FAIR 2017年7月24日
ロイター vs. 国際がん研究機関:
企業とのつながりは
科学記事に影響を及ぼしているか?

ステーシー・マルカン
情報源:FAIR, July 24, 2017
Reuters vs. UN Cancer Agency:
Are Corporate Ties Influencing Science Coverage?
By Stacy Malkan
http://fair.org/home/reuters-vs-un-cancer-agency-are-
corporate-ties-influencing-science-coverage/


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2017年8月24日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_17/
170724_Fair_Reuters_vs_UN_cancer_agency.html


 世界で最も広く使用されている除草剤 (グリホサート)を、”グループ 2A ヒトに対する発がん性がおそらくある (Group 2A Probably carcinogenic to humans)”と分類(20 March 2015 )して以来、世界保健機関のがん研究グループの国際的な科学者らは農薬産業とその代理人らからの激しい攻撃にさらされている。

 ”モンサント文書”と名付けられた一面記事のシリーズの中で、フランスの新聞ル・モンド(2017年6月1日)は、”科学に対する巨大農薬会社の戦争”としてその攻撃を表現し、”グリホサートを守るために、同社[モンサント]はあらゆる手段を用いて、がんに取り組む国際がん研究機関の信用を傷つけようとしていた”と、報道した。

 産業側の兵器庫にある重要な武器のひとつはロンドンを拠点とするロイターのベテラン記者ケイト・ケランドの記事である。

 産業側から提供された二つの特ダネと一つの報告書に基づいて、ケランドはいつもの批判で記事を強化して、同グループと科学者らを、実態を把握しておらず、道義に反しており、 彼らの意思決定には利益相反があり、情報が偏向していると非難を浴びせ、世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARAC)に対する批判記事を連発した。

 科学者らからなる IARC のその作業グループは、新たな研究は実施しておらず、ピアレビューされた長年の研究発表をレビューした後、現実世界におけるグリホサートへの暴露による人間の発がんの証拠は限定的であり、動物研究では発がんの証拠は”十分である”とする結論を出した。IARC はまた、モンサントの商標ラウンドアップのような除草剤中で使用されるグリホサートはもちろん、グリホサート単独でも遺伝毒性の強い証拠があると結論付けた。モンサントがラウンドアップ耐性の一連の遺伝子組み換え農作物”ラウンドアップ・レディ”を市場に出したので、ラウンドアップの使用は劇的に増加した。

 しかし、 IARC の決定についての記事を書くに当たり、ケランドはその発がん性分類を支持する多くの研究を無視し、彼らの分析を軽んじようとして産業側の言うことや科学者らの批判に焦点を当てた。彼女の報告は、産業寄りの情報源に著しく依存し、一方、それらの情報の産業側とのつながりを明らかにすることをせず;誤りを含み(ロイターは訂正を拒否);読者に提供しなかった文書からきちんとした理由なしに都合の良いところだけをつまみ食いする情報を発表した。

 彼女の科学記者としての客観性についての更なる疑問を挙げるなら、科学者を記者と結び付け、化学産業権益を含む様々な産業グループと企業から最大の資金供給を受けるイギリスを拠点とする議論ある非営利PR代理店、科学メディアセンター(SMC)とケランドのつながりである。

 ”科学のPR代理店”と呼ばれている SMC は、その設立記録によれば、グリーンピースや地球の友のような団体が発するニュース記事を叩くための取組みを目的のひとつとして、2002年に立ち上げられた。この団体を調べている多数の研究者によれば、 SMC は、いくつかの製品や技術の環境と健康に及ぼすリスクを軽んじていると非難されている。

 ケランドが SMC 宣伝ビデオ及び SMC 宣伝報告書に現れ、 SMC メディア説明会にいつも出席し、 SMC ワークショップで講演し、インドに SMC オフィスを設立ることを検討するためにインドでの会議に参加したことを見れば、ケランドの SMC 寄りの偏向は、明らかである。

