ETC Group 2015年12月15日 プレスリリース
世界的な農業ビジネスの合併は
既成の事実ではない


情報源:ETC Group, 15 December 2015
Global Agribusiness Mergers NOT a Done Deal
New ETC Group report, Breaking Bad, shows how Dow-DuPont, Monsanto
and Syngenta seed and pesticide deals could be blocked by Global South.

http://www.etcgroup.org/content/global-agribusiness-mergers-not-done-deal-0

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2016年1月14日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_15/
151215_ETC_Global_Agribusiness_Mergers_NOT_a_Done_Deal.html

 新たなETC Groupの報告書 Breaking Bad(ブレイキング・バッド)(訳注1)は、ダウ−デュポン、モンサント、及びシンジェンタの種子と農薬の取引はグローバル・サウスにより阻止され得ることを示している。

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 先週発表された1,300億ドル(約15兆6,000億円)のダウとデュポンの合併(訳注2)は、中国化工集団公司(ケムチャイナ)による シンジェンタ買収のための446億ドル(約5兆3,520円)の価格提示を再燃させ、転じてモンサントによる4回目のシンジェンタ買収の試みを起させるかもしれない(訳注3)。もしケムチャイナが優勢なら、モンサントは BASF か又はバイエルとの合併に取り組むことを模索している様である。もし、彼らが言い分を通せば、世界の農業研究開発の75%を支配する世界の6大農業ビジネス会社は3社又は 4 社に統合されるかもしれない。ダウとデュポンの合併は、たとえ過去の競争相手を調整者にするだけであっても、その新たな企業は世界の商業用種子販売の25%と世界の農薬販売の16%を支配することになり、このことはモンサントとともにわずか2社だけで種子販売の51%と農薬市場の4分の1を支配することを意味する。

 しかし、本日発表された ETC Group の新たな20頁からなる報告書に[原注1]よれば、法的な承認は合併が既成事実になるためにはほど遠い。米国と欧州連合の反競争監視団体はロールオーバーし(乗り換え)、その組み合わせを受け入れるように見えるが、種子と農薬の成長市場はグローバル・サウス(訳注4)にある。すなわち、ブラジル、中国、インド、及びアルゼンチンは合わせてすでに世界の農薬市場の3分の1を占めており、その市場は将来増大するであろう。もしこれらの諸国のうち、1 又は 2 か国が反対すれば、会社の株主らは及び腰になるであろう。

 ETC Group の報告書は、より大きな企業による農業への 4 つの投入(inputs)−種子、農薬、肥料、及び農業機械−の支配の事実と結果を強調している。現在交渉中の取引は6大企業とケムチャイナに限定されているが、世界最大の肥料会社や農業機械会社も直ぐに一枚加わってくるかもしれない。ETC 報告書は、ディア・アンド・カンパニーのような農業機械会社はすでにハードウェアは持っており、現在はソフトウェア(Big Ag Data) (訳注5)への深い投資を行っており、種子、農薬、及び肥料会社にすり寄っていると、結論付けている。

 ”我々はもっと多くの農業ビジネスの巨大合併が数週間以内又は数日以内に発表されるのではないかと予想している。しかし我々はグローバル・サウスは工業的農業ビジネスにとって主要な成長地域であるということを思い起こすべきである。と、ETC アジアのディレクター、ネス・ダノは言及した。”サウスは、このことに大きな利害関係を持っており、これらの市場における独占禁止の取り締まりが断固としてとられべきである”とダノは述べた。

 パリの気候会議から帰国途上の ETC のエグゼクティブ・ディレクター、パット・ムーニーは、規制されていない合併は小自作農や田舎の生活者に大きな影響を及ぼすであろうと警告している。”世界中の小作農組織は、高いコスト、厳しい独占権、そして狭い企業の研究開発目標により打撃を受けるであろう。ブラジル、中国、インドのような国にもまた、国内又は海外における大きな合併からは何も得るものはない国内ビジネスの覇者がいる。サウスの財務大臣や農業大臣は、農業投入物又は作物保険に助成金を支給しなくてはならない時に、多くの損失を出すことになる。サウスの農民と規制当局は一緒に団結し、農業ビジネスを解体する良い理由を見つけた。

 農業ビジネスによれば、人口増大の極めて大きな圧力、限られた耕作適地、気候の混乱には巨大な科学と巨額の資金が必要である。しかしそのことは極端な合併は初めから産業の食物連鎖であることを意味する。”その宣伝の裏には重要なことがある。CEOs は成長の’相乗効果’を称賛するが、仕事は切られ、研究は冗長になり、農民は少ない選択に多くの金を払うかもしれない”と ETC Group のラテンアメリカのディレクター、シルビア・リベイロは説明する。(デュポンは、その組織の構造を”簡単”にするので、世界の戦力の10%が影響を受ける[原注2]。”これらの取引はまだなされていない”と、リベイロは加えた。”規制的見直しプロセスには数か月かかり、そのことは、反対者らには組織する時間があることを意味する”。

更なる情報:
Pat Mooney (Ottawa, Canada) Office: +1 (613) 241-2267 ext. 23; Mobile: +1 (613) 240 - 0045
Neth Dano (Davao, Philippines) mobile: +63 917 532 9369


原注1
 この報告書はダウ・デュポンの発表前に完成したが、いくつかの合併シナリオに関する市場占有情報を含んでいる。
Breaking Bad: Big Ag Mega-Mergers in Play Dow + DuPont in the Pocket? Next: Demonsanto?
(ブレイキング・バッド:巨大農業ビジネスの合併が進行中 ダウ+デュポンは麻薬で陶酔? 次はモンサント降ろしか?)

原注2
Beki Winchel, “DuPont, Dow announce merger in jargon-laden press release” Ragan's PR Daily, 11 Dec. 2015
http://www.prdaily.com/Main/Articles/DuPont_Dow_announce_merger_in_jargonladen_press_re_19831.aspx


訳注1ブレイキング・バッド - Wikipedia
 アメリカのテレビドラマシリーズ。堅気な高校化学教師が金のために麻薬製造に手を染めていくという内容。

訳注2:参考記事
 ・ロイター2015年12月12日 米ダウとデュポンが合併合意、巨大化学企業誕生へ M&A加速も
 ・「ダウ・デュポン」メガ統合が日系化学勢に与える波紋 (ダイヤモンドオンライン 2015年12月22日
 
訳注3:参考記事
<米国株情報>米モンサント、スイス同業大手シンジェンタ買収に再挑戦か (MORNINGSTAR 2015年11月19日)

訳注4:グローバルサウス
グローバル・サウスを対象とする 民主主義理論の再検討/鈴木亨尚
 グローバル・サウスとは、冷戦終結後の、西側と東側という区別がなくなり、 したがって、第三世界がなくなったとされた時代に、発展途上国と移行経済 国を合わせた地域をさす用語として新たに登場した概念である。

訳注5:ソフトウェア(Big Ag Data)
What is Ag Big Data? How 8 Companies are Approaching it



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