラボテストで残留毒性が示されたからである。UV-337だけが規制されており、2004年から2008年の間に2,300トンが日本に輸入又は日本で製造された。

 有明海における4つ全てのBUVSsの環境中のレベルを評価し、それらの生物蓄積の程度を判断するために熊本大学(日本)のハルヒコ・ナカタ(訳注:中田晴彦 准教授)らが、2004年、2006年、2007年に沿岸と河川から採取した堆積物のサンプルを分析した。日本で最大の干潟を取り囲む有明海は、水産養殖の中心地であるとともに、鳥類、魚類、及び多くの無脊椎動物の重要な生息地である。多くの港が沿岸にあり、近年汚染が増加しており、特に工業地帯にあり有明海に注ぐ大牟田川がひどい。早い時期の調査で、中田らは、日本の沿岸水域の海洋哺乳類やサメの体内で合成ムスク−身体手入れ用品に香料としてよく添加される−の濃度が著しく高いことを報告した。

 今回のBUVSs研究で、研究者らは干潟と浅瀬の二十数種の動物の55標本から得た組織を分析した。それらは、カキ、ハマグリ、カニ、エビ、カレイ、スズキ、ボラ、シュモクザメ、カルガモ、マガモを含む。

 ベンゾトリアゾールは全ての生物相と堆積物サンプル中で見出された。堆積物中の濃度は7.9 から 720ナノグラム/グラム(乾重量基準)の範囲にあった。さらに、 BUVSs の個々のレベルは様々な動物の組織により著しく変動したが、干潟動物は浅瀬生物よりも10〜20倍高いレベルで汚染されていた。干潟のハマグリ、カキ、腹足類動物で測定されたレベルは、たとえば、数百ナノグラム/グラム(脂肪重量)に達した。さらに、食物連鎖では、シュモクザメと沿岸鳥類は190 ng/gを記録した。

 研究者らはまた、 堆積物中のBUVSレベルと有機炭素の間に強い関連があることを発見した。このことは、BUVSsが有機物質に吸着することを暗示する。そして、UV-326 と UV-328 に関するデータが少ないにも関わらず、これらが環境中で検出だれたということは、これらの化学物質が日本で製造又は日本に輸入されていることを強く暗示している。

 海洋生物中で検出されたこれらの濃度が生物学的に著しいことなのかどうかわからない。”残念ながら、現在までのところベンゾトリアゾール紫外線吸着剤についての毒性データはほとんどないので、我々はそれに答える十分な情報をほとんど持っていない”と中田は述べた。”しかし、high-trophic 生物種、特に沿岸鳥類中にこの化合物の生物蓄積が著しく高いこと見て驚いたが、それは一般的にはそれらの生物種は環境化学物質を代謝する能力が極めた高いからである”。

 スイス連邦技術研究所チューリッヒのカール・フェントらによる研究は、もうひとつの種類の紫外線遮蔽物質ベンゾフェノン類が魚類の生殖とホルモン機能に有害影響を及ぼすことを立証していた。彼は次のように述べた。”[中田の研究で見出された]濃度は極めて高いというわけではないが、非常に重要なことは、これらの化合物が海洋及び淡水の環境中に広く存在することである。生物濃縮は明白ではないが、テストされた全ての生物は残留物を持っていた。これは、環境的に重大な高い親油性と残留性を持つ様々なプロセスと物質中で使用されている化学物質のもうひとつの事例である。確かに、これらの化合物の慢性長期影響に関する生態毒性学的調査が必要である”。
 フロリダ州サラソータにあるモート海洋研究所の生態毒性学センターのディレクター、リチャード H. ピアースは、”これは今、注目すべき水生環境における新たな化学的ストレス要因群である”と述べた。


訳注1


化学物質問題市民研究会
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