 ケランドもロイターにおける彼女の編集者も、彼女の SMC との関係、又は彼女の記事についての特定の批判についての質問には回答しないであろう。

 SMC のディレクター、 フィオーナ・フォックスは、SMC は IARC の記事に関してケランドと仕事をしたり、 SMC の記者発表に含まれる内容を超えて情報を提供したことはなかったと述べた。しかし、ケランドのグリホサートと IARC に関する報告が、これらの話題に関する SMC の専門家や産業側グループにより出された見解を映し出していることは明らかである。

ロイターはがん科学者を相手取る

 2017年6月14日、ロイターは、米国がん研究所の疫学者であり、IARC のグリホサート委員会の議長であるアーロン・ブレアはがん評価における重要なデータを差し控えたとして彼を非難するケランドの特別報告書 (Cancer agency left in the dark over glyphosate evidence )を発表した。

 ケランドの報告書は、その差し控えられた情報は、もし採用されていれば、グリホサードは発がん性がおそらくあるとした IARC の結論を多分、変えていたであろうとさえ示唆していた。そのうえ、問題になっているデータは、米国国立環境健康科学研究所(NIEHS)の農業健康調査(AHS)と呼ばれる長期的プロジェクトを通じて収集された疫学データの中の小さな一部であった。農業健康調査(AHS)からのグリホサートについてのデータの数年間の分析は既に発表されており、IARC によって検討されたが、未完了で未発表のデータの新たな分析は検討されなかった。それは IARC の規則が発表されているデータにのみ依存するよう求めているからである。

 ブレアが重要なデータを差し控えたというケランドの命題は、彼女が報告書の拠り所とした原文書と矛盾するにもかかわらず、彼女は読者に対してこれらの文書との関係を説明しなかったので、読者は彼女の主張の真実性をチェックすることができなかった。彼女の十分な証拠のない人を驚かすような申し立ては、(マザージョーンズを含んで)他のニュースメディアの記者らにより広く繰り返し流布され、早速、農薬産業によりロビーイングの道具として展開された。

 元ロイターの記者で現在は米・知る権利(USRTK)(私もかつてそこで働いたことのある非営利団体)の研究部長であるケアリー・ジランは、実際の原文書を入手して、ケランドの記事の中に多くの誤りと遺漏を提示した。

 その分析は、ケランドの記事の中の重要な主張の例を挙げており、その中にはブレアによって作成されたと思われる供述を含んでいるが、それらはモンサントの弁護士らにより作成された300ページのブレア供述書にも、又はその他の原文書にも見当たらない。

 ブレア供述からのケランドの選択的な提示もまた、彼女の命題と矛盾するもの、例えば、ハフィントン・ポスト(2017年6月18日)にジランが書いたように、グリホサートのがんとの関係を示す多くの研究の肯定を無視した。

 ケランドはブレアの供述と関連資料を、それらは公開されている文書であるかのような印象を与える”裁判文書”として不正確に記述したが、実際にはそれらは裁判文書ではなく、おそらくモンサントの弁護士か代理人から入手したものである。(その文書は、この裁判に関与する弁護士だけが入手できるものであり、原告側弁護士はそれらをケランドに提供したことはないと述べている)。

   ロイターは、原文書の起源についての誤った主張及び、主要な情報源である統計学者ボブ・ターロンは”モンサントとは無関係”とする不正確な記述を含んで、記事中のその誤りを訂正することを拒否した。実際に、ターロンは、IARC の信用を貶める取り組みのためにモンサントから顧問料を受け取っていた

 ケランドの記事の訂正又は撤回を求める米・知る権利(USRTK)の要求に対して、ロイター・グロバル・エンタプライズの編集者マイク・ウィリアムズは 6月23日にeメールに次の様に書いた。
我々はその記事とそれが拠り所とする報告書をレビューした。その報告書はあなたが言及する供述書を含んでいたが、それに限定していない。記者ケイト・ケランドはまた、記事の中で述べられている全ての人々及びその他の人々に連絡を取り、他の文書も調査した。このレビューに照らせば、我々は記事が不正確であったり、撤回することを正当化するものであるとは考えない。

