Environmental Health News (EHN) 2020年5月18日
PFAS フリー泡消火剤:それらは安全か?
小規模認証の取り組みは、前進する道を開く可能性がある
リンゼイ・コンケル
情報源:Environmental Health News, May 18, 2020
PFAS-free firefighting foams: Are they safer?
A small-scale certification effort could offer a path forward.
Lindsey Konkel
https://www.ehn.org/pfas-free-firefighting-foam-2645972099.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2020年5月23日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_20/200518_EHN_PFAS-free_firefighting_foams_Are_they_safer.html



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米海軍太平洋艦隊水兵らが、消火装置の運転テストで水性フィルム形成フォーム(AFFF)を噴射 (Credit: U.S. Pacific Fleet)
 1960年代、米国海軍研究所の研究者らは、迅速に燃料火災を消火することができる新しい種類の泡消火剤のテストを開始した。

 水性フィルム形成フォーム(AFFF)と呼ばれるその泡消火剤は消防士らの恵みであった。特別の過フッ素化合物が AFFF に独自の疎水性と界面活性特性を与え、燃料の燃焼を急速に封じ、一旦鎮火した炎の再着火を防止することを可能にした。1970年代まで、 AFFF は世界中のほとんどの軍事基地、空港、石油施設、及び民間の消防局で使用1されていた。

 その後数十年にわたり AFFF は実際の火災の消火及び模擬火災での消防士の訓練の両方で使用された。それはしばしば、使用後地中にしみ込んだ。 AFFF は現在でもまだ使用されている。

 2020年にいたり、我々は、これらの泡消火剤に独自の特性を与えた同じ化学物質が、世界中で飲料水の主要な汚染源となっていることを知っている。パー及びポリフルオロアルキル化合物(PFAS)と呼ばれるこれらの化学物質は、全国の水供給系で、そして我々の体内で検出されている。実際、エンバイロンメンタル・ワーキング・グループ(Environmental Working Group)は、 PFAS 化学物質は全ての米国主要水供給系で検出可能であると推定している。疾病予防管理センター(CDC)の科学者らは、テストしたほとんど全ての米国人の血液中に 4つの PFAS 化合物を見つけ、これらの PFAS に米国市民が広く暴露していることを示した。

 それらは、”極めて安定しており、永久に存在して環境中を巡回する可能性もっており、環境中で生物分解するであろうことを示す兆候はないので、しばしば永久の化学物質と呼ばれている”と、オランダを拠点とするエンジニアリング及びコンサルティング会社アルカディスの PFAS 汚染専門家イアン・ロスは EHN に述べた。

 PFAS は、ホルモンの変化、生殖脳力の低下、免疫力の低下、及びがんリスクの増大を含む多くの健康問題に関連している。

 研究は、消防士は、一般市民に比べてこれらの化学物質をより高いレベルで体内に持っていることを示唆している。2月に Environmental Science & Technolog に発表された女性の消防士についてのある研究は、過去に泡消火剤を使用した人は使用しなかった人に比べて血液中の PFAS の濃度が高いことを発見した。

 増大する責任リスク、州と地方の PFAS 含有製品の禁止、及び環境と健康を懸念する様々の団体からの圧力に照らして、多くの消防局、自治体、及び民間会社は現在、PFAS を含まない(PFAS フリーの)泡消火剤に切り替えることに関心を向けている。米国における PFAS フリーの泡消火剤の採用は比較的新しいことである。2018年にワシントン州は 消火に最も使用される PFAS 含有泡消火剤を禁止する最初の州になった。いくつかの他の州もそれ以来、同様な立法で続いた。

 これらの新たな泡消火剤が代替されたものより環境と健康にとって実際に安全であるということを確かめるということが、我々が、広範な汚染もたらす新たな有害化学物質を今から50年後も同じ場所に留まらせることがないようにするために重要であると、環境健康専門家らは言う。

 多くの州が PFAS 含有の泡消火剤ムを禁止または段階的に廃止するための措置を講じるとともに、消防局や企業がより安全な泡消火剤を特定するのに役立つ新しい認証プログラムへの期待があるが、ハードルは連邦レベルにある。

残念な代替を避ける

 ”我々には、ひとつの有害な化学物質を、それより少しもよくない他のもうひとつの化学物質で代替したという歴史がある”と、南デンマーク大学の疫学者であり、ハーバード大学の環境健康学の非常勤教授であるフィリップ・グランジャーンは EHN に述べた。

 ビスフェノールA(BPA)を例にとれば、 BPA は、ホルモンをかく乱することにより健康を害する可能性があるという懸念のために過去10年間に、ほ乳ビンやその他のプラスチック製品から取り除かれた。しかし専門家らは、 BPA を代替した BPS や BPF などを含む化学物質は BPA の様に同じ内分泌かく乱特性を持ち、安全ではないと警告している。

