The Conversation 2019年11月13日
なぜ自治体のエネルギー回収廃棄物焼却は
ニュージーランドのプラスチック廃棄物危機への
答えではないのか

トリシア・ファレリー(マッセー大学上席講師 博士)
情報源:The Conversation, November 13, 2019
Why municipal waste-to-energy incineration is not
the answer to NZ's plastic waste crisis
By Trisia Farrelly, Senior Lecturer, Massey University
https://theconversation.com/why-municipal-waste-to-energy-
incineration-is-not-the-answer-to-nzs-plastic-waste-crisis-126824


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2019年11月20日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_19/191113_Conversation_
Why_municipal_waste-to-energy_incineration_is_not_the_answer_to_NZs_plastic_waste_crisis.html

 ニュージーランドは OECD 諸国の中で3番目に廃棄物の多い国としてランクされている。ニュージーランド人は、一人当たり一日の世界平均の 5倍の廃棄物を生成しておりそれは10年前より35%多く、ますます廃棄物が増大している。

 これらの統計値は、中国の2018年のある種のリサイクル可能廃棄物の輸入禁止の後に悪化しているようである。中国は世界一のリサイクル可能プラスチックの輸入国であったが、同国は国内及び輸入廃棄物をもはや安全に管理することができなくなったので、その輸入禁止を実施した。驚くべきことではないが、2015年には中国は世界で第一位の海洋プラスチック汚染国であるとされた。

 中国市場が閉鎖されて以来、現在ではニュージーランドのプラスチック廃棄物の 58%はマレーシア、インドネシア、フィリピン、タイ、及びベトナムに行っているが、これらの諸国は全て規制が緩く、海洋プラスチック汚染国として上位にランクされている。

 廃棄物−エネルギー回収(Waste-to-energy (WtE) )焼却が、ひとつの解決として提起されている。プラスチック廃棄物をエネルギーに変えるということは良い響きに聞こえるが、それはもっと多くの汚染を生成し、必要な循環経済への移行を遅らせる

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汚れたプラスチック

 発展途上国にしばしば送り込まれるリサイクル用プラスチックの積み荷は、分別されておらず、汚染されている。簡単にリサイクルできない対象物は一般的に焼却され、ダイオキシン類を大気中、土壌中、そして水中に放出する。それに応じて東南アジア諸国は、汚れたプラスチックを先進国に送り返し始めた (訳注1)。

 いくつかのニュージーランドの自治体評議会は、国外でのリサイクルのためのある種のプラスチックの収集を止めた。その代わりそれらを埋め立てに回した。入手可能なデータは、中国の禁止前でさえ、プラスチックは自治体の埋め立ての概略 15%、年間約 250,000トンを占めていた。その多くは、輸入プラスチック容器である。

 多くのニュージーランド人は、プラスチック廃棄物について非常にあるいは極めて懸念している。我々は自国の埋め立て場に又は発展途上国にプラスチックを投棄しているが、世界のプラスチック汚染危機における我々の役割を無視し続けることはできない。

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 争って代替を見つけようとする中で、廃棄物−エネルギー回収(WtE) 焼却がホットな話題になり、特に外国の投資家が、WtE 焼却炉をニュージーランドの西海岸及び他の中央部に建設することに目を向けている 。ある地方政府の代表者は WtE 提案を支持し、あるいは WtE を選挙の争点にした

プラスチックが少ないことは気候問題にとって良い

 埋め立ての様に WtE 焼却炉は、価値ある資源を破壊し、廃棄物生成を永続させる”資源の投入、生産、廃棄(take-make-waste)という直線的な経済(linear economy)”を象徴するものである。

 世界的には、そうではなくて循環型アプローチの方向に動いており(訳注2)、それは”ゼロ廃棄物ヒエラルキー”に従うものである。これは廃棄物防止、削減、再使用、リサイクル及び堆肥化を優先し、廃棄物−エネルギー回収(WtE) は許容できないものとみなしている。