 ウィリアムズは、”裁判文書”又はタロンが独立した情報源であるとする不正確な記述の誤った言及について対処することは断った。

 それ以来、ロイターがモンサントに渡したロビーイング・ツールは広く波及し、野放しとなった。セントルイス・ポスト・ディスパッチの6月24日の社説は、すでに報告を誤解させている上にさらに誤りを追加した。7月中旬までに右翼ブログはロイターの記事を使用してアメリカの納税者をだましているとして IARC を非難し、産業寄りのニュースサイトは、その記事はグリホサートががんをもたらすとする主張にとどめを刺すであろうと予測し、偽科学ニュースグループは、IARC の科学者らはもみ消しを白状したと主張するでっちあげの見出しのフェイスブックでケランドのニュースを持ち上げた。

ベーコン攻撃

 訳注1:世界保健機関(WHO)が2015年10月26日に、ベーコンやソーセージ、ハムなどの加工肉は発がん性があるという分類を発表した。)

 ケランドが、主要な情報源としてボブ・タロンに依存し、IARC を攻撃する記事の中で、 彼の産業側との関係を明らかにしなかったのは、今回が初めてのことではなかった。

 2016年4月のケランドによる特別調査報告書 (Who says bacon is bad? )、”ベーコンは悪いと言ったのは誰だ?”は、IARC を科学にとって害悪をもたらす混乱した機関として描いた。その記事はタロン、産業側との関係を明らかにしていない二人の産業寄り情報筋、及び一人の匿名の観察者からの引用に大きく基づいていた。

 IARC の手法は、”ほとんど理解されておらず”、”公衆の利益とならず”、時には科学的厳格さの欠如は”科学のためにならなず”、公衆に”迷惑をかける”と批判者らは述べた。

 IARC は”もし非科学的でないというなら世間知らずだ”と小見出しに大文字で強調されると、タロンは述べた。

 タロンは、産業界寄りの国際疫学研究所(International Epidemiology Institute)で働いており、かつて携帯電話産業により部分的に資金提供された議論ある携帯電研究に関与したが、その研究は、同じ問題を携帯電話産業からは独立した研究が導き出した結論とは正反対の、がんは携帯電話に関係しないと結論付けた。

 ケランドのベーコン記事の中のその他の批判者は、アスベストを擁護する論文を書き、一方、金をもらって裁判でアスベスト産業を弁護した議論ある元 IARC 科学者パオロ・ボフェッタ;及び、二次喫煙を擁護する論文を書くためにタバコ産業から金が出ている一人の科学者と提携したジェフリー・カバットである。カバットもまた、企業の隠れ蓑であるアメリカ科学健康協議会(American Council on Science and Health (ACSH))の諮問委員会の委員を務めている。ロイターの記事が発表されたその日に、ACSH は、ケランドが諮問委員カバットをIARCの評判を落とすための情報源として利用したと自慢するブログ記事(2017年4月16日)を投稿した。

 彼女の情報源の産業側とのつながりと科学の主流と相いれない立場をとる彼らの歴史は、特に IARC ベーコン暴露が IARC 諮問委員クリス・ポルティエを彼が環境団体に加入しているので偏向していると非難したグリホサートについてのケランドの記事と組み合わされて以来、もっともであるように見える。

 ケランドの利益相反の主張は、ポルティエによって組織され、94人の科学者らによって署名された、グリホサートはがんリスクがないとする欧州連合のリスク評価には”重大な欠陥がある”と述べた書簡の信用を傷つける役目を果たした。