 専門家らは、ひとつの有害な化学物質が同じように、あるいはもっと悪い他の化学物質によって代替されるとき、そのようなやり方を”残念な代替”と呼ぶ。このことは、連邦規制当局は、ほとんどの場合、化学物質の代替が市場に出される前により安全であることを証明することを求めないから生じる。

 今日、農薬、難燃剤を含む家具、焦げ付き防止なべ、マニキュア液の様な製品の処方はいわゆる残念な代替物質を含んでいる。

 全ての火災にとって泡消火剤の使用が必要なわけではない。AFFF は主に、石油やガソリンの様な可燃性の液体による燃料火災を消すために使用される。自治体の消防局は、泡消火剤の使用を、おそらく石油やガスの精製工場、航空機及び軍の様な産業・軍事施設より、交通事故の現場などに、もっと制限しているかもしれない。

 過フッ素化学物質は、燃料が泡の中で再燃するのを防ぐ能力など特別な特性を持ち、効率的な消火に有益であると、PFASを含まない泡消火剤に移行するために石油及び航空産業と協力しているイギリスを拠点とするコンサルタント会社 ENRg コンサルタンツ LTD のディレクター、ニール・ラムスデンは EHN に述べた。

 ”同じ性能を持つ代替物質を見つけることはチャレンジである”と彼は言った。

 PFAS フリーの泡消火剤は約 20年間利用可能であったが、これら初期の製品の性能は良くなかったと、 AFFF の様な PFAS 含有の泡消火剤はもとより、フッ素フリーの泡消火剤を製造するノースカロライナ州を拠点とするナショナル・フォーム社の消火化学物質部門のグローバル・プロダクト・マネージャーであるデービッド・プラントは EHN に述べた。

 過去10年にわたる欧州連合及びもっと最近の米国での立法の結果として、ナショナル・フォーム を含む会社は、 新たな環境規制を満たす一方で、AFFF と同じ性能基準を達成する新たな PFAS フリーの泡消火剤の研究開発への投資を増やした。ナショナル・フォームは、AFFF を含んで PFAS 含有製品を製造し続けたが、同社は二つの PFAS フリー泡消火剤を製品群に加えた。

 ”我々がやりたくないことは、廃止されようとしている製品から明日の問題となる可能性のある製品に移行することである”と、プラントは述べた。

 実際にこれらの新たな製品中に何が含まれているのかは不明確のままである。処方は厳しく管理されている会社の企業秘密である。前出のアルカディスの PFAS 汚染専門家イアン・ロスは、新たな化学物質の多くは ”天然由来の界面活性剤と油に基づいている” と述べたが、それが購入者に問題をもたらす。

 製品は、汚染がなく(クリーン)、環境にやさしく(グリーン)、安全であると主張するが、購入者はそれが実際に真実であり、環境配慮をしているように装うごまかしや宣伝ではないことをどのようにして知ることができるか?

 ”最近の10年間、私は多くの人々が、我々に公共財を守る有用で正直な情報を与えるべき会社への信頼を失ったと思う”と、マサチューセッツ州を拠点とすクリーン・プロダクション・アクションのグリーンスクリーン・プログラム担当のシャーリ・フランジェビックは EHN に述べた。

 たとえ会社が彼らの処方を顧客に開示しても、ほとんどの顧客はその製品を意味があるように審査する方法を持たないであろう。

 消防局はある製品が炎を消すのに十分に機能するかどうかテストをすることはできるが、環境と消防士の健康のために最も安全な製品を識別する現実的な方法を持っていない。

 ”彼らは毒性の専門家ではない”とシアトルに拠点を置く環境団体トクシック・フリー・ヒューチャーの科学ディレクターのエリカ・シュレーダは EHN に述べた。

潜在的な解決

 米国のある非営利団体が審査をもっと円滑にするために、 PFAS フリー泡消火剤の製造者及び購入者と協力している。1月に、クリーン・プロダクション・アクションは PFAS フリー泡消火剤のための初めての環境ラベル(eco-label)認証プログラムを立ち上げた。そのプログラムは、 PFAS フリーを主張する泡消火剤は、体のホルモン系をかく乱するかも知れないアルキルフェノール、洗剤やクリーナ、その他の製品中で見出される界面活性剤、及びその他の製品、並びに保存剤として使用され環境中に生物蓄積する有機ハロゲン化合物のような高い懸念のある他の数千の化学物質はもちろん、これ等の添加化学物質(訳注:PFAS)を実際に含まないことを保証する。