 あるニュージーランド人らは、北欧諸国は焼却は我々の廃棄物の悩みに対する環境的特効薬であることを証明したと言う。しかし最近の調査は、これらの諸国は WtE 焼却を廃棄物生成を削減する政策に変えない限り、EU の循環型経済の目標(訳注3)を達成しないことを発見した。そのような政策は包装税、リサイクル率及び回収率の目標設定、生物分解性廃棄物の埋め立て禁止、デポジット・リターン・スキーム、及び拡大生産者責任を含む。

 直線的アプローチを拒絶することはまた、気候問題にとっても良いことである。廃棄物ヒエラルキー(訳注4)の最上位の行動は最下位のものより多くの温室効果ガスを止める

 対照的に廃棄物−エネルギー回収(WtE) 焼却は、焼却される都市固形廃棄物(municipal solid waste)1トン当たり 1,2トンの二酸化炭素を生成することができる。ニュージーランドのゼロ炭素法は、廃棄物−エネルギー回収(WtE) 焼却炉への投資により温室効果ガスの排出を増やさないことを確実にする責任を我々は持っているということを意味する。

 焼却炉はまた、プラスチック廃棄物中の有害物質を魔法で消すことはできない。たとえ最も高度な技術による WtE 焼却炉であっても、ダイオキシン及びその他の汚染物質を大気中に放出する。一方、有害物質を含んだ飛灰(フライアッシュ)及び鉱滓(スラグ)は埋め立て地に投棄され、最終的には環境中に浸出し、食物系を汚染する

プラスチック廃棄物の責任のシフト

 プラスチック汚染に対応するためには、一度製造されてしまったプッラスチックを”除去”するより防止と削減活動の方がよいかに目を向けるのがよい。多くの 廃棄物−エネルギー回収(WtE)の賛同者は焼却技術は我々がすでに生成してしまったプラスチック廃棄物のための一時的な解決となり得ると主張する。しかし焼却炉は短期的な処置ではない。それらは建設及び保守をするのに高い費用がかかる。大規模焼却炉は、都市固形廃棄物を年間約 100,000 トン必要とするので、それを満たすために廃棄物生成増大をを促進することになる。投資家らは、地方評議会を数十年に及ぶ契約に縛り付けることにより彼らの投資利益を確保する。

 我々のプラスチック問題に対する唯一の解決方法は、ニュージーランドを循環型経済の方向に促す規制によることである。我々は、埋め立て税を現在のトン当たり 10 NZドルより高くし、それを全ての埋め立てに拡大し直線的経済を割高にすることにより着手できる。我々はまた、資源回収センターの全国ネットワークを含んで、より良い廃棄物収集、分別及びリサイクルのシステムに投資すべきである。

 再使用、リサイクル、又は堆肥化できないプラスチックの焼却又は埋設の代わりに、我々は目標を定めた段階的廃止を通じてそれを防止し、削減することができる。政府は、義務的な製品管理計画(製品スチュワードシップ・スキーム)を通じて、使い捨てのプラスチック包装、飲料容器、電子廃棄物及び農業用プラスチックを規制することを提案している。これは、製造者に彼らが生成する廃棄物に責任を持たせ、無駄が少なく毒性が少ない製品設計と配送システムを提供させることになるであろう(例えばリフィルステーション)。

 これらの循環型解決の全ては、廃棄物−エネルギー回収(WtE) 焼却よりもはるかに多くの雇用を提供するであろう。

 循環型経済への迅速で勇敢な移行がなければ、ニュージーランドは世界で最も廃棄物の多い国のひとつに留まることになるであろう。循環型経済は世界的に展開されており、廃棄物−エネルギー回収(WtE) 焼却は我々を30年前に引き戻すことになる。

 ニュージーランド製品スチュワードシップ協議会の調整者ハンナ・ブルームハルトはこの記事に貢献した。


訳注1
訳注2
訳注3
訳注4


化学物質問題市民研究会
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