 そのポルティエ攻撃、及び良い科学/悪い科学のテーマは、ケランドの記事が掲載された同じ日(訳注:2016年4月18日)に化学産業PRチャンネル反響した。

IARC の反撃

 2016年10月、もう一つの独占記事 (Exclusive: WHO cancer agency asked experts to withhold weedkiller documents)でケランドは、IARC がその科学者らにグリホサートレビューに関わる文書を差し控えることを要請していた秘密組織としてIARC 描いた。その記事は、産業寄りグループによりケランドに提供された手紙に基づいていた。

 それに反応して IARC はケランドの疑問と彼らが彼女に送った回答をウェブに投稿したが、それらなロイターの記事から漏れた文脈を提供した。

 モンサントの弁護士らは科学者らにドラフトと審議用文書をひっくり返すことを要請し、現在進行中のモンサントに対する訴訟に照らして、”科学者らはこれらの文書を発表することに心地悪さを感じ、あるものは脅迫されているように感じた”と、IARC は説明した。IARC は、過去にアスベストとタバコに関わる訴訟を支持するためのドラフト文書を発表した時と同じような圧力に直面し、また審議用 IARC 文書を PCB 訴訟に引き入れようとする試みがあったと述べた。

 その記事は、これらの事例、又はドラフトの科学文書が裁判で終わってしまうことについての懸念を記述しなかったが、その記事は、 IARC は”世界中の科学者と調和しない、”不必要な健康の恐怖を引き起こす”がん評価に議論をもたらす”グループであると書いて、IARC を激しく批判した。

  IARC は”秘密機関”であり、その行動は”ばかげている”とモンサントの重役はその記事の中で述べている。

 それに対して IARC は次の様に述べた(強調は原文):
ロイターによるその記事は、グリホサートがヒトに対する発がん性がおそらくあると分類された後に始まったそのメディアのある部門の IARC モノグラフ(研究論文)プログラムについての一貫しているが誤解させるいくつかの記事の一つのパターンに従っている。


 IARC はまた、ケランドのブレアについての報告に関して、彼女の情報源タロンとの利益相反に言及し、IARC のがん評価プログラムは未発表のデータは考慮しないこと、及び”その評価はメディア報告に示された意見には基づかない”が、”既得権益から自由で独立した専門家らによる公的に利用可能で適切な全ての科学的研究に基づいている”と述べて反撃した。

PR代理店所説

 ケランドが言うには彼女の報告に影響を与えたという科学メディアセンター(SMC)は既得権益を持ち、また産業界寄りの科学的見解を発表するとして批判されている。現在そして過去の資金提供者は、政府機関、財団、大学はもちろん、モンサント、バイエル、デュポン、コカコーラ、及び食品と化学物質産業団体を含んでいる。

 誰に聞いても、 SMC は、メディアがある科学のうわさ話をどの様に報道するかについて影響力を及ぼしており、しばしば SMC の専門家の反応を記事の中に引用させ、記者会見によりその報道に弾みをつけさせている。

 ケランドが SMC の宣伝ビデオの中で説明しているように、”記者会見の終わりまでに、あなたはその話が何なのか、そしてそれがなぜ重要なのかを理解する”。

 その話や調査が注目に値するかどうか、そしてそれらはどの様に記事にされるべきかについて、記者らに合図を送ることが SMC の取組みのポイントである。

 時には、 SMC の専門家らはリスクを軽視し、議論ある製品又は技術について公衆にに請け合う。例えば研究者らは、フラッキング携帯電話の安全性慢性疲労症候群(CFS)、及び遺伝子組み換え食物に関する SMC のメディア対策を批判している。

 SMC のキャンペーンはしばしば、ロビーイングにも向けられる。2013年のネイチャーの記事(7/10/13)は、どのようにして SMC がヒト動物交雑杯のメディア報道の流れを倫理的懸念から研究-ツールとしての重要性の方向に変え、その結果、政府の規制をやめさせたかを説明している。