 泡消火剤のためのグリーンスクリーン認証基準(GreenScreen Certified Standard for Firefighting Foams)と呼ばれる環境ラベル認証プログラムは、ワシントン州でパイロット・プログラムとして立ち上げられた。2018年に、ワシントン州は全国に先駆けて、食品容器を含む製品中はもちろん、泡消火剤中での PFAS 化学物質の使用を廃止する法を可決した。

  PFAS 含有泡消火剤の販売禁止は、本年7月に発効することになっているが、最初は、化学プラント、石油施設、及び空港を含む、いくつかの主要なユーザーを適用外とするであろう。そのプログラムは、化学物質は環境中でどのように生物蓄積するかを含んで複雑な毒性学的情報を入手し、それをかみくだくいて認証の点数をわかりやすくすると、フランジェビックは説明した。そして、そのプログラムは製造者にとって本当に重要なものである製品の処方を機密に保持する方法を講じている。

 グリーンスクリーン(GreenScreen)は新しいものではない。そのツールは、化学物質の購入者が個別の化学物質のハザード評価を実施するのに役立てるために 2007年に最初に立ち上げられた。しかしほとんどの会社は化学物質を買わず、製品を買う、とクリーン・プロダクション・アクションの執行ディレクターのマーク・ポッシは EHN に述べた。

 そこで、その非営利団体は、ある産業の購入者らに彼らが買う製品の化学的安全性を評価する簡単な方法を与えるために、2017年にグリーンスクリーン認証プログラムを立ち上げた。現在は、繊維製品製造、建築、及び泡消火剤中で使用される製品のためのグリーンスクリーン認証ラベルがある。

 グリーンスクリーンの PFAS フリー泡消火剤プログラムの実証試験は、ナショナル・フォームの旗艦製品 Universal Green を含む 4つの製造者及び 4つの認証製品からなる小規模なものから始まった。フランジェビックは、世界中に PFAS フリー泡消火剤の製造者が 30〜35 社あり100以上の PFAS フリー泡消火剤が市場に出ていると推定しており、他の多くの会社が同プログラムに参加することに関心を示したと述べた。

 ”その認証は、会社がしている主張の第 3者検証( third-party verification)を提供し”、それは泡消火剤購入者がこれらの主張が真実で意味があるかどうかを理解するの役立つとロッシは説明した。

 その独立した認定はシアトル・タコマ国際空港のシアトル消防局空港火災主任ランディ・クラウズにとって本当に重要である。

 ”我々は、環境又は消防士にどのような追加的な危害をも加えることがないことを確認したい。購入者として、我々は製品が独立の第3者によりテストされていることを確認したい。それが我々に自信を与える”と、クリーン・プロダクション・アクションにより主催された2月の環境ラベルについてのウェブナーでクラウズは述べた。

難題はまだ残っている

 ロンドン=ヒースロー空港及びパリ=シャルル・ド・ゴール空港を含む主要な国際空港はすでに、成功裏に PFAS フリー泡消火剤を使用しているが、シアトル・タコマ国際空港及びその他の米国の空港はその使用を待たなくてはならない。

 ワシントン州、コロラド州、ミネソタ州、ニューハンプシャ州、及びニューヨーク州を含むいくつかの州は現在、泡消火剤中で PFAS 化学物質を使用することを禁じている。

 しかし、米国の空港は連邦航空局(FAA)により規制されており、FAA は現在、全ての米国の空港は PFAS ベースの泡消火剤を使用することを求めている。2018年の FAA 再認可法は FAA が彼らの規則を変更し、2021年までにこれらの製品の使用の義務付けを停止することを求めているが、 FAA は彼等自身のテストを PFAS フリー泡消火剤を許可する前に実施することを選択したが、それは完了するのに時間がかかるであろう。

PFAS 含有泡消火剤はまた、米国の軍事基地内での使用が近未来まで残るであろう。2019年12月、議会は軍に対して2024年までに泡消火剤中の PFAS を廃止するよう命じた。とはいえ、 FAA と同様に、軍はまず PFAS 化学物質の使用を求める性能仕様を変更しなくてはならないであろう。

 グリーンスクリーン認証に関しては、クリーン・プロダクション・アクションは、飲食サービス用食器の様な追加製品中でより安全な PFAS 代替物質を評価するための枠組を拡大することを計画している。多くの食品テークアウト容器は、耐油性及び撥水性を持たせるために PFAS が添加されているとロッシは説明した。

 ”我々が様々な製品中の PFAS から離れるにつれて、このように何かが非常に必要となる”と彼は述べた。

 リンジー・コンケルはニュージャージを拠点とするフリーランスの科学ジャーナリストである。
 Banner photo: U.S. Pacific Fleet sailors spray Aqueous Film Forming Foam during an operational test of firefighting equipment. (Credit: U.S. Pacific Fleet)


訳注:泡消火剤中の PFAS 関連情報


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