 そのキャンペーンの効果を分析するために SMC によって雇われたメディア研究者、カーディフ大学のアンディ・ウィリアムズは、 SMC モデルを問題があり、議論を抑制したと理解した。ウィリアムズは SMC 記者会見をしっかり管理された会議であり、説得力のある説明を推し進めていると述べた。

 グリホサートのがんリスク題に関して、 SMC はその記者発表でもっと明確な説明をした。

 SMC の専門家によれば、”重要なデータを含めなかった” IARC のがん分類は、”選択的なレビュー”と、”やや希薄に見え”、”全体的にそのような高いレベルの分類を支持しない”証拠に基づいていた。モンサント(訳注:リンク切れ)その他の産業グループはこの引用を助長した。

 SMC の専門家らは、欧州食品安全機関(EFSA)及び欧州化学物質庁(ECHA)により実施されたリスク評価の見解、グリホサートのヒトに対する発がん性をの懸念を取り除くもの、に大いに賛成であった。

 EFSA の結論は、IARC より”科学的であり、現実的であり、バランスがとれており”、 ECHA の報告は客観的で、独立で、包括的で、”科学的に妥当である”。

 ケランドのロイターでの報告は、これらの産業寄りのテーマを反映しており、時には、なぜ欧州の機関はグリホサートのがんリスクについて反対の助言をするのかについての2015年11月の記事の様に、同じ専門家を利用した。彼女の記事は二人の専門家を SMC の記者発表から国設引用し、彼らの見解を次の様にまとめた。
言い換えれば、 IARC はある条件で、しかし稀に、ヒトにがんを引き起こすことができるかも知れない何についても強調することを任務としている。一方 EFSA は、現実の生命リスクを懸念しており、グリホサートの場合についていえば、正常な条件で使用された時に、その農薬が人の健康と環境に許容できないリスクを及ぼすということを示す証拠があるかどうかである。

 ケランドは、環境運動家からの二つの反応の概要を含めた。グリーンピースは EFSA のレビューを”うわべを飾る(whitewash)”ものと言い、天然資源防衛協議会(NRDC)のジェニファー・サスは IARC のレビューは””はるかに堅固であり、科学的に擁護でき、非産業界の専門家からなる国際的な委員会が関与する開かれたプロセスである”と述べた。(グリホサートに関する NRDC のある声明は次の様に表現している:”IARC はそれを正しくし、 EFSA はそれをモンサントから得た(IARC Got It Right, EFSA Got It From Monsanto.)”)。

 環境グループのコメントの後に続いて、ケランドの記事は、”IARAC の批判家は、その危険な同定アプローチは、その助言を現実の生活に適用しようと努力している消費者にとって無意味になりつつあると言っている”と述べ、”モンサントのコンサルタントとして活動してきたというつながりを宣言する”ある科学者からの引用で結んだ。

  SMC の産業寄りの偏向という批判について聞かれて、SMC のディレクターであるフォックスは次の様に回答した。
我々は、科学界又は英国メディアのために働くジャーナリストからのどのような批判も注意深く聞いているが、我々はこれらの利害関係者から産業寄りの偏向という批判は受けていない。我々は産業界よりという非難は拒絶し、我々の仕事は我々のデータベース上の 3,000人の著名な科学研究者の証拠と見解を反映している。ひとりの独立報道官が最も議論ある科学の所説に注力しているので、我々は科学界主流の外のグループからの批判を完全に予測している。

専門家の利益相反

 科学的専門家らは、 SMC によって発表される記事の中で、あるいはグリホサートのような化学物質のがんリスクについての意思決定者としての人目を引く役割の中で、必ずしも常に彼らの利益相反を明らかにするわけではない。

 SMC にしばしば出入りする専門家であるインペリアル・カレッジ・ロンドンの生物化学薬学教授アラン・ブービスは、 アスパルテーム(訳注:人工甘味料)(懸念はない);尿中のグリホサート(懸念はない);殺虫剤と先天性欠損症(結論を出すには早すぎる);アルコールGMO トウモロコシ微量金属実験動物の食餌、その他などに関する一連の SMC 発表記事(訳注:expert reaction シリーズ)の中で見解を述べている。

 ブービスによれば、グリホサートは発がん性物質ではないという ECHA の決定は、”めでたい”ことであり、ヒトに対する発がん性がおそらくある という IARC の決定は、農薬が現実の世界でどのように使用されているを考慮しなかったのだから、”不当な警告の正当な根拠とはならない”。

 ブービスは、彼を引用している IARC 発表記事中、又はもっと前の SMC 発表記事中で利益相反はないと宣言した。しかし、その後で彼は、グリホサートは食物を通じてのがんリスクはもたらしそうにないことを発見したとする IARC の委員会の共同議長であったのと同時期に、産業寄りの団体である国際生命科学研究所(ILSI)の指導的立場にあったということが明らかになって、利益相反スキャンダルを引き起こした。(ブービスは現在、ILSI の評議員会の議長であり、 ILSI/Europe の暫定副代表である。)

 ILSI は、モンサント及び農薬産業の協会であるクロップライフ・インターナショナルから6桁の献金(訳注:数十億ドル(数千億円))を受けている。ブービスと共にグリホサートに関する IARC の委員会で共同議長を務めたアンジェロ・モレット教授もまた、 ILSI で指導的立場にあった。しかし同委員会は利益相反はないと宣言した。

 ケランドは、グリホサートにはがんリスクはないという” IARC の専門家”の発見について記事にしたにもかかわらず、これらの利益相反について報告せず、彼女はアイルランドの汚染された豚についての記事のために、 SMC の記者発表からのブービスの引用を再び利用した(消費者へのリスクは低い)。

  SMC の利益相反開示ポリシーについて、及びブービスの ISLI との関係がなぜ SMC 記者発表で開示されなかったのかについて聞かれた時に、フォックスは次の様に回答した。
 我々は、我々が使用する全ての研究者に対して、利益相反(COIs)についての情報を提供するよう求めており、積極的にジャーナリストに利用可能となるようにしている。いくつかの他の COI ポリシーに沿って、我々は全ての COI を調査することはできないが、我々はジャーナリストがそのようにすることは歓迎する。

 ブービスからコメントを得ようと試みたが連絡を取ることはできなかった。しかし彼はガーディアンに、”私の ILSI (及び二つの関連組織)における役割は、公共部門としてのメンバーであることと、ILSI の評議員会の議長であることであり、それらは無報酬である”と述べた。

 しかし、利益相反は、”欧州議会議会のグリーン議員ら及び NGOs からの猛烈な非難を引き起こし、産業界にとって数十億ドル(数千億円)の価値があるであろうEUのグリホサート再認可の投票2日前の IARC 委員会の報告書発表により、さらに非難は強められた”とガーディアンは報告した。

 だから、それは企業、科学専門家、報道記事、そしてグリホサートについてのイチかバチかの議論が及ぼす影響のもつれたクモの巣の状態である。モンサントはグリホサートの発がん性主張による訴訟に直面しており、また660億ドル(約6兆8000億円)のバイエルによる買収取引(訳注2)を仕上げようと努めるなど、世界を舞台に演じている。

 一方、アメリカでは、ブルームバーグ7月13日が報道したように、”世界第一の除草剤はがんを引き起こすのか? トランプ下の EPA が決定するであろう”。


著者について
ステーシー・マルカン(Stacy Malkan)
 ステーシー・マルカンは、自主的にその資金調達www.usrtk.org. で公開している非営利団体、米・知る権利(US RTK) の共同代表である。彼女は、長年の環境健康問題の代弁者であり、『 Not Just a Pretty Face: The Ugly Side of the Beauty Industry (New Society, 2007) きれいな顔だけではない:化粧品業界の見苦しい側面』の著者である。


訳注1:ベーコンに発がん性
訳注2:多国籍農業ビジネス再編の動き

化学物質問題市民研究